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2010年3月26日 (金)

スーク 「人生の実り」 K・ペトレンコ指揮

Tokyo_tower_201003

東京タワーの麓、増上寺から。
菜の花と東京タワー。
いいショットです。
今年ほど、一進一退の春は珍しいのでは。
冬が懐かしく、春にはもっとゆるゆると来て欲しい感じもする今日このごろ。
でも、寒けりゃ、寒いと文句ばっかり言うのにね。

Suk_the_ripening

対して、真冬のジャケット。
こりゃ寒そうですな。
こちらは、冬の夕べの物語」という交響詩が入ってるから、そのイメージでもって作られたジャケット。
その曲も素敵なのだけど、今日はメインの大曲「人生の実り」という6部からなる作品。
これらを作曲したのは、チェコのヨセフ・スーク
ドヴォルザークの娘婿にして、ヴァイオリンの同名のスークのお爺さん。
1874~1935年。その活躍時代からして、もろに世紀末。
 そう、わたくしの大好きな年代ゾーニングでして、その音楽はチェコの民族楽派の味わいを残しつつも、完全なる世紀末濃厚ロマンティシズム超満載なのであります。

初期作は、完全にドヴォルザークなところが微笑ましく、ここのCDに収められた作品9の交響詩は100%祖父の音楽といってもいいくらい。
人懐こい表情と豊富なメロディライン。
ホント、まじドヴォルザークなんです。分厚いオーケストラが、祖父と違う領域かも。

しかし、作品34「人生の実り」こそは、先に記したとおりの後期ロマン派どっぷり。
作品9が1895年。作品34が1912から17年にかけて。
この間の変貌ぶりたるや、まるで別人の感あり。
交響曲「アスラエル」あたりを境に、そうなったようで、これからいろいろ聴いて確認してみたいと思っていて、いままであまり気にしてなかったスークという作曲家がいきなり視野に入ってきたのだ。
愛する妻オチルカ(ドヴォルザークの娘)との幸福感や、一方で、義父の死(1905年)による義務感からの解放なども多分に影響しつつ、音楽的には、マーラー、R・シュトラウス、ツェムリンスキー、シェーンベルク、ドビュッシーなどの存在もその視野にはあったスーク。
 偉大な義父を持つ悩みも感じさせる複雑なその音楽。
変貌後の、この私の大好き系音楽は、実は英国のバックスのシャープでフェアリーな音楽を思い起こしてしまった。
前期のものと比較して、正直メロディラインがなく、豊穣な響きの中に旋律が埋没してしまった感があり、あまりに大オーケストラによる印象派的な複雑系の音楽になっていて、一度や二度では、特徴を捉え難いものがある。
10回以上聴いたいまもその印象はぬぐいきれない。

でも、好きだなぁ、甘味さはないけど、この雰囲気。

「人生の実り」は、スーク版「英雄の生涯」で、6部からなりたち、「この世への認識~青年期~愛をこめて~運命~決意による解決~辞世」こんなサブタイトルがついてます。

おぼろげな出だしから、春のような活発な雰囲気、濃厚な恋愛模様、決然としたリズムにのったかっこいい人生闘争、その果ての諦念を感じさせる枯淡の音楽と静かな安らかなエンディング。
第2「ヘルデン・レーベン」であります!

最近活躍の指揮者ペトレンコは、ふたりおりまして、ひとりはワシリー・ペトレンコでリヴァプールの指揮者。
そして、もうひとりが、今日聴いたキリル・ペトレンコであります。
キリルは、今年38歳のシベリア生まれ。早くからオーストリアに移住した音楽一家で、同地にて指揮者となり、以来、劇場たたき上げ的なカペルマイスターとして地道な活動を経て、フォルクスオーパーの指揮者、そして今はベルリン・コーミッシュオーパーの監督の地位にまでなった才人でもあり、努力の人なのだ。
 なんったって、バイロイトの次期「リング」の指揮者と目されている有望株であります!!

オペラの手兵を指揮したこのCDは、ともかくイキがよろしい。
聴きなれぬこの曲に対し、多大なる熱意をもって指揮して、オーケストラがライブとはいえ、本格レコーディングに燃えまくっているのがよくわかる。
一音たりとも気の抜けた音がなく、集中力もやたらと高く感じる。
 ベルリンフィルのライブ映像で、少しだけその指揮姿も観れますので確認してみてください。聴くものを惹きつける魅力溢れる、なかなかのツワモノ指揮者でございますよ。
注目の指揮者キリル・ペトレンコです。
彼のスーク・シリーズ、私も継続します。

追)
ウォルフガング亡きあとのバイロイト。
父の了解済みであろうが、娘二人の指揮者選び。
ちょっと若手有望株にかたよりすぎではなかろうか?
今年は、バーミンガムの主席で、ヤンソンスの愛弟子ネルソンス(30歳)がデビューして「ローエングリン」を指揮する。
いじくりの天才ノイエンフェルスの演出、カウフマン!のタイトルロール、ダッシュ(かわゆい)のエルザ、そして新国ファンにはおなじみのガッロのテルラムントに、ヘルリツィウスのオルトルート。
ワーグナーの音楽そっちのけで、話題性を求め過ぎではなかろうか。
 ヘンゲルブロック(現51歳)が2011年、ペトレンコ(現38歳)が2012年。
おもしろいけど、不安。

いまはティーレマンという重しがあって、ベテラン・シュナイダーが目を光らせているけれど、音楽面での軽量化は今後否めない。

ま、これも時代の流れ。
今後変貌し、先端を走るバイロイトとなるのでありましょうか!

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コメント

スークですね。チェコ・フィルも結構好きなわたしは、ターリヒ、アンチェル、マッケラス、ビエロフラーヴェク、ペシェクとスークもいつのまにか増えてしまいました。「ある夏の物語」や「お伽噺」もなかなかいい味を出ていると思います。
最近ペトレンコのほかにもネゼ=セガンとか有望な若手がどんどん出てきて、これから面白くなりそうな気配がありますね。

投稿: 白夜 | 2010年3月27日 (土) 23時03分

白夜さん、こんにちは。
スーク初心者ですが、これはハマりそうな勢いです!
作風の変貌も驚きですし、あげられたチェコ系の名指揮者たちがこぞって録音しているのも嬉しいです。
セガンは、まだ聴いたことがないのですが、最近の若手は、ほんとに若いです。
みんな個性豊かなことも素晴らしいですね。
しかし、だんだんと名前が覚えきれなくなっている自分が悲しかったりします(笑)

投稿: yokochan | 2010年3月28日 (日) 09時27分

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