« ペンデレツキ ルカ受難曲  | トップページ | 「明日に架ける橋」 サイモン&ガーファンクル »

2011年4月 3日 (日)

ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 ドホナーニ指揮

Zojyouji1

4月2日の芝増上寺。
しだれ桜が満開でした。

Zojyouji3

その下から仰ぎ見て。
空も含めて4月の淡い色調です。
お花見の宴会のなくなってしまった桜の季節なのです。

そりゃそうと、昨夜はテレビでK・クライバー特集をやっていて、貴重なバイロイトの穴倉での指揮ぶりや、垂涎の伝説の来日公演などをやってまして、見入ってしまいました。
そして、今朝は「題名のない音楽会」で、エマヌエル・パユ殿が超絶フルートを吹いてまして、バックはお馴染みの顔ぶれの神奈川フィルが登場しておりました。
どちらの番組でも、地震発生の速報テロップが入ってます。
まだ続く余震は、その範囲が広く予断を許しませんが、椅子に腰掛けていても、なんとなくいつも揺れている気がして気持ち悪い・・・。

Meistersinger_dohnanyi

自粛ムードのなか、飲んでばか騒ぎしなければ、お花見くらいはいいと思うんだけど。
で、今日は音楽で歌合戦といきます。
ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。
歌合戦といっても、お祭り騒ぎじゃないけれど、けしからんことに、優勝にひとりの娘を賭けてしまう不届きな内容。
そこには笑いも、純愛も、抱擁力ある博愛も、親の愛情も、嫉妬も、それぞれたくさん詰まっていて、後期ワーグナーの劇作の練達ぶりは冴え渡っている。
歌合戦とはいいながらも、ノミネート歌手は、すっとこどっこいのベックメッサーと身分違いのよそ者ながら娘のハートを射止めちゃったヴァルターの二人だけ。

 もうひとつのワーグナーの書いた歌合戦は、「タンホイザー」で、正式には「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」となっているくらいで、本職の吟遊詩人たちと異端児タンホイザーとの合戦となる。

ともに異なる歌合戦だけど、中世ドイツを舞台として好んだワーグナーは、歌合戦というお祭りがお好きだったわけ。

14種に膨れ上がった手持ちのマイスタージンガー音源から、今日はもう10年くらい前に購入したウィーン国立歌劇場の75年ライブを。
これ、キャストがすごいんですよ。

  ザックス:カール・リッダーブッシュ    ポーグナー:クルト・モル
  フォーゲルゲザンク:カール・テルカル  ナハティガル:ハンス・ヘルム
  ベックメッサー:ペーター・フォン・デア・ビルト 
  コートナー:ライムント・ヴォランスキー
  ツォルン:ハルスト・ニッチェ  アイスリンガー:アントン・ヴェンドラー
  モーザー:エーヴァルト・アッハベルガー 
  オルテル:ハラルト・プレーグルヘーフ
  シュヴァルツ:アルフレット・シュラメク 
  フォルツ:アロイス・ペルナールシュトルファー
  ヴァルター:ジェイムズ・キング  ダーヴィット:ハインツ・ツェドニク
  エヴァ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ  マグダレーネ:ゲルトルート・ヤーン
  夜警:ペーター・ウィンベルガー


   クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団
                       ウィーン国立歌劇場合唱団
                     (1975.10.21@ウィーン)


マイスターたちはそうでもないけれど、主要どころがほかの正規盤にくらべてまったく遜色なく、70年代の理想的な布陣だ。
わたしが最高のザックスと思っているリッダーブッシュは、同時期のバイロイトライブとともに、まったく素晴らしくって、最初から最後まで深く美しく高貴で、かつ若々しい安定した歌唱。
もう少し長生きしてくれて、グルネマンツや、もしかしたらウォータンも歌ってくれたらよかったのに、と今更ながらに思ってしまう。
ふたつのモノローグは美声が堪能できる名唱だし、最後の「親方たちを蔑んではならぬ」では、オケとともに白熱の高揚感が味わえ感動しまくり。
そして、そのリッダーブッシュとクルト・モルの共演がまた珍しい。
モルは息の長い歌手で、この頃出始め。今と変わらぬ味わい深い歌声で親ばかポーグナーを聴かせてくれている。
 そしてですよ、ジェイムズ・キングのヴァルターが全曲聴けるのは、いまのところ、この盤だけではなかろうか。
近々、メトのライブが出るようだが、そちらは72年もので、シッパースの指揮も期待。
で、キングのヴァルターなんだけど、どう聴いても、どこからどこまでもJ・キング。
馴染みすぎたジークムントであり、皇帝でありで、あんまり器用でないキングのストレートな力強い歌唱は1幕の試験の場では、悲壮感さえ感じるところが面白い。
最後は英雄的なヴァルターなところが、キングならでは。
 それと、ヤノヴィッツの女性的で、少しクリスタルな輝きを持ったエヴァもよく、言葉もその歌唱も極めて明晰。
カラヤンがザルツブルクの舞台では、ヤノヴィッツを起用しながら、録音では、よりリリカルなドナートを使ったところが面白いところ。
 ツェドニクの上手いダーヴィットや、ウィーンで活躍したヤーン(彼女の名前は、ヘロディアス役によく見かけます)の優しい歌唱も光ります。
オランダの歌手、デア・ビルトのベックメッサーは過剰なブッフォ感がなく、生真面目さすら感じる端正なもの。ユニークでした。
調べたら、このバリトンは、宗教曲を得意にしていて、ヨッフムやリヒターとの共演も多かったみたい。47歳で亡くなってます。残念ですね。

こんな風で、歌手陣の魅力にあふれたこのライブ。
マゼール登場前のウィーンのドイツものは、ドホナーニとシュタインが、その多くを担っていて、ことにドホナーニはウィーンフィルとのレコーディングもこの頃多くて、77年には、ベームとともに日本にやってきた。
スタジオだと、ドラスティックにすぎて面白みに欠けることもあったドホナーニ。
ライブだと熱いです。
ハンブルクオペラの来日で、2度ほどそのオペラ指揮に接したことがあるけれど、的確無比の統率感に加え全体を見通して歌手も舞台も盛り上げてゆく手腕はたいしたものだった。
 ここでは、オンぎみに録られたオーケストラの音が生々しく、多少のトチリなどはお構いなく、流れ重視にぐんぐん熱く推し進められる演奏が、ハ長調のマイスタージンガーに相応しい。
最終幕では、テンポを落として堂々たるエンディングを迎えることになる。

誉めつくしちゃったけれど、元気を失っていたワタクシに一喝くれたワーグナーであり、民衆劇マイスタージンガーの名演奏でございました。

バイロイトのウォルフガンク演出では、ドイツの危機を環境問題に置き替え、緑豊かなな丘と森の危機を訴えるものとした。
かつてヒトラーは、この楽劇を国威高揚の道具とし、事実、最後のザックスの感動的なモノローグの歌詞は、そうした意味をも内包しているが、あの日以来、日本を襲った数々の艱難を思うに、それをバネにして立ち上がる勇気と気力をこのハ長の音楽はわれわれに与えてくれると思う。

マイスタージンガーの過去記事

  バレンボイム指揮 バイロイト99年盤DVD
  バンベルガー指揮 フランクフルトオペラ抜粋盤
  ベーム指揮 バイロイト68年盤
  ハイティンク指揮  コヴェントガーデン97年盤
  
クリュイタンス指揮  バイロイト57年盤
  ヴァルヴィーソ指揮 バイロイト74年盤
  ベルント・ヴァイクル アリア集

Zojyouji5

しだれは早いけれど、こちらはまだ蕾もある一般桜。
今日日曜は、また寒いから桜も戸惑ってますな。
そして、球春甲子園は、東海大相模が優勝。
出身県だし、親類も同行出身に多いものだから嬉しい。東日本だし。
自粛しないで、素直に喜んでいいんですよね。
プロの方の横浜より強いかもです。
迷いのない、俊敏で洗練されたチームでした。

|

« ペンデレツキ ルカ受難曲  | トップページ | 「明日に架ける橋」 サイモン&ガーファンクル »

コメント

管理人さんこんばんは。
ドホナ―ニのマイスター・劇場的な作りでさぞかし面白いでしょうね!

たまたまですが80年頃にウィーン国立歌劇場でドホナ―ニの「影のなき女」を聴きましたがまだJキングが頑張って歌ってました。舞台がとても照明が暗い中から熱く重層的な響きが吹き上ってきました…


ウィーンとではバルト―クの役人がとても好きです。。
ドホナ―ニは意外と手作り感が良いですね♪

投稿: マイスターフォーク | 2011年4月 5日 (火) 22時31分

マイスターフォークさん、こんにちは。
ウィーンで影のない女ですか!
しかも、J・キング。
キングの皇帝は、ベームのFM放送やCDで、すっかり馴染み、刷り込み役のひとつなんです。
83年のハンブルクオペラの来日公演は、この影のない女の日本初演と魔笛でした。
どちらも素晴らしい歌手がそろいました。

ウィーンフィルとのバルトークは未聴なのですが、ドホナーニはオペラや近代ものがいいですね。

投稿: yokochan | 2011年4月 6日 (水) 09時00分

お早うございます。マイスタージンガーだけで14種類の音源をお持ちとは恐れ入りました。ドホナーニは交響曲を振ってもオペラを振ってもいい演奏をする指揮者ですよね。超有名指揮者でもどちらかは弱いという方はおられますが・・・
 以前マイスタージンガーは長すぎるから苦手という主旨のことを書いた覚えがあるのですが、最近は苦手でなくなりつつあります。私のベスト・マイスタージンガーはF・デ・ブルゴスが指揮したDVDです。ウォルフガング・ブレンデルのザックスが好きなのです。歌唱の素晴らしさで彼をしのぐザックスはいるかもしれませんが、高校時代からの年長の友人にブレンデルは外見も声もよく似ているんです。背が高くてスタイルが良くて渋い男前です。私は普通高校を2年で中退して定時通信制高校の通信制課程を2年かけて卒業して、全日制大学を出たと言う少し変った経歴の持ち主ですが、通信制高校はご存知のように働いている人のための学校で10代の若者から80代のご老人まで実に様々な年齢の人が学んでいます。職業も様々です。様々な年齢・職業の人たちと友人・知人になれて有意義な高校時代だったと思っています。件のブレンデル似の友人は私よりも10歳ほど年長で、ブログ主様と同じ自営業で強く逞しく生きておられる人です。今でも困ったことがあるとご多忙な合間をぬって私の相談にのってくれる善意の塊みたいな人です。ヴァルターとエヴァを温かく見守ったり導いたりしてくれるザックスと外見も生き様もそっくりです。残念ながらクラヲタではないのですが、私にとって掛け替えの無い友人です。その掛け替えの無い友人とそっくりなザックスが出てくるマイスタージンガーならどうしても愛聴盤になってしまおうというものです。ブレンデルはこうもりのファルケ博士なんかもいいですね。お茶目で。
 マイスタージンガーは、ヨッフム、ヴァルヴィーゾ、シュタイン、デ・ブルゴスしか音源を持っていないので次はブログ主様絶賛のベーム&バイロイトとドホナーニを聴こうとおもっております。長文になって申し訳ありません。

投稿: 越後のオックス | 2011年4月22日 (金) 05時08分

そのブレンデル風の友人と知り合ったのが通信制高校時代のことでした。大事なことを書き忘れていました。

投稿: 越後のオックス | 2011年4月22日 (金) 05時11分

越後のオックスさん、こんばんは。
マイスタージンガー、実はまだありまして16種でした(笑)。
デ・ブルゴス盤は、NHK放送の映像を持ってます。
G・フリードリヒの社会派風の演出が印象的でした。
そして明るいブレンデルのザックスもいいですね。
ブレンデルは、あとウォルフラムのような友愛溢れる役柄も実に味があると思います。

ブレンデル似のご友人のお話。
そして高校のお話。
よき体験を積まれてますね。
末永く付き合える友人は、高校・大学時代に培われるものと思います。

そうそう、マイスタージンガーはあとカラヤンとクーベリックも必聴ですよ。
ワーグナーは大変ですよね、頑張ってください!

投稿: yokochan | 2011年4月23日 (土) 01時36分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 ドホナーニ指揮:

« ペンデレツキ ルカ受難曲  | トップページ | 「明日に架ける橋」 サイモン&ガーファンクル »