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2009年6月26日 (金)

「パストラル」 エマ・ジョンソン 英国クラリネット作品集

Ajisai_1 いまや咲き誇る「あじさい」たち。

紫陽花」という漢字もほんと趣きがありますな。

よく言われるように日本は火山灰を含んだ地質で酸性だから青い花が多く、土壌改良をしてアルカリにすると赤系の色になるという。

そうでもないという説もあるが、梅雨の季節にしっかりと咲いてくれる紫陽花だから、日本の風土にしっかり根ざした説であってこそ、まさに趣きがあるというもの。
そぼ降る雨の日に、濡れたブルー系の「あじさい」を眺めつつ嘆息する、そんな情感がとてもいい。

Emma_johnson_pastoral 今日は、私の愛聴盤のひとつ、英国のクラリネット奏者、「エマ・ジョンソン」の英国作品集。

若いころ、そうまるで少女のような彼女が本格デビューしたのが84年。
あれからもう25年も経過し、彼女は大人の女性としてコクのあるクラリネットの音色を奏でるようになった。
DGやナクソスに最近の録音があるようだが、まだ聴く機会をもっていない。

このCDは、94年の録音で、つやつやとした音色に、しっとりとした木質感漂う、素敵なクラリネットで、英国音楽特有の憂いと抒情を難なく表出している1枚なのだ。

 アイアランド    「幻想ソナタ」
 RV・ウィリアムズ イギリス民謡による6つの練習曲
 バックス      クラリネット・ソナタ
 RV・ウィリアムズ 3つのヴォカリーズ
 ブリス        「パストラル」
 スタンフォード   クラリネット・ソナタ
 ブリス        2つの童謡

    クラリネット:エマ・ジョンソン
    ピアノ   :マルコム・マルティニュー
    ソプラノ  :ジュディス・ハワーズ

このCDの解説で、エマ自身が語っていること。
それは、これらの英国作曲家たちが、2つの世界大戦と切ってもきれない関係にあること、そして肉親や親しい人を亡くしたことに大きな痛手を受けたこと。
一番古い人が、スタンフォード(1852~1924)、次いでヴォーン・ウィリアムズ(1872~1958)、アイアランド(1879~1962)、ブリス(1891~1975)、バックス(1883~1953)。こんな生没年、ふたつの大戦がしっかりとその活躍期に収まっているのがわかる。
ひとり、スタンフォードは古く、エルガー以前、パリーと並ぶ英国作曲家でシンフォニストなのだが作風も含めドイツロマン派の流れを踏襲している。

アイアランドの幻想ソナタは、1943年の作品。
切れ目なく続く15分ほどの作品ながら4つのセクションに曲想は分かれている。
アイアランドは、好きな作曲家で、抒情派でメロディアスな作風にケルト風のミステリアスなムードも併せ持っている人。このクラリネットのソナタもまさにそんな雰囲気に満たされていて、静かな第1部から、ジワジワとクラリネットが亡郷にも似た歌を歌い込めてゆくさまがとても美しく、私を陶然とさせる。最後のノリのいいリズムは、彼の素敵なピアノ協奏曲を思わせる素晴らしいもの。

RVWの英国民謡の練習曲は、RVWが各地を巡って集めた民謡をまさにモティーフとした6つの作品。1927年の作品で、それこそ歌謡性にあふれた懐かしい民謡ならではの世界が6曲つぎつぎに歌われる。
クラリネットの持つ憂愁と親しみやすい音色が、いいようもなく郷愁を誘う。
そして、RVWは30年後、死の前年、これらの中から3曲を選んでヴォカリーズとして編みなおした。
ソプラノのヴォカリーズを伴う雰囲気豊かな作品となり、そう、交響曲第3番「田園」のいかにも英国の緑の丘を思わせるような、あまりにすてきなクラリネットを伴う声楽作品。

これまた、私のフェイバリット作曲家、アーノルド・バックスのソナタは、1934年の作品。二つの楽章からなりそれこそ、こちらも「幻想ソナタ」と言ってもいいくらいの即興性とほの暗い幻想味にあふれている。バックスも生粋のロンドンっ子でありながら、ケルトに魅せられた人だけにそのフェアリーなムードはなかなかのもの。

ブリスのパストラルは1916年、戦下のフランスで書かれた平和を希求するほのぼのしたムードの音楽。ブリスはロンドンっ子ながら、やはりケルテックなムードも持っていて、ミステリアスかつ現代的なムードを併せ持った、とても素晴らしい作曲家なんだけれど、当時はなかなか評価されず、映画音楽などで活躍せざるを得なかった人。
戦争にまつわる音楽としては、大曲の「朝の英雄たち」(モーニング・ヒーロー)などは感動の一作。「色彩交響曲」ばかりでないブリス!
の作品は21年のもので、フランス時代の子供たちのイメージがあるあらしい。

スタンフォードのソナタは、これはもう、ブラームス。
ブラームスが海を渡って英国へ行き、ロンドンも飛び越えて、内地へ向かい、英国を極めてしまったような音楽。スタンフォードの交響曲と同じくする雰囲気だけど、妙に寂しげで儚いムード。ウィスキーでも飲みながら聴きと、その苦味と甘さがぴったりと寄り添ってくる、そんな音楽なんだ。

Portraitgeo986pg2p9_2   エマ・ジョンソンのふくよかで、歌声のような、美しい詩情あふえるクラリネットに、だれも気持ちを解放されてしまうことだろう!
笑顔もかわいいエマでありました。

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