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2008年1月 6日 (日)

モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」 ベーム指揮

Don_giovanni 2065・・・・、この数字はなんでしょう?
年号ではありません。

そう、ドン・ジョヴァンニが口説き落とした女性の数。
従者レポレロの持つその名簿より転記した数字である。
ヨーロッパ大陸の5カ国だけだから、こりゃもう大変なカタログだ。
 この男によれば、「女は食うためのパンや、呼吸をするための空気よりも必要なもの」だそうな。

ドン・ジョヴァンニ「知っておいてもらいたいことがある。いま、わしは一人のべっぴんに恋をしているんだ。うん?シッ、静かに、何だか女のにおいがする」
レポレロ「ちくしょう、なんて完璧な嗅覚だい!」

こんな漫才みたいなやりとりもある、稀代の色男「ドン・ファン物語」を扱ったモーツァルト(1756~1791)の「ドン・ジョヴァンニ」を久々に取り出してみた。
スペインに存在したといわれるドン・ファン、その伝説に「フィガロ」以来のオペラの朋友「ダ・ポンテ」が台本を書き、モーッァルトは速攻、作曲を仕上げ、お気に入りのプラハで初演したのが1787年。

今から220年も前のことながら、モーツァルトの描き出した人物たちは、未だに色あせることなくイキイキとしている。その点は、「フィガロ」も「コシ」もまったく同じこと。
いかに優れた台本が、オペラ作曲家に強いインスピレーションを吹き込むことか。
演出優位のこの時代にも、モーツァルトのオペラは新たな数々の解釈を呼込んで、我々を楽しませてくれる。

モーツァルトは29歳にして、このオペラを半年で作曲してしまった。
それにしても、モーツァルトの音楽すべてに言えるけれど、ここに書かれた音楽も、とてつもなく素晴らしい。
3時間近くに及ぶ大作の中に、セリア的な要素やブッファ的な要素がたっぷり詰まっている。それらを8人の登場人物たちがしっかりと担っていて、それぞれに、それ単体でも美しいアリアが用意されている。
 私の好きなアリアは、前褐の愉快なレポレロの「カタログの歌」、怒れるドンナ・エルヴィナの「ああ、誰が私に告げてくれるでしょう・・」、かわいいツェルリーナの「ぶってよマゼット」、とても美しいドンナ・アンナの「不親切な女だと思わないで・・」など。
肝心のドン・ジョヴァンニには、これといった名アリアはなく、小粋な歌がいくつかあるのみ。行動する人、ドン・ジョヴァンニには、難しいレシタティーヴォが沢山ある。
この8人に人を得ないと、なかなか、まとまりがつかない。

最後の「地獄落ち」の場面、モーツァルトが書いたもっともドラマテックな音楽のあと、悪役去ってのち、残りの登場人物が一転、やれやれとばかりに舞台を締めるが、この間の音楽の格差といったらどうだろう。
とうてい同一人物の作とは思えない。実際の舞台での処理も、もっとも難しい場面ではなかろうか。

名曲ゆえ、あら筋等は略。

ドン・ジョヴァンニ:シェリル・ミルンズ   ドンナ・アンナ:アンナ・トモワ=シントウ
ドン・オッターヴィオ:ペター・シュライアー ドンナ・エルヴィラ:テレサ・ツィリス=ガラ
レポレロ:ワルター・ベリー         ツェルリーナ :エディット・マティス
マゼット:デール・デュージング       騎士長    :ジョン・マカーディ

     カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
                  ウィーン国立歌劇場合唱団
                          (1977年ザルツブルク音楽祭)

Bohm ベーム83歳のライブ録音。2度目の録音は、年齢を思わせない。
まさにライブで燃えるベームならでは、序曲の第一音からかなりの迫力でオケを鳴らしている。迫力といえば、地獄落ちのデモーニッシュな描き方など半端なものではない。
真面目ななかにも、オペラを知り尽くした味わいある場面も数々ある。
ちょうど日本に何度か来日して元気に指揮をしていた頃。
ウィーン・フィルの柔らかな響きもいい。

当時ミルンズが、イタリアもの以外で登場するのは珍しかった。しかもベームやウィーンとの共演で。いかなる具合で、ミルンズがタイトルロールを歌うことになったかは思いもよらないが、私は当時からミルンズのドン・ジョヴァンニが好きだった。
スカルピアやエスカミーリョといったイメージが強いミルンズだが、その若干アクの強さそのままに、行動せる若々しいドン・ジョヴァンニを歌い出している。
声が輝かしく立派なことでも、なかなかのドン・ジョヴァンニなのだ。
ベリーは、声の対比という意味ではミルンズとの取り合わせがいまひとつに思うが、さすがと思わせるうまさ。
好きなトモワ=シントウマティスは、もう最高の素晴らしさである。

ちょいと誉めすぎだけれど、大好きな「ドン・ジョヴァンニ」のひとつ。
F=ディースカウとの旧盤も捨てがたいし、若手で固めた清新なアバド盤もいい。
モーツァルトのオペラのような超名作になると、皆さんそれぞれに好きな演奏や映像があることだろう。
久方ぶりのモーツァルトのオペラを聴いて、とても気分がよろしい。
明日から本格始動する日常。微笑みを忘れず、また頑張るど!

 

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コメント

こんばんわ。
ドンジョバンニで初めて買ったのがこのLPでした。銀座数寄屋橋ハンターで新盤を。
トモワ=シントウのアンナと2幕フィナーレは、この盤がいちばん好きです。全体的には、同プロダクション別編集の廉価盤CDの方が軽くて聴きやすいような気がします。
これはLPだから・・・なかなか聴けません。

投稿: にけ | 2008年1月 6日 (日) 21時14分

yokochanさま こんばんは

ザルツブルク音楽祭のライヴ「ドン・ジョヴァンニ」ベーム盤、懐かしい演奏です。LPが発売されたときに、購入しました。晩年のベームならではの演奏かもしれませんね。

確か、元は、地獄落ちで終幕になっていたのを、ヴィーンでの再演で、最後のフィナーレを付け加えたとか、聞いたことがあるんですが~。

CDも購入しました、意外にベームは熱い演奏をしていますよね~

ミ(`w´)彡 

投稿: rudolf2006 | 2008年1月 6日 (日) 21時37分

にけさん、こんばんは。
私の方は、FMエアチェックでしばらく楽しみ、この音源は初出CDのものです。
現在廉価盤となっているものは、違う音源なのでしょうか。
ともかく、名曲・名演奏ですね!

投稿: yokochan | 2008年1月 6日 (日) 23時43分

rudolfさん、こんばんは。
やはりLPもお持ちでしたか。
この頃のベームは、スタジオ録音だと大人しくて枯淡の境地なのですが、ライブはやたらと燃えてましたね。
貴重な音源だと思います。
この後取上げた「アリアドネ」音源もCD化して欲しいものです。

最近の過激演出も、地獄落ちで幕とするものはさすがにありませんね。

投稿: yokochan | 2008年1月 6日 (日) 23時47分

あけましておめでとうございます。
このCDでモーツァルト敬遠していたのですが好きになりました。
私のお気に入りです。
今年も宜しくお願いします。

投稿: おぺきち | 2008年1月 7日 (月) 00時40分

ミルンズのドン・ジョヴァンニ、このCDもいいですが、映像で見てみたいです。

昨年、ワシントンに滞在していた次男が、ワシントンオペラの劇場の外、野外のスクリーンで見た「ボエーム」が面白かったので、ちょうど公演中だった、「ドン・ジョヴァンニ」に行ったそうですが、残念ながら、感想は「長くて退屈だった・・同じことを三度も歌うし〜〜 でも、石像が♪ドン・ジョヴァ〜〜〜ニとやってくるところ以降はおもしろかった」ということでした。

アドレス(URL):に「ボエーム」の前に挨拶するドミンゴの写真のリンクを入れました。

投稿: edc | 2008年1月 7日 (月) 07時45分

新年の御挨拶が遅れてしまいました。
新年おめでとうございます。

このLPは石丸の外盤大バーゲンで購入しましたが、CDに切り替えた折に処分してしまいました。
「ドン・ジョバンニ」はCDではクリップス盤、DVDではフルトヴェングラー盤を取り出します。
余談ですが最近カラヤンのDVDを購入したのですがタイトロールのS・ラミーが俳優の鹿賀丈史のよに見えてしまい、なんだかしっくりしませんでした。

投稿: 天ぬき | 2008年1月 7日 (月) 10時20分

廉価版は違っています。たしか¥1500ぐらいで買ったような気がします。同じ年の音楽祭録音テープの中から、正規レコードとは違った部分を抜き出して編集したようです。放送用に使ったのかもしれません。

投稿: にけ | 2008年1月 7日 (月) 16時50分

おぺきちさん、こんにちは。
私も本格的ドンジョヴァンニとの出会いは、この演奏なんです。
聴けば聴くほど味わいありますし、さらなる可能性のある音楽でもありますね。
私の方も、どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: yokochan | 2008年1月 7日 (月) 22時15分

euridiceさん、こんにちは。
わぉ、ドミンゴの大写しですね。こうして見ると、ドミンゴ先生、渋くていい感じですね。
いい雰囲気に歳を重ねていて羨ましい限りです・・・・。
ご子息のドンジョヴァンニの印象、まさに私も最初は同じところばかりが耳につきました。
それと、レポレロの「タ・タ・タ・タッ・・・」であります。
ミルンズの粋なドンジョヴァンニ、映像が欲しいですね。
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2008年1月 7日 (月) 22時36分

天ぬきさま、あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

ベーム盤がLP時代、通常4枚組になるところが、3LPで収まってましたね。
私はCD化してからの購入です。ご指摘の、クリップス盤のウィーンフィルとシエピのタイトルロールがすばらしいですね。
カラヤン盤はNHK放送のものをビデオでもってますが、ラミーの圧倒的な声は見事ですね。しかし、そういわれると鹿賀丈史に見えますねぇ(笑)

投稿: yokochan | 2008年1月 7日 (月) 22時48分

にけさん、ありがとうございました。
やはり違うのですか。
それよりも、廉価盤は1500円!、隔世の感、まさにあります。LP時代は7500円でしたから。

投稿: yokochan | 2008年1月 7日 (月) 22時51分

なにげに“旬”な話題(笑)
でもミルンズのドンジョとは……私は全く知りませんでした。
なるほど、この人ならいいかもしれませんね。
それから、ワルター・ベリーのレポレッロも聴いてみたいです。ベリーといったら、私の中ではなぜかマゼットなので(シエピの映像がスタンダードになっているので)。

実は私、まだドンジョの映像or演奏で「コレ!!」というものに出会っておりません。どれも帯に短し襷に長し、といったところで。
上述のシエピの映像がいちばん理想に近いですが、フルトヴェングラーのスピードがノロくて我慢がならないのです~;;;

投稿: しま | 2008年1月 7日 (月) 23時10分

しまさん、こんにちは。
へへっ、実は。しまさんの「ドンジョ」「ドンジョ」・・・の記事にちょいと触発されてます。
無性に聴きたくなってしもうたのです。
ミルンズ、いいですよ。さまになってます。

このオペラはやはり難しくて、だれもが納得する演奏ってないようですね。私は、そうたくさん視聴してませんが、このベーム盤はミルンズゆえ、かなり好きですね。
フルヴェンのものは未体験でありますが、シエピにシュヴァルツコップは、大いに興味ありますね。

追)イーゴリ公の記事、爆笑ですわぁ~

投稿: yokochan | 2008年1月 7日 (月) 23時42分

今晩は
オペラは堅苦しいものだと思っていましたが、
モーツアルトのオペラは結構、コミカルなものが
あるんですね。滑稽な題材を芸術までに引き上げる
ところがモーツアルトの偉大さなのでしょうか。

投稿: 風車(かざぐるま)2号 | 2008年1月 8日 (火) 20時39分

風車(かざぐるま)2号さま、こんばんは。
そうなんです、オペラはテレビドラマと同じように気楽に楽しめるものだと思います。
モーツァルトは、ユーモアと深刻さとが同居していて、とても人間くさいドラマを書いた才人ですね。
手始めに「フィガロの結婚」をご体験されることをお薦めします。それこそ、笑いあり涙ありです・・・。

投稿: yokochan | 2008年1月 8日 (火) 23時39分

『ドン-ジョヴァンニ』、ジュリーニ、クレンペラー、フルトヴェングラー、ベームの両盤、ショルティの両盤、バレンボイムの新旧、C-デイヴィス、アーノンクール、ボニングと買い集めましたが、決定打とも言うディスクは、残念ながら存在しませんね(笑)。指揮者の表現が重厚さにウェイトを置きすぎ、或いは配役面で総合的に100点満点で90点でも、指揮が控え目で伴奏に甘んじて居る‥等々。トータルではPHILIPS原盤のC-デイヴィスが、結構高レヴェルで手応え在りです。さすがにDeccaから転じた、エリック-スミスのプロデュースした録音だけの事は、ありますね。指揮はやや劇的な表現に力点を置き、軽やかさにユーモアに欠ける面も在りますが、配役も極端なミスキャストが見当たらず、まずまず満足ですよ。

投稿: 覆面吾郎 | 2019年12月 3日 (火) 07時51分

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