プッチーニ 「ラ・ボエーム」 クライバー指揮
プッチーニのボエーム、そう何度も聴けるオペラじゃない。
何故って、涙ちょちょぎれ、衆人のもとでは恥ずかしくて容易に聴けないもの。
こんな素適なオペラを書いたプッチーニ、彼も、主役の女性をとことん愛し、そしてさまざまなタイプの女性を描いた。
そうした意味では、R・シュトラウスと双璧かもしれない。
トスカやバタフライ、トゥーランドット、マノンはみんなおっかないけど、やはりミミは身近だな。
かわいい一途さがあるし、儚い命を燃え尽きてしまうところも男心をくすぐる。
ロドルフォやボエーム達の甲斐性のなさも、我がことのように身近に感じちゃう。(へへっ)
この愛すべきオペラ、なんとまだ舞台で観たことがない。
昨今、人前で密かに涙することが巧くなったから平気だと思い新国の公演に行こうと思ったら、すべてソールドアウト!
しょうがないから、とっておきの音源を聴いてしまおう。
カルロス・クライバーとミラノ・スカラ座の1981年日本公演のライブだ。
FM生放送のエアチェックテープを自家CDR化したもの。
もう26年も経つ。
総監督アバドとともに来日したクライバーは、このボエームとオテロを指揮した。
アバドはシモンとセヴィリアとヴェルディのレクイエム。
いずれもNHKが生放送したし、テレビ放送もした。
当時新入社員だった私が、こんな豪華公演に行けるわけもなかったが、唯一大奮発して大ファンの初アバドのシモンをS席で観劇するのがやっとだった。
というより、クライバーのチケットなんてまったく取れなかったんだ。
しかし、アバドのシモンは生涯忘れえぬほどの感銘をもたらしてくれた。
無念のボエームやオテロはFMやテレビで観劇して、そのすさまじいまでの表現意欲にまったく驚いた。
ボエームのテレビ放送では、やはり涙が止めようがなかったが、クラシック音楽にはまったく興味にない亡父がこっそり見ていたのを覚えている。
88年の再演でも、金欠の私は立ち会うことができなかった。
ついぞカルロスの実演に接することができなかったことは私の音楽生活の中では痛恨のことなのだ!
ミミ :ミレッラ・フレーニ ロドルフォ:ペテル・ドヴォルスキ
マルチェロ:ロレンツォ・サッコマーニ ムゼッタ:マルゲリータ・グリエルミ
ショナール:アントニオ・サヴァスターノ コリオーネ:パオロ・ワシントン
今、意外に鮮明に録音できた音源を聴いてみて、ドラマといっしょくたになって自在に呼吸するクライバーの指揮の素晴らしさに感嘆せざるを得ない。
冒頭拍手も止むのももどかしいくらいに性急に始まる音楽。一気に引き込まれてしまう。
有名なふたつのアリアのオーケストラがこんなにニュアンス豊かに鳴るのはすごい。
終始早めのテンポで進められ、音楽は弾むように軽やかだ。ところが2幕のカフェ・モニュスの華やかさを境に3幕から、急速に悲劇の色を濃くし、オケは悲しみの色を増していく。
終幕の前半の取り繕った明るさが、瀕死のミミを見つけたムゼッタの登場で、急激に悲しみに陰ってしまう。ミミの死における慟哭は、ロドルフォの叫び以上にオケが雄弁なのだ。
この録音では、うなりながら指揮をするカルロスの声も聴こえる。
いつまでも若く万年ミミのフレーニが悪かろうがない。彼女のニュアンス豊かで暖かみのある声はクライバーにぴったり。
亡きドヴォルスキも全盛の頃で、豊かな声量による美声は快感でもあるが、ちょっと優等生すぎるか。サッコマーニのいい人を絵に描いたようなマルチェッロもいいし、グリエルミのムゼッタの清涼飲料のような爽やかさもいい。
われながら、いい音源をいい状態で保存していたものだ。
NHK様は、映像も保管してないのだろうか。
やはり終幕では、胸に来るものを押さえきれなかった。
こんなオペラを作曲しちまったプッチーニ先生は罪なお人だ。
| 固定リンク
コメント
こんにちは。
いいなあ、これ。NHKでこの映像を見ましたが、今でも鮮烈に覚えています。このときのクライバー、すごく若いですね。それにしてもこの映像、NHKはDVDで発売しないんですかね~(と、ずっと思っているのですが)。ウチ、ビデオ装置なかったし、しかも私まだ子供だったし。
・・・と、ずいぶん前の記事をTBさせて頂きました。(すいません・・・もう謝るしかないです)
投稿: naoping | 2007年12月28日 (金) 07時50分
>亡きドヴォルスキ
あの〜 亡くなったってことでしょうか?!
>すべてソールドアウト!
うっそ〜〜;;
投稿: edc | 2007年12月28日 (金) 09時03分
始めまして
ずっとROMさせていただいていましたが懐かしい公演がエントリーされていたのでつい書き込んでしまいました。
1981年の日本公演でなけなしお金を払って選んだのが9月17日のボエームでした。始めてのオペラでこんな凄い舞台を見てしまったのが良かったのか、悪かったのか?
新聞で吉田和秀氏が指摘されていた通り会場の壁に映ったクライバーの指揮姿の美しかったこと!!
今だに呪縛から抜けられないような気がしています。
オンエアされた演奏は15日の公演だったと思いますが私も2トラのオープンでエアチェックしました。がCD化をする前にデッキが逝ってしまったのが残念でしかたありません。
(アバドのセビリアはCD化できたのですが・・・)
投稿: 天ぬき | 2007年12月28日 (金) 16時13分
こんばんわ(^^)。
1981年ですか~。ワタシは日野皓正で生涯初のコンサート
を体験した年です。その頃は自分がクラシック好きに
なるとは思いもしませんでしたが(^^;。
先日クライバーの"こうもり"DVDを入手。
とっても楽しいですね(^^)。年末年始も楽しむつもりです。
投稿: 左党 | 2007年12月28日 (金) 20時25分
naopingさん、こんばんは。
開口一番、うらやましいっすよう!
生カルロスを逃したことは一生後悔する出来事です。
88年は、ミュンヘンのマイスタージンガーを行きましたんで、一時イタリアものから遠ざかっていたからなんですよ。
NHKもきっと映像化したいんでしょうね。
いろいろハードル高いんでしょうねぇ。
投稿: yokochan | 2007年12月28日 (金) 23時14分
euridiceさん、こんばんは。
確かドヴォルスキは亡くなったはずです。
今は弟が活躍しているはずですが、最近記憶が怪しいので
間違っていたらすいません。
ボエーム、アイーダともに、ネットでは購入できませんでした。
投稿: yokochan | 2007年12月28日 (金) 23時31分
天ぬきさん、こんばんは。お名前はmozart1889さんのところでよく拝見してました。
素晴らしい経験をお持ちで羨ましです!
>会場の壁に映ったクライバーの指揮姿の美しかったこと<
ちょうどあの頃から会場を真っ暗にして舞台に集中させるようになったのかもしれません。
私は同様に、アバドの指揮の影が文化会館の壁に映るのを、そしてヴェルディそのものの音がスカラ座のオケから立ちのぼるのを体験しました。
シモン以外の音源はしっかり残ってます。
音源を確実に残すのはなかなか大変ですね。第一忘れてしまいます。
コメントどうもあいがとうございました。
投稿: yokochan | 2007年12月29日 (土) 00時12分
左党さま、まいどどうも。
日野テルさん、は私もちょうど数年後に六本木かどこかのライブに飛び入り参加したのを偶然聴きました。
すごいですね、あの人を生で聴くと!
若い頃の思い出ですが、年を重ねるとクラシック一辺倒になりつつあります。
まだまだいろいろ聴きたいですね。
酒もそうですし(笑)
投稿: yokochan | 2007年12月29日 (土) 00時16分
横から失礼します。
ペーター・ドヴォルスキーが亡くなってる....1951年生まれですから、まだ、お若いのに...とちょっと気になって調べてみました。
下記のコンサート記事を見つけました。
sobota 4. srpna 2007
srpnaは8月だそうですから、2007年8月4日。
http://www.arskoncert.cz/mhfpd/cz/program.asp
新国のボエーム、売り切れですか!
最近は、なんだか売れ行きがいいようですね。営業の方たちが頑張っているんでしょうか。
投稿: keyaki | 2007年12月30日 (日) 00時19分
keyakiさま、こんばんは。
あれれ!私とんでもない思い違いをしてましたようです・・・。
生きて活躍されてる方を亡き人呼ばわりしてしまいました。
ご指摘のサイト、確かに名前も顔もあのドヴォルスキでした。
だれかあのくらいのテナーで若くして・・・という方がいたような気がするんですが。
お騒がせしました。そして情報ありがとうございました。
新国のサイトやチケットのサイトではいずれも売り切れでした。
劇場の窓口にはあるかもしれませんが。
有名曲だと営業サイドも苦労せずに売れるんでしょうか。
投稿: yokochan | 2007年12月30日 (日) 00時55分
クライバーはいなくとも、今は W-M がいますよ!!
ばらの騎士@チューリッヒは、それはもう素晴らしい上演でした。
投稿: さすらい人 | 2007年12月30日 (日) 10時00分
>だれかあのくらいのテナーで若くして・・・という方
もしかしたらジェリー・ハドリー(アメリカ 1952.6.16-2007.7.17)ではないでしょうか。記事をリンクしました。
投稿: edc | 2007年12月30日 (日) 12時59分
さすらい人さま、こんばんは。
そうです、今年の収穫のひとつはウェルザー・メストのばらの騎士でした!!
彼のウィーンでの活躍、大いに期待です。
できれば来年の日本公演にも来て欲しかったです。
投稿: yokochan | 2007年12月30日 (日) 20時50分
euridiceさん、こんばんは。
あ~ぁ、情けない、脳がアルコール漬けになりつつあるんでしょうか??
J・ハドレー、そうです、亡くなってしまいましたね。
バーンスタインのボエームでロドルフォですね。
昨年あたりから、歌手の逝去が多く伝えられるようになり、とんでもない勘違いをするようになってしまいました。
今後自重することといたしましょう。
ありがとうございました。
でもドヴォルスキのロドルフォは、なかなかいいですね。
投稿: yokochan | 2007年12月30日 (日) 20時56分
ペーター・ドヴォルスキーは現在、スロヴァキア第二の都市コシツェの歌劇場の芸術監督をやりながら、現役で歌ってますよ!
投稿: aki aqui | 2008年2月 1日 (金) 15時27分
aki aquiさま、はじめまして(ですよね)
情報ありがとうございます。
ドヴォルスキーは、正規録音は多くなないですが、FMのエアチェック音源で結構聴いてました。
若々しい美声は、今もきっと健在なんですね。
投稿: yokochan | 2008年2月 1日 (金) 22時51分
こんばんは。
『ラ・ボエーム』でおススメのDVDは何かな、と思い伺いました。
クラヲタレーベルの逸品をお持ちとは!お羨ましいです。
来年のトリノ王立劇場で初ラ・ボエームです。きっと泣かされるのだろうなと期待しているのですがその前にチケットの支払いで泣かされます。。。
投稿: moli | 2009年10月25日 (日) 23時44分
moliさま、こんばんは。
なはは、クラヲタ海賊レーベルをお褒めいただき恭悦至極に存じますぅ。
NHK様が映像化してくれれば、史上最強のボエームになることでしょう。
トリノは、有名オペラ2作ですが、歌手がとんでもなく魅力ですね。
でもチケットが・・・。いつものように酒気帯びでも、PCを勢いでぽちっとクリックすることができません。
でも売り切れちゃうんでしょうね。
投稿: yokochan | 2009年10月26日 (月) 00時38分