エルガー 「神の国」 ヒコックス指揮
以前訪問した、小樽の富岡教会。
昭和4年のゴシック様式による本格カトリック教会。
教会の左手下には、マリア像がひっそりと立っていた。
イギリス国教会は、ローマ・カトリックとは異にするものだが、なだらかなアーチや、堅固な佇まいがエルガーの音楽にも相応しく思い冒頭に載せてみた。
エルガーは、ヘンデルの「メサイア」以来の英国オラトリオの歴史に燦然と輝く名作をいくつか残している。
エニグマや交響曲ばかりでなく、最近はオラトリオの諸作を聴くようになって、エルガーへの多面的な理解が深まるようになったと思う。
「ゲロンティアスの夢」が一番有名だが、エニグマで有名になる前でも、「生命の光」「カラクタクス」などの大作が作曲されている。
国内で行なわれる音楽祭では、伝統的に宗教・合唱作品の需要が高かった為、ドイツやフランス、イタリアなどと比べ近代英国作曲家は声楽作品に秀でている。
エルガーばかりでなく、何人もの作曲家たちの素晴らしい作品が思い浮かぶ。
そして、「ゲロンティアス」に次いで、エルガーはオラトリオ3部作の作曲に取り掛かる。
第1部が「使徒(アポステルズ)」で、マグダラのマリアと使徒たち、そしてイエスの受難を描いたも。
第2部は、「神の国」。イエスは受難後、復活を経て使徒たちに姿をあらわし、さらに使徒たちに聖霊が舞い降りる。この聖霊降臨を描いているもの。
さらに、第3部は、「最後の審判」を描いたものになる予定だったが、結局は完成されなかった。第3部の未完は、とても残念なことだが、残された2作は、エルガーの最充実期だけに、本当に素晴らしい音楽に仕上がっている。
今回は、時期が降誕節も近いことから、受難の物語もなんだから、「神の国」を取り上げてみた。
昨晩の交響曲第2番の響きがまだ頭から離れないが、交響曲第1番が1907年、2番が1911年、そして「神の国」は1906年の作品。
ペテロとヨハネのイエスの弟子たちと、イエスの母マリアとマグダラのマリアを独唱とし、新約の「使徒行伝」に基づきながら、エルガー自身がテキストを作成している。
全5場からなります。
①ユダに代わる新しい使途の選出
②二人のマリアによる、足や目の不自由な人を癒したイエスの秘蹟の回顧
③聖霊降臨、使徒たちが様々な言語で語り始め、ペトロによる感動的な説教
④ペトロによって、イエスと同じような秘蹟が行なわれるが、司祭らに二人の使徒は捕らわれてしまい、マリアによる祈りの歌が歌われる
⑤釈放された二人、使徒たちは喜び、パンを配り聖餐がとりおこなわれ、父なる神を称える。
このようなキリスト教的な内容に、退いてしまう方もおられるかもしれないが、素直にエルガーの書いた音楽に耳を澄ませば、大いなる感動に包まれることは間違いない。
また、ワーグナー好きなら、「パルシファル」との類似性なども思い起されるし、二人のマリアが重視されるテキストは、聖杯伝説・・・なども想像することもいいかもしれない。
とりわけ素晴らしいシーンは、③のペトロの励ましの説教とそれに続くクライマックス。
おそらくイエスを思わせる全曲を支配するライトモティーフが、素晴らしい高揚感をもたらしてくれる。私は、涙ちょちょぎれ状態になってしまった。
そして④のマリアの献身的な祈り。ピュアでかつ熱い気持ちを込めて歌われるその歌は胸を打つ。さらに感動は、最後の主の祈りと静かなエンディングの場面でももたらされる。
聴き終えたあとも、しばらくはいくつかの印象的なモティーフが心に残り続ける。
聖母マリア:マーガレット・マーシャル マグダラのマリア:フェリシティ・パーマー
ヨハネ :アーサー・デイヴィス ペテロ:デイヴィット・ウィルソン・ジョンソン
リチャード・ヒコックス指揮 ロンドン交響楽団/合唱団
ヒコックスの全霊に満ちた指揮とオケ、合唱は火の打ちどころもなく素晴らしい。
独唱も地味ながら、よく歌っている。とくにジョンソンがいい。
エルガーの声楽作品、これからゆっくりと楽しんで行きたい、麗しくも気高き山々である。
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コメント
呼ばれたみたいなのでw。…誰も呼んでませんね。
さすがに「神の国」や「使徒たち」には誰も寄りませんね。涙。
エルガーは「指環」を見て聴いて、オラトリオ三部作を企てたのだそうです。三部作が完成されなかったのは残念ですが…。「最後の審判」の挫折がエルガーに「脱・オラトリオ」の道を開きます。で、エルガーは満を持して第1交響曲に取りかかる。はじめての交響曲の完成は50歳を過ぎていました。ブラームスは43歳のときに第1交響曲を完成させていますから、その石橋を叩いて渡るさまは尋常ではないでしょうね。
「前期エルガー」の傑作は紛れもなく三大オラトリオ。「ゲロ夢」、「使徒たち」、「神の国」だと思います。なかでも「神の国」は煌びやかでにぎにぎしく、さらに親しまれて良い傑作だとわたくしは信じます。
投稿: Cafe ELGAR 店主 | 2007年12月17日 (月) 21時24分
cafe ELGAR店主さま、コメントありがとうございます。
このような作品に食いついていただけるのは、店主さまをおいていらっしゃいません(笑)
ほんとうにいい曲ですね。何度も聴いてます。
「最後の審判」の挫折が、脱オラトリオの契機となった!
なるほどですね。あの第1交響曲が、その経緯を経てるんですね。
「使徒たち」にも大いに惹かれてます。あの最後の部分なんて涙ものです。
エルガーは声楽作品も聴かなくてはその魅力がわかりませんね。
投稿: yokochan | 2007年12月18日 (火) 00時11分
今年は今度の日曜日が聖霊降臨日(ペンテコステ)ですが、たまたま聞いてみたアルバムに「神の国」前奏曲があり、その崇高な音楽に感動、調べていたらここに行き当たりました。このオラトリオの題材がまさにペンテコステだったのですね。ぜひ当日までに全曲を聞きとおしてみたいものです。最近聞くようになったヒコックスですが、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」の信じられないようなすばらしい合唱の組み立ての美しさに惚れ惚れとしたこともあり、「神の国」も時間が取れて聞けるようになるのを楽しみにしております。
投稿: Sammy | 2011年6月 7日 (火) 20時51分
Sammyさま、こんばんは。
コメントどうもありがとうございました。
精霊降臨祭となると、ヨーロッパでも、いろんな音楽祭がまたあったりしますね。
すっかり忘失してました。
エルガーの篤実さを感じさせるこの作品。
身が引き締まるような感動と、陶酔的なのめり込み感をも感じます。
素晴らしい作品ですね。
ヒコックスの早すぎる死が恨めしい、素晴らしい録音に思います。
投稿: yokochan | 2011年6月 7日 (火) 22時10分