フィンジ オーケストラ作品集 ボールト指揮
夕靄が除々に立ち込める景色。
昨秋、兵庫県のとある街にて、高台から望んでみた。
なんか、懐かしい光景。
日本の原風景ともいえる、誰の心にもきっとある景色ではないかしら。
いまの若い人たちには、どうだろうか?
およそ、情緒的な感情が、だんだん失われつつあるのではないかと。
自分の子供たちを見ていてすらそう思うから・・・・ ジェラルド・フィンジ(1901~1956)。
ロンドンっ子で、イングランド南部ハンプシャー州で、50代半ばにして白血病で亡くなってしまう。
薄幸の作曲家と呼ばれる所以は、「フィンジ」のタグをクリックいただき、いくつかの過去のエントリーをご覧ください。
英国作曲家のなかでも、抒情派のフィンジ。
かなり好きでいらっやるのであります。
破棄してしまった作品もあって、現在残されているのは40曲あまり。
管弦楽、協奏曲、室内楽、声楽曲など。
フィンジの声楽作品には、トマス・ハーディの詩につけた作品が多い。
幼いころに父を、さらに兄弟たちも亡くし、尊敬する師である作曲家のファーラー(この人の作品も素晴らしいですので、いずれ各種ご案内)を戦争で亡くしてしまい、失意のフィンジの心の糧となったのがハーディの詩。
ゆえに、フィンジの歌曲はいずれも深く、心に響くのだが、数少ないオーケストラ作品も負けず劣らず素晴らしく、聴き手の心にそっと寄り添って、いつしかその優しい抒情に同化してしまう自分を見つけることになるはずだ。
フィンジの作品目録を調べて作り上げたいと考えているが、いまだ手をつけていない。
少ないゆえに、全貌を知りたくもあり、知ってしまうと寂しい気もするから、そっとしておいて、いまある作品を静かに楽しむのも良しと思ったりもしてる。
今日の1枚は、オーケストラ作品の大半が収められたもので、その多くを、サー・エイドリアン・ボールトがロンドン・フィルハーモニーを指揮している。
これだけ1枚のCDに収められたフィンジ集も珍しい。
この1枚は、実はもう1年前、いつもお世話になっております、IANISさんにお連れいただいた、氏の行きつけのショップ、新潟のコンチェルトさんで購入したもの。
店主は大のフィンジ好きなのです。
ちなみに、この時同時に、コルンゴルトの1枚を買ってまして、いずれまた記事にしましょう。
1.「7つのラプソディ」
2.ノクターン「新年の音楽」
3.小オーケストラのための3つの独白「恋の骨折り損」から
4.弦楽オーケストラのためのロマンス
5.弦楽オーケストラのための前奏曲
6.「散りゆく葉」~オーケストラのためのエレジー
7.小オーケストラとヴァイオリンのための前奏的作品
8.「エクローグ」~ピアノと弦楽オーケストラのための
9.ピアノとオーケストラのための幻想曲とトッカータ
サー・エイドリアン・ボールト指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
Vn:ロドニー・フレンド
ヴァーノン・ハンドリー指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
Pf:ペーター・ケイティン <8&9>
(録音75~77年頃)
ここに収められた9曲にうち、9つめのピアノとオケの作品が、意外なまでにジャジーな雰囲気で、ほかは、フォルテの部分が少なく、全般にゆったりと、そして優しく聴き手に語りかけてくるような作品ばかりで、ともかく美しくも物悲しい雰囲気に満ちていて、誰しもの心にさりげなく優しさという気持ちをそっと置いていってくれるような音楽ばかりなんだ。
どれもが、聴いていて涙が出そうなくらいにデリケートで美しい音楽なのだけれど、なかでも、「弦楽のためのロマンス」の繰り返し歌われる一度聴いたら忘れられないメロディには泣かされてしまう。
こんなに儚く、心を打つ旋律ってあるだろうか。1952年に出版された1928年、フィンジ27歳の若かりし日の作品。20代の青年に、こんな微妙な陰りを感じとる私にもそんな時代があったのだろうかと、思わず悔恨と忘失の念に包まれてしまう。
同様に、「オーケストラとヴァイオリンとための前奏的作品(イントロイトゥス)」もあまりにも甘味でかつ篤い敬虔的な美しさを伴った桂品。
ヴァイオリン協奏曲の2楽章として書かれた作品だが、ともかくその短調であり、楚々とした詩情が心に迫ってきてやまない。
ここでは、LPOのハイティンク時代の名コンマス、のちにNYPOに転じたR・フレンドの泣きのヴァイオリンがあまりにも美しく聴かせる。。泣ける。
泣けるという点では、同質の曲が、ピアノのソロを伴った「エクローグ」。
これまた繊細かつ心に染みいるような名作で、前作とともに涙なしには聴けない、どこまでも清純無垢の汚れない美しい音楽で、これを聴いて心動かされない人がいるだろうか!
言葉にすることができません。
書いたら壊れてしまいそうな音楽ってあんまりないでしょう。
フィンジの「エクローグ(牧歌)」がそれかもしれない。
いくつもあって困るけど、わたしが死んだら、いや今際のきわに、この曲を流してもらいたい。
ケイティンとハンドリーの慈しみあふれた演奏に、今回も涙するワタクシでございます。
H・シェリーとヒコックスの抒情味溢れる演奏も愛聴盤であります。
篤信あふれる「ノクターン」、K・ジャレットのような幻想味溢れるピアノが聴ける「トッカータ」、その他の曲も愛すべきフィンジの桂作であります。
ボールトの横顔が茫洋としすぎて、ジャケットがイマイチでありますが、ディーリアスを演奏しなかったボールトが、フィンジを慈しむように指揮していて泣かせますです。
時期は遡るが、抒情という点では、ディーリアスと同質の癒し的な世界。
でもオペラや壮大な合唱作品があるディーリアス。
そして音楽には大自然が歌い込まれているディーアスだけど、フィンジにはオペラはなく、大きな合唱作品は少し、ほとんど愛らしい作品ばかりで、心の隙間を埋めてくれる人間味あふれる音楽。
日本人にマッチした素晴らしい世界です。
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コメント
リリタのボールトのフィンジ!
ずっと探しているんですが、なかなか巡り会えません。
いつかは絶対に聴きたいディスクのひとつです。
投稿: 白夜 | 2010年2月10日 (水) 18時55分
白夜さん、こんばんは。
こちらのレーベルはなかなかお目にかかれませんよね。
新潟で、まさかの発見、、ずっとこの1年聴いてます。
コンチェルトさんに、オーダーすると手に入るかもしれませんよ!
投稿: yokochan | 2010年2月11日 (木) 02時01分
こんにちは。
恥ずかしながら、また残念なことにフィンジの名前も作品も分かりません。
でもトーマス・ハーディというとナスターシャ・キンスキーが出ていた映画『テス』が強く印象に残っています。
イングランドの風景に重なる楽曲を是非聴いてみたいです!
投稿: moli | 2010年2月11日 (木) 13時44分
moliさん、こんにちは。
ほかの記事もふくめて再三、ハーディと書いておきながら、いまだにその作品をまともに読んだことがないワタクシです。
ポランスキーの監督した「テス」は、原作がハーディなのですね。これまた知りませんでした。
見なくてはいけませんねぇ。
英国音楽を愛する私も、かの国の風景に憧れておりまして、いつも頭に思い浮かべるようにして聴いております。
フィンジ、是非聴いてみてくださいませ。
投稿: yokochan | 2010年2月11日 (木) 19時20分
このCDは僕も愛聴しています。どの曲も好きですが、特に僕は、「弦楽のためのロマンス」と「エクローグ」の二曲がたまらなく大好きです。これほど、繊細で切ないメロディーはなかなか聴けないですよね。
投稿: ナンナン | 2010年2月11日 (木) 19時47分
ナンナンさん、こんばんは。
お持ちですね、この1枚。
私にもとっても大事な1枚です。
何度も何度も聴いてますが、そのたびに聴き惚れてしまう美しいメロディーの数々。
英国音楽を愛してて、ほんとによかったと思います。
投稿: yokochan | 2010年2月11日 (木) 23時31分
これは良いCDですよね。iTune−Storeでダウンロードして聞きました。ボールトの指揮はさすがで、Kに聞いて欲しいと思ったりしました。(あっ、また嫌なことを思い出してしまった…)
TBさせていただきました。
投稿: Schweizer_Musik | 2010年3月15日 (月) 19時32分
Schweizer_Musik先生、こんばんは。
このレーベル、iTUNEで聴けるのですね。
希少な音源にもアクセスできるようになったのですねぇ。
ともかく、このCDは素晴らしく、絶品に思います。
Kのあれの貧血音楽と対極にありますねぇ(!!~笑)
言わずにおかれないですよ!
投稿: yokochan | 2010年3月15日 (月) 23時11分