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2008年6月 3日 (火)

ルチア・ポップ アリア集

1 今年の梅雨は、早く始まったけれど、どれくらい降るのでしょうか?

年々、シトシト雨じゃなく、ドバッとまとまった雨が降るようになっている。
古来、梅雨の雨にも情緒を読み取って、楽しんできた日本人だが、そんな悠長なことは言ってられなくなってきた。
雨と汗で、びしょぬれのままの満員電車は極めて不快。
それ以上に、雨災害など起こらないことを祈りたい。

Lucia_popp

ブラティスラヴァの名花、ルチア・ポップが1993年に亡くなってしまって、もう15年。
享年54歳、あまりにも無常な早すぎる死。
ヘルマン・プライとともに、誰からも愛される声と人柄だっただけに、惜しみても余りある・・・・。

なんでやねん!
彼女の残された音源や映像を視聴するたびに、彼女がまだ健在なら・・・・、との思いに神様を恨みたくなる。

1939年、チェコのブラティラヴァ生まれ。
そう、かの地はグルベローヴァやドヴォルスキも生まれた場所。
素晴らしい声と音楽性に恵まれた名歌手の里は、ウィーンにも近く、当然にポップもウィーンで大活躍することとなった。カラヤンに認められたことがきっかけで、コロラトゥーラからスーブレット、そしてリリコ・スピントの領域へと進化していった。

彼女の持ち役を見ると、「魔笛」夜の女王→パミーナ、「フィガロ」スザンナ→伯爵夫人、「ばらの騎士」ゾフィー→マルシャリン、「アラベラ」ズデンカ→アラベラ・・・・といった具合に、うれしくなるような進化ぶり。
誰しも、こんな声における進歩を、素晴らしい成果をもって遂げられる訳ではない。
若い頃の、リリカルな役柄と、のちの充実期の役柄の歌を比べてみても、どちらもが素適で人間味に溢れていて、彼女の歌が常にベストフォームを維持していたことに驚く。

それでもやはり、80年代半ば以降の10年間が、我々日本人にとっても身近だったこともあって、忘れ難い歌唱がいくつもある。
伯爵夫人、エヴァ、アラベラ・・・・、実際の舞台やテレビを通じて、彼女の声と姿はいまだに目に焼き付いている。

   「魔笛」 パミーナ              「魔弾の射手」 アガーテ
   「じゃじゃ馬ならし」 カタリーナ      「リゴレット」 ジルダ
   「ジャンニ・スキッキ」 ラウレッタ     「フィガロ」 伯爵夫人
   「マノン」 マノン               「ルイーズ」 ルイーズ
   「売られた花嫁」 マジェンカ        「ルサルカ」 ルサルカ

         ルチア・ポップ  ソプラノ
  
   クルト・アイヒホルン指揮 バイエルン放送管弦楽団
                         (82年ミュンヘン)

82年録音のアリア集は、モーツァルト、ロマン派ドイツ、イタリア、フランス、東欧、といったまさにポップが得意としたジャンルのオペラから選曲されていて、これだけ見てもため息がでちゃう。
欲を言えば、二人のシュトラウスも欲しいところだが、ひとたび聴き始めると、ポップの無垢で、温もりのある歌声にすっかり身も心も洗われる思いがして、そんな贅沢は言っていられなくなる。それぞれのアリアが短く感じて、もっともっと聴いていたいと思う。
それにしても、なんて心を魅惑する声なのだろうか!
フランクでお茶目な人柄が、その音楽の隅ずみに温かな眼差しを与え、人間味豊かな解釈を吹き込む。
そんな彼女に悲劇のヒロインは似合わない気がする。
晩年、マルシャリンを素適に歌い始めたポップ。きっと、ゾフィーやスザンナの心を持った、優しくもかわいい不世出のマルシャリン像を打ち立てることとなったであろうな・・・・。

この中で、涙が出るほど感動したのは、「ルサルカ」の「月に寄せる歌」。
メロディメーカーとしてのドヴォルザークの抒情的な旋律を、それこそいとおしむように丁寧に歌う。これを聴いて、心動かされない人は心の乾いた人だ!
同様に、「私のお父さん」も泣けるし、「ルイーズ」の世紀末的な陶酔感も実にイイ。

晩年ブルックナーの専門家みたいに思われていたアイヒホルンは、ドイツの劇場叩き上げの職人。雰囲気がとても出てて、これまたいい。

ああ、ルチア・ポップ、天上でも歌っているのかしら。

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コメント

中学時代に初恋だった子が、音楽高校で声楽を専攻し、その卒業演奏会に誘われ、そこで聴いた、彼女の「私のお父さん」が忘れられません。

幼い頃に父親を事故でなくした彼女が唄う「私のお父さん」は涙無しには聴けませんでした。。。

と、こんな思い出に耽っている場合ではなく!

ルチアポップは、軽快な躍動感の中にも、本物の歌い手のみが持つカンタービレがあり、やはり十八番(?)のモーツァルトオペラ等、あと、シューベルトの歌曲などが好きでした。

ところで、ポップの「私のお父さん」はまだ聴いたことがないのですが、、かなり涙腺ヤバそうな感じですね。

投稿: dota | 2008年6月 4日 (水) 04時29分

yokochanさま お早うございます

ポップさんのこのアリア集
持っています〜。

いずれも良い歌ですよね
亡くなるのが早すぎたように思いますね〜。
ハイティンク盤の指輪が届いたのですが、ひょっとして、ポップさんが元気なら、ジークリンデを聴けたかもしれませんよね〜。ローエングリン、アラベラが聴けただけでも良かったと思っています。

天国でも、あの天使のような声で歌っておられるのではないでしょうか?

ミ(`w´)彡

投稿: rudolf2006 | 2008年6月 4日 (水) 05時19分

yokochanさん
>雨災害など起こらないことを祈りたい。
ほんとにそうです。

>ルチア・ポップ
映像でしか知りませんが、演技力も並外れていると思います。だから、例えば、C.クライバー指揮の「ばらの騎士」や来日の「アラベラ」のように、相当太めになってもそれはそれで役からずれることがないです。

ポップとホフマン、どちらも元気だったら、すばらしい共演があった可能性、なきにしもあらず・・かもしれません・・

過去の記事がありますので、TBしますので、よろしくお願いします。

投稿: edc | 2008年6月 4日 (水) 08時23分

dotaさん、こんばんは。
初恋の彼女の逸話、聞いただけで涙腺が刺激されます。
それだけ、シンプルだけど、胸を打つアリアなんですね。
私なんぞ、娘にこんな歌、歌われたら大変なことになってしまうでしょう(笑)

それでもって、ポップの「私のお父さん」、相当ヤバイですよ!
このCDもいいですが、オルフェオから出てるミュンヘンライブ
もかなりいいです、やばいです。

投稿: yokochan | 2008年6月 4日 (水) 23時26分

rudolfさん、こんばんは。
お持ちですね、このCD。
ほんとにいい声ですね。
無念の死は、いろんな「もしも」を呼びお起こしますよね。
私も彼女のジークリンデは、夢見てしまいます。
あとは、カプリッチョでしょうか!

きっと、今頃、モーツァルトやシュトラウス相手に歌ってるえしょうね・・。
ハイティンクのリング、すごくいいですよ!
じっくり楽しんで下さいね。

投稿: yokochan | 2008年6月 4日 (水) 23時32分

euridiceさん、こんばんは。TBもありがとうございます。
すっかり拝見しました。
ホフマンとの接点もよくわかりました。
ポップは、当時はエンヒェンだったのですね。
このCDでは、立派なアガーテになってます。
そして、脱線しますが、そのコヴェントガーデンでのアガーテは、ハンネローレ・ボーデだったのですか。
彼女は、エヴァやジークリンデ、小沢の第9などで、私の好きなソプラノの一人だったんです。

それにしてもポップの死は無念です。
ホフマンとローエングリンでの共演も、あったかもですね!

投稿: yokochan | 2008年6月 4日 (水) 23時42分

こんばんは。

もう亡くなって15年になるのですね。
素晴らしいソプラノでした。
それも、年とともにレパートリーも上手く変化させながら成長した人ですよね。
でも、私にとっては、クレンペラーと組んだ若かりし頃の「夜の女王」が忘れられません。

こんな若く魅力的な「夜の女王」がいるわけないじゃん。
こんな女王に出会ったら、タミーノは、ころっと魅力に参ってしまって、きっと考え方を変えちゃうよ。もちろん最後の結末も・・・。

なんて、独り言を言いつつ、解説書の写真を見ながら、ポップのコロラトューラにメロメロになってしまった自分を思い出しました。(笑)
いまから30年近く前の話です。

投稿: romani | 2008年6月 5日 (木) 00時57分

romaniさん、こんばんは。
成長・進化する証しが音源に残されていることが救いですね。

夜の女王は、まともに聴いたことがないのです。
でも、虜となったromaniさんの気持ちが痛いほどわかります。
それにしても、「夜の女王」というのはすごい名前ですね。
夜の帝王とか、夜のお菓子(うなぎパイ)があるくらいに・・・(笑)

投稿: yokochan | 2008年6月 5日 (木) 01時40分

 you tubeでルチアポップの 月に寄せる歌を聴きました。お持ちのポップアリア集のCD番号教えて頂けないでしょうか。
 愛聴盤のベニチャコバとは又違った素晴らしい声をCDで聴いてみたいので よろしくお願いします。

投稿: wasamon | 2009年5月21日 (木) 21時11分

wasamonさま、こんばんは。コメントありがとうございます。
手持ちのこちらのCDは、「35CD-3119」です。
しかし、84年頃の発売でして、いまや廃盤だと思います。
フィリップス仕様となってますが、原盤はオルフェオではないかと思います。
そのいまや独立レーベルとなったオルフェオでも、廃盤ではないかと思われ、このCDの入手は困難かと存じます。
ポップのお国ものですから、この曲はまだいくつか録音があるはずですので、私も調べてみます。
今のところ、お役に立てず申し訳ありません。

投稿: yokochan | 2009年5月21日 (木) 23時41分

 yokochan 様早速ご回答有難うございました
早速調べましたら やはり国内盤はありませんでした。英国のPrest Classicalと言う会社で
扱っているようで モーツアルトアリア集も
併せて注文しました。you tube の様な歌声が聴けると嬉しいのですが 楽しみです。お世話になりました。これからもホームページ時々見せていただきます。

投稿: wasamon | 2009年5月22日 (金) 22時01分

wasamonさま、ご報告どうもありがとうございます。
海外にはあったのですね。
きっと素晴らしいポップの歌声が楽しめると思いますよ。
拙ブログですが、またお楽しみいただければ幸いです。

投稿: yokochan | 2009年5月23日 (土) 00時14分

音楽に無知な初老じじいです。
45年間、音楽を楽しむだけ、演奏会に足お運び、
FMから気ままに、流れるままに聞きほれ、
便利なCDの時代に入り、心のビタミンとして
楽しんでいます。その中でルチア・ポップの声が
耳に止まり、聞きほれ、酔い、体が宙に浮くような、
不思議な時間を楽しんでいます。
どんな人かなと興味を抱いて、ページを探せばこのような素晴らしいブログに出会い、拝見させていただきました。
1歳過ぎの孫にも聞かせたいです。
音楽文化もっともっと広がればいいと願っています。
ありがとう


アドレス(URL)(任意)どう処理するかわかりません、教えててください

投稿: まごんた65 | 2011年5月11日 (水) 10時57分

まごんだ65さん、こんばんは、はじめまして。
永き、クラシック音楽の鑑賞歴をお持ちのまごんだ65さまに、後輩のわたくしが申しあげるべき言葉もございませんが、FM、レコード、音楽会、CDと、その需要暦は世代は少し異なっても、音楽に対するどん欲さと、愛情だけは、変わらないように感じます。

ルチア・ポップの、人を暖かく包み込むような、ホンワカとふんわり、あたたかい歌声は、どんな聴き手でも、優しい気持ちにしてしまいますね。
きっと、お孫さんの、お耳にも柔らかく届くことではないでしょうか。
ポップには、ドイツの子供の歌という、素敵なアルバムもありますよ。

右側のカテゴリーの「ポップ」をクリックいただけると、彼女にまつわるわたくしのブログ記事が出てまいります。

(アドレスは、ブログやHPをお持ちの方が、そのURLをコピーして、張りつける場所です。
もし、お持ちでしたらhttp//・・・の部分を張っていただければ幸いです。お手間取らせて恐縮です)

投稿: yokochan | 2011年5月11日 (水) 23時12分

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『コヴェントガーデンの思い出』というとても興味深いサイトのお陰で、いわゆる相手役とはいえないですが、ルチア・ポップ(ソプラノ、1939.11.12-1993.11.16 現スロヴァキア、旧チェコスロヴァキア→オーストリア)とペーター・ホフマンの舞台での共演がはっきりしたので、「P.ホフマンと共演した女声歌手」に追加です。... [続きを読む]

受信: 2008年6月 4日 (水) 08時22分

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