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2009年9月 5日 (土)

バッハ ロ短調ミサ曲 シュナイト・バッハ合唱団/管弦楽団演奏会

Opera_city オペラシティ・コンサートホールにて。

シュナイト・バッハ合唱団の最終コンサート。
指揮はもちろん、ハンス・マルティン・シュナイト師。
曲は、バッハの「ロ短調ミサ曲」。

そして、シュナイトさんのこれが引退コンサートとなる。
チケットは完全ソールドアウト。

Schuneidt_bach 今年、5月の予定が延期され、今日を迎えた演奏会。
その5月といえば、シュナイトさんを2度聴くことができた。
1回目は、コーロヌーヴォへの客演で、「ヨハネ受難曲」。この時はとても元気で、シュナイトさんらしい、心に染み入るバッハを聴くことができた。
そして2回目は、退任した神奈川フィルとの最後の共演、シューマンだった。
体の不調が伝えられるなか、人生でめったに出会うことのできない壮絶なものだった。
そのとき、もしかしたらもうシュナイトさんには、もう日本で会えないかもしれないと感じた。

でも、そんな心配をよそに、現れたシュナイトさんは、とても元気そうで、バッハの大曲の長丁場、終始力のこもった指揮ぶりであった。

長いけれど、引用します。プログラムによると、「音楽活動から引退する時は、バッハに心からの感謝を捧げて、ロ短調ミサ曲を演奏したいと思っている。その時がいつになるかわからない。もし自分の名前を冠した世界で唯一つのシュナイトバッハ合唱団で演奏することが出来たら、それは神が私の心を知って準備して下さったことと思いたい。」と、シュナイト師はいつの日か伸べられたという。
 私が日本でのシュナイトさんを聴きはじめて、まだ日は浅いのだけれど、そんな師の述べられた最後の演奏活動のその日に立ち会うことが出来たということは、私にとっても、それこそ感謝すべきことに思われ、ミサ曲の間中祈るようにして聴き入ったのです。

プロテスタントのバッハが残したミサ曲の最大傑作、「ロ短調ミサ」は、多くの方がそうであるように、私も、カール・リヒターの録音を通じて親しんできた。
それは、かの「リヒターのマタイ」と同じくして、峻厳で妥協を許さない孤独の中に神と真剣に向き合ったかのような演奏で、この曲のイメージをそんな風にしっかりと植えつけてしまうものだった。
あと気にいった演奏は、ヘリヴェッヘの爽快で優しい視線をもった古楽演奏。
そして今や、速いテンポを貫き軽快に演奏するスタイルが主流となった。
それらはそれで、清新だし垢をすっかりそぎ落としてピュアな音色でとてもよい。
でも、そぎ落とされてしまったものの中には、われわれが何十年もずっと親しんできた大事ななにか、そう、「歌」心があるはずなのだ。
 その「歌」を思い起こさせてくれたのは、アバドがベルリンフィル時代に演奏したロ短調で、古楽の奏法を取り入れながらも、美しい歌うバッハだった。(FM放送)

前置きばかりになったけど、シュナイト師のバッハには、師の演奏のたびごとに書いていることだが、祈りと歌がある。
遅いテンポを取りながらも、そこにある歌心がその遅さを極端なものと感じさせず、抑えに抑えたピアニシモでも優しい歌があふれている。
この日のバッハでも、そうした「シュナイト節」が随所に聴かれた。
 そして、歌にある言葉への思い。
ミサ曲だからラテン語の典礼文であるが、その一語一語を自ら歌いつつ、噛みしめるように指揮をしている。
そして、お顔の表情もいつに増してとても豊かだった。
厳しいばかりでなく、にこやかに微笑みながら指揮をされている。
そんな場面では、合唱の方々も同じようににこやかに歓喜の表情で歌っている。
演奏者が指揮者のもとに、完全に一体になってるのが痛いほどによくわかったし、結果として全員でバッハの音楽に奉仕している。
われわれ、聴衆も頭を垂れるようにして、この素晴らしい音楽に聴き入るのみ。

      
      S:平松 英子   Ms:寺谷 千枝子
      T:畑 儀文    Br:戸山 俊樹

   ハンス=マルティン・シュナイト シュナイト・バッハ管弦楽団
                        シュナイト・バッハ合唱団

                           (9.4 @オペラ・シティ)

オーケストラの傷はいくつもあったが、そんなことはもうどうでもよくなった。
極めて贅沢な欲を言わせていただければ、これが神奈川フィルであったなら、と。

印象に残った素晴らしい場面。

 1.ともかくこれまで聴いたことがない、超遅のキリエ・エレイソン。

 2.グロリアの中の素晴らしい独唱曲
   ①ソプラノとメゾの素敵な賛美、平松さんと寺谷さんのシュナイト秘蔵っ子の、
     素晴らしいコンビ。溶け合う声が見事に決まる。
   ②フルートを伴ったソプラノとテノールの二重唱(フルート難しすぎ)
   ③オーボエダモーレのオブリガートソロ付きの伸びやかなメゾの歌
   ④ホルン・ダカッチャ付きのバスの技巧的な歌。戸山さんの美しいバリトン。
    (ホルンがこれまた難しい)

 3.ニケア信経の中の合唱の気分の移り変わり
   ①イエスがマリアから生まれる~神秘的な合唱でオケが同じフレーズを繰り返す
                       背景のオケの美しさといったらなかった。
   ②イエスの架刑~淡々としたオーケストラ、悼むような合唱が静かに終わる。
   ③復活、昇天~前曲とうってかわって、爆発的な喜びに満たされる。
             みんな笑顔。
   ④洗礼への信仰告白~フーガのように合唱がオルガンを中心とした通奏低音の
                  上で歌う。ここでも最後は、極めてボリュームを落とし、
                  密やかな胸の内を歌うかのようなアカペラ風になり、
   ⑤来るべく世を待ち望む~次いでまた、歓喜大爆発となる。
                    喜ばしい金管にティンパニ!

 4.その喜びの感情のまま、聖なる方を称えるサンクトゥス。
   合唱の連続で、このあたりになると疲労も出ようが、シュナイト・バッハ合唱団の
   素晴らしい歌声は輝きを増してきた。

 
 5.サンクトゥス、ホザンナ、ベネディクトゥス、アニュス・デイ
   ①いと高きところにホザンナ!~2回繰り返される明るい合唱
                       オケと合唱のバランスを見ながらの指揮
                       指揮棒2本?
                     一本は、繰り返しのホザンナ用に譜面にはさんで。
   ②ベメディクトゥス~バッハ特有の神への思いが、甘味なまでに感じられる名品。
               フルートと通奏低音、テノールソロの素晴らしい世界。

               畑さんのソロは素晴らしすぎて言葉もない!
   ③アニュス・デイ~このミサ曲のなかで、もっとも美しい曲に思う。
              メゾソプラノの痛切の極みといってもいい歌は、聴いていて涙が
              滲んでしょうがなかった。シュナイト師の秘蔵っ子のひとり、寺谷
              さんの深くも、けど情に流されない名唱が胸に沁みる・・・。
   ④ドナ・ノーヴィス・パーチェム~「私たちに平和を与えてください」
               シュナイト師のエンディング・マジックがここで大展開。
               遅い、そしてどこまでもクリアな響き。
              指揮棒を置き、祈るような仕草でバッハの音楽を慈しむように指
               揮するその後ろ姿を、私はしっかりと脳裏に焼き付けようと、そ
               れこそ両手を組み祈るような思いで聴いた。

   
   曲を閉じて、全員ともに、微動だにしない。
   シュナイト師は祈りの姿勢のまま。
   ずっと静寂のまま。
   こんな瞬間を、これまで何度経験できただろう。

   この緊張感にあふれた「間」を、もうシュナイト師でもう味わうことができないのかと
   思ったら、急に切なくなってきた。
       

こうして、15分の休憩をはさんで、演奏時間は2時間30分。
時計はもう、10時!
手持ちのリヒター盤は、2時間1分。
少しも弛緩を感じさせない、充実の極みの150分間。
シュナイト師は楽員たちを大いにねぎらい、合唱団の中に入っていって握手をくみかわしている。
最後だからって、おセンチになったりしない。
明るいお別れは、とても気持ちのよいもので、南ドイツ人らしいシュナイト師ならではでなかろうか。

聴衆の熱い拍手を制し、一言。
おなじみの通訳、大矢さんが舞台袖から慌てて走り出してくる。
「この曲の最後にあるパーチェム、平和、という言葉が一番重要。世界は争いが絶えないけど、日本人の仏教の心が平和を一番実現するのではないか・・・・」というようなことをお話された。篤信家らしいシュナイトさんでした。

シュナイトさんのこれまでの日本での活躍に感謝するとともに、ドイツでいつまでも元気にお過ごしくださるように切に祈ります。
1930年生まれだから、まだまだ若い!

それと切に希望したいこと。
氏の音源の復活。
古い音楽雑誌を見ていたら、監督を務めていたヴッパータール歌劇場で、「ニーベルングの指環」を指揮してるじゃないの。1984年のこと。
そんなシュナイトさんの埋もれた音源も発掘して欲しいものであります。

さて、長大なコンサートのあとは、神奈川フィルでいつもお世話になっているメンバー数人と、居酒屋へGO。
入店の注文が即ラストオーダーという厳しい状況にありながら、しっかり飲みました。
素晴らしい演奏のあとは、ビールも体に沁みます。
お疲れさまでした。

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コメント

残念ながらチケットを取り損ねたスリーパーです。
シュナイト翁の(とりあえず)日本ラストのステージ。
相変わらずの素晴らしいコンサートだったようで。
いや~、やはり行きたかったですね~。
3時間・・・さすが、シュナイト節ですね。
音源の復活、大賛成です!
※(とりあえず)とは、また神奈フィルを振りに来て欲しい、という願いを込めて。

投稿: スリーパー | 2009年9月 5日 (土) 22時16分

スリーパーさん、こんばんは。
お姿を見かけませんでした。サントリーに行かれたのですね。
私も忘れてて、慌てて取ったのですが、もう残席は20席くらいの状況。
やはりアマ合唱だと、ご家族・友人がたくさんいらっしゃいますから入手が難しいです。

それにしても、さすがのシュナイト節。
5月が嘘のようなお元気ぶりでしたよ。
引退なんて、もったいないくらいに。
神奈フィル関係で、署名運動でもしましょう!

投稿: yokochan | 2009年9月 5日 (土) 22時56分

どうもその節はありがとうございました。
シュナイトさん、感謝してもしきれません。
最後の「Dona nobis pacem」は感動的でした。
あの響きは今思い出しても涙が出ます。
そして平和へのシュナイトさんの真摯な想い、
日本の仏教の心が平和を実現できるのではないかと語っておいでだったその言葉、ドイツのすべてのポストを辞任して日本に、神奈川フィルに最後の情熱を注いでくれたシュナイトさん。
その平和への想いを私たちに託したのだと思います。
そう私には感じました。
その心を大切にしたいと思いました。
それにしてもただ単に巨大ではなく大きな、母親のおなかの中の羊水を漂っているような錯覚を感じたこのロ短調ミサ、あたたかい音楽に包み込まれる幸せをもう感じることができないのが寂しくあります。

投稿: yurikamome122 | 2009年9月 6日 (日) 09時14分

先日はお世話になりました。
宗教曲でこれほど想いが込められた演奏はやはりシュナイトさんならではであって、文化背景の違う日本人なんかではとても太刀打ちが出来ないなと思ってしまいました。
全ての曲が終わった後の静寂ではあまりの張りつめた空気に身動きがとれませんでしたし。
これから先もバッハの曲を聴く機会は多いと思いますが、これほどの演奏に巡り合えたことは一生忘れないでしょう。

投稿: syllable | 2009年9月 6日 (日) 13時47分

yurikamomeさん、先般はお世話になりました。
ついに最後となってしまいましたね。

>最後の「Dona nobis pacem」は感動的でした<

じわじわと感動が高まり、私もここで頂点となりました。
そして、平和への思い。シュナイトさんの神を思う心がわれわれ聴き手一人一人に伝わり、平和を願う感情が高まるように思いました。
あたたかく、そして不思議にも明るいバッハでした。
素晴らしい音楽を共有できて、私のほうこそとてもうれしかったです。
さぁ、この先、さびしいですね。

投稿: yokochan | 2009年9月 7日 (月) 01時55分

syllableさん、先日はどうもお世話さまでした。
確かに、宗教音楽にこれだけの思いを込めて演奏できるのは、シュナイトさんと、氏に全面的に共感を寄せる演奏家たちならではですね。

今後、バッハをおいそれと聴けなくなってしまいました。
シュナイトさんの、マタイを切望したい心境です!

投稿: yokochan | 2009年9月 7日 (月) 01時59分

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シュナイト・バッハ合唱団/管弦楽団 最終コンサート ロ短調ミサ曲 BWV232 公演日:2009年09月04日(金) 開演:19:00 会場:東京オペラシティコンサートホール 指揮:ハンス=マルティン・シュナイト シュナイト・バッハ合唱団/管弦楽団 ソプラノ:平松 英子 メゾ・ソプラノ:寺谷 千枝子 テノール:畑 儀文 バス:戸山 俊樹 オルガン:身崎 真理子  シュナイトさんの音楽を初めて聴いたのは2001年6月16日だった。そのときはまだ立って指揮をしていた。  手元... [続きを読む]

受信: 2009年9月 6日 (日) 09時15分

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