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2012年4月 1日 (日)

バッハ マタイ受難曲 ベーム指揮

Cloth

まだ梅の咲く頃、某教会にて、外壁にある十字架に日の光があたって輝いておりました。

今年の教会暦では、イエスが十字架に架けられた聖金曜日が4月6日。

復活祭は、4月8日(日)。

キリスト教国、ことにヨーロッパでは復活祭(イースター)は、クリスマスとともに大きな催しでにぎわい、連休も続きます。
キリストの生誕以上に、イエスの受難とその復活は、キリスト教の根源なので当然でありましょう。
海外の宗教的な意味での祭事が、日本では商業的な意味の催事になってしまうことのおかしさ。
それは、いまや中国でも同じみたい。

そして欧米では、各地で、バッハのふたつの受難曲がさかんに演奏されるのもいまこの時期。
われわれ西洋音楽を愛好するものにとって、イエスの十字架上の死を、見つめて考えてみるのに、バッハの受難曲ほど最上の作品はありますまい。

ウィーンでも毎年、受難曲が演奏されております。

Bach_matthuas_bohm

 バッハ  マタイ受難曲

   エヴァンゲリスト、T:フリッツ・ヴンダーリヒ
   イエス:オットー・ヴィーナー   S:ヴィルマ・リップ
   Ms:クリスタ・ルートヴィヒ    ペテロ、Bs:ヴァルター・ベリー
   ピラト:ペーター・ウィンベルガー ユダ:ロベルト・シュプリンガー
   ほか

   カール・ベーム 指揮 ウィーン交響楽団
                 ウィーン学友協会合唱団
                 ウィーン少年合唱団
                   (1962.4.18 ウィーン)


「ベームのマタイ」です。

これを見つけたときはビックリした。

そして、前段で書いた、これはウィーンのマタイ。
フルトヴェングラー、カラヤンもマタイを指揮していたウィーン。
マーラーもきっと演奏していたはず!

あとなんといってもヴンダーリヒが福音史家を歌っているのがベームの指揮と並んで魅力的。
ほかの歌手も当時のドイツ系歌手の最高の布陣で、このメンバーで「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が上演できます。

そして息をこらして聴くこと2時間30分。

少し短めなのは、カットがそこここになされているから。
リブレットを対比しながら確認した省略曲は、ソプラノのアリア「Ich will der mein Herz schenken」、バスのアリア「Gerne will ich mich bequemen」、コラール3つ。
そして、福音書に基づく人々のやりとりの一部。
ベームの考えによるものか、ウィーンの譜面か、通例かは不詳なれど、非常に残念ではあります。

重い足取りを感じさせる冒頭合唱から重厚かつ分厚い響きを感じこそすれ、最初は、普通に演奏しているバッハに思われ、なんのことはないな・・・、と聴いておりました。
そして、いまの編成少なめ、ヴィブラート少なめのバッハ演奏に耳も心も慣れている自分には、圧倒的な質量の響きにも感じます。

しかし、聴くほどに音楽に引き込まれてゆき、その音の物量にもすっかり慣れてしまう。
そしてベームの指揮にだんだんと熱が帯びてくるのがわかる。
正規のライブ音源でもなかなかお目にかかる(お耳に)ことのない、うなり声が目立つようになってくる。
いくつも繰り返されるコラールが、受難の進行によってイエスへの同情と人間への反省を強めてゆくと同時に、そのコラールが徐々に感情移入も強くなってドラマティックになってゆく。
通奏低音をかなり重厚に響かせ、ときに思わぬ強調をすることでも、福音の聖句や、レシタティーヴォを際立たせることになっている。
それとリタルダンドも曲の終結にかなり多用されるように感じます。
ベームの音楽造りには、あまり似合わないと思われるが、これも時代でしょうか、ウィーンの譜面でしょうか。
これもまた、曲の進行とともに、そして劇性を高めるとともに、効果を上げて聴こえるところが面白いところ。
ウィーンの管楽器の音色も、いまでは聴けないまろやかなものです。
こんな風に、ベームのマタイは、ストイックなものかと思ったら、歌手の選択もあわせオペラ的な様相のマタイに思いました。

歌手は、ヴンダーリヒの独り舞台といってもいい。
福音史家とテノール独唱をかね、歌いどころももっとも多い。
当時32歳、でもこのあと4年後に事故で亡くなってしまうこの美声の歌手で、マタイが聴ける喜びはとても大きい。
端正でクリーンな歌声は、福音史家にぴたりとはまるし、ときに思わぬ劇性を漂わせて聴き手を聖書の世界の一員のように巻き込む手腕は天性の嫌みのない清潔な歌唱ゆえ。
ペテロの否認を語るヴンダーリヒには思わず息を飲んでしまう・・・・。

そのあとのルートヴィヒも泣かせてくれます。
「Erbarme dich, mein Gott,」
~憐れみたまえ、わが神よ わたしの苦い涙をお認めください~
これほどに、誰しもの人間の心に宿る弱さを悲しみを持って歌った音楽を知りません。

若々しい、ヤノヴィッツやリップの鈴音のような歌声も魅力的です。

放送録音音源で、当然にモノラルですが、音はしっかりしていて聴きやすいもの。
いずれ、オルフェオあたりが正規に復刻してくれるものと思われます。 

最後の合唱 「Wir setzen uns mit Tranen nieder」
 ~わたしたちは、涙を流してひざまずき、
    お墓のなかのあなたに呼びかけます
   お休みください 安らかにと ~

この素晴らしい合唱が終わると、拍手はなく、おそらく聴衆はそのまま静かに感動を暖めながら帰宅したことでありましょう。
このような音楽には、そうありたいものです。

 マタイ受難曲 過去記事

 「グスタフ・レオンハルト盤」

 「ウィレム・メンゲルベルク盤」

 「ハンス・スワロフスキー盤」

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コメント

え!ベームがマタイ!すごいじゃん^^
知らなかったなー。。。しかもヴィンタリッヒ様が!
いいじゃんいいじゃん^^
聴いてみたい。マタイを選ぶときも私は歌手のメンバー重視なんです。ヴィンタリッヒの福音史家って、シビレますねー。(フルイ言葉!)
あんなに人間の弱さを直接歌ってくれるテナーはいない。心の中のデリケートな部分を声にしてくれるテナーはヴィンタリッヒが一番です。今度ベーム盤、買います。
そういえば、1年前にマタイのスレッドに私って書き込みしていたんですね。記載の過去ログを見て自分のを見つけて驚きました。
さまよえる様のおっしゃるように、リヒターを聴くときは、食事もすませ、お風呂も終わってちゃんと背広を着てないと聴いちゃダメ的な雰囲気があります。といいながら車の中でも聴いていますが。。。
私は節操が無いのでフーガの技法もオイシクいただいています。グールド盤を愛聴しています。もちろんオケ盤も好きです。

投稿: モナコ命 | 2012年4月 1日 (日) 16時51分

大変ごぶさたしております。

マタイ(とロ短調ミサ)、今はピリオド全盛で、いわゆるシンフォニックなレパートリーとはみなされないのでしょうが、一昔前(二昔?)ドイツ系大指揮者は結構積極的に取上げていましたね。ヨハネまで手を出すと人はまれでしただったようですが。
メンゲルベルクはじめシェルヘン、カラヤンやヨッフム(この人はヨハネもクリスマス・オラトリオも録音あります。)あたりがすぐ思い浮かびますね。
ドイツ系ではないですが、バーンスタインですら録音残していたり(英語版、抜粋)。

シェルヘンのカンタータのCDの余白に、クレメンス・クラウスのマタイからの数曲が入っていたのがとても良かったので、昔の巨匠のマタイ、あったらどんどん聴いていきたいと思っていました。
ベームのマタイとは、また超魅力的ですねえ。これは、是非手に入れたいなあ。

後、ピリオドでない、最近の指揮者のマタイも追いかけて行きたいとも思っています。
(小澤盤は愛聴してます。シャイーのはまだ未チェック、ラトルのライヴがCDになるのを心待ちにしています。)


投稿: garjyu | 2012年4月 2日 (月) 09時07分

モナコ命さん、こんばんは。
そうなんです。
ベームのマタイであり、こちらはヴンダーリヒのマタイでもあるんです。
ヘフリガーやシュライヤー、エクィルツとも異なる新鮮なる福音史家でございました。
去年は、レオンハルト盤でした。
そのときも、コメント頂戴しておりまして、ありがとうございました。
指揮者中心で選んでしまいがちですが、マタイは、テノールとアルトがキモですね。
リヒターは、あらゆる意味で私には理想的ですが、ちっとやそっとじゃ気軽に聴けないように自分でしてしまった感もありです。
バッハ全体を、もっと気軽に聴くべきなのでしょうね。
ちなみに、フーガの技法は、少し苦手でして練習中です。

投稿: yokochan | 2012年4月 2日 (月) 21時35分

garjyuさん、こんばんは。
こちらこそご無沙汰でございます。
バーンスタインのマタイは、その存在はずっと気になっておりましたが、未聴です。
きっと劇的なのでしょうか。
ドイツ系の指揮者たちの往年のマタイの数々。
このベーム盤もそうですが、わたしもバッハ演奏の基本としても今後とも聴いていきたいと思います。
そしてやはり指揮していたのですね、K・クラウス。
本記事に名前を書こうかどうか思ったのがクラウスでした。

あと、わたくし的には、アバドのマタイ。
ベルリン時代に演奏してまして、イタリアの限定盤レーベルにてCD化されているものです。
今後ともに、このマタイには名演が登場してくるのでしょうね。
音楽史上最大の名作品のひとつ、マタイゆえです!

投稿: yokochan | 2012年4月 2日 (月) 21時46分

yokochan様
レコード会社から請われて収録するレパートリーからは、想像も付かないような演目が飛び出して来るのが、実況収録盤の面白さでありましょうか。例えば、B・ワルターはJ・S・バッハの曲を全くレコーディングしてませんが、実際は1912~1922年のミュンヘン宮廷歌劇場のGMD時代に、復活祭のおりに『マタイ‥』を演奏していたそうですし、自著『音楽と演奏』にも、『マタイ受難曲に関するノート』なる、解釈に演奏を述べた章があるほどです。アジア極東の僻地日本国に於いては、レコーディング・レパートリー即ちその演奏家の実像と思われ勝ちなのが、寂しい所です。

投稿: 覆面吾郎 | 2022年9月12日 (月) 10時57分

マタイは、西欧のキリスト教社会においては、日本人の第9なみに、復活節での大切な音楽モニュメントだと思います。
ですので、ポストを持つあらゆる指揮者が取り上げていると思います。
敬愛するアバドもローマ、ミラノ、ベルリンでも指揮していまして驚いたものです。

投稿: yokochan | 2022年9月22日 (木) 08時38分

yokochan様
いや、それは存じ上げませんでした。アバドのバッハと申しますと、ミラノ・スカラ座管弦楽団メンバーとの、イタリアRicordi原盤の『ブランデンブルグ協奏曲全曲』しか、思い浮かびませんでしたので‥。前回私見述べさせて戴いた良からぬ点に、他でも無い私めが引っ掛かって居た訳ですよ(笑)。でもまぁ、実際のステージで取り上げた作品を一曲残らず録音できる演奏家など、存在する訳もございませんよね。

投稿: 覆面吾郎 | 2022年9月22日 (木) 08時58分

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