神奈川フィルハーモニー演奏会 シュナイト指揮
素晴らしい瞬間に遭遇すると、人は無口になってしまう。
春めいてきた、土曜の午後。
言葉に尽くせない音楽を耳にして、まるで酩酊状態。
足取りはふわふわと覚束ない。
同じ経験をした方々も、お互い交わす言葉もとぎれがち。
ビールで乾杯したら、堰を切ったように言葉があふれてきた。
そんな体験をしてしまった。
ハンス=マルティン・シュナイト指揮の神奈川フィルハーモニーの演奏会。
このコンビは、そうした秘蹟にも近い名演をこれまで何度か繰り広げてきたが、これほどの秀演とはお目にかかったことがないかも・・・・。
ハイドン 交響曲第82番「くま」
ベートーヴェン 交響曲第6番 「田園」
(3月8日 神奈川県立音楽堂)
日頃、高カロリーの血液ドロドロ系音楽ばかり聴いている私には、まさに耳の洗浄効果をおよぼすかのような、あっさりメニュー。
ハイドンの「くま」は真剣に聴くのは初めての曲。
何てすっきり、くっきりした音楽なんだろう。コンサートマスター石田氏がグイグイとオケを引っ張ってゆく。終楽章、なるほど、「くま」か・・・と思いながら、楽しく聴いた。
そんな呑気なことを言っていられたのは、ここまで。
「田園」が始まると、私の思いはここになく、まさに自分自身の田園風景に飛んで行った。
完全に心奪われ、解放されてしまったのだ。
私のその風景とは、子供の頃によく遊んだ、実家の隣町にある母親の里にある小川の流れる場所。
弁天様があって大きな木が立ち、そこには小川がさらさらと流れ、周辺の田んぼには蛙の鳴き声、空にはひばり・・・・。
ここは、いま厳島湿生公園として保存されている。
こんなことを思いながらの「田園」。
描写的な演奏ではなく、オーケストラがシュナイト師の指揮棒を信じて一心になった極めて純音楽的な演奏だった。
早すぎず、遅すぎずの約45分。どこがどうだった、あそこがちょっとなんていうこと自体がヤボになるけれど、最高の場面は、終楽章の最後の場面。
テンポも音量も落して、回顧するように第1主題が現れるとき、シュナイト師は思い切り押さえて、そして心を込めてオーケストラを鳴らした。
ここで私の涙腺は完全に緩んでしまった・・・・。
今更ながらの「田園」を聴いて、こんな思いを不覚にも味わったのは初めてだし、これを限りになるのではないだろうか。
ホールの外は、春めいたとはいえ、冷たい風が頬に気持ちよかった。
毎度、神奈フィル詣でのあと、お世話になった方々と祝宴に直行するが、皆さん冒頭に書いたとおり、言葉が少ない。
注文も忘れてしまうくらい・・・。
でも飲みだすとほんとに楽しい、クリムト直行便?
ウィーン・ホイリゲンシュタット・ツアーをまじで企画したいです。
それにしても、野毛入口という場所にありながら、なんと芸術的な居酒屋だろうか。
音楽を語るわれわれ、神奈フィルのメンバーも散見、グリークラブと思しき方々が隣では素晴らしいハーモニーを聴かせている・・・・・。
まさに、ホイリゲ状態。
困ったことに、ブリテンの戦争レクィエムと連ちゃん。
いくら好きでも、こんな「田園」のあとでは、ちょっと気が重いなぁ。
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コメント
昨日はお世話になりました。気持ちの良い演奏会で、終演後しばらくは言葉もなかったですね。
ああいう演奏で聞くと、ベートーヴェンが大変な作曲家だったとつくづく思います。今も頭の中で田園が鳴り響いています…。ああ良い演奏でした。
投稿: Schweizer_Musik | 2008年3月 9日 (日) 13時40分
昨日はお疲れ様でした。
とても楽しく、かつ充実した1日でしたね。
神奈フィルの「田園」も、そしてその後の恒例の「反省会」も・・・。
しかし仰るとおり桜木町の「一ノ蔵」は音楽家の溜まり場かと勘違いしそうでしたね。良いお店でした。
またご一緒いたしましょう!
投稿: 呑む気オヤジ | 2008年3月 9日 (日) 14時56分
schweizer先生、昨日はこちらこそ、ありがとうございました。
このところ遠ざかっていたベートーヴェンが、ほんとうにすごい作曲家に思えた昨晩でした。
引越しの秘密もお教えいただき、親しみも増しました。
田園効果でしょうか、あれだけ飲んだのに、私も朝は目覚めすっきりでした。
投稿: yokochan | 2008年3月 9日 (日) 20時48分
呑む気オヤジさま、昨日はどうもお世話さまでした。
田園⇒一の蔵、実にいい流れでしたね(笑)
入口あたりは、馬券片手が似合い、奥は、楽譜片手が似合う希少な居酒屋です!
また是非一献やりましょう。
投稿: yokochan | 2008年3月 9日 (日) 20時52分