コルンゴルト 交響曲嬰ヘ長調 ケンペ指揮
銀座・数寄屋橋です。
ソニー・ビルに不二家、奥はプランタンにマロニエ・ゲート。
不況とはいえ見ためは華やかなもんです。
「銀座で飲む」ということへの憧れは、今の若い方々にはないでしょうな。
私にはいまだに縁がござんせん。
今日の「名無し交響曲」は、エーリヒ・ウォルフガンク・コルンゴルト(1897~1957)の交響曲嬰ヘ長調。
これまで何度も書いたかもしれないが、簡単にその数奇で気の毒な生涯を。
父にウォルフガンクの名前を付けられ、ウィーンで神童ともてはやされたコルンゴルト。
マーラーやシュトラウスからも認められ、ワルターやシャルクまでもが指揮をしたがった。
後期ロマン派をギンギンに受け継いだ人で、早熟のオペラの数々は、R・シュトラウスの甘味な世界とマーラーやツェムリンスキーらの世紀末爛熟ムードにあふれた素晴らしい作品ばかり。
新国で「死の街」がかかることを夢みている。
その約束された未来は、彼がユダヤ系ゆえ、さらに頽廃音楽と貼られてしまったレッテルゆえ、アメリカに亡命せざるを得なくなり変転してしまった。
だが、新天地では、ハリウッドが門戸を開いてコルンゴルドの第二の成功を待ち受けてくれていた。
オペラティックでゴージャスな音楽は、アメリカの文化とマッチングして大成功し、まさにいまのJ・ウィリアムズに受け継がれている。
その成功をもとに、戦後ウィーンに復帰を図るが、時代はもうギンギンの濃厚音楽を求めていなかった・・・・・。まったくネグレクトされたコルンゴルトは失意のままアメリカに帰り、その生涯を終えることとなる。
ナチがいなかったらコルンゴルトはどうなっていただろうか?
無調や十二音なども取り込んだろうか、はたまた独自路線を突っ走ったろうか?
かたやハリウッドは、コルンゴルトから受けた恩恵ははかりしれない。
大陸を挟んだ面白い可能性に思いを寄せるのも楽しいものだ。
唯一の交響曲は、ウィーンで受け入れられず、アメリカに帰った、この期間にまたがって書かれたもので、完成は1952年。
初演のいきさつは、よくわからない。ミトロプーロスが気に入って演奏しようとしていたが、その死で流れてしまい、正式なコンサートとしての演奏は、なんと!「ケンペとミュンヘンフィル」のものだった
72年にすぐさまレコーディングされたのがこのCD。
3大B(ブルックナー)のイメージがるとともに、なんのことはない、R・シュトラウスのスペシャリストだったケンペである。コルンゴルトは全然普通に近い存在だった。
こちらも早世が残念で、それこそ「死の街」を指揮して欲しかった。
正統的な4楽章形式の堂々たる交響曲。
演奏時間、充実の48分あまり。
演奏会のレパートリーとしても、立派にトリを務めることができる素晴らしい交響曲だ。
ピアノを伴ったモダンな雰囲気の出だしの第1楽章。ホルンの咆哮にオケのトゥッティがカッコよすぎる。リズムの刻みもやたらにすごいが、徐々におさまると抒情的な場面になる。
こちらは絵画的あるいは映画的ともいってよい安らぎに満ちた雰囲気。
これらが繰り返され、音楽は堂々と歩んでゆく。
第2楽章もまたカッコイイ!
目まぐるしく変転するリズム、それも楽器間の橋渡しが聴いていておもしろい。
やがて、ここでもホルンが勇壮なファンファーレをヴァイオリンとともに奏でる。
第3楽章を先取りしたような瞑想的な中間部との対比もいい。
そして、最高に好きなのはメランコリックな葬送音楽のような長大な第3楽章。
泣きぬれたようなウェットさがあるが、基調はシャープでほろ苦い、まるで悔恨に満ちたような人生回顧の音楽。
これもまたヒーロー(ヒロイン)が死んでしまった映画のひと場面を思わせる。
ワタクシ、自分が死んだら音楽に、この楽章いいかも。
一転、楽天的な気分に覆われる第4楽章。コルンゴルトのほかの曲も、オペラ以外は最後はこんなハッピーエンドが多いんだ。
これまでの楽想が回帰してきて、全体のまとまりもよく曲を締めるところが、シンフォニーたる由縁。
ケンペの指揮は、思いのほか熱い!
情熱をこめて歌いまくっているし、この曲のキモであるリズムも見事に押さえられている。
3楽章は、オペラのひと幕を見ているような気分になる素晴らしさ。
ミュンヘンフィルに、ロンドンのオケのような切れ味はないが、雰囲気がとても豊か。
あのベートーヴェン全集をEMIに録音している頃と、同じコンビとは思えない。
この曲、かつてプレヴィン盤を取り上げた。
あとは、ウェルザー・メスト盤も愛聴。
そこでは、B・ヘンドリックスの歌う「マリエッタの歌」が収録されていて、絶品である。
思っただけで涙がでちゃう。
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コメント
今晩は。コルンゴールトの交響曲はプレヴィン&ロンドン響のものしか持っておりません。ケンペが録音していたことは全く知りませんでした。確かにケンペならこの曲で名演をやりそうではありますね。ブログ主様にはハンス・ロットの交響曲を取り上げていただきたいです。一曲しか在りませんが、素晴らしい交響曲です。彼は統合失調症になり、「ブラームスがオレの命を狙っている」と言う被害妄想に取り付かれていたようですが、ブラームスに自作をボロクソに言われたのが発症の原因だったようです。セバスチャン・ヴァイグレ指揮のCDの解説に書いてありました。ハンス・ロットが病気にならなかったら・・・それこそブルックナーやマーラーなみの大交響曲作家になっていたかもしれません。
投稿: 越後のオックス | 2009年11月10日 (火) 00時51分
越後のオックスさん、こんばんは。
ケンペはこの曲の正式な初演者でして、そのあとすぐに録音されたのが、こちらです。
わたしは、いつものようにフェチ曲となってます。
ロットは一度聴いてピンときませんでしたが、いずれ再チャレンジしなくちゃいけませんね。
投稿: yokochan | 2009年11月10日 (火) 19時52分
実は、疲労困憊で行けなかったんです。2ch,Twitter等レポ見ると、後半は、満場一致だったようで。
さて、心の傷も、表向きは立ち直りつつあります。
さて、このケンペ盤、快速かつ熱いですね。音色も、明るくまろやかでよかったです。ロンドン交響楽団のような華麗さはありませんが、これはこれで、野趣味もあって素敵です。ヴィーンフィル聴いてみたくなりますね。
最終楽章、良く聴くと、ピッチあっていないように聴こえるところが随所にあるように思えますが、それによって厚みが増し、より美しく心象的です。
メストは、最終楽章以外、木管に火が付かない点が。プレヴィンは、全体的にゆっくり君かな好みよりといった感じで。ロンドン交響楽団の華やかな音色は素晴らしいですね。
メストは、あっさりし過ぎなのかな。木管が前に出てこないなという感じで。最終楽章の盛り上がり、木管の全力投球ぶりが印象的でした。
投稿: Kasshini | 2015年12月15日 (火) 12時22分
Kasshiniさん、こんばんは。
川崎公演、行けなかったとのことですが、みなとみらいよりも精度が高かったと、わたくしも聞きました。
ケンペが蘇演したこの大交響曲。
ミュンヘンのオーケストラであったところが、実に魅力的ですね。
あと欲をいえば、イギリスのオケとも再演してほしかったものです。
投稿: yokochan | 2015年12月20日 (日) 23時02分