ブリテン 「オーウェン・ウィングレイヴ」 ブリテン指揮
静岡市にある、慶喜公の館。
自慢の池のほとりに一流料亭の「浮月楼」がある。
一度こうしたところで、懐石などをいただいてみたいもの。
たいていは、この向かいにある老舗居酒屋で満足なわたしです。
慶喜公は、長命で77歳まで生きた。写真や自転車に興味を示して、静岡の町を楽しんだという。
17作品あるブリテンのオペラ関連作品。
「オーウェン・ウィングレイヴ」は、最後から2番目のオペラで、1970年の作品。
最後は「ヴェニスに死す」で1973年。
ブリテンの早すぎる死は、1976年で、享年63歳。
そのオペラの大半は、1950年代に作られていて、60年代は、日本やアジアの訪問で影響を受けた教会寓話シリーズに集中した。
そのオペラには、多様なスタイルや題材があるが、大きい分類で仕分けすることは可能だ。
編成で考えれると、大オーケストラによるものと、室内オーケストラ、さらには、器楽のみによるものなどで分けられる。
題材で考えると、文学作品が大半ながら、宗教的なもの、歴史劇的なもの、少年愛またはオホモチックなもの、反戦的なもの、ミステリアスなもの・・・、などに分類できようか。
内容によっては、思わず引いてしまう聴き手もいようが、私はブリテンのつくり出す音楽のカッコよさと弧高の人間心理との鮮やかな対比が好きで、多少の怖さは飲み込んで聴いている次第。
本作は、「ねじの回転」と同じ、ヘンリー・ジェイムズの小説に基づいてかかれたテレビ用のオペラで、反戦思想とミステリーが一緒に題材になっている。
第1幕
軍事塾の教師コイルと、その教え子レッチミアとオーウェン・ウィングレイヴが話しあっている。
戦争を賛美するレッチミアに対し、オーウェンは戦争が嫌いだから軍人になるつもりはないと発言し、先生を困らせる。
オーウェンの能力を高く評価するコイル先生は、気がすすまないまでも、ウィングレイヴ家を取り仕切る老ウィングレイヴ嬢に話をせざるをえない。
ウィングレイヴ家は、代々軍人を生んできた名家なのである。
オーウェンは、戦争を呪って一人独白する「戦争は政治家の遊び、聖職者の喜び、法律家のいたずら・・・」
コイルは、オーウェンに田舎の実家パラモア館に行き、そこに存命する祖父フィリップ・ウシングレヴ卿に説明をするように諭す。優しいコイル夫人は心配する。
そして、オーウェンは、パラモア館で、その住人フィリップ卿と娘ウィングレイヴ嬢、その老嬢の戦士した許婚の妹ジュリアン夫人とその娘ケイトらの冷たい応対を受ける。
コイル夫妻とレッチミアも駆けつけるが、晩餐会ではいや~な雰囲気になる。卿は怒り、オーウェンと決裂する。
それぞれが独白めいた歌を歌ったり、重唱となったり、会話をしたりと、ブリテンの作風は冴えに冴えている。
第2幕
語り手によって、ウィングレイヴ家の悲しい過去が語られる。
軍人となるはずの少年が、子供同士の喧嘩で逃げたのを咎めた父親。父は息子を殴り死なせてしまう。そして父親も何故か倒れて死んでしまった。
以来、その部屋にはその親子の幽霊が出るという・・・・。
夜、卿に呼ばれたオーウェンは、廃嫡される。
悲しい一方、すっきりしたオーウェンは、コイル夫妻に慰められる。
一人になり、一族の肖像を前に決裂を告げ、一方で平和を賛美する。そこへ、幽霊が現れ横切るが、オーウェンは、「気の毒な子だ、君にかわって、みんなに代わって、私はやり遂げた、君の父親の力ももうなくなった。僕は勝利した」・・・と歌う。ここは感動的なシーンだ。
そこへ、幼馴染みで許婚だったケイトがやってくるが、彼女も軍人賛美の一人なのだ。
オーウェンに向かって、臆病者と挑発し、そうでないことの証明に幽霊の部屋で一晩寝ろという。オーウェンも、この世の怒りが込められているあの部屋で一人で立ち向かわなくては・・・と部屋に入る。ケイトは外から鍵を閉ざしてしまう、怖い女。
その様子をみていたレッチミアは、怖くなってコイル夫妻を呼びに行き皆で駆けつけ、館の全員も集まるが、部屋の中には死んで床に横たわっているオーウェンの姿がある。
オーウェン・ウィングレイヴ:ベンジャミン・ラクソン
コイル: ジョン・シャーリー=カーク コイル夫人:ヘザー・ハーパー
レッチミア:ナイジェル・ダグラス ウィングレイヴ嬢:シルヴィア・フィッシャー
ケイト:ジャネット・ベイカー フィリップ卿:ピーター・ピアーズ
ベンジャミン・ブリテン指揮 イギリス室内管弦楽団
ワンズワース・スクール合唱団
(70年録音)
一族の宿命を一身に背負ってしまったオーウェンを、美声のラクソンが、迫真の歌唱を聞かせる。この人を始め、ブリテン作品の常連さんたちによる共感に満ちた歌は、しばらく現れそうもないこのオペラの永遠のスタンダートとなりうるものであろう。
エキゾテックでミステリアスなムードの音楽は、ちょっと薄めの響きや独特のリズムが、何度か聴くと癖になってしまう。フォルテの場面は全曲でわずかしかなく、終始静かに進行する音楽で、十二音の技法も駆使した複雑な要素もある。
まだ全貌を掴みきってはいないが、何度も聴いて見えてくるブリテンの音楽。
ブリテン全オペラを制覇するまで、繰返し聴いて確認するのも楽しみ。
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コメント
今日は、静岡市に居たことがありますが慶喜公の館は知りませんでした。機会があれば訪問したいです。
投稿: 風車(かざぐるま)2号 | 2008年7月23日 (水) 13時26分
風車2号さま、こんばんは。
この館の隣はホテルでして、その部屋からこの庭がよく眺めることができます。
庭も無料で解放されてますので、自由に見学ができます。
駅から5分とは信じられない静けさでした。
投稿: yokochan | 2008年7月23日 (水) 23時59分