神奈川フィルハーモニー 第281回定期演奏会 現田茂夫指揮
薄曇り、薄暮のみなとみらい、6時41分。
コンサート開始まで、あと19分。
もっとも楽しみにしていた神奈川フィルのワーグナーですよ。
そして、コンサート終了後、応援メンバーの皆さんに語った開口一番。
「もう、なんも言えねぇ」
リスト 交響詩「レ・プレリュード」
ピアノ協奏曲第1番
Pf:後藤 正孝
ワーグナー 「ニーベルングの指環」抜粋
現田 茂夫指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(2012.05.25@みなとみらいホール)
日本に、いや、世界にまたとないユニークなワーグナー。
ばか言うな、と言われそうですが、ワーグナー狂となって40年のワタクシがそう言うんですから、信じて下さい。
もっともっと多くの方に聴いて欲しかった。
>現田さんの、外向的で華やかかつ歌心にあふれたワーグナーが楽しみです<
1ヶ月前の記事で予告したとおりでした。
重厚長大、威圧的、難解・・・、といったワーグナーのイメージとは真逆の軽快できらびやかで明るくわかりやすい、明快なワーグナー。
①「ラインの黄金」より「ヴァルハラ城への神々の入場」
②「ワルキューレ」より「ワルキューレの騎行」
③ 〃 「魔の炎の音楽」
④「ジークフリート」より「森のささやき」
⑤「神々の黄昏」より「葬送行進曲」
⑥ 〃 「ブリュンヒルデの自己犠牲」
あっという間に終わってしまった。
すっかり、自分の血肉と化した感のある「リング」。
歌抜きリングは、車で聴いたりするときは、ワタクシは、フローにウォータンにローゲ、ハーゲンになってまるでカラオケのように歌いまくって運転する変なオジサンです。
コンサートで、そんなことやったら摘み出されてしまいますがね、今回はホント歌いたくなるような気持ちのいい演奏。
そんな呼吸感と歌心あふれる現田さんの指揮は、見ていてもとても自然で流麗。
リングの後半あたりから、トレードマークのようになってしまった、背中の汗。
左右の点から徐々に広がって羽のようになって、ワーグナーの音楽とともに飛翔してしまうかのようでした。
オーケストラも乗ってます。
神奈川フィルの本来の麗しき姿を見た思い。
明るい美音と曇りなく透き通った神奈フィルの魅力炸裂。
ラインゴールドは、ドンナーのハンマーと雷鳴の、カッキーン&ドッカーンが見事に決まった。神々の入場は、晴れやかで、軽快。ブラスのキレのよさも抜群。
有名曲ゆえ、このあたりから会場の雰囲気が変わった「ワルキューレの騎行」。
いつも途中からうつむいてしまうお隣の御婦人も、今日のワーグナーはしっかりとずっと聴き入っておられました。
ワーグナーの魔力に加え、うるさくならない、親しみあふれるこの演奏が、会場をひとつにしてしまったのです。
この「騎行」で拍手が来るのはやむをえないことですが、特定のおひとりさまが、どの曲も最後に拍手をするんですよ。
まして「葬送行進曲」は勘弁してよ。
さらに心外は、「自己犠牲」の感動的なエンディングでのフライング拍手。
いけませんよお客さん、現田さん、まだ手を降ろしてないじゃないですか。
でもそんな苦言もなんのその。
素晴らしき感動の前には、ちっぽけなこと。
「ウォータンの告別」は、ほんとうはもっと前の方からやってほしかったし、途中のカットも寂しく、いきなりローゲ召喚に飛んでしまったけれど、やはりこの音楽は感動的。
「Wer meines Speeres Spitze furchtet, durchschreite das Feuer nie!」
(わが槍の穂先を恐れるものは、この炎を超ゆることなかれ!)
と心でつぶやいたウォータンの決めセリフ。
ジークフリートの主題が、これほどにブリリアントに響くなんて!
そして、炎は、赤くキラキラと輝くように聴こえました。
精緻でクリーンな「森のささやき」は、木管の皆さん冴えわたってましたね。
そして石田コンマスの甘味なるフライアの主題の美しかったこと。
自分では、心して、哀しみの面持ちでもって迎えた「葬送行進曲」。
でも悲しみは、ここには少なめで、輝かしき英雄の死といった感じで、死の動機は少しあっさり気味。そして、そのあとやってくる剣の動機では、トランペットにさし抜かれました。
そのあとのオーケストラ総力をあげての全奏では、感動のあまりワナワナしてしまい、涙でステージが滲んでしまった。
最後の「ブリュンヒルデの自己犠牲」は、この日のハイライト、最高の瞬間でありました。
25分に及ぶブリュンヒルデの長大なモノローグだから、ハイライトでは大幅カットはやむをえないことながら、もっともっと聴きたかった。
本当に素晴らしかった。
ブリュンヒルデが愛馬グラーネと亡き夫ジークフリートに別れを告げる場面、愛の救済のテーマが繰り返され、もう、わたしの涙線決壊。
指環がラインの流れに戻ると、そこは本当に涼やかで清らかなムードがただよい、再び「愛の救済」の動機があらわれますが、このリングきっての名旋律が、かくもゆったりと、そして思いをたっぷり込めて美しく演奏されるのを私は聴いたことがありません。
ともかく美しく歌う。
オケの皆さんも感じきって演奏してます。
現田さんも感動しながら指揮してます。
ワタクシも涙滲ませて聴いてます。
ビューテフルなワーグナーでいけませんか?
いえ、全然いいんです。
ワーグナーばっかりになってしまいましたが、前半のリストも素敵だった今宵のコンサート。
中間部の森のような情景に陶然となってしまった「レ・プレリュード」では、この曲のダイナミズムと抒情の対比が素晴らしく、冒頭からオケがこんなに鳴るものか、これ神奈フィルだよね、と嬉しくなってしまった。
そしてさらに嬉しかったのは後藤さんのピアノ。
小柄な青年がステージに現れたので、今風の華奢なピアノを想像していたら、ところがどっこい、強靱な打鍵を繰り広げる本格派でした。
それでいて第2楽章の夢想的なリストならではの静けさがまったく素晴らしい。
フランツ・リスト国際コンクール優勝の凄腕ピアニストに注目です。
青菜炒めとプリッぷりのエビマヨ。
アフターコンサートは、皆さんで先ほどの感動を興奮冷めやらぬ勢いで語り、飲みまくり。
オーケストラメンバーと楽団スタッフの方にもご参加いただき、本当に楽しい会でした。
皆さまお世話になりました。
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コメント
昨日はありがとうございました。
yokochanさんをして「世界にまたとないユニークなワーグナー」とまで言わしめるとは!
こういう演奏に出会えることこそが演奏会の醍醐味ですね!
貴重な体験ができました!
特に、一番最後の「愛の救済」の動機が美しく響きわたる様は忘れられません。
またご一緒しましょう!
投稿: syllable | 2012年5月26日 (土) 20時20分
syllableさん、先般はお世話になりました。
今回に、狙いを定め遠路おいでになった甲斐ばっちりありましたね。
ちょっと誉めすぎですが、それでもあんなキレイなワーグナーは、ちょっと他では聴けないと思いました。
特に、自己犠牲は最高でしたね。
また機会をつくっていただき、神奈フィルを一緒に聴きましょう!
投稿: yokochan | 2012年5月27日 (日) 10時11分
こんにとは。
演奏会よかったですね。
リスト、ワーグナーとも生演奏で聴くのは初めて、特にワーグナーはオペラの生演奏もCDもオペラでしか聴いたことがなかったので新鮮でした。
ワーグナーはオペラで歌の演出こみで味わっているので、音楽として細かく解説していただいて大変興味深く読ませていただきました。
演奏会の後の集まりも大変楽しかったです。
ありがとうございました。
投稿: dezire | 2012年5月27日 (日) 15時15分
いやいや、期待をしていたプロでしたが、思いっきり膨らんだ期待の風船が目の前の意外な素晴らしさを聴かされて、そんなちっぽけなものがなんなことはないことを、自分の体験してきた「指環」がまだまだそれ以上の可能性があることを実体験させられて、いえいえ、ホンのさわりだけですね。緞帳の下がったステージの、舞台の隅からほんの少しコッソリ見せてくれただけですね。
驚きました。そして全曲への期待が大いに高まります。
どんな曲でもオレ流、神奈川フィル流で魅力的に聴かせてしまう神奈川フィルは恐るべしなんですけどね。
だからこそ、あまり有名になりすぎず、コッソリ私達だけで大切にしたくなる邪な気持ちが多少芽生える昨今です。
遅くまでお付き合いありがとうございました。
投稿: yurikamome122 | 2012年5月27日 (日) 15時24分
dezireさん、こんばんは、先日はどうもお世話になりました。
劇場での観劇豊富なdezireさんに、お誉めいただきましたとおり、神奈川フィルはオペラを演奏しても素晴らしいオーケストラでした。
歌なしのワーグナーは、時間がないときなど、最初は割り切っての視聴でしたが、いまやオーケストラ作品としての視点で聴くことができるようになりました。
今回のリングは、劇場とコンサートホーの両方に軸足を置くことができる優れた演奏ではなかったでしょうか。
楽しいひと時を、こちらこそありがとうございました。
投稿: yokochan | 2012年5月27日 (日) 22時50分
yurukamomeさん、こんばんは、先般はどうもお世話になりました。
いつも各所、ご手配とお心配りありがとうございます。
とてもいい会になりつつありますね。
それもこれも、素晴らしい音楽を聴かせてもらえるからなのですが、おっしゃるように、自分たちだけで密かな楽しみとして享受し続けたいという願望もあります。
贅沢なものです。
それにしても、この豊穣なるワーグナーはどうでしたでしょうか。
世界中のワーグナー好きに、ブラインド聴きしていただきたい絶品でした。
あと、惜しむらくは、金曜晩の楽しいひと時が短いことでしょうか。
こちらこそ、遅くまでありがとうございました。
投稿: yokochan | 2012年5月27日 (日) 23時01分
こんにちは♪
皆さんがワーグナーに酔いしれている中、1人田んぼで悪戦苦闘していた(?) KiKi です。 たまたま機会があって、つい先日 yurikamome さんとお茶をしたんですけど、その時から皆さんが今回のプログラムに大きな期待をされていらっしゃること、鑑賞後に楽しい宴会が企画されていることを知り、久々に「羨ましい!!」と心の底から思いました。 東京に心を残しながら群馬へ帰るというのも久々の体験でした(笑)
で、このエントリーを拝読すると素晴らしい演奏だったみたいじゃありませんか!! それはますます羨ましい!! どんな演奏だったのか、気になって仕方ありません(苦笑)
投稿: KiKi | 2012年5月28日 (月) 17時11分
kikiさん、こんばんは。
いま田んぼは忙しい時期ですよね。
すいません、楽しんじゃって。
そして、このようにワーグナー好きのkikiさんを刺激してしまう感想をお見せしちゃって。
ワーグナーの手面的な魅力を味わえる、素敵な演奏でした。
kikiさんには、是非とも、神奈川フィルの音色を聴いていただきたいと存じます。
と、悪魔の誘いをしてみます(笑)
投稿: yokochan | 2012年5月28日 (月) 22時09分
yokochanさま、聴けました。残業中の会社を出るのはドキドキしますが。
今回のプログラム、まともに知っていたのはワルキューレのみでした。でも、全部すばらしかったですね。
ピアニストの後ろ2階から聴きましたが、10本の指が1音毎に全部ジャンプする小節があるんですね。私なら絶対間違えます(笑)。
ワーグナー、あんな優しいのは知りませんね。たいてい、厳格な強靱な音楽なのですが・・
そして、最後の弦にやられました。なぜ初めて聴いて涙が出るのでしょう?
未だに頭の中で鳴り響いてますが、ぜひもう一度聴きたい、と強く願います。
投稿: hamu | 2012年5月31日 (木) 13時17分
hamuさん、こんばんは。
マーラーに続けて、お聴きになれましたね。
みんなが仕事してるのに、早くでることの後ろめたい気分は、誰しも経験していることに思いますが、コンサートで晴れるその気持ちは、金曜日でもあり、何事にも耐えがたいものがあると思います!
後藤さんのリストは私も驚きの素晴らしさでしたが、鍵盤が見えませんで、いま拝読してなるほどと思いました。
そんな難しい曲なのに、小柄な彼は、すいすいすらすら弾いてましたね。
そして、素晴らしかったワーグナー。
おっしゃるとおり、最後の自己犠牲の救済の旋律は、あまりにも美しく、優しく奏されました。
あんなワーグナーはめったに聴けないと思います。
わたしも、もう一度聴きたいです。
ともかく泣けました、同感です!
投稿: yokochan | 2012年5月31日 (木) 22時17分
げんだしげお ひきょうもの
投稿: | 2012年12月23日 (日) 00時41分
そうですか。
投稿: yokochan | 2012年12月23日 (日) 01時02分
コメント11番さん。 あなたこそ卑怯者。このブログを楽しみにしている者として一言。非常に不愉快です。
投稿: ONE ON ONE | 2012年12月24日 (月) 14時21分
ONE ON ONEさん、こんばんは。
寒いですねぇ。
そしてありがとうございます。
消してしまおうかとおも思いましたが、けしからんので残しておきました。
無粋な輩がいるもんです。
投稿: yokochan | 2012年12月24日 (月) 17時22分