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2008年10月 5日 (日)

シェーンベルク 「グレの歌」 俊友会管弦楽団特別演奏会

Gurrelieder シェーンベルク「グレの歌」を聴く。
トヨタ自動車グループの後援によるトヨタコミュニティ
コンサートで、チケットは全席3000円と割安。
世界のトヨタさまが、全国でもう何千回も行ってきたコンサート。
わたしは初めてだが、プロでもめったにやらない、こうしたコンサートなら毎回各地へ足を運びたくなる。
トリフォニーホールは7割くらいの入り。そのうちどれくらいが、トヨタ関係者なのかは不明なれど、普段通いなれたオペラやコンサートとはちょっと雰囲気が違うのも確か。
というのも、客席で聴いていて聴衆が音楽に浸っているという雰囲気をあまり感じられなかったから。
知らない音楽でも音楽に集中する「気」のようなものをホールに感じることがあるじゃないですか。それがなかったような気が・・・・
先だって同じホールで聴いた「ばらの騎士」の雰囲気とは大違い。
曲が曲とはいえ・・・、いや、やはり曲ゆえだろう。

   シェーンベルク 「グレの歌」

    ヴァルデマール:水口 聡    トーヴェ:佐藤ひさら
    山鳩      :向野由美子   農夫・語り手:東原貞彦
    道化クラウス:小山陽次郎

          堤 俊作 指揮 俊友会管弦楽団
                     晋友会合唱団(清水敬一指揮)
                     (10.5@トリフォニーホール)

本日の席は、11列目の左より。
しかし、油断大敵。巨大編成で、ステージをせり出し、シートは事実上は前から6列目。
こうした声楽をともなう巨大作品では、中から2階せり出しのない後列が理想だった・・。
おそらくそちらは、お偉いさまたちのお席になっていたのでは。
しかし、眼前で聴くシェーンベルクの膨大な濃密度の音塊を全身で受け止めると、CDで恐る恐る聴くのと異なり、かなりの快感を味わえる。

今日は、このコンサートの音楽監督、三枝茂彰さんのお話が音楽が始まるまえに10分ほどあった。
こんなすごい曲をアマチュアがやる快挙、日本でも5~6回しか演奏されていないこと、もうしばらく味わえないでしょうとのこと、シェーンベルクの無調・十二音のこと・・・などなど、珍しい楽器の紹介もあわせてのご案内があり、とても有意義だった。

さて、この曲については、以前の自分の記事から引用。
(我ながら端的によく書けているもんで)

>そのまんま「ワーグナー」である。
第1部のヴァルデマール王と乙女トーヴェの愛の二重唱は、トリスタンそのものの官能の世界。
テノールとソプラノで交互に歌われる9つの歌は、ツェムリンスキーの抒情交響曲との類似性も見られる。
山鳩が王の妻の嫉妬で、トーヴェが殺されたことを歌う。鳥の登場は、ジークフリートの世界。
第2部は短いが、王の恨み辛みのモノローグ。
そして第3部は、怒りで荒れ狂う王の狩の様子。これはまさにワルキューレ。
そして王に付き従う道化は、性格テノールによって歌われるとミーメそのもの。
最後は、シェーンベルク独特のシュプレヒゲザンク(語り)により、明るさがよみがえり、光り輝く生命の始まりが語られると大合唱による大団円となる。<

ワーグナーを経てシェーンベルクやベルク、ウェーベルン、そしてツェムリンスキーにたどり着いた私としては、その甘味で濃厚なロマンティシズムと、無調へ向かうギリギリの境目にあるこの作品が堪らなく好きだ。
ワーグナーのように強力な歌手陣と構成感よくまとめ上げる耳のいい指揮者が不可欠。

今日の最大限にすばらしかったのは、堤さんの指導のもと率いられたオーケストラ。
出だしこそ固かったものの、2時間に渡ってほぼ完璧な仕上がり。
大音響もクリアだったし、シェーンベルクが細心に渡り作りあげたモザイクのように分割された小編成のオケの繊細な響きも実に見事。
オケの眼前にあって、私はきょろきょろと忙しかった。それだけ、オケが随所にいろんなことをやっている。
堤さんのわかりやすい指揮ぶりもオケにとっては頼もしいのであろう。
各奏者の皆さん、楽譜に首っ引きなんてことはまったくなく、音楽を楽しみながら、体を揺らしながら弾いていらっしゃっていてとてもアマチュアとは思えない。

独唱者の中では、日本を代表するヘルデン、水口さんの力強い声がことに2部と3部において素晴らしかった。オケの大音量と拮抗しなければならない難役を見事に歌った!
山鳩の向野さんのよく通るメゾは素適だったし、性格的な小山さんのクラウスもいい。
佐藤さんのトーヴェは、ドイツ語がややこもりぎみで、ホールに馴染みにくい声だったかもしれないが、とても美しい声だった。
そして、東原さんの語りが、最高によかった。
ドイツ語によるシュプレヒゲザンクが、何故あんな見事に歌い語られるのだろうか。
3部で、語りが入ってきて、音楽がどんどん浄化されゆくところ、私は感動で涙が溢れてきた。そうして、合唱が眩い音楽とともに歌い出して、曲がキラキラと輝くように終わった。
あぁ、世紀末音楽を充分に歐歌し、わたくし、シビレてしまった!
今宵もブラボー一声献上しました。

曲が閉じても、今夜は大人しめの拍手。

こんな大曲に身も心も動かされてしまう聴き手はまだまだ少ないのだろうか?
ともあれ、今日演奏された皆さんの熱意と頑張りに、大大拍手を捧げたい。

この半月の間に、「トリスタン」と「ばらの騎士」と「グレの歌」を聴いてしまった。
互いに密接な間柄の音楽、これらを高水準の実演で聴くことができる東京は異常な音楽都市だ。

 「グレの歌」の過去記事

   「ブーレーズとBBC交響楽団のCD」

 





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コメント

こんにちは。私の非常にテンションの低い記事をトラックバックさせて頂きまして(←え)、すいません。
まあ、私もおそらくおんなじような席だったのですがこの手の編成の大きな曲はもうちょっと舞台がよく見える席のほうがよかったかなあと思いました。そんな珍しいトロンボーン、実際に吹いてるとこ見たかったですよ。

投稿: naoping | 2008年10月 6日 (月) 20時57分

「グレの歌」、堪能されたようで結構であります。私は東響+京響で初体験しました。サントリーの後ろの席までガンガン響いていきましたっけ(特にお終いのほうは)。でも、このスペクタルな音楽、シェーンベルクの諸作、「ピエロ・リュネール」や「モーゼとアロン」に比べると、心に響くところのものが、ちょっと・・・。という気がしましたが。

投稿: IANIS | 2008年10月 6日 (月) 21時39分

naopingさん、こんばんは。
お近くの席ということで、管楽器は見えませんでしたが、手前のオケの按配はよくわかりましたねぇ。
きっちり拍子を取ることに終始した指揮は、あれはあれで今回のコンサートを無事に着地させた功労者かもしれません。

私は、仕事をしてからギンギンで錦糸町に行きましたので、聴いてやろうの気分満載でした。
三枝氏が、めったにやらないレア演奏会を強調したものだから、会場にはそれだけで貴重な経験をしたとのお徳感だけが漂ってしまった感があります。
 あの音楽の魅力をもっともっと引き出す演奏会がいずれ行なわれることも期待したいですね!

投稿: yokochan | 2008年10月 6日 (月) 23時14分

IANISさん、こんばんは。
その演奏会は大友氏のものですな。

ライブでこの曲を聴くと、周囲を気にせずに思い切り浸れます。
私は、散漫ではありますが、前期シェーンベルクも好きであります。
この日の三枝氏の解説で、シェーンベルクのその後ということで、「ピエロ」をCDで会場に紹介し、十二音の解説がありました。
シェーンベルクはベートーヴェンと並んで革新的な人だとし、まだまだ、こうした音楽を素晴らしいと思う人とそうでない人がはっきりしていると。
まさにIANISさんを思い浮かべましたよ!
シノーポリの新ウィーン楽派全集がセットで格安発売されますね。本日予約しました。

投稿: yokochan | 2008年10月 6日 (月) 23時22分

この曲日本初演が41年も前にもなります、上野東京文化会館の4階レフトで聞きました、席は悪かったが、今でも当時の事はハッキリと覚えています。名演中の名演でした。

投稿: 取手のアホ | 2008年10月14日 (火) 20時32分

取手のアホさま、コメントありがとうございます。
日本初演は、若杉さんの指揮でしたか?
その頃から私もクラシックを聴いてましたが、さすがにこんなスゴイ曲は眼中になかったです。
とても羨ましいお話ですし、歴史のひとコマのようです!
どうもありがとうございました。

投稿: yokochan | 2008年10月14日 (火) 21時35分

 今日は。堤さんは我が町長岡と縁のあるお方です。長岡交響楽団というアマチュアオケがあります。ブルックナーの第一交響曲の新潟初演をやってのけたアマにしては隅には置けない楽団です。その長岡響の音楽監督を長年務めてオーケストラ・ビルダーとして活躍されたのが何を隠そう堤俊作さんなのです。件のブルックナー第一番初演には事情があって行けなかったのですが、ベートーヴェンのプロメテウスの創造物序曲と第九交響曲という演奏会を大学時代に聴いた事があります。ものすごく速めのテンポで颯爽とした若さに溢れる演奏で我が最愛のベートーヴェン指揮者ガーディナーのCDに収録されている演奏を思わせる名演でした。堤さんは優しさと厳しさを兼ね備えた方です。件の第九演奏会の本番直前に、まだ保育園児と思われるガキ・・・じゃなかったお子様がギャーギャーとお喚きになり始めたのですが、堤さんは「この曲は長いです。お小さいお子さんがついていけるような曲ではありません。ご理解とご協力をお願いします。我々も一生懸命やりますから」と言われました。堤さんの表情は厳しく貫禄がありかつ真摯そのものでした。前の席にいたので堤さんの表情や息遣いや細かい動きまでつぶさに観察することが出来ました。忘れられない思い出です。私が堤さんだったらブチ切れているでしょう。「この大事な演奏会にガキなんか連れてくるな馬鹿ヤロー!」ぐらいは言っているかもしれません。何しろ短気者ですから(笑)。
 真摯で厳しくも優しい堤さんのグレの歌、私も聴きたかったです。

投稿: 越後のオックス | 2009年11月12日 (木) 14時55分

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受信: 2008年10月 6日 (月) 20時50分

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