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2010年1月17日 (日)

神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会  金聖響指揮

1 今年、初コンサートは神奈川フィルハーモニーの定期演奏会。
Kana_phll_201001 ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」一本。
金聖響さん、昨年暮の第9の流れの中で、是非にも取り上げたかった演目でありましょう。
第9は無味乾燥の思いしか抱けなかったし、音楽監督就任時のエロイカも同様。でもその後の、トリスタンとドビュッシーはすっきりとしてて悪くなかった。
だから、ご本人が著作をものにしたり、全曲録音を果たしたりと、注力中のベートーヴェンには私的には、警戒の念を抱かざるを得ず、曲への期待と演奏への不安の相半ばする気持ちでありました。

聴いた結果から先に述べると、悪くなかったぞ、いや、大変よくできましたなのだ。

金さん慣れしてないワタクシ、知らねば語れぬとばかり、プレトークでも登場の玉木正之氏との共著の2冊(ベートーヴェンの交響曲、ロマン派の交響曲)を購入して、ベートーヴェンの途中まで読んだところ。第9の項目でミサ・ソレムニスのこともかなりふれていて、晩年の作曲者が過ごし活動した家を訪れたくだりや、献堂式序曲を挟んで連続してかかれた、このふたつの大作が「悟り」の境地にあり、ともに広い意味での宗教感のもとにあることなどが書かれてあります。ほかの交響曲も、ピリオド奏法のことも、いろんなことを書いていらっしゃるわけだけど、私には言わずもがなの言葉の洪水のように感じられるのも事実。
しかし、こうしたい、ああしたいという、強烈な意欲と熱意は充分伝わってまいります。

いまのところ、こうした表現意欲が実際に音としてともなってきていないのが、正直なところと思う。
それは、まだ日の浅いオーケストラとのコンビネーションにも要因があるとも思われる。前任の指揮者団に培われてきたことと全く違うことをやろうとしているわけだし。
その点が、神奈フィルサウンドを愛する聴き手(わたしも会員であります「勝手に神奈川フィルを応援する会」~笑)の反発も呼んでいるわけでありますね。
もちろん、私たち聴衆は演奏方法はひとつの手段であり、その音楽が強い説得力を持って心に迫ってくれば、万事御の字なのであって、神奈川フィルの応援のしがいもあるというもの。

「心よりいでて、心へ」
ベートーヴェンがミサ・ソレムニスに託した思い。
この日のコンサートは、この言葉をともなって、心に迫って来ましたよ
ことに、後半、「サンクトゥス」の神妙な低弦から耳をそばだて、歓喜のホザンナを受け、きたるベネディクトゥスを待つ。この橋渡し的なチェロ、ヴィオラの場面は私的にはいつも注目しているところで、最近ピリオド聴きで練習したノリントン盤よりも、ずっと美しかった。
こういうちょっとしたところに、ノンヴィブラート奏法でも血が通ったようになるのが神奈フィルなのかも。
そして、来ましたよ、この日のハイライト。
聴く前から間違いなく素晴らしいであろう石田コンマスのベネディクトゥス。
良い意味で線の細い、そして繊細極まりないソロは、ベートーヴェンの書いた最高に美しい音楽を余すところなく弾ききっていたように思う。
これまでの長い3章で、少し弛緩していたホールの空気が、ここへきてピリリと締まったわけで、少しお休みの方々も背筋を伸ばして聴き入っておりました。
ともかく久々の至福の時を味わうことができ、ソロに、涼やかな木管、そして素晴らしい独唱にと、わたしは涙が滲む思いであったことをここに記しておきます。

 最終章、「アニュスデイ」もよかった。

 

ミゼレーレの悲歌的ムードから、一転テンポがあがるが、このあたりのメリハリも性急感は少なめで、自然な感じ。合唱の素晴らしいフーガに、複雑にからむオーケストラ。
ピリオド奏法もこうした場面では、あまり気にならないし、むしろ普通だった。
終結部は、往年の壮麗な演奏になれた耳には、あっさりしすぎだと思ったけど、ノリントンよりはだいぶマシ。

 

 
冒頭に戻って。
出だしの「キリエ」を聴いたときに、いやな予感も走ったが、だんだんあったまってきた感あり、グロリアでは得意のティンパニの応酬とスピード感あふれる場面が続出。このあたりが、面白いという効果だけに終始してしまうので、今後いかに練ってゆくかでありましょうか。
独唱が活躍する「グロリア」、4人の中では、テノールの吉田さんの輝きと、澤畑さんの清潔であたたかな歌声がずばぬけていた。
お馴染みの押見さんと、新国でハーゲンを観ていらいファンである長谷川さん、いずれも安定感ありました。
一方、合唱の活躍する「クレード」、神奈フィル合唱団、力強く輝かしい。

全曲を通じ、聖響さん、オーケストラをかなり抑えていたのでしょうか。
シンフォニックでありながら、室内楽的な響きを目指していたような感じ。
曲が素晴らしく出来ているから、語らずとも音楽がすべてを言いつくしてしまう訳ではありますが、多くを語らぬ方が、そして肩の力を抜いた方が、金さん、よいのではないでしょうか・・・・・。
そんな風に思ったミサ・ソレの一夜である。

一夜明けて、ノリントン73分と、ベーム87分、ハイティンク79分を聴いております。
聖響さんは77分くらいだった。
こうして聴くと、ベームは歌はあるも遅すぎ。
遅い中にも剛毅なクレンペラーを買い直さなくては。
ベネディクトゥスの美しさは、聖響&神奈川フィルが随一かも

 

 

 

 

 

2  コンサート終了後、年初の乾杯式がございまして、理事の皆様のお話に、金聖響さん、ソリスト、オケの皆さん、それぞれご挨拶がありました。

「次期シーズンのマーラーよろしく!」の聖響さん。

 

 

 

 

 

4 ロビーには、昨年の神奈川フィルの活躍の模様がパネル展示してありました。
それらの中から、あの忘れられないシュナイトさんの最後の神奈川フィル。
壮絶なるシューマンの4番の最後のシーンでしょうか。

 

思っただけでも、涙がこみ上げてしまう。

こうしてひとつ終わり、また始まったわけであります。

アフターコンサートは、「勝手に神奈川フィルを応援する会」幹事長さまのお取り計らいで、首席ソロチェリストの山本裕康さんをお迎えして、楽しく有意義な音楽談義。
ミサソレ・フェチとおっしゃる山本さんは、演奏会で滋味あふれるチェロを弾き、束ねてらっしゃいました。
懇談でも、その優しさと気配りのお心あふれるお人柄に接し、ますますファンになりましたた。そして同時に、神奈川フィルをますます応援して行こう、若い金さんも見守って行こう、という気持ちになりました。
お疲れのところ本当にありがとうございました。
そして皆さん、毎度お世話になりました。

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コメント

昨日はご一緒させていただきありがとうございました。良い演奏会でしたね。あの大名曲の演奏会(そうたくさん聞いていませんが)ハズレなしで、来ていますが、今回もアタリ!でした。
懇談会の山本さんはとても良い方で、想像通りでした。良い一日になりました。一転、今日は作曲で一日が過ぎていきました…(笑)。
また来月の定期で…。

投稿: Schweizer_Musik | 2010年1月17日 (日) 18時46分

Schweizwer_Music先生、こんばんは。
昨日もたいへんお世話になりました。
やはりライブで聴く、ミサソレは格別のものがありますね。
とか言いつつ、初ライブなのですが(笑)
山本さんのお話もすこぶる楽しく、音楽を聴くうえで、いろんな示唆を与えられた気持ちです。
 
作曲のお仕事の中、遅くまですいません。
というか、神奈フィルやアフタードリンクが、創作のイマジネーションの一助になれば幸いと、勝手に思ってしまってます(これまたすいません・・・笑)
お預かりした、松村さんのコンサート、是非行かせていただきます。すごいプログラムです。

投稿: yokochan | 2010年1月17日 (日) 22時36分

昨日はありがとうございました。
まさかの特別ゲストもいらっしゃって楽しい時でしたね。

シュナイトさんの写真頂きました(^^)
思えばまだ1年以内のことなんですよね。
聖響体制の変革でアレコレ言ってましたが、今回は光明が見えた素晴らしい演奏会でした。

投稿: syllable | 2010年1月17日 (日) 23時18分

神奈川フィルで荘厳ミサ曲とは羨ましい限りです。
私はレニーとジンマンとギーレンのCDしかもっておりません。
長岡へお越しのさいはメールで事前にご連絡を
お願いいたします。
アンリ・トロワイヤのドストエフスキー伝、
もうすぐ読了します。
凄い生涯を送ったひとだったのですね。
ヤナーチェクのオペラ「死の家の記録」が聞きたく
なりました。
アルミンク指揮の組曲版を持っていますが未聴です。
聴かねばなりませんね。
長岡の市立図書館は市民読書会をやっているのです。
私は常連さんの中で最も面白い話をする人だと
いわれています。
文学と音楽なしではいきていけません。

投稿: 越後のオックス | 2010年1月17日 (日) 23時39分

syllableさん、こんばんは。
そして昨晩もお世話になりました。

予想に反して、結構素晴らしい演奏会になりまして、ますます、いろんな意味で目が離せないコンビになりつつあるのかな、というところであります。
パネル写真、どうぞ私たちの思いが詰まってますので、お持ち帰りください。(私もホールで頂戴してしまったわけです~笑)
こんな短期間に、いろんなことを体験できるのもある意味素晴らしい神奈フィルですね。

投稿: yokochan | 2010年1月18日 (月) 00時03分

越後のオックスさん、こんばんは。
ミサソレのような声楽の大作をライブで聴くと、自室でちんまり聴くのと異なり、心が大いに解放されます。
美しいミサソレでした。

まだしばらく、訪潟はできませんが、その節は、余裕をもってご連絡申し上げます。

ヤナーチェクの「死者の家より」(とも呼ぶのでしょうか)は、ブーレーズの前に、アバドがザルツブルク上演してまして、映像もありますが廃盤。
NHK放送の板起こしで私家DVDを持ってます。
ヤナーチェクオペラシリーズの一環で、近々取り上げるつもりです。

投稿: yokochan | 2010年1月18日 (月) 00時08分

先日はどうもお付き合いありがとうございました。
そして何から何までお世話になり大変恐縮です。
重ね重ね感謝です。
こういっては何ですが、あの第9を聴くまでもなく大変に危惧していた演奏家ではあったのですが、これが本当にうれしい誤算でしたよね。
テンポが速めなのが彼らしいですが、響きも繊細さも神奈川フィルのものでした。オレ様石田様の繊細で透明なソロはもちろんですが、クレド(でいいんですよね)の江川さんのフルートもすばらしかったと思います。
合唱もソロも本当に万全、いいコンサートで嬉しかったです。
そしてその後のアフターコンサートの山本さんも本当に最高でした。
ますます山本さんのファンですよね。
でも、このような時間をご一緒できる仲間がいることに本当に嬉しく思っています。
いつもお付き合いありがとうございます。
これからも、さしあたり今週末、よろしくお願いいたします。

投稿: yurikamome122 | 2010年1月19日 (火) 12時44分

yurikamomeさん、こんばんは。
土曜日はお世話になりました。
後味の大変よろしいコンサートでしたね。
おっしゃる通り、うれしい誤算に神奈川フィルの音色。
そして、山本さんのような誠意あふれる奏者がいらっしゃる。
やはり、神奈川フィルを引き続き応援したくなる、という結論に決着しそうですね。
わたしの方こそ、いつもお世話になりっぱなしで、恐縮しております。
次回(東大~笑)も、是非よろしくお願いいたします。

投稿: yokochan | 2010年1月19日 (火) 22時34分

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受信: 2010年1月18日 (月) 23時11分

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