ブラームス カンタータ「リナルド」 キング&アバド
私の実家のある、神奈川の小さな町。毎年正月は、その町を通過する箱根駅伝を楽しみ、海へ出て砂浜を散歩していた。
子供の頃から、この砂浜が遊び場だった。
ところが、昨年9月に直撃した台風で、西湘バイパスの半分が陥落してしまったばかりか、砂浜がすっかりなくなってしまって、海岸線がすぐに足元まで上がってきてしまった。
キスがふんだんに釣れた投げ釣りや、生シラスのとれた地引網もできなくなってしまった。当然、海水浴なんて不可能。
もともと、急激に落ち込んで深かった海だけに、台風の高波で砂浜ごともっていかれたのだろう。
思い出のたくさん詰まった場所がなくなってしまうなんて、こんなに悲しいことはない。
この海岸を復元する支援活動も始まっていて、さっそく署名に協力した次第。
今日の1枚は、かなりシブイところから。
ブラームス(1933~97)のカンタータ「リナルド」という曲。
ブラームスは、いうまでもなくオペラを書かなかった作曲家で、それどころか表題音楽的な作品も非常にすくない。
そんなブラームスの、オペラに一番近いジャンル作品がこのカンタータ。
カンタータといいながらも、各声域の独唱が活躍して物語するわけではまったくなく、オーケストラと合唱とテノールのための音楽。
原作も、ゲーテの詩によるものだから、かなり謹厳でこれまたシブイ。
内容は、十字軍に参加した戦士「リナルド」と、彼を愛する魔法使いの「アルミーダ」の物語をもとにしたもの。
聖地へ向かう航海の途上、アルミーダの誘惑にとらわれてしまうリナルド。それを励ます仲間たち(合唱)。こうしてリナルドは仲間に助けられ、ついでにアルミーダも解放し、妃として一緒に帰還する、という何だかわからない物語。
ハイドンやグルックもオペラとして取上げている。
ブラームスの30歳台の作品で、「ドイツレクイエム」と同時期。
音楽は以外に明快で聞きやすい。宗教作品でもないから、思ったほどの取っ付きにくさはなく、美しい旋律も豊富。
当然、どこをどう聴いても、ブラームスの響きがする。
私のような、オペラ好きからすると、そこでもっと歌を解放して欲しい・・・、と思う場面も多々あるが、そこはブラームスゆえガマンすることとなる。
そのあたりのわずかな欲求不満を解消してくれるのが、ここで歌っている「ジェイムズ・キング」であろうか。普段ワーグナーやシュトラウスで聴きなれた声が、神妙にブラームスを歌っているが、ときおり劇場向けの解放的な歌が顔を出す。
ブラームスには、正直不向きな声だが、私にはちょうどいい。
アバドとキングの唯一の貴重な競演。
1968年のデッカ時代のアバド。オーケストラが、ニュー・フィルハーモニア管であるところも希少。アバドの紡ぎ出す音色がキングよりは、かなり渋くまとまっている。
ただ渋いといっても、その音色はよく練られ、落ち着きをもちながらも明晰なもので、後年のアバドのブラームスと変わることのない響きがする。
カップリングの「運命の歌」。アバドが好むヘルダーリンの詩による伸びやかな作品は、都合3度録音していて、どれもが素晴らしい演奏。
さらに、FM録音した、ベルリン・フィルの退任コンサートでの演奏などは、涙を誘う名演なのだ。
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