神奈川フィルハーモニー名曲コンサート シュナイト指揮
久しぶりのお日様に恵まれた土曜日の午後、ミューザ川崎へ。
今年も帰ってきてくれた、シュナイトさんを迎えて、神奈川フィルハーモニーの「珠玉の名旋律」と題された、名曲コンサート。
ブラームス ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
カザルス 「鳥の歌」~アンコール
Vn:石田泰尚 Vc:山本裕康
交響曲第1番
ハンス=マルティン・シュナイト指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(3.7@ミューザ川崎)
珠玉の名旋律と呼ぶに相応しい歌心に充ち溢れたすばらしいブラームスだった。
当日券なしの満席の会場に、力強い第一音がまずは響きわたる。
時に威圧的に感じることもあるこの出だし。
シュナイト師は、ふっくらとしたどこか明るい鳴らし方で、威圧感はまったくない。
ついで、いきなり登場するチェロのカデンツァは、山本さん。
少し硬いかなと思ったけれど、ピチカートが決まり落ち着き、石田さんが繊細にそして鋭く登場して、二人の名コンビによる競演が始まった。
見て聴いていて、本当に難しいソロだと痛感。朗々と歌うかと思えば、鋭い刻みが長く続いたり、甘い旋律が出てきたりと、曲想が刻々と変化してゆく。
対するオーケストラもシンフォニックにぶ厚く書かれて、晦渋さと柔和さが同居する素晴らしいものだ。
鳴らそうとすれば、よく第5交響曲と呼ばれるがごとく鳴らすこともできようが、シュナイト師は、オーケストラの一員で、その音も完全に同質化している二人のソロのスリムな音色をよく聴きわけ、オケを抑えつつもマイルドで明るい音楽づくり。
涙がでるほどに感動したのは第2楽章。
ホルンの前奏に導かれてふたりのソロがユニゾンで憬れに満ちたような歌を歌う。
CDでは二人のソロだとばっかり思っていたが、オーケストラの弦楽器も同時に歌っていたんだ。このぴったりと合った音色と響き。思わず深呼吸を深々としてみたくなるような、大きな呼吸に満ちた瞬間。中間部での再現部では、オケは今度はピチカートで応えている。
ブラームスの持つ音楽のロマンティシズムを強く感じた曲と演奏にずっと浸っていたかった。
一度聴いたら忘れられない旋律が繰り返される3楽章。ノリノリの二人のソロに、優しく包み込むようなシュナイト翁の指揮。もう感動が止められない。
いつも思う唐突な終わり方も、堂にいっていて極めて音楽的。
立って演奏する石田さんを始めて見たが、その大きなリアクションとは裏腹に出てくる音楽は美音でスリム、そして極めて音楽的。
山本さんは、その優しそうな心配り豊かな風貌と同じく、音色はマイルドで全体を配慮した知的なもの。
(ミューザのロビーに活けられた紅梅)
この二人に、ヴァイオリン2本、チェロ1本を加えて演奏された「鳥の歌」。
今こうして書きながら思い出すだけで、涙が出てきちゃう。
国連コンサートで、カザルスが弾いたコンサートを中学時代テレビで見た。
カザルスは、スピーチをした。「鳥たちが歌う、Peace Peace と・・・・」、そしてもう弾くのも覚束ない様子で、チェロに向かった・・・・。
アンコールにこんな悲しくも、そして、希望に満ちた曲をやるなんてずるいぞ
さて後半は泣く子も黙る交響曲第1番。
最近ご無沙汰の苦手な曲だけど。
予想通り、ティンパニの連打を伴いゆったりめの開始。主部に入るとエンジン全開。
パワーよりは柔和さとふくよかさが際立つブラ1なのだ。
こういうブラ1ならいい。
終始ゆとりと微笑みを絶やさない大人のブラームス。
だから第2楽章が歌心が雫のように満ちあふれた桂演。コンマスの席に戻った石田さんのキラリと光るソロに、オケの各奏者たちもこれ以上はないくらいの美しい歌で応える。
ここでもずっと続いてほしいと願う私でありました。
シュナイト師と目を合わせ、うんうんと頷いてから始まったクラリネットの活躍する3楽章。とても伸びやかで気持ちがいい。
そして、巨大な終楽章。
まさに名旋律たるその主題は、オケメンバー全員が一丸となって体を揺らしながら弾きまくる。
時おり妙な音が混じるが、もうそんなの気にならない。
急がずあわてず、じわじわとラストのコーダの瞬間を迎える。
するとどーだろう。
通常加速して興奮状態に突入する演奏ばかりなのに、シュナイト師はテンポを上げずじっくりと突入しそのまま進行する。
このテンポによく神奈川フィルは前のめりにならずに、ついていったものだ。
そしてコラール
シュナイト師が最後のここに焦点を定めてじっくり築き上げてきたブラ1。
すべてを解放してしまうかのような心からの祈りの発露は極めてゆっくりとそして高らかに歌われた。
こんなコラールの演奏聴いたことがない
もう感動して朦朧としてしまってあとどのようにして終わったか覚えていない
拍手もしばらくできなかったのです。
こんなブラームスを聴かされて、明日からどうしたらいいのだろう。
このコンビはあと13日の定期演奏会と5月のシューマンを残すのみ。
是非とも、慈しむ気持ちで残りのコンサートに足を運びたい。
終わりもまた始まりだ。この祈りの1番で最後もよかったかもしれないです。
コンサート終了後は、「神奈川フィルを応援し余韻を楽しみ飲んだくれる会」の皆様と楽しいひと時をすごしました。なんだかんだで5時間あまり。
ちっとやそっとじゃ消えないブラームスの響きを残しつつ、ピンク色のナイスなヤツをつまみに、音楽談義は続くのでした。
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コメント
何年かぶりで神奈川フィルを聴きました。すみトリの地方都市フェスティバルでの演奏にどうもぴんと来るものがなく、横浜が遠いこともあって手が出なかったのです。(シュナイト・バッハのほうは何度も足を運んでいるのですが)昨日の演奏を聴いて、もしかしたら非常にもったいないことをしてしまったかもしれないと思ってしまいました。
アンサンブルの精度こそ改善の余地があるとはいえ、シュナイト氏の目指す音楽を楽員全員がしっかり理解し、確実に音にしていく様子からは、両者がなかなかに得難い関係にあると感じさせるものでした。最後の大きくテンポを落としてゆったりと柔らかく、天に解き放つごとく歌われたコラールの祈りの表現は、まさしくほかの誰にも真似できない境地でしたね。
投稿: 白夜 | 2009年3月 8日 (日) 19時47分
白夜さま、コメントありがとうございます。
同じ会場で、同じ空気を味わいましたね。
ご指摘の通り、アンサンブルに都度ひやっとすることが多いですが、そのようなことは些細なことに過ぎず、毎度このコンビの熱き名演に釘付けになってしまいます。
>天に解き放つごとく歌われたコラールの祈りの表現<
まさにこの夜の白眉ともいうべき瞬間でした。
まだいくつかございますので、是非味わってください。
投稿: yokochan | 2009年3月 8日 (日) 20時15分
どうも昨日はおつきあいありがとうございました。
それにしても、私には涙、涙のブラームスでした。
そしてあの浄化された演奏に解脱して遺言のようなものを感じて胸が詰まる思いでした。
もう数少なくなったこのコンビ、この幸福をシュナイトさんの最後の言葉をかみしめたいと思います。
そして昨日の深酒、毎度懲りない私ですが今朝はしっかり二日酔いでした。
金曜日も覚悟しないとですね(笑)。
投稿: yurikamome122 | 2009年3月 8日 (日) 20時54分
yurikamomeさま、こちらこそありがとうございました。
涙のブラームス。誠に左様でございます。
ずっと終わらないで欲しいブラームス。
私もかみしめるように聴きました。
日頃の寝不足もたたって、昨日の電車はぐっすり眠りこけ、携帯アラームをセットしておいてよかったです。
寝坊した今朝、私もしっかり二日酔い。
でも気分がよいです!
金曜も心してまいります!!
投稿: yokochan | 2009年3月 8日 (日) 21時19分
昨日はお疲れ様でした。
ブラ1のコラールがあまりにも凄かったため印象が薄れがちですが、実は二重協奏曲もかなりのものでしたよね。
この2人とシュナイトさん、神奈川フィルがあってこそできる演奏。
こういう一期一会の場に立ち会えたのは幸せです。
アンコールの鳥の歌も、これを持ってくるか!というナイスな選曲でしたね。
投稿: syllable | 2009年3月 8日 (日) 23時33分
心に残る演奏会でしたね。
「鳥の歌」で心が震え、最後のコラールで涙が溢れそうになりました。おもわず、「もう終わってしますのか・・・」とつぶやいてしまいました。
13日行けないのが残念でなりません。
投稿: ナンナン | 2009年3月 9日 (月) 02時44分
協奏曲第2楽章の出だしのユニゾン、こんなに美しいものか、と感動しました。素晴らしいコンサートでした。
投稿: Sammy | 2009年3月 9日 (月) 10時34分
syllableさん、どうもお疲れさまでした。
私もドッペルコンチェルトには大いに心動かされました。
一連のシュナイトさんと神奈川フィルの演奏は、私のようなオジサンはともかく、syllableさんのような若い方々の心にしっかりと刻みこまれてゆくことでしょうね。
羨ましい限りです!
鳥の歌にはまいりましたねぇ!
投稿: yokochan | 2009年3月 9日 (月) 22時37分
ナンナンさま、こんばんは。
いらっしゃったのですね!
是非お会いしたかったです。
あのコラールで時間が止まってしまいました。
ドッペルの2楽章、鳥の歌、コラール、この3つが当日の私のハイライトでした。
このコンビの終焉がさびしいですね。
13日は、申し訳ありませんが、じっくり聴いてまいりますので、またご覧いただけましたら幸いです。
投稿: yokochan | 2009年3月 9日 (月) 22時43分
Sammyさま、コメントありがとうございます。
まったく同感です。
あの旋律が何度も姿を変えて登場しますが、いずれも美しく、泣けました。
CD化されたとしても、あの感動は味わえないかもしれませんね。
投稿: yokochan | 2009年3月 9日 (月) 22時48分