モーツァルト ディベルティメント K563 クレーメル
遅咲きの八重桜です。
鮮やかピンクに、背景の空は春らしく雲もまじえた青空だったんです。
絵のような写真が撮れました。
秋や冬だと、この空は、雲もなく、澄み切った青空だったかもしれません。
春から初夏の空は、どこか移り気で、最近などは気象の変転でもって、数分先がまったくわからない空模様になってます。
モーツァルトの後期の名作のひとつ、ディベルティメント変ホ長調k.563。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3本の弦のための作品。
後期といいながら、モーツァルトはまだ33歳の1788年。
後の魔笛を頂点とするフリーメイソンにもかかわる作品ともいわれていて、三角形を思わせる3つの楽器とフラット3つの調性による調和。
しかし、ご存知のとおり、1971年、あと3年のちに世を去ってしまうから、晩年といえばそうともいえる頃の作品。
あのジュピター交響曲の一か月あと。
いったい、わたしたち、一般的でごく普通の男たちは、その年代に、何をやって、何を思っていたろうか。
その時分が晩年だと、自分でもしわかったとしても、モーツァルトみたいなわけにはいかないのが、われわれ凡人たる所以。
いやもし、あと少しの命とわかったら、人間変われるのでしょうか・・・。
こんなことを、うつらうつらと考えてしまうモーツァルトの後期作品。
あるようでない、変わった編成だけれど、モーツァルトの手にかかると、あって当たり前的な3つの声部の弦楽器によるえもいわれぬ美しい響きの融合。
6つの楽章は、いかにもモーツァルトのディヴェルティメントやセレナードといった作品と同列の愉悦と伸びやかな明るさに満ちた音楽になっているのであるが・・・。
わたしは、本CDを1991年の没後200年に購入して以来、久方ぶりに聴いてみて、この音楽はまるでシューベルトみたいだと思った。
シューベルトも早世の天才だし、その音楽には、いつも死の影がつきもの。
抒情的な歌に満ちたこの作品。
シューベルトもこの作品を聴いたのでしょうか。
全曲の中で、一番長い第2楽章のアダージョ楽章が、とてつもなく素晴らしい。
変奏曲形式のひとつであり、天国的でありながら、死と隣り合わせみたいな危うい雰囲気も感じられる。
変ホの歌心あふれる1楽章と、古典的で明快なメヌエット形式の3楽章の間に位置するこの第2楽章の澄み切った深さははかり知れない。
次ぐ4楽章はれっきとした変奏曲。明暗が入り乱れる楽想の推移に驚きを禁じえない。
この曲ふたつめのメヌエットは優美な第5楽章。
そして、なにごともなかったかのように美しくも旋律的で魅惑的な6楽章のアレグロ。
モーツァルトの数ある作品の中でも、このディヴェルティメントほど、くめども尽きぬ味わいと、どこか醒めたような寂しさを持った音楽を知らない。
相応に歳を経て聴いてみて、この音楽の深みに驚き、戸惑ってしまった。
クレーメル、ヨー・ヨー・マ、カシュカシュアンの3人による完璧な演奏。
ちょっと出来過ぎかもしれませんが、曲のよさがストレートに伝わってくる。
この1枚しか持ってないけれど、グリュミューやパスキエのものを今度は聴いてみたいと思っております。
ちなみに、このクレーメル盤の余白には、これまた辛くなるような「アダージョとフーガK.546」がおさめられております。
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コメント
こんにちは
この曲はモーツァルトの中でも指折りの傑作ですね
特に第2楽章に聞かれる感情の深さは言葉に表せないくらに素晴らしいと思います。
私の愛聴盤はフランス三重奏団のものです
拙い記事ですがTBさせていただきまいした
投稿: パスピエ | 2011年5月 4日 (水) 15時27分
パスピエさん、こんばんは。
気持ちのいい季節となりましたね。
久しぶりに聴いたK563は、心の澱を洗い流してくれるような名品でした。
そして第2楽章には泣かされてしまいますね。
TBありがとうございます。
フランス四重奏団の盤は初に知りました。
グリュミョーや、まさにパスキエのものとともに、フランス系の演奏が何故か多いようです。
是非にも聴いてみようと思ってます。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2011年5月 4日 (水) 22時28分
こんにちは。
モーツァルトの弦を主としたディヴェルティメントは、
第一ヴァイオリンが主旋律を取ってあとは伴奏、
という曲が多いですが、
この作品は3つの楽器が対等に絡み合い、緻密に書かれていて、
「ディヴェルティメント」というよりは「弦楽三重奏曲」の最高傑作ですね。
3人の名手が丁々発止と渡り合うこの盤は本当に素晴らしいです。
ほかにも、親しい仲間同士の親密な語りあいのようなグリュミー・トリオ盤、
ガット弦のやわらかい音色が優しいラルキブデッリ盤などが好きです。
投稿: 木曽のあばら屋 | 2011年5月 6日 (金) 07時51分
木曾のあばら屋さん、こんばんは。
コメントどうもありがとうございます。
恥ずかしながら、この曲の魅力にいまさらに驚き、遠ざかっていた自分に恥じ入ってます。
こんな曲を求めていたせいもありますが、ディヴェルティメントっぽくない本作が、とても心に響きました。
ご案内いただきました、グリュミョー盤に、ラルキブデッリ盤。
あと気になってるパスキエ盤とともに、是非にも聴いてみたいとおもっております。
投稿: yokochan | 2011年5月 6日 (金) 21時02分
yokochanさん、こんにちは。ご無沙汰しておりました。五月になってクラシック音楽を聴くのに、良い季節になりましたね。
このディヴェルティメント、素晴らしい演奏ですよね。大好きな1枚です。
3人ともとても巧いのに、技巧に走らず息を合わせてアンサンブルを愉しんでいる様子がとてもいいなぁと思います。
こういう演奏を聴くと、幸せになります。ささやかですが、そういう幸せが身の丈に合っているような気がしている昨今です。
投稿: mozart1889 | 2011年5月15日 (日) 11時22分
mozart1889さん、こんばんは。
こちらこそ、ご無沙汰しております。
ブログ再開ですね。またよろしくお願いいたします。
モーツァルトのディヴェルティメント、今回は、とても心に沁み込みました。
どんなシテュエーションでも、モーツァルトは聴く人を優しく包んでくれますね。
そして、これは実に気持ちのいい演奏でした。
投稿: yokochan | 2011年5月15日 (日) 23時44分