ブリテン ヴァイオリン協奏曲 ヴェンゲーロフ
汐留の日本テレビのあたりから、そびえ立つビルを望む。
左手の鉄の塊のようなミニュメントは、ハウルの動く城だそうな。
汐留は、かつては貨物線の駅があった広大なエリアで、私が社会人になった頃は、線路だらけで何もなかった場所。
というか、まったく記憶にない場所。
かつて、貨物線の汐留駅は、鉄道発祥の新橋駅だったらしい。
今の新橋駅は、烏森駅だったそうな。
芝浦で打ち合わせがあり、浜松町駅へ向かわずに、汐留方面に歩いて行くことにした。
モノレールの下を歩き、ビルとビルを結ぶベストリアンデッキを通じて、汐留まではすぐだった。こんなにビルばっかり立っているけど、ちゃんと稼動してるのかね?
そんなことを思いつつ、こんな環境でお仕事をしている方々が羨ましいやらなんやら・・・・。
大荒れの関東地方、本日の演目は、お得意の英国音楽をば。
ブリテン(1913~1976)のヴァイオリン協奏曲。
ブリテンの没年を見ると63歳で亡くなっている。
かなり広範に作品を残したから、もっと長生きをしていたかのイメージがある。
この前のメットライブの「ピーターグライムズ」で幕間に、オールドバラのブリテン財団が紹介され、その時の話では、ブリテンの正式に公開されている作品はまだ一部で、その数倍もの作品がまだ残されているという。
実に驚くべきこと。
そしてそれ以上にブリテンの天才にも感心。
このヴァイオリン協奏曲は、ブリテン26歳の1939年の作品で、ここに早熟の才も見てとれる。
平和主義者のブリテンが、第二次世界大戦の戦火が見えつつある頃に、スペイン市民戦争の最中に同地を訪れ、出会ったブローサというヴァイオリニストのために書いた。
ニューヨークで、そのブローサのソロにバルビローリ指揮するフィルハーモニックで初演されたのが1940年。
その背景には、人道と平和を希求するブリテンの気高い思いが込められていて、音楽には気品とともに熱い情熱や、哀感に満ちた歌が溢れ出ているように思える。
切れ目なく続く35分あまりの伝統的な3楽章形式。
1楽章は、バーバーの協奏曲を思わせるような親しみやすい旋律。
プロコフィエフのようなスケルツォ的2楽章は、スペインを思わせるようなリズム感が抜群。
終楽章は、古典を思わせるようなパッサカリアの形式を採用し、複雑きわまりない様相を呈するが、最後はまるでベルクの協奏曲のようにどんどんと澄み切った境地に上り詰めてゆき、浄化されたかのような静かなエンディングを迎える・・・・。
実に、素晴らしい音楽だ。
超越技巧のヴァイオリン・ソロと大規模なオーケストラを伴なう難曲でもあり、長くネグレクトされてきた。ここ数年、演奏会で頻繁に取り上げられるようになり、私も実演はまだだけれど、FM放送を通じ何種類かのライブを聴いてこの曲に開眼した次第。
この曲復活の立役者は、マキシム・ヴェンゲーロフであろう。
おそらくサヴァリッシュ最後の日本での指揮になったN響定期での鬼気迫る演奏に、大植英次とトロント響のFMライブなどで集中的に聴いたヴェンゲーロフのブリテン。
軽々と自在なその演奏ぶりは、ブリテンの若書きの才気が乗り移ったかのようでありながら、冷静ですらあるところがすごい。
ロストロポーヴィチの指揮が、ヴェンゲーロフをしっかりサポートしつつ、朋友ブリテンへの熱い思いが感じられ、クールできっちりしていたサヴァリッシュと大きく異なる。
今後、若いヴァイオリニストたちがこぞって取り上げる名曲となるかもしれない。
五嶋みどりがフィラ管との来日公演で来月演奏するが、チケットがやたら高い。
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