ワーグナー 「タンホイザー」 カイルベルト指揮
ちょっと早いけど、 居酒屋も9月に入ると、秋のテイストに。
刺身に熱燗がおいしく感じられるようになってきた。
もう堪らない画像でしょ。
先週、名古屋の名居酒屋「冨士屋」にて。
「はまち」と「たこぶつ」。
たこは、日間賀島のもの(たぶん)。
菊正宗の辛口の燗は、純米だ吟醸だという前に、日本の食材によく合う。
ワーグナーの「タンホイザー」を聴く。
ワーグナーに帰ってくると、ホッとする。
英国音楽とシュトラウスともに、私の音楽生活の基本3原則だけに、安心して心を解放することができる。
通算7つめのタンホイザーCDは、カイルベルト盤。
戦後バイロイトにクナッパーツブッシュとともになくてはならない存在だったカイルベルトは、それでも52年から56年までの5年間しか登場していない。
残された音源がいずれも立派だから。
それでも指揮した作品は、5年間でオランダ人、タンホイザー、ローエングリン、リングと4作品。
54年には、タンホイザー、ローエングリン、リングを、55年には、オランダ人、タンホイザー、リングを指揮しているからすごいことだ。今では考えられないバイロイトのシステムは、指揮者と演出が対等の立場にあった。
カイルベルトは56年を持って、68年に亡くなるまでバイロイトには登場しなくなったが、ミュンヘンの歌劇場を引き受けたことやザルツブルクへの登場、さらには、バイロイトではサヴァリッシュやクリュイタンス、ベームといったヴィーラント好みの指揮者の登用が多くなったことなどがあるかもしれない。
今年、生誕100年のカイルベルト、先の「リング」とともに、正規音源の掘り起こしを期待したい。
今回のカイルベルトのタンホイザーは、1954年のライブで、51年から始まった戦後新バイロイトで、ヴィーラントが始めて出したタンホイザーの新演出。
54年と55年で、いったん引っ込めてしまい、61年に新たに新演出を問うこととなった。
指揮はカイルベルトとともに、54年がヨッフム、55年がクリュイタンス(オルフェオで発売済)。61年以降はサヴァリッシュやスゥイトナーが受け持った。
ヴィーラントの演出は、中学の音楽の教科書に出ていたので、そのシンメトリーの整然とした美しさが子供ながらに目に焼き付いていた。
昨今の、ごちゃごちゃした舞台のメッセージの多い舞台とは大違いで、これなら音楽を邪魔せずに一体化していそう。
それでも当時は、ヴィーラントの演出は物議をかもすことが多かったらしい。
2度目の演出では、バッカナールの振り付けにベジャールを起用して妖艶なバレエを見せたし、象徴的な不可思議なモニュメントを出したり、キンキラ・ヴェヌスブルクだったり。
タンホイザー:ラモン・ヴィナイ エリーザベト:グレ・ブローエンスティン
ウォルフラム:D=F・ディースカウ 領主ヘルマン:ヨーゼフ・グラインドル
ヴェーヌス:ヘルタ・ヴィルヘルト ヴァルター:ヨゼフ・トラクセル
ビテロルフ:トニ・ブランケンハイム ハインリヒ:ゲルハルト・シュトルツェ
ラインマル:テオ・アダム 牧童:フォルカー・ホルン
ヨーゼフ・グラインドル指揮 バイロイト祝祭管弦楽団/合唱団
(1954年) 素晴らしいキャスト。中でもヴィナイの、ほの暗く非劇的な色合いの声によるタンホイザーがいい。3幕での
それとやはり活きのしいF・ディースカウの明晰な声は、群を抜いているし、一番現代的。
グラインドルの深々とした声の領主に、のちの有名人たちで固められた脇役も文句なし。
ブローエンスティンのエリーザベトが声が素適な気品を感じさせはするが少し硬いのと、ヴィルヘルトのヴェヌスが少し古臭いのが気になった。
素晴らしいのが、カイルベルトの逞しく気力あふれる指揮。
ビシビシと音が決まって、こちらの耳に飛び込んでくる。
1幕でのタンホイザーと旧友たちとの邂逅の熱さ、その後の盛上りは、猛然とアッチェランドをかけかなりのスピード感でもって興奮させる。
2幕は華やかさなどは微塵もなく、後半の感動的な場面では、ともに泣くかのような思い入れを込めた演奏。
一転3幕の、澄んだ空気に悲劇を予見させる前半は、じっくりと歌い上げていて、ニュアンス豊かなF・ディースカウの名唱とともに味わいが深い。
そして、「ローマ物語」からは、ヴィナイの重戦車のような大迫力タンホイザーもあいまって、大いなる感動をもたらし、最後の巡礼の合唱では感涙にむせぶこととあいなった。
カイルベルト Ⅰ(65分) Ⅱ(65分) Ⅲ(54分)
クリュイタンス Ⅰ(68分) Ⅱ(70分) Ⅲ(59分)
このカイルベルト盤、音の欠落がわずかにあったが、同じ演出でテンポがこれだけ違う。
放送録音で、ヒスノイズも目立つが、音質は驚くほどよろしい。
タンホイザーの過去記事
「ドレスデン国立歌劇場来日公演2007」
「新国立劇場公演2007」
「クリュイタンス1955バイロイト盤」
「ティーレマン2005バイロイト放送」
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コメント
こんばんは。
タンホイザーを聴きまくっていたときに、カイルベルト盤は手に入りませんでした。何と言ってもラモン・ヴィナイは聴いてみたかったです。
ディースカウも若くてよかったと予想できますし、リングから連想するに、カイルベルトの指揮も文句なしでしょう。音質を警戒していましたが、音質は驚くほどよろしい、のでしたら、こんど見つけたら買います。
投稿: にけ | 2008年9月 7日 (日) 20時04分
にけさま、こんばんは。
このカイルベルト盤は、実はオークションでgetしました。
私も実は以前から気にかけていたものですから、速攻買いでした。このレーベルでの入手は難しいかもしれませんが、HMVサイトに別レーベルで出てました。
ヴィナイのタンホイザーは、実に素晴らしいものでした。
のちのスパス・ヴェンコフにも似た雰囲気です。
他の歌手もご明察のとおり良かったですよ。
是非聴いてみて下さい!
投稿: yokochan | 2008年9月 7日 (日) 21時21分
何度も夜分失礼します。タンホイザーはヘーガー盤の他にシュレーダー/ヘッセン放送O盤もお薦めです。ヘーガーが望んで実現できなかった、あの伝説のシュルスヌスのヴォルフラムの美声が聴けますし、ヘーガー盤と違って歌手は劇場でのチームがそのまま録音に臨んでいます。ヘーガー盤の歌手の多くは実際にはその役を歌ったことはありませんし、脇役はバイエルン州立歌劇場のメンバーですが主役はザクセンの歌手達で、実際にはこのメンバーでの上演は一度も実現していません。シュレーダーは知られざる名匠で、プライザーに「ラインの黄金」の名演を残していますよ。ただ、小生はマリア・ミュラーの大ファンで1stチョイスはエルメンドルフによるバイロイト盤(短縮・抜粋ながらも録音史上初録音)ですので、あまり期待していただかない方が良いかも。できれば、さまよえるクラヲタ人でマリア・ミュラーの特集をお願いしたいものです。
投稿: | 2020年1月19日 (日) 21時59分
濃密な情報を再びありがとうございます。
シュルスヌスの声は、記憶があいまいですが、かつてD・キーン先生が戦前の歌手たちを紹介していた番組で聴いたことがあります(たぶんですが・・)。
なるほど、シュレーダー盤ですね。
いまほどググったら音盤は現役で存在してそうです。
守備範囲がますます広がる予感にうれしくも、また時間との闘いであることも悩ましくもあります。
しかし、マリア・ニュラーさん、気になる存在です。
いろんな情報もいただきまして、いつしかそんな特集もできたらば、と思います。
投稿: yokochan | 2020年1月23日 (木) 08時43分