ブリテン 戦争レクイエム ヒコックス指揮
心の平安を感じる風景。
実家のいつもの海を見晴らす山には、朝早く登ります。
ひと気なく、海も空も済んで混じり気なくきれいです。
わたくしの、もっとも好きな場所です。
この山の麓にある小学校に通い、海の音が聞こえる幼稚園と中学校に通い、そこで育ちました。
ガラスのうさぎ像。
東京大空襲で、母や兄弟を失い、この町に父とともに疎開。
その父も、突然の空襲で、目の前で亡くしてしまう少女の実際の物語。
ガラス工場だった都内の家で、熱により変形してしまった手にしたウサギ。
この像でも、同じように歪んで造られております。
終戦間際のできごと。米軍は日本各地を無差別に攻撃するようになっていった。
攻撃側の意識も感覚も、ここまでくると、どうにかなってしまっていたとしか言いようがない。
戦争の恐怖は、人間をここまで駆り立ててしまうこと。
ブリテン 「戦争レクイエム」
S:ヘザー・ハーパー T:フィリップ・ラングリッジ
Br:ジョン・シャーリー=クヮーク
リチャード・ヒコックス指揮 ロンドン交響楽団
ロンドン交響合唱団
セント・ポール・カテドラル少年合唱団
(1991.2 @ロンドンSt Jude's church)
不戦・平和の祈りをこめた、ブリテン(1913〜1976)の「戦争レクイエム」を、今年も、この時期に聴きます。
人類への警鐘と、犠牲者への追悼、そして不戦への永遠の誓いに満ちたブリテンの不朽の名作は、音楽とそのメッセージが重すぎて、普段なかなか聴くには勇気がいる。
ヴェルデイのレクイエムとともに、日本人の思いにとって特別な8月のこの時期に聴くことの意義はわたしには大きいです。
昨年来、さらに、この時期聴く音楽として(というか、ときおり何度も聴いてますが)、日本の佐村河内守の交響曲第1番「広島」も大きな存在感を持って加わりました。
いずれも、不合理な死への怒りと強い平和希求、そしてなによりも、人間愛、救済のある人間としての存在をしっかり感じさせる・・・・、こんな思いをこうした曲に抱かされる意味でも8月のこの時期の日本人にぴったりと符合すると思うのだ。
オリンピックに浮かれぎみだったこの8月。
でも選手たちは浮かれず、淡々として戦いメダルを手にしました。
悔しさや悲壮感は柔道は別として、他国のような激しさを伴うこともなく、そこに満足し、明日を誓う好印象を世界に与えたと思います。
本来なら、人類唯一の被爆国なのだから、原発の平和利用そのものの概念をはなから否定すべきだった日本。
原爆と原発、ふたつの被爆を経験してしまった日本なのだから、もっともっと平和希求の声をこれでもかというくらいに声を大にして主張すべきです。
>ラテン語の典礼としてのレクイエムに、早世の詩人オーウェンの生々しい反戦詩による独自のオラトリオ風な詩劇を混ぜ合わせた独創的な作品。<
このユニークで感動的なレクイエムが、1962年5月に、初演されてからちょうど50年。
1924年に、良心的兵役拒否者の申請を行い大戦の兵役免除を得たブリテン。
戦火の日本では、非国民扱いとなるであろう行為でしょうが、戦争を憎んだブリテンならではだし、おかげで多くの作品が残されることにつながり、平和なわたしたちには、喜ぶべきこと。
ソプラノ独唱は、典礼文の歌唱、男声ふたりは詩を担当、よって生々しい戦場の様子を歌う兵士同士ともなる。
重々しく不安な感情を誘う1曲目「レクイエム」。戦争のきな臭い惨禍を表現するテノール。
曲の締めは、第2曲、そして音楽の最後にあらわれる祈りのフレーズ。
第2曲は長大な「怒りの日」。戦いのラッパが鳴り響き、激しい咆哮に包まれるが、後半の「ラクリモーサ」は、悲壮感あふれる素晴らしいヶ所で、曲の最後は、ここでも祈り。
第3曲目「奉献誦」、男声ソロ二人と、合唱、二重フ―ガのような典礼文とアブラハムの旧約の物語をかけ合わせた見事な技法。
第4曲「サンクトゥス」、ピアノや打楽器の連打は天上の響きを連想させ、神秘的なソプラノ独唱は東欧風、そして呪文のような○△※ムニャムニャ的な出だしを経て輝かしいサンクトゥスが始まる。
第5曲は「アニュス・デイ」。テノール独唱と合唱典礼文とが交互に歌う、虚しさ募る場面。
第6曲目「リベラ・メ」。打楽器と低弦による不気味な出だしと、その次ぎ訪れる戦場の緊迫感。
やがて、敵同士まみえるふたりの男声ソロによる邂逅と許し合い、「ともに、眠ろう・・・・」。
ここに至って、戦争の痛ましさは平和の願いにとって替わられ、「彼らを平和の中に憩わせたまえ、アーメン」と調和の中にこの大作は結ばれる。
合唱の神様、ヒコックスの長らくの手兵であったロンドンの合唱団の強力さは驚き。
同様に、この曲を初演したロンドン響も雄弁極まりなく、どちらもその迫真力を引き出す指揮者の強い想いを感じさせる。
そのヒコックスも今は亡く、数あるこの指揮者の音源のなかでも最高のもののひとつ。
この曲の初演者はもうひとり、ヘザー・ハーパー。衰えを感じさせない毅然としたその歌は感動的で、あとともに、ブリテンとの共演も多かったラングりッジに、シャーリー・クヮークの劇的かつ気品ある歌唱も素晴らしいものがあります。
音楽が音楽だから、どんな演奏でも、心を刺しぬくほどの感銘を味わうことができますが、作者自演盤に迫るヒコックス盤はとりわけ強い力を放っております。
過去記事
「ブリテン&ロンドン交響楽団」
「アルミンク&新日本フィル ライブ」
「ジュリーニ&ニュー・フィルハーモニア」
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コメント
10・24のザ・シンフォニーホール。HIROSHIMA全曲演奏に佐村河内守さんがいらっしゃいます。NHKの撮影もあります。ついに国営キター!
投稿: あい | 2012年10月 3日 (水) 19時06分
あいさん、情報どうもありがとうございます。
NHK様のテレビも入るんですか!
こうなると第2交響曲の初演争いも勃発しそうですね!!
投稿: yokochan | 2012年10月 4日 (木) 00時27分
11/9
NHK総合
午後10時から
情報live ただイマ
“奇跡の作曲家”佐村河内守
放映です!
投稿: あい | 2012年10月29日 (月) 19時23分
あいさん、こんばんは。
そうですそうです、存じ上げていますとも。
わがことのように興奮しております!
情報ありがとうございます!
投稿: yokochan | 2012年10月29日 (月) 23時10分
はじめまして
ブリテンの“ビリー・バッド”でブログを検索した処、こちらに辿り着きました。“戦争レクイエム”は、私がブリテンを知るきっかけになった、青春時代思い出の一曲でもあり、不躾ながら書き込ませて頂きました。この曲に則り、ブリテンの合間に、伝統レクイエムであるモーツァルトの作品を差し挟んで聴いてみたりも致しました(笑)
最近では、体力の衰えもあり(笑)、緊張感溢れるこの大作にあって、ポツンと優しく置かれたような“Agnus Dei”が、以前にも増して魅力的に思えます。
長々と失礼いたしました(汗)
今後も楽しみにさせて頂きたく存じます。
投稿: Booty☆KETSU oh! ダンス | 2013年2月 1日 (金) 00時33分
Booty☆KETSU oh! ダンスさん、はじめまして、コメントどうもありがとうございました。
戦争レクイエムは、やはり真剣に一度通して聴いてみないと、その真価を理解できないですね。
ディエスイレの激しさばかりでは、わからないレクイエムという意味では、他の名作と同じです。
でも、大戦を通じたリアルな音楽としての側面は、反戦=平和希求という、他にないレクイエムの姿ですね。
これからもずっと聴いて、大切にしていきたい音楽だと思ってます。
どうもありがとうございます。
投稿: yokochan | 2013年2月 2日 (土) 00時34分
愚生が持っておりますのは、ロバート・ショウ指揮のTELARC盤でございます。Deccaのヴィシネフスカヤ、ピーター・ピアーズ、F・ディースカウが揃った作曲者指揮の盤も、エポック・メイキングなり‥と、重々承知しておりましたけれども、何故か上記盤から入ってしまいました(笑)。でも、ある種の中庸的な演奏で、はじめて作品に接するには好ましいかも‥等とも思っております。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年12月20日 (日) 07時01分
合唱の神様、R・ショウ盤は実は未聴なんです。
アメリカのオケと合唱ですから、中庸的になるのでしょうね、それもまた、この作品の本質かと思います。
毎年、とっかえひっかえ、いろんな「戦争レクイエム」を聴いてますが、やはり強烈なメッセージを秘めた音楽と確信します。
投稿: yokochan | 2020年12月22日 (火) 08時37分