神奈川フィルハーモニー定期演奏会 現田茂夫指揮
横浜ランドマークタワーのドッグヤード。
周辺やクィーンズスクエアには、美しいイルミネーションがたくさんあって、イルミ好きのワタクシですから、たくさん写真を撮りました。
でも、それらはまたの機会に。
今回の演奏会の曲目や、諸々鑑みて、華美なものは相応しくないと思いまして。。。
團 伊玖磨 管弦楽のための幻想曲「飛天繚乱」
サン=サーンス チェロ協奏曲第1番
チェロ:遠藤 真理
フォーレ レクイエム
S:幸田 浩子 Br:山下 浩司
現田 茂夫 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
神奈川フィル合唱団
合唱指揮:近藤 政伸
(2010.12.3@みなとみらいホール)
現田さんらしい、いいプログラムです。
今シーズン、期待してたコンサート。しかもマーラーばかりだからよけいにそう。
フランスの作曲家ふたりに、日本人作曲家。
奇異な取り合わせと思いつつも、初聴きの團伊玖磨作品であったが、これが面白くて、そこにドビュッシーやラヴェル、ルーセルらのフランス音楽テイストを感じ取ったのであります。さらに近代北欧系の雰囲気も。そして当然に日本の和テイストも。
18分のなかなかの大曲で、編成も打楽器多数の大所帯。
オケがガンガン鳴ったのはこの曲のみ。
そうした場面も爽快だったけれど、印象に残ったのは最後の方の、フルートソロによる長いソロ。優雅に舞う天女でしょうか、山田さんのソロが美しすぎ。
あと、弦楽器奏者たちが楽器を抱えて、それこそギターのようにつま弾く場面。
都合3度ほど出てきたけれど、これは見ていて楽しかったし、奏者の皆さんもなんとなく楽しげ。そう、石田コンマスも大真面目にやっておりましたよ。
こうした曲は、現田さんはうまいもんだ。
そのあとは編成が少なくなってのサン=サーンス。
人気と実力を兼ね備えた遠藤真理さん。
初に聴きます。
出てきたのは、小柄な可愛い女性でしたが、その第1音からグイッと引き込まれる深い音色。
まさに中低音域の楽器、純で無垢なチェロそのものの音色に感じる。
現田&神奈フィルの軽やかで小粋な背景に乗って歌う第2楽章は、もっとも素敵な場面だった。
敢然としたテクニックも見事なものだが、緩やかで抒情的な場所での歌い回しに彼女の素直なチェロの良さを見出す思い。
いい演奏でした。9月にN響でも聴いたけれど、そちらよりずっと自分に近いところで響いてくれたサン=サーンスに、曲のよさもようやくわかってきました。
元気に曲が閉じると、これまた元気にブラボーが、わたしの斜め後ろから飛んできました。
おじさん、やるね。と同時に少し不安に・・・・。
休憩後は、フォーレ。
演奏会で聴くのは初めて。
オーケストラはさらに編成が少なくなり、打楽器はゼロ。
オルガン参加はもちろんながら、弦の配置もがらりと変わった。
左手から第1ヴァイオリン、ヴィオラとその奥に第2ヴァイオリン、そして一番右がチェロ。
ヴィオラとチェロが活躍するこのレクイエム。
その配置からしても、オーケストラもオルガンの響きそのものを意識したものといえるのでしょう。
そのあたりの渋くて、かつ神々しい雰囲気が、いつものこのコンビらしからぬ響きから立ち昇るのを感じ、この曲を愛してやまないわたくしを冒頭のイントロイトゥスからして、祈りの世界へと導いてくれました。
最初の方こそ、合唱が決まらず、ざらついたけれど、喉が温まるとともに精度も高まり、滋味あふれるフォーレの世界を、オケの皆さん、独唱者ともども、心の底から感じながら演奏してます。
それを束ねる現田さんは、動きも少なめで、まるで音楽に奉仕しているかのように、静かな指揮ぶりです。
こんな現田さん、初めて見た。
宗教曲としての存在や、癒し的な慰めの音楽としての「フォーレのレクイエム」。
そいう意味では、今回の演奏はちょっと違う次元にあるように感じた。
どこまでも音楽的に美しく鳴り響き、それが結果として、純粋に優しい気持ちで人の心をつつみこんでくれたような結果となったのでは。
以前に、この曲を取り上げたとき、フォーレの音楽の持つ陶酔感というようなことを書いたけれど、そうした感じはちょっと薄めで、音楽の美しさのみで勝負した感があり、いつものビューテフルな現田サウンドではなく、淡い薄口の音色に、なんだか日本人的なものを感じてしまった。
しかしこのレクイエムは、どうしてこんなに美しいのだろう。
最初からうるうるしながら両手を握りしめて聴いていたけれど、ピエ・イエズではこらえ切れずに涙ひとしずく。
最後の、イン・パラディスムでは、天から降り注ぐかのようなオルガンとハープ、女声合唱の調べに、先に亡くなった伯叔父ふたりの安らかな顔や、昨年同じく亡くなった従姉のお顔、そのほか親しかった人々の姿がまぶたに去来して、そして唯一元気な母を思ったりして、もう涙が止まらなくなってしまいました・・・・・。
情けないくらいに涙もろい最近のワタクシでございます。
幸田さんのピエ・イエズは、声の微妙な揺れが少し気になったけれど、相変わらずピュアで美しいです。存分に泣かせていただきました。
そして素晴らしかったのは、山下さん。ホスティアスとリベラ・メ。
どちらも、まろやかで優しい歌を聴かせてくれました。
山下さんは、昨年の「カプリッチョ」で見事な劇場支配人を演じ歌ってました。
注目のバリトンです。
天国的な最終章が静かに終わって、ホールはしばしの静寂。
ほんとうはこの曲には拍手は相応しくないんだけれど、演奏者を讃えなくてはなりませぬ。
少し遅れて、わたくしも拍手に参戦。
ところが、さっきのおじさんブラボーが出ましたよ。
ちょっとやめて欲しかったな。
終演後、yurikamomeさんから、現田さんのお母様が亡くなったとのお話をお聞きしました。それを聴いて、指揮をしていた現田さんの後ろ姿を思い出し、これまた涙があふれそうになりました。謹んでお悔やみ申し上げます。
終演後のアフターコンサート。
いつものメンバーに新しいお顔も加えて、いつもの店で、いつものものを食べる。
でもこの夜は、しっとりと日本酒を飲みたい気分。
ピザをつまんで日本酒を飲むという試みに、いたく満足の「さまよえるクラヲタ人」なのでした。
みなさま、お世話になりました。
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コメント
先日はどうも遅くまでお付き合い頂きありがとうございました。
いい演奏会だとお酒も進みます。酒の肴には最高の演奏でした。
遠藤さんのチェロも素晴らしかったし、フォーレはやっぱり美しかったでした。
現田さんのフランス物、ちょっとピンと来なかったのですが、さすがマエストロ、うまいものでしたよね。
やっぱり現田さんは神奈川フィルあっての現田さんだし、神奈川フィルも現田さんの時が一番良さが出るように思います。
彼をあのオケは放してはいけないという思いを強くしました。
イン・パラディスム、美しすぎでした。
投稿: yurikamome122 | 2010年12月 5日 (日) 12時50分
yurikamomeさん、こんにちは。
先日は、こちらこそ遅くまでありがとうございました。
あの日のコンサートには、どうしても日本酒が飲みたかったのですが、ちょっと飲みすぎてしまいました。
現田さんのフランスものは、爽やかでよかったです。
当事者たちの思いはともかく、彼らは最良のコンビですね。
1シーズンに1度ではさびしいですが、ともかく離れずにいて欲しいコンビです。
あのフォーレを聴いて、浮かれた音楽がしばらく聴けなくなりました。
投稿: yokochan | 2010年12月 5日 (日) 14時55分
こんにちは。(こんばんは?)
「リピータです」がすっかりHNになってしまいました。
またまたお邪魔させていただきます。そうなんです。
「当事者たちの思いはともかく、彼らは最良のコンビですね。」
に反応してしまいました私・・・
同感です。
もとより今の神奈川フィルのサウンドも、なんだかんだ言っても、現田さんが創り上げたベースの上にのっかっているわけですよね。その時代から神奈川フィルを聴き始めた人間にとっては、ふるさとサウンドみたいなものですから、余計にそう思うのかもしれませんが。
それに、相思相愛が必ずしも「生産的」とは限らないように思えます。
フィギュアスケートのペアなどでも、上位入賞者ほど意外に普段は「犬猿の仲」というケースも多いそうです。氷の上ではニコニコしながら演技の後にはハグしたりキスを交わしたりしてますけど、いったん陸に上がると(なんか変な表現ですみません)、口もきかない、口をきけば喧嘩になるなんてことも珍しくはないらしいと聞いたことがあります。
水と油は混じりあわないといっても、攪拌すれば一瞬混じりあう瞬間もあって、実はその瞬間にこそ互いの良さが最大限に抽出されるのかもしれません。あるいはある種の「緊張感」もエッセンス抽出には欠かせないのかもしれません。
そういえばN響でも、デュトワさんに対しては、何しろ「しごき魔」として、必ずしも団員の皆が皆、良い感情を抱いているというわけでもないらしいのですが、N響×デュトワさんのこのコンビネーションを愛するファンは実に多いのです。N響定期で私の隣の席に座られているご婦人も、定期会員歴は○十年らしいのですが(相当年季入ってます)、デュトワさんが音楽監督になられた頃に初めて、N響の良さを感じることができた、とおっしゃっていました。
そのデュトワさんがしごきにしごいた団員も、いわゆる2007年問題――巷の団塊世代の大量定年はN響も例外ではなく、かなり入れ替わりがあり、最近、特に金管パートがちょっとすさんでいるかな、と感じることもあります。もはや「たたきあげる」存在もいないところで、ちょっと一頃の緊張感が薄れてしまっているのかな、という感もなきにしもあらずでしょうか(プレヴィンさんじゃ、体力的にもしごけないだろうし・・・)。
それでも流石N響と想わせるパフォーマンスが今あるのには、N響の長い歴史の中では本当に幾人ものマエストロのお力があったこととは思いますが、特に柔軟性の面や、管パートのアンサンブル力の点では、デュトワさんの功績は実に多大なものがあると思います。
さて当方、今週末土曜はN響定期会員のプログラムで、デュトワさんの指揮で「戦争レクイエム」です。
先週のフォーレとは全く主旨も趣も異なるレクイエムですが、いずれにせよここで「連ちゃんレクイエム」だと、メサイアあたりで「精進落とし」でもしないことには、クリスマスに七面鳥はいただけなくなりそう・・・?
yurikamomeさんご推奨「鎌倉ハム」、私もファンです。
実は、今日の晩酌(私は夕飯の主食はワインなのです・・・)のつまみに、偶々、鎌倉ハムのパストラミビーフの「切りおとし」を用意してありますものですから(といっても、これはスーパー購入品ですが)、こういうところにも反応してしまいました。
……と、あらら、脱線申し訳ございません・・・。
重ね重ね非礼お詫び申し上げつつ。
師走の風に後押しされる毎日かと思いますが、どうぞくれぐれもご自愛くださいますよう、
また、佳いお年をお迎えになられますよう、お祈り申し上げております。リピータ拝
投稿: ,リピータです | 2010年12月 7日 (火) 19時25分
リピータさま、こんばんは。
コメントどうもありがとうございます。
私の神奈フィル歴はまだ新しく、いまにして思えば、そして過去の演奏履歴を見るにつけ、ほんとうに逃した魚は大きかったと思います。
でも、いまある幸せといいますか、老練な指揮者を経て若い音楽監督という流れを楽しむことも極めて嬉しいことです。
>相思相愛が必ずしも「生産的」とは限らないように思えます<
そうですね。
世界のオケの長きにわたる名コンビは、解消するときに思わぬ不具合を生じたり、仲たがいをしてました。
難しいもんですね。
表面的にはわからないものですが、出てくる音は素晴らしいから、なおのことわからないもんです。
N響はご指摘のとおり、若いプレーヤーが増えました。
あの巨大ホールも、新入団の人々にはやっかいなものなのでしょうね。
デュトワが指揮すると、あのデカホールが繊細なホールに感じるのも驚きです。
あの人は、世界のオケを鍛え上げ、各所を渡ってますね。
戦争レクイエムは行きたいのですが、今回は自制しそうです。
ことしの12月は、わたしも待降節だというのに、それにそぐわないレクイエム系が多いですね。
わたしは、もうこのまましんみり系で年を越してしまいそうです・・・・。
yurukamomeさんの今日の鎌倉ハム。
わたしも生唾ものでしたが、リピータさんは、さらにワインですか!
わたしは、ジェムソンの超薄水割りとキクマサピンで晩酌でした。
酒と音楽はやめられません。
明日から寒くなりそうです。リピータさんも、どうぞご自愛ください。
どうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2010年12月 8日 (水) 00時28分