ベートーヴェン ディアベリ変奏曲 ポリーニ
淡い初春の空に映える濃いピンクの河津桜。
開花が梅の時期と重なるものだから、関東ではこの時期各所で満開です。
香りは梅にははるかに負けてしまいますが、この桃色は、梅と桃の花の中間のチェリーって感じで、果実色なんですな。
今日は冷たい雨が降りましたが、こうして画像を見てると、のほほ~ん、としてしまいますよ。
少し西日を浴びると、こんな風に怪しくも美しいのです。
春が待ち遠しくなる、そんな河津桜でした。
ベートーヴェン ディアベリ変奏曲
Pf:マウリツィオ・ポリーニ
作品番号120のベートーヴェン晩年の傑作。
1822年、第9の草稿を練っていた頃で、歓喜の歌もこの年に生れている。
ベートーヴェンの後期様式を代表する充実作品で、齢52にして、かかる濃密ぶりに、いまあるワタクシなんぞ、「ヘ」みたいなもんです。
どこにも書かれてますが、出版家兼作曲家のアントニオ・ディアベリが作ったワルツを元にする、主題と33の変奏曲。
ディアベリさん、多分財力があったのでしょうか、そして出版元という強みもあって、50人の作曲家に、稚拙な自ら作ったワルツを主題とする変奏作品を委嘱し、その中には、シューベルトやリスト、フンメル、ツェルニーも有名どころでは含まれ、その作品が残されてます。
そして、わが偏屈なるベートーヴェンも、頼まれたものの、少し小バカにしてすぐには応ぜず、しばらくして俄然と取り組み、いまある50分あまりの大変奏曲を造り上げた。
素直じゃない嫌味な独身オヤジだけれど、ひとたび作曲に没頭すると、とんでもないスゴい作品を仕立て上げてしまう。
シンプルなわかりやすくも明快な主題。
自身が小馬鹿にしたかもしれないこの主題を、ベートーヴェンは極めて独創的なバリエーション豊かな、楽想が途切れることのない、そしていつしか主題、すなわちメインテーマさえ忘れさせてしまう別次元・高濃度の高みにある大音楽としてしまった。
バッハのゴールドベルクを意識していたともされるが、難曲の度合いからすれば、こちらの方がはるかに高いかもしれない。
繰り返し書くが、主題の姿がどんどん失われてゆき、別世界が次々に開かれてゆくからだ。
モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」の序曲が終わってすぐあと、ドンジョヴァンニとレポルトの主従ご一行の出だしの音楽が鳴るとことも面白いが、これなどは典型で、主題にまったく関係ない。
最後のほう、29変奏あたりからは、まるでバッハのような均整の取れた峻厳なプロポーションの音楽が聴かれるし、それが徐々に、ベートーヴェンの澄み切った、そしてシンプルな後期様式へと収斂してゆくさまが、この長大な変奏曲の最大の聴きどころであります。
難易度の高い変奏曲を次々に弾きまくらなくてはならないのに、最後の方で、この境地を描き切ることの難しさ。
作者と同年代となった、わたくしクラヲタ人ではありますが、まだまだこんな境地に至ることはできませんです。
兄貴ポリーニは、聴いてると、まるでグールドのバッハかと見まがうような弾き振りで、そっくりの没頭感あるうなり声も聴かれます。
歯切れの良さは、若きポリーニそのままに、指先にベートーヴェン様式が乗り移ったかのような、透明感と明確さあふれる、とんでもなく素晴らしい演奏に思います。
最後の変奏で、ようやく冒頭のディアベリさんの主題が、シンプルに奏でられ、聴き手は、大旅行から自宅に帰ってきたかのような安らぎと、旅の満足感を得ることとなるんです。
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コメント
そうなんです。この作品を書いているベートーベンは私たちより若いんです。改めて偉大なる作曲家を尊敬。
私って恥に長らえる人生を送ってるなー。
仕事でもみんなの前でも毎日恥をかいて暮らしています。家族の前では、とりわけ妻の前では、プライドも何もない状態です。
この演奏をしているポリーニも今の私より若い。
反省しよう^^
もうパチンコはやめよう。毎日酒を飲むのもやめよう。いけないビデオを見るのもやめよう。仕事を計画的にこなしていこう。健康のために生活習慣を整えよう。
オジサンは反省しているんです。
でも実行できないんです。今夜はご案内のポリーニのCDを聴いて反省を深めます。
投稿: モナコ命 | 2012年3月23日 (金) 22時28分
モナコ命さん、こんばんは。
わたしの恥かきも同じようなもんで、妻や子供たちの前では、まったくだらしないもんです。
それだからこそ、息が抜けるお家のありがたみがあるんですがねぇ・・・。
パチンコ以外は、まったくおんなじですよ(笑)。
でも、歳とともに楽しめなくなってきているのも事実でして、いずれはダメになるんだから、今のうちに・・というのもアリですよ!
ポリーニのベートーヴェンを聴いて、そんな風に自己弁護的に思うのでした・・・。
投稿: yokochan | 2012年3月23日 (金) 22時45分
お早うございます。実は私はこの齢になるまで名曲・ディアベリ変奏曲を聴いたことがありませんでした。今朝ムストネンの演奏で初めて聴きました。今や大巨匠になったポリーニが若い頃この曲を録音していたことも知りませんでした。恥ずかしい~。「ベートーヴェンの曲は、交響曲と管弦楽曲と四重奏曲とピアノソナタとフィデリオと荘厳ミサを押さえておけば大丈夫だろう」と安直に考えていたのをブログ主様に足元を完全にすくわれてしまいました。ソニー&BMGのベートーヴェン作品集60枚組に入っているムストネンの演奏で聴いたのですが、素晴らしい曲ですね。確かにバッハのゴルドベルクなみの名曲です。貴ブログを毎日のように拝読していると私めの聴く音楽のレパートリーもどんどん広がっていきます。感謝しております。
投稿: 越後のオックス | 2012年4月 1日 (日) 09時08分
越後のオックスさん、こんにちは。
わたしも、ディアベリは相当あとになって聴きました。
ちょっと大人の曲でしょうかね?
思えば、ベートーヴェンはいろんなジャンルに多数作曲してますね。
ただひとつ、オペラは苦手だったのでしょうね。
いままで自分でずっと親しんできたあまり知られていない曲に加え、これから開拓してゆく音楽も含め、ブログがあるからじっくり鑑賞できるものと思ってます。
いつもご覧いただきありがとうございます。
投稿: yokochan | 2012年4月 1日 (日) 13時59分