ブラームス ピアノ協奏曲第2番 ポリーニ&アバド
青春してます、ってな感じのサルビアの花の群生。
この花の真ん中のところを引き抜いて、吸ってみると甘い蜜のような味わいです。
子供の頃によく吸ったもんです。
「サルビアの花」という歌をご存知でしょうか?
70年代に流行った曲ですが、誰が歌っていたか明確な記憶がない。
調べてみたら、いろんな歌手が歌った共作だっと。
女声でよく聴いた覚えがあるんですが、甲斐よしひろの記憶もあります。
男の失恋ソングで、かなり女々しい内容だったですがね、甘酸っぱい思い出も付きまとってます・・・・。
ブラームスのピアノ協奏曲第2番変ロ長調。
中年のブラームスが交響曲第2番と同じころに書き始めた幸福な雰囲気の協奏曲。
わたしがこの曲にハマり込んだのは、ある昔の5月のこと。
リヒテルとマゼール&パリ管のレコードが発売され、放送で聴いた。
そして、ワイセンベルクが来日して岩城&N響と共演した演奏会をテレビで見た。
ついで、名盤バックハウスとベーム&ウィーンフィルのレコードを買い、すり減るほど聴いた。
ものすごく好きになった協奏曲。
高校生の頃でした。
そして、大学生になり、ついに登場したポリーニとアバド盤。
アバドファンとしては待ち望んだレコードでありました。
以来、この演奏がバックハウスと並んで、最高のブラームスの2番の協奏曲のものとなりました。
同郷のイタリア人と、アルプスを挟んで、北側にあるウィーンのオーケストラが奏でるブラームスは、陽光にあふれ、一点の曇りもありません。
若書きの1番のいかつい協奏曲にくらべ、自由な気概に満ち、のびのびしたここで聴くブラームスの音楽は、若い頃も今も、聴くわたくしの心を解きほぐしてしまう。
ポリーニは最近ご無沙汰ぎみで、このブラームスの録音の頃は、出るレコードを次々に購入していったし、そもそも寡黙な録音スケジュールだったから、その録音発表が待ち遠しい演奏家のひとりだった。
キレのいい打鍵と明晰な音色と集中力に飛んだ研ぎ澄まされた感性。
技巧の凄まじさを感じさせずに、どんな難曲をも冷徹なまでに、スラスラと弾いてしまう。
音楽への真摯な打ち込みぶりが、感動を呼び起こしてしまう。
けれども、歌への傾斜や憧れもすごく感じていて、ロッシーニのオペラの指揮にも挑戦したくらいで、朋友アバドとの共演では、ソロにはない、解放感を感じるのは私だけだろうか。
ルツェルン祝祭とアバドとの来日公演で聴いた、このブラームスの2番。
ミスタッチも多くて、散漫な前半で、えっ?これがポリーニ?と自問のブラームスだった。
しかし、3楽章からまるで別人のように、いやそれこそがポリーニというべきか、音に生気が帯び出して、サントリーホールを神々しいくらいに陽光にあふれた輝かしいブラームスの音色で満たしてくれた。
そのきっかけは、チェロのソロのブルネロの涙が出るほどに美しく生き生きとした演奏からだった。
そのあとは、推して知るべしの、オケと指揮者、ピアニストとの信頼し合った仲間同士がお互いに聴き合いながらの歌の交歓。
ホント素晴らしかったんです。
CDは、このときの3楽章以降の演奏そのままの、演奏者全員が乗りまくり、ブラームスの幸福感を思いきり紡ぎだしたような演奏が73年のウィーンのライブ録音。
この曲が、第2交響曲と同類であることを強く感じさせ、ウィーンならではの訛りや柔らかさもしっかりと刻まれた記念すべき名演奏であります。
同じウィーンでも、バックハウスとベームの演奏は「秋」のブラームスなのに、ポリーニとアバドは、「春」を感じさせる演奏なのかもしれません。
そしてこちらは、その時のライブ映像。
ポリーニもアバドも、そしてウィーンフィルの面々も、み~んな若いし、かつ世代交代済み。
そして、きっとこの時は、わたしも!
変わらないのは、ムジークフェラインザールの美しいホールのみ。
痩せて神経質そうな青年風のポリーニに、いま見ればふくよかで情熱的な指揮ぶりのアバド。
1976年のCDと同一音源を映像で観て聴いてみると、若やいだブラームスの印象がさらに深まる。
50分間の4つの楽章にわたり、超絶的な技巧を駆使しまくるこの難曲を、ポリーニがいとも鮮やかに、そして冷静に弾き分けるのは、耳で聴くよりも映像で観る方が感銘と驚きが深い。
この人の強靱な打鍵でありながら、威圧的にならないピアノは、さながらミケランジェロの彫刻のように、明晰かつ力強い。
そしてその明晰さは、ブラームスに地中海の曇りひとつない明るさをももたらしてくれる。
大振りの若いアバドも、その指揮ぶりにも関わらず、出てくる音楽はいたってまともで、その鋭利な明るさにおいて、ポリーニとの同質性を貫いている。
そして、ウィーンフィルです。
3楽章のチェロは、シャイヴァイン。
75年の来日公演で、キュッヘルとのコンビで、ブラームスのドッペルコンチェルトを弾くムーティの日本デビューを聴いた。
威勢溢れるムーティと落ち着きある美音を貫いた二人のソロが今でも印象に残ります。
この音源と映像は、わたしの好きな最高の演奏として、これからも聴き続けることになるでしょう。
約20年後の1995年、今度はオーケストラをベルリンフィルにかえて、二人はライブでの再録音を行った。
アバドはその間、ブレンデルとも録音している。
76年録音のあとに、こちらを聴くと、構えが大きくなり、フレーズのひとつひとつに余裕と自信が感じられる。
より大人の演奏、そう、春じゃなくて、秋の気配を感じるブラームスになっている。
幾分、訳知り顔になったぶん、若さと面白さが後退し、渋さや透明感が増した感あり。
こちらもいい。
でも、1回目の演奏への愛着と、自分の若い時分への思い出も相まって、ウィーン盤にこそ、数あるポリーニ&アバドのコンビの演奏の最良の姿を見てとれるものと思います。
あぁ~、あの頃に戻りたいな。
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コメント
サルビアの花蜜、確かに小学生の頃によく吸いました、美味しかった。
ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、確かに交響曲第2番と似た幸福な雰囲気で、ブラームスらしからぬ曲。やはり、第3楽章のチェロがいいですね。好きな演奏は、リヒテル・ラインスドルフ・シカゴ、学生時代に廉価盤で世話になりましたが、最高です。
投稿: faurebrahms | 2011年11月12日 (土) 22時08分
faurebrahmsさん、こんばんは。
いまは、サルビアの花をはじめ、野の花々を口にすることさえはばかれるようになってしまいましたね。
恐ろしい世の中です。
そして、おおらかなブラームスの2番。
どちらも大好きな作品です。
そうです、リヒテルとラインスドルフのRCAの赤い縁どりの廉価盤は、いつもレコード店で手にして悩みながらも、バックハウスのレコードを買ってしまいましたので、結局いまに至るまで聴くことのなかった名盤のひとつです。
懐かしいです。
同時期のベートーヴェンの熱情ソナタはすり減るほど聴きました。
投稿: yokochan | 2011年11月13日 (日) 00時44分
マエストロ・ムーティの1975年来日公演の映像と、その際の各地での公演の放送録音は、わたしも宝物にしています。ただ、映像はアンコールの《運命の力》序曲が途中までで切れています。個人的に録画なさった方の惜しいミスだったのですが。NHKのアーカイブ番組での放映、もしくは、ベーム同様に商品化されることを、心から祈っています。「さまよえるクラヲタさん」は、とても貴重な映像を所有していらっしゃることになりますよ。
投稿: ネッツァー | 2011年11月13日 (日) 06時43分
管理人さん こんばんは。
以前にもお話しいたしましたが、知人のべ―ゼンドルファ―のチュ―ナの方ですが本社研修中にレコ―ディングの立会いをゆるされて聴かれた そうです。
ソロ・棒・オケの3拍子と録音が揃った素早い出来と伺いました。
頭のHrからピアノの絡みまでで勝負あり!の曲ですが文句なしだと思います。
投稿: マイスターフォーク | 2011年11月13日 (日) 19時02分
ネッツァーさん、どうもこんばんは。
マエストロ・ムーティの初来日時の音源は、わたしもカセットからCDR化して大切に保存しております。
札幌での「セミラーミデ」、東京での「運命の力」いずれもピッカピッカの名演でした!
そして、申し訳ありません。
映像は所有しておりませんで、思い出は、S席で聴いた実演の思い出なのです。
ベームのチケットは抽選外れ、ムーティは難なく取れました。そんな昔でした。
投稿: yokochan | 2011年11月13日 (日) 21時45分
マイスターフォークさん、こんばんは。
以前お聞かせいただきましたね。
ほんとに希有な体験をお持ちの方なのですね。
>頭のHrからピアノの絡みまでで勝負あり!の曲ですが文句なしだと思います<
冒頭のウィーンのホルンから、ピアノの出だし。
この曲最高の演奏たる由縁の場所です。
ポリーニ・アバド・ウィーン、ついでにホールと完璧に揃った名演です。
投稿: yokochan | 2011年11月13日 (日) 21時52分
今晩は、クラオタ様。肌寒い夜にはブラームスですね。私、カツァリス独奏インバル指揮フィルハーモニアの1989年と最近(私の感覚では…)の録音のモノしかありません。古い音源を楽しむ皆さま、うーん通でいらっしゃいますな。
「サルビアの花」懐かしい。「もとまろ」という女性デュオが歌っていたものしか記憶にありません。そんなに何組も競作してたんですか?知りませんでした。だんだん昭和は遠くなりにけりという感じですねぇ。
投稿: ONE ON ONE | 2011年11月14日 (月) 21時06分
ONE ON ONEさん、こんにちは。
秋はブラームスがより似合う季節です。
そんなわけで、ちょっと若い頃を懐かしんでみました。
「サルビアの花」も懐かしくて、ネット上でいろんな歌手のものを聴きました。
この協奏曲もそうですが、歳とともに、昭和の音源をいとおしむようになってきました。
そして、カツァリス盤は未聴ですが、星の数ほど出ているこの曲の、ごく一部しか聴いていないです。
まして、2000年代のものはまったくなしです(笑)
投稿: yokochan | 2011年11月15日 (火) 07時45分
お早うございます。
サルビアの蜜、小学生のころ、私もよく吸いました。
私は高校1年のときに同曲を、バレンボイムとメータ&ニューヨークフィルのCDで初めて聴きました。バレンボイムの指揮には「重いよー」と弱音を吐いてしまうことが多い私ですが、ピアノは何時聴いても素晴らしいですね。ポリーニ&アバドの新旧両盤はいまだに未聴です。大学時代に買ったアシュケナージとハイティンク&ウィーンフィルのCDも良かったですね。アシュケの弾き方は誠実そのもの、ハイティンクの埋没もせず出しゃばりもしない指揮も最高でした。2000年以降に録音された音源は私も聴いたことがないです。今はバックハウス&ベームの問答無用的な名盤で聴くことが多いです。バックハウスはレコーディングが行われた時点でもうそうとうな高齢なのにあれだけの速さと超絶技巧で鮮やかに弾き切ってしまうのには驚きです。
投稿: 越後のオックス | 2011年11月19日 (土) 09時48分
越後のオックスさん、こんにちは。
サルビアを吸うなんて、いまや怖くてできないご時世となってしまいましたね・・・・。
バレンボイムとメータのものは、まだ聴いたことがないのですが気になる演奏です。
それ以上に、バレンボイムの旧盤、バルビローリとの共演が聴いてみたいです。
それとアシュケナージ&ハイティンクは、わたしも持ってますが、実にすっきりとかつ堂々とした演奏ですね。
ここでもウィーンフィルがとても美しいです。
それとバックハウス&ベームは文句なし。
若いころ聴き過ぎてしまい、いまは少し畏れ多くて、ポリーニ&アバドで聴く方がある意味気楽でようです(笑)
投稿: yokochan | 2011年11月19日 (土) 13時27分