松本室内合奏団定期演奏会 山本裕康指揮
素敵なコンサートのあとは、花束です。
こちらをご参照。
松本室内合奏団は、1989年発足の室内アンサンブルで、年2回の演奏会を中心に、松本に根付き、なかなかにしっかりした活動を営んでいる団体です。
そこに、われらが神奈川フィルの首席チェロ奏者の山本裕康さんが、指揮者として客演。
聴く側としては遠征となりますが、氏の指揮デビューも昨年確認した以上、この分野での山本さんを見届けなくてはならず、日曜日の特急あずさ号に乗りこみました次第です。
ブラームス セレナーデ第2番 イ長調
芥川也寸志 弦楽のための三楽章 「トリプティーク」
ベートーヴェン 交響曲第2番 ニ長調
山本 裕康 指揮 松本室内合奏団
(2012.7.1 松本ザ・ハーモニーホール)
どうでしょうか、渋いけれど、この意欲的なプログラム。
アマチュアオケとは思えない本格ぶりは、このプログラム以上に、その実力と音楽する喜びに溢れた演奏姿、そしてきっと彼らの家族も含む、松本のお客様の音楽をしっかり聴きとる姿勢とに強くあふれておりました。
そして、その中心にあって、今宵の音楽の導き手が、山本裕康さんだった。
ビオラ、チェロ、コントラバス、木管、ホルンというユニークな編成によるブラームスのセレナードは、作品番号16のブラームスの若書き。
外はあいにくの梅雨の雨だったけれど、緑に囲まれた雰囲気豊かなこのホールで聴くに相応しい爽やかな音楽で、ほのぼのとした柔和な1楽章から、スケルツォながら渋い雰囲気の2楽章、哀愁さそう青春ブラームスの3楽章、おっとりとおおらかな4楽章、そして快活さが目覚ましい終楽章。
全編、中声部みたいなこのセレナーデを、チェロを弾くがごとく、じんわりと柔らかく、そしてキレもよく聴かせてくれた山本さんでした。
思えば、神奈フィルでシュナイト師がこの曲を指揮した日も雨の日でした。→
芥川作品、トリプティークは実は初聴きかも?
弦楽による、この目覚ましい音楽には驚きました。
ブラームスで、おっとり気分に浸っていたら、いきなり横っ面を叩かれた感じ。
そしてブラームスのあとに聴くと、和風テイストがみなぎっていると同時に、ショスタコやバルトーク、ティペットなどの近代英国風などの味わいも存分に感じる。
ことに、娘さんに書いたという子守唄は、とても歌謡的で美しく、指揮者もオケもよーーく歌っておりました。
これ聴いてて、古き良き時代劇やNHK新日本紀行みたいな、懐かしいセピアカラーの景色を思って陶然となってしまいましたよ。楽器の胴を叩く奏法が右から左へと広がってゆくところもとても印象的でございました。
それと、めくるめく変拍子が目覚ましい3楽章もときおり懐かしい思いを挟みながら、実に楽しかった。
もちろん指揮者も演奏者も大変な曲だな、と思いつつも、それらを難なくクリアした皆さんに拍手です。
さらに何気なく迎えた後半戦は、実はサプライズでした。
ベートーヴェンの交響曲の偶数番号、それも2番と4番は、たおやかで、控え目で抒情的な印象を持っているのが常。
それは、ワルターやクリュイタンスのレコードの存在が大きくて、決してカラヤンやトスカニーじゃないところが、その偶数番号たるところ。
近年では、ベーレンライター版でキビキビ・せかせかやったり、古楽奏法でカサカサやったりする演奏がもしかしたら主流になりつつあるのかも。
唯一、そうしたやりかたでよかったのは、実はノリントンとシュトットガルトで、そのスピード感と痛快さは、この2番の新たな側面を見せてくれました。
でも、この日の山本&松本チェンバーの演奏は、この2番をピリオドとかノン・ヴィブラートとかの奏法によらずして、軽快でダイナミック、駿馬のようにすばやく鮮やか、若さみなぎる目からウロコのベートーヴェンに仕立ててくれたのだ。
ガンガン進む1楽章だけれど、一音一音は決しておろそかにせず、しっかりと歌っているので、潤いと輝きがあります。
爽快な2楽章では、信州のあふれるグリーンがみなぎるようでして、楽員さんたちが、ホント気持ち良さそうに弾いていたのが印象的です。
山本さんのような仲間みたいな指揮者があってこその、そんな彼らの演奏姿です。
キビキビとしたスケルツォに続いて、一気呵成の終楽章。
この曲聴いて、手に汗したのは初めてかも。
ヒヤヒヤじゃなくて、その感興にですよ。
おいおい、マジかよ、と聴きながら思っちゃいました。
こんな痛快で、尖がったベートーヴェンは久しく聴くことがなかったです。
これもベートーヴェンの一面で、ある意味親しみのわくベートーヴェンの姿ではないでしょうか。
終演後、山本さんに聞いたら、通常のブライトコプフ版だそうでして、なにもあれこれしなくても、こうして耳にも目にも鮮やかな鮮度高いベートーヴェンが出来上がるという典型ではなかったのでしょうか。
きっと多く練習を重ねたでありましょう、指揮者・奏者の思いが完全に一致し、一体になっているのがひしひしとわかりました。
あっという間にTシャツに着替えてラフな、山本さんにご挨拶して、東京・横浜から遠征の3人組は、あまりに味のある最寄駅から松本駅まで移動し、信州の名物に舌鼓を打ちつつ、コンサートの熱き余韻に浸るのでございました。
信州オリジナル、信州サーモンのお刺身
そして、好物の馬刺し。
馬刺し文化は、北から青森・福島・山梨・長野・熊本でございます。
信州のキリリとした日本酒に最高です。
お昼は、当然、お蕎麦。
帰りの車中、3時間はほぼ飲み通し。
こんなアフターコンサートも実によいものです。
ここ松本は、以前仕事で何度も来てましたが、いずれも日帰り。
大学時代の友人がいて、今回は日帰りで声掛けしませんでしたが、またゆっくり来たい、文化の香る音楽の街であります。
山本さんは、今年もサイトウキネンオケでもご活躍です。
追)「月曜ねこの日」は、本日休刊いたします。
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コメント
驚きましたね、あのベートーヴェンには。あの挑戦的な姿勢はグルダをやった時のやんちゃな彼がベートーヴェンをやるとどうなるのかを見せてくれました、いや、魅せてくれましたね。やってくれましたよ彼は。
あの充実の演奏、おっしゃるようにオーケストラの面々の表情にも表れていましたね。皆さんにも大いに拍手。
それにしても、裕康音楽堂シリーズなんていいましたが、これは、もしこのシリーズが続くなら関係者のみのコッソリ美味しい演奏に秘蔵しておきたいですね。自分たちだけで大事にしたい、そんな演奏会に感じてきました。
本当に行ってよかったです。
そしてチャレンジしてくれた山本さんにも大いに感謝です。
私はこの曲でこういう演奏を聴きたかったのかも知れません。
いや、ちがう、こういう演奏も発見しちゃったんですね。
投稿: yurikamome122 | 2012年7月 3日 (火) 06時12分
はじめまして!
ティンパニのchibimakoyoと申します。
山本さんのツイートから寄らせていただきました。
今回は遠路をお越しいただき、本当にありがとうございました!
僕たちの拙い演奏をこのような素敵な言葉で表していただき、嬉しい半面とても恐縮してしまいます。
今回の演奏会は、舞台の上で演奏しながらもマエストロの集中力と情熱で音楽にグイグイ引き込まれ、音と音楽の密度がいつもに増して高かったと感じました。
この経験ができたことも嬉しいですし、何より今回のこの出会いに感謝です!
そして、いつか機会があったら、チェロコンチェルトの共演もさせていただけたら嬉しいです。その時にはまたお出かけくださいませ♪
ちなみに…
マエストロ、アンコールで一瞬チェロを弾きそうになったところを、イカンイカン…と堪えたようであります(^^)
僕たちもますます精進して、次に向かって頑張りたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
次回松本にお越しのときには、是非ゆっくりと時をお過ごしくださいませ。
ありがとうございました!
☆このページをツイートさせていただきたく思います。よろしくお願いいたします。(@chibimakoyo)
投稿: chibimakoyo | 2012年7月 3日 (火) 18時23分
yurikamomeさん、日曜日は大変お世話になりました。
少し悩みましたが、その気持ちを後押ししていただき、感謝しております。
そして結果は、ともかく松本に行ってよかった!に尽きます。
あのグルダの裕康さんでしたね、まさに。
ベートーヴェンの2番に対する見方が変わった気がします。
ちなみに、アバドのベーレンライターを聴いてみたのですが、それに比べても活気と若々しさ、大胆さでも上に感じました。
そして以外にも、カラヤンがよかったりしました。
ずっとベト2が鳴ってます。
奏者の皆さんも素晴らしかったし、ホールも聴衆も素敵だったです。
美味しいものもあふれる松本、これを機に、ほんと、シリーズ化して欲しいですね。
神奈フィル勝手に応援チームで、ツアー組めますね!
投稿: yokochan | 2012年7月 3日 (火) 21時49分
chibimakoyoさま、こんばんは、はじめまして。
コメント頂戴しまして、こちらこそ恐縮に存じます。
ベートーヴェンでの、ティンパニの活躍、目を見張って聴かせていただきました。
そして何よりも、皆さまの音楽に対する愛情と熱意を目の当たりにすることができまして、最初は裕康さんの指揮にばかり着目していたのですが、素晴らしい仕上がりのとんでもない展開に驚きの連続だったのです。
演奏された皆様も、山本さんの思いがしっかり伝わっていたのですね!
いつも、正面を向いて、各奏者とアイコンタクトしながら弾いてらっしゃる山本さんのお姿を、今回は、後ろから拝見していて、いったいどういうお顔で指揮されていたんだろうと、思ってましたが、頂戴したこのコメントでなんとなくわかるような気がしてきました。
是非にも、再度の共演を期待しております!
アンコールでの、いまにも弾きそうな雰囲気のやりとり、楽しく拝見しておりましたよ(笑)。
遠くない日に、またお聴きできることを願っております。
そして、素晴らしい演奏会、本当にどうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2012年7月 3日 (火) 22時05分