ベートーヴェン 交響曲第9番 マリナー指揮
年々大仕掛けになる、クリスマス・イルミネーション。
どこへいっても、カメラを手放せない状態だ。
設営費用も、電気代もきっと大変だろう。
でも、夜好き、イルミネーション好きのワタクシは、この時期が一番ワクワクする。
暗い世相と、閉塞感に満ちた毎日を、少しでもキラキラさせて欲しいもの。
そんな気分で、今晩もカメラ片手にさまよう筆者でございます。
夜も忙しいです。
こちらは、名古屋駅のJRタワー。
歌入り交響曲シリーズ、いよいよ最終回。
これを取り上げずしてなんとする。
ベートーヴェンの第9から始まった、歌入り交響曲のジャンル。
もう何をか言わんかである。
死を3年後に控えた1824年、54歳で作り上げた人類史上もっとも偉大な音楽作品のひとつ。
ゲーテやシラーを敬愛したベートーヴェンは、シラーの「歓喜に寄す」に曲を付けた表題的な「ドイツ交響曲」の作曲を練っていたが、ロンドンのフィルハーモニック協会から8番に次ぐ新作の交響曲の依頼があったことで、9番目の交響曲に「ドイツ交響曲」のプランを導入して、これまでにない大交響曲に仕立てようと決心した。
こうした経緯や、初演の感動的なエピソードは、いまさら皆様ご存じのことばかり。
「第9」といえば、日本人だれでも知っている。ただそれも、終楽章の旋律だけで、「第9」に魅かれて演奏会に行くと、3楽章までは完全に休眠状態。
かくいう私の父も、息子にせがまれて、カラヤンの第9の映画を引率する立場と相成り、爆睡親父と相成った。バリトンの一声で、ビックリ起きるパターンであった・・・。
ついでに言うと、その映画はクルーゾー監督のモノクロ第5と、ルートヴィヒやトーマスが歌った古い方の第9で、厚生年金会館での上映。目をつぶって指揮するカラヤンに憧れてしまい、家でも目を閉じて、小枝箸を振り回す小学生であった・・・・・。
モーツァルトが、もう少し生きていたら、歌入りの交響曲を書いたであろうか?
ベートーヴェンとの違いは、職業作曲家としての職歴だけかもしれない。
作曲家の職業が市民社会に、しっかり認知されるまで、モーツァルトが生きていれば、さらにすごい交響曲や、オペラが生まれていたことあろう。
そんな風に考えることも、音楽史はとても楽しい。
私が子供のころは、第9は年末しか演奏されず、冒しがたい神聖なものでもあった。
年末には、岩城&N響、小沢&日フィル、若杉&読響の第9競演が華々しかったが、小学生の私は、紅白の裏番組の教育テレビの第9放送のチャンネル権を奪取するのが大変だった記憶がある。
いまや、第9は、参加し歌う時代にもなった。
歌入り交響曲の金字塔は、やはり第9であろうか!
シリーズ最後を飾る演奏は、サー・ネヴィル・マリナーの指揮である。
こんな肩すかし、お怒りにならないで欲しい。
マリナーの第9など、誰が好んで聴いているだろうか。
この演奏、マリナーと聴いてイメージするとおりのものである。
ロンドンのウォルサムストウの響きの良さはあるものの、オーケストラは人数を刈り込まれた室内バージョンのアカデミーである。
初演時の編成を重視したとある。
合唱も小回りの利くサイズで、オケ、合唱とともに透明感とすっきり感が際立って聞こえる。
当然に、苦渋の漂う1楽章のイメージはなく、楽譜そのものを音にしてみました的な雰囲気で、間のとりかたもアッサリ君そのものである。→そこが、ワタクシには新鮮である。
第2楽章は、隅々までがしっかり聴こえる見通しの良さが引き立っている。→まさにスケルツォ的な、大交響曲を感じさせないところがワタクシには好ましい。
第3楽章は、この演奏の白眉であろうか。ここでもサラサラ感は止まらない。ロマン派に完全に足を踏み入れたベートーヴェンの音楽だけれども、そんなことは別次元といわんばかりに、音符だけをそのまま音に乗せてしまったマリナー。すっきりと気持ちの良い演奏は良質な最上級のミネラル・ウォーターを飲むかのよう。→私のドロドロ血液も、これで耳から効果で、サラサラに。
威圧感や切迫感のまったくない終楽章の出だし。歓喜の歌の創出までクリアで明確な運び。低弦で現れるその歓喜の主題も、全然普通に奏され、変にppにしたり演出ぶることもなく、各楽器に受け継がれて盛り上がる様もごく自然で、むしろ何のこのはない。
だから、バスのサミュエル・ラミーのあまりに立派すぎる歌声に戸惑ってしまう。
独唱陣の豪華さは、並みいる第9の中でも随一であろう。
オペラ歌手ばかりを取りそろえたその意図は、マリナーの音楽にはたして合っていただろうか。唯一、淡泊で蒸留水的なオッターのメゾだけがマッチングしているやに思う。
そんな訳で、歌が入ってきて、このアッアリ第9は、ちょっと様子が変わってしまうが、オケと合唱の紡ぎだす明晰かつ思い入れの少ない響きは終始魅力的で、終結部もあわてず騒がず、興奮もそれなりにきれいに終わる。→歌なしのカラオケ終楽章でも面白かったのに。
S:カリタ・マッティラ Ms:アンネ・ゾフィー・オッター
T:フランシスコ・アライサ Bs:サミュエル・ラミー
サー・ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー・アンド・コーラス・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
(89.4録音)
最後をあっさり飾った「マリナー卿の第9」、私は大満足である。
マリナーのベートーヴェン全集は、今やすべて廃盤。
カラヤンもいいけれど、同じくらい録音をしているマリナー卿に、今一度スポットライトを当てていただきたい。
これにて、歌入り交響曲シリーズはオシマイ。
近世作品にまだ取りこぼしはあるが、自分でも本当に楽しみながら聴いてきた。
人間の声とオーケストラってのは、協奏曲と違ってドラマ性とメッセージ性に満ちていて、とても強い音楽のジャンルに感じた。
さて次のシリーズは・・・・。
こちらも名古屋のイルミネーションです。
ビルの壁面の巨大なネオンのスクリーン。
名古屋が凹むと、日本が大変だ。
がんばろう名古屋!
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コメント
yokochanさまさま お早うございます
歌入り交響曲シリーズ、楽しく読ませていただきました。
知らない曲が多くて、コメントができませんでした、まだまだ知らない名曲が多いのでしょうね〜。
マリナーの第9、面白そうですね
ソプラノはルチア・ポップさんであれば良かったのに、と思いますね〜。あのソプラノは嫌がらせのように難しいとのことです。その割に目立たない、爆~。
次のシリーズを心待ちにしています。
ミ(`w´彡)
投稿: rudolf2006 | 2008年11月30日 (日) 08時27分
いや~、なんとも楽しい文ですね。すばらしい!
このシリーズ、部分的にしか見なかったので、改めて読ませてもらいたいと思います。
マリナーは第4番だけを持っています。その趣きとそっくりの感じに思えました。有り難うございました。
投稿: 丘 | 2008年11月30日 (日) 11時57分
rudolfさま、こんにちは。
ついに終わりました。まだかなりある様子ですが、音源がありません。一部勉強しながら聴きすすめましたが、楽しかったです。
次週より次のシリーズまいります(笑)
ポップだったら確かによかったですねぇ。
第9では同じレーベルのハイティンク盤で歌っていたはずですので、確認してみますね。そして確かに男性二人に比べると目立たないですね~。
メゾはさらに目立ちません・・・。
投稿: yokochan | 2008年11月30日 (日) 14時42分
丘さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
お誉めいただき、くすぐったいです(笑)
マリナーのベートーヴェンは全部聴きたくてしょうがないのですが、まったく手にはいりません。
第4、第7、第8など、面白そうですし。
聴きあきた曲ゆえに、もたれないところが嬉しいマリナーです。
投稿: yokochan | 2008年11月30日 (日) 14時45分
最後に第9?えっ?yokochanさんらしくもない・・・と思ったらさすがに一ひねりでした。座布団一枚!でも、自分がもし歌入交響曲をとりあげるとしても、ベト9はとりあげないだろうなぁ(ベト9、はっきり言ってフィナーレが苦手なんであります30枚。くらいあるけど)。挙げるとしたら、ハイティンク&LSOか、サヴァリッシュ&RCOかな。どっちにしても大仰にやらない演奏が◎ですね。アバド、ルツェルンのが欲しいけど、出てないところが・・・。
投稿: IANIS | 2008年11月30日 (日) 19時29分
IANISさん、やっぱり第9には敬意を表さなくてはなりません。今でこそ、第9はマーラーに分がありですが、クラシック事始めの頃は、やはりベートーヴェンでした。
私も、反大仰主義なのですが、それでも、いざ聴けば、バーンスタインやフルヴェンにはねじふせられてしまう思いです。
アバドの第9もかなりの数になりますが、ルツェルンは聴いてみたいですね。
投稿: yokochan | 2008年11月30日 (日) 23時00分
マリナーの第九はまだ聴いたことがないです。
やっぱし、さらさら明快な演奏なんですね(笑)。
ちなみに、ベートーヴェンは1・2番を最近カダケス管と録音していますよ。
ちなみに、僕は今のマリナーにマーラーの九番を録音してほしいな、と叶うはずのない夢を抱いてます・・・。
投稿: ナンナン | 2008年12月 2日 (火) 14時53分
ナンナンさま、こんばんは。
そうなんです、さらさら明快で気持ちいい第9なんです。
最近のマリナーであれば、きっと別次元の演奏になるのでしょうね。
カダケス管とのものは、なかなかお目にかからないです。
日本のオケで、第9だけマリナーを呼ぶ勇気のあるところはないのでしょうかね!
投稿: yokochan | 2008年12月 2日 (火) 23時10分
わたくしもマリナーさんのベートーヴェンに興味があって、交響曲全集が欲しいと思っています。まぁ恐らく10年以内に亡くなる(なんて言ったら叱られますが)と思うので、その頃には「追悼盤」なんかで出るのではと妙な期待(?)をしています。
いずれにせよマリナーさんは好きな指揮者です。
投稿: なおらー | 2008年12月 7日 (日) 09時19分
なおらーさん、こんばんは。
あんなに録音の多いマリナーなのに、廃盤ばかりで、ファンは困った思いをしております。
はなはだ不謹慎ではありますが、私も同感の思いを抱いたりしてしまいます。
いま全集を作ってくれても万々歳ですが、アカデミーとのすっきりが聴きたいものです。
投稿: yokochan | 2008年12月 7日 (日) 23時33分
お早うございます。
マリナーのベートーヴェンは全く未聴です。彼のCDはブログ主様にはかなわないにしろ、かなり聴いているほうだと思うのですが。この第9のCD、国内盤発売時には評論家のセンセイ方から「こんなのベートーヴェンじゃない!」とこき下ろされていましたね。
私には昔から疑問に思っていることがあります。どうしてほとんどの指揮者がベト交響曲を録音するとき戦争交響曲(ウェリントンの勝利)を無視するのでしょう?政治色が強いからでしょうか?それならショスタコの交響曲にも政治色の強いものは何曲もありますし。私はマゼール&ウィーンフィルでしか聴いたことがありません。音楽的に内容空虚だからでしょうか?私は深みには欠けるにせよなかなか聴き応えのある曲だと思うのですが。カラヤンやオーマンディやマリナーはこの曲をスルーせずにきちんと録音していますね。さすがです。
投稿: 越後のオックス | 2009年5月 8日 (金) 10時11分
越後のオックスさま、こんばんは。
マリナー好きとしては、氏のベートーヴェン全集が欲しくてなりません。
たしか4番でスタートし、それは好評でしたが、その後は酷評。悔しくてなりません。
でも私もウエリントンは苦手でして、カラヤンがこれ見よがしに、70年の生誕200年に録音した、という印象や、オーマンディの1812とのカップリングによるド派手なジャケットの印象が先んじているからかもしれません。
ちゃんと聞きますです・・・。
投稿: yokochan | 2009年5月 9日 (土) 00時44分