エルガー エニグマ変奏曲 マリナー指揮
自宅から見た夕暮れ間近の空。
結構、夕焼けフリークなものだから、これからが美しい季節だ。
空気が怜凛としてきて、晴天が続く晩秋から初冬にかけて、空は藍色から茜色に染まる美しいパレットとなる。
かれこれ中学生の昔から、夕焼けを眺めながら、音楽を聴くのが好きだった。
ワルキューレのウォータンの告別や、ディーリアスのデリケートな数々の作品。
夕焼けとユニオンジャックを並べちゃうと、栄えある大英帝国の斜陽とばかりになるが、これはたまたまの組合わせ。
このセンスあふれるジャケットがやたらに思い出深いのが、サー・ネヴィル・マリナー指揮する、コンセルトヘボウのエルガーの「エニグマ変奏曲」だった。
1977年の録音で、同時期に「惑星」も録音し、後者は音の良さもあっ大評判になった。
あれから30年。いまこうして聴いてもホールの響きをとらえた、実にいい録音。
そして、オーケストラの味わいある音。
そのくすみ加減が、エルガーに独特の味わいを与えている。欲をいえば、強奏で少し混濁する。最新のリカッティングを施すとまた違うのかもしれないし、私のチープな装置の限界なのかもしれない。
マリナーの指揮は、要所を押さえながら無難なものだが、彼のアッサリぶりがここでは少し目立つ。若い頃のハイティンクが指揮しているようなものだ。
ここでもう少し腰を落ち着けてじっくり・・・、と思うところで、スス~っと行ってしまう。
オケのコクと深みのある響きに助けられているともいえるが、それでも気品あるメインテーマの歌わせ方やじわじわと盛り上がるニムロッドなどは、さすがに奥ゆかしい指揮者の美質が聴かれる。実によろしい。
1993年、16年後にマリナーはロンドンにて、永き手兵のアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズとともにエニグマ変奏曲を再録音した。
前回のカップリングが、「威風堂々」だったのに比べ、2度目の録音では、「子供の魔法の杖」。
これからして、マリナーの円熟やエルガー感が伺えるかもしれない。
はたして、そのエニグマは?
そう、これが実に素晴らしい。演奏の長短は、その良し悪しに関係はないけれど、新盤は、旧盤に比べ概ね各変奏曲で、ゆったりした変奏で10秒くらいずつ長くなっている。
その要因は、曲の歌わせ方が念入りになり、表情付けも自然でありながら実に豊かになったことによる。アカデミーというと、室内オケの印象がついてまわるが、曲によって通常オケにも変身するフレキシブルオケだから、響きは薄くもなく立派なものだ。
冒頭のアンダンテによるテーマからして、実にふくよかに暖かく旋律を奏でている。
オケにコクは少なくあくまでノーマルな響きだけれど、マリナーの気持ちのこもった指揮で、作者を含む14人をテーマとする各変奏曲がイキイキとした特徴を語りだしているようだ。素適に思ったのが、第6変奏のイザベラのヴィオラ独奏を伴なう美しい瞬間、第8ウィニフレート・ノーベリの管と弦のしゃれたやり取りのあと、第9ニムロッドにアタッカで緩やかに入り込むところ。そしてそのニムロッドのデリケートな始まりから、徐々に熱を帯びてゆくさま。
旧盤は、3分44秒。新盤は4分12秒かけている。
ここに、この演奏のピークがあるといっていいかもしれない。
続く早いテンポの変奏ではテンポも増し、その分彫りが深くなり、ティンパニや打楽器の一撃も実によく決まっている。
第12変奏BGNの弦のユニゾンの美しいこと。第13変奏、エルガー愛人との説もあるこの曲、優しいクラリネットと不安げなティンパニの対比が見事で、10年前に都響を振った実演でのマリナーの指揮が、この部分をかなり音を押さえて慎重に演奏していたのが思い起こされる。
そして、快活で明朗な作曲者自身の最終変奏、エンディングを迎える完結感が、旧盤よりも素晴らしく、最終和音の絶妙の引き伸ばしも旧盤とは別人のように鮮やか。
新しい方ばかり誉めてしまった感があるけど、旧盤はコンセルトヘボウあってのエルガー、新盤はマリナーのエルガー。こんな思いで聞き比べてしまった。
来日中のマリナー、残念ながら英国物はひとつもないが、円熟の名演が期待できそう。
| 固定リンク
コメント
このジャケ、ユニオンジャックだからこうなりますが、我が国の日の丸だったら例によって意味無く物議を醸すのでしょうな。ああいうのは差別とか偏見にはならないのだろうか。戦争の歴史ならユニオンジャックには叶わないと思うのですが。
明日、ブラ四ですね。こちらはエアチェック体制で迎え撃ちますよ。
投稿: リベラ33 | 2007年10月23日 (火) 04時17分
リベラさん、まったくですな。
プロムスでは、聴衆はこの旗振りまくり~の、帽子かぶりかぶり~の、Tシャツまで着まくりで、ユニオンジャックだらけですもんね。
それが我が国で、日の丸だったら、ただではすまないことになるでしょうな。同じ敗戦国、独伊はもっとおおらかですし、逆に日本料理店で日の丸があったら異常だし・・・・。
N響は、25日なんですよ。P席で正面からアッサリ君を見据える席です!
投稿: yokochan | 2007年10月23日 (火) 13時42分
管理人さんおはようございます。
マリナ―の惑星はLPで散々に楽しみました。ふくよかで気品ある録音で余裕あるオケと当時はストコフスキ―・アメリカ響と並んで自分では愛聴盤でした。
マリナ―氏は素晴らしい響きの宮城県中新田バッハホ―ルでシュットガルト放送響で何と、バルト―クのオケコン!を聴いた事がありました。
管理人さんのいつも美味しい料理と都会の一コマの美しい写真が和ませます。。私は都合で煙草も酒も美食も一切、手を切って5年ですが許されるのは美音と美〇だけなのです。
投稿: マイスターフォーク | 2011年5月 7日 (土) 06時42分
マイスターフォークさん、こんばんは。
マリナーの惑星は、録音も演奏も最高級のご馳走でした。
メータのゴージャスな演奏を楽しんでいた自分ですが、マリナーのシックな惑星には、この曲が英国ものであることを気付かせてくれました。
シュトットガルトとの来日はテレビ観劇でしたが、あのオケとの相性はよかったですね。
毎度、写真で刺激してしまって、申し訳ありません。
美音と美○、わたしも大好きです!
投稿: yokochan | 2011年5月 7日 (土) 22時18分