シューマン 「詩人の恋」 オアフ・ベーア
歴史を飲み込んで来た清流は、この時期こそ美しく清々しい。
奥には比叡山の姿も。
床のやぐらが組まれ、夜は納涼床を楽しむ人々がもうたくさんいた。
夏は、もう蒸し暑くて床なんてやってらんないらしい。
夢と憧れに満ちた第1曲「美しい5月」から始まるシューマンの、歌曲集「詩人の恋」。
1840年の「歌の年」を飾る最高傑作のひとつ。
ハインリヒ・ハイネの「抒情間奏曲」から16篇を選び、この歌曲を作り出した。
ロマン派音楽の極地、恋が芽生え、やがて恋破れ、そんな思いも棺に納めようと歌う。
夢の中で、歓び、泣き、悲しむ・・・。
リアルな恋しか歌えない、今の青年たちからしたら、何と歯痒く思うことだろう。
詩と音楽が、見事に結びついていて、お互いが美しく調和して存在しあっている。
さらに、シューマンの歌曲にあっては、ピアノ伴奏がとても存在感があり、極めてロマンテックな前奏や後奏が付けられていて、素晴らしいピアノ曲にも匹敵する。
私の好きな曲を羅列、第1曲「美しい5月に」(歌えちゃいます)、第7曲「私は嘆くまい」、第9曲「鳴るのはフルートとヴァイオリン」(上下するピアノ伴奏の素晴らしさ)、第10曲「恋人の歌を聴く時」(女々しいまでの儚い歌)、第11曲「若者は乙女を愛し」(快活な自虐)、第13曲「夢の中で私は泣いた」(そうそう、私も泣くことありますよ・・・)、第15曲「昔話のなかから」(昔話にある夢のような素適な国に憧れる。朝になるとはかなく消え去ってしまう・・・。わかるよそんな夢の話)、第16曲「忌まわしい思い出の歌」(またまた自虐におちいり、巨大な棺を準備中。)
「どうしてこの棺がこんなに大きく、こんなにも重いのか、お判りですか?
私の恋や、私の悩みも、一緒にその中に納めたから。」
こうして歌い終えると、夢を閉じるかのような、長いピアノのソロがあって、「詩人の恋」の物語は終わる。
私の棺は、CDや本も加わるから、とてつもない棺が必要だぞ。
万年青年オアフ・ベーアが、デビューしたての85年に録音されたこのCD。
無用な感情移入をできるだけ避けたナチュラルな歌唱は、とても清新で気持ちがよい。
そんな自然児のような歌いぶりから、おのずと純粋な詩人の心情が歌いだされてくる。
さらに、ドイツ語の美しさも味わえるのは、F=ディースカウと双璧かもしれない。
名手ジョフリー・パーソンズの味わいあるピアノがまたいい。
「詩人の恋」の過去記事
ライブでも聴いたルネ・コロのCD
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コメント
先日TVで「詩人の恋」を偶然耳にして、図書館でオアフのCDを借りてきました。実は音大生だった頃、この曲集を伴奏したことがあります。歌と言葉、ピアノが素晴らしく調和し、織りなされていることに、こんな音楽があったのだと驚きさえ憶えました。そして、フィッシャー・ディスカウの演奏を何度も聴いたことを思い出しました。(私と同級生の演奏のレベルは話にならないものでしたが・・・・、今思えばそれなりに楽しい思い出です)
ディスカウもいいけれど、オアフもドイツ語が美しくて素晴らしいですね。何十年かぶりに「詩人の恋」を楽しんでいます。
投稿: きちきち | 2010年12月 4日 (土) 20時52分
きちきちさん、こんばんは。はじめまして。
コメントどうもありがとうございます。
シューマンのピアノ作品、そして歌曲のピアノも、すごく難しいという印象がございまして、しかも「詩人の恋」を伴奏されたというお話をお聞きすると、すっごく尊敬してしまいます。
シューマンの歌曲は、ピアノにも大いに気をはらって聴くようにしてます。それはシューベルト以上かもしれません。
そして、詩人の恋はおっしゃる通り、詩と音楽が完璧に調和した素晴らしい歌曲集ですね。
学生時代の素敵な思い出をお持ちになられていることも、とても羨ましく存じます。
ベーアの歌声って、きっとそんな思いを懐かしく再現してくれる親しみ溢れるものなんですね!
ありがとうございました。
今宵は就寝前に、この歌曲のさわりを聴いてみようと思います。
投稿: yokochan | 2010年12月 5日 (日) 00時03分
さまよえるクラヲタ人さん、早速コメントの返信ありがとうございます(o^-^o)
返信頂けると思ってなかったので、さっき気がつきました。(他の記事を読んだら、マメに返信されているのですね。重ねて大変失礼致しましたm(_ _)m)
私こそ初めまして。よろしくお願いします。
先日「オアフ・ベーア」で検索したら、偶然こちらのブログにヒットしました。クラシック音楽に広く、詳しくていらっしゃるので、びっくりしました。
私もクラシックが好きですが、全然詳しくないので、驚きと敬意を持って読ませて頂いています。
写真も素敵ですね。
「京都の鴨川」は私にとって思い出の深い土地なので、「詩人の恋」の紹介と共に、とても懐かしく嬉しく思いました。これからも楽しみに読ませていただきますね~
投稿: きちきち | 2010年12月12日 (日) 08時47分
きちきちさま、こんにちは。
コメントどうもありがとうございます。
クラヲタと称するくらいですから、おばかなくらいに音楽好きでして、あらゆるジャンルにチャレンジしれます。
ブログも5年になりますが、こうしてコメントのやりとりを通じて、いろんな方々と音楽談義ができます。
これもまた素晴らしいことですね。
またご覧いただけけましたら幸いです。
京都は、いつ行っても素敵な街ですね。
川にも風情があります。
投稿: yokochan | 2010年12月12日 (日) 12時52分