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2013年2月22日 (金)

セルゲイ・クドリャコフ・高橋和喜・山本裕康 室内楽の夕べ

Shinnbunkinenkan

横浜の歴史的建造物のひとつ、日本新聞博物館の入るこの建物は、昭和4年築。

関東大震災で米領事館が消失し、そのあとに震災復興の願いも兼ねて建てられた商工奨励館がその元となっているそうな。

靴の音が豊かに響く、荘厳なる建物ホールでした。

ここには、レストランやカフェも入ってます。

Koudriakov

   「セルゲイ・クドリャコフ 室内楽の夕べ」

   モーツァルト ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 変ロ長調K.378

   ベートーヴェン チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 Op102-1

   ショスタコーヴィチ ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 op67

       Pf:セルゲイ・クドリャコフ

       Vn:高橋 和貴

       Vc:山本 裕康

          (2013.2.21 神奈川県民小ホール)


ご覧ください、この渋いけれども唸らせられるプログラム。

モーツァルトの中期、ベートーヴェンの後期、ショスタコーヴィチの最盛期、大作曲家されぞれの特徴がいかんなく味わえる時期の、いずれも心に多く響いてくるような作品たち。

クドリャコフ氏は34歳のモスクワ生まれの気鋭で、数々の実績を持つ堂々たるピアニストであります。
大の日本びいきのようでして、これまでも何度か来日し、日本の音楽家との共演も多く重ねております。
 今回は、トリフォニーでのリサイタルと、横浜での室内楽のふたつのコンサートを携えての来日。

そして、われらが山本裕康さんの登場もあって、こちらの演奏会に挑んだのでした。

モーツァルトのソナタで登場したふたりは、なかなかに堂々たる体格のコンビ。
クドリャコフ氏はある程度予想はしてましたが、高橋氏は、チラシ写真のちょっと少年ふうの雰囲気とは大違いの、タカ&トシの片一方風な・・・。
ギャラントで緩やかな歌心地がうれしいモーツァルトのソナタは、ピアノがヴァイオリン以上に幅を聴かせるモーツァルトならではのものですが、クドリャコフ氏の硬軟豊かなレンジの広いピアノは、極めて余裕綽々で大らかなものです。
そして驚きは、高橋さんの豊穣感あふれる並々としたあふれんばかりのヴァイオリンの音色。このモーツァルトは余裕ありすぎで、最後のショスタコではその力量に驚くのでした。
高橋さんは、ウィーン在住の実力派で、内外に活躍し、サイトウキネンでも弾いてるようです。

そして、お馴染みの山本さん。聴きなれ、耳慣れているものだから、最初から安心感がある。聴くのに構えなくていい。いつもの優しく生真面目な山本裕康さんがそこにいる。
音楽を聴くことって、こういうことも大事だと思う。
神奈川フィルもそうだけど、いつも近くで聴けて、自分のあり方を確認したりする存在。
勝手すぎるかもしれませんが、いつもそばにいてくれる安心感なのです。
 後期の澄んだ境地とともに、形式を少し外れて自由な雰囲気満載の4番のソナタの音楽のよさそのもを堪能できた演奏でした。
ベートーヴェンの素顔は、あのいかつめらしい肖像のものではなく、本当は柔和でまっすぐのものではなかったろうか、とこの曲と演奏を聴いて思いましたね。

休憩後は、ショスタコーヴィチのピアノトリオ。
まともに聴くのは初めてであります。
ついつい、交響曲やオペラばかりを聴いてしまうのですが、室内楽・器楽のショスタコさんは、これからの音楽人生の課題であります。
いやぁ、うわぁ~、なんて面白い、すごいんだろ。
喜怒哀楽、人間すべての様相が30分4楽章にしっかり込められているような気がした。
山本さんのフラジョレット奏法によるアイロニーに満ちた旋律がそれこそ繊細に弾かれて始まるこの曲。
4つの楽章からなる濃密な音楽空間は、聴く側を異常な緊張状態に追いやる。
タコさんの「マクベス夫人」のそれも異常なまでの緊迫感は、長い交響作品のようだと思ったりもしていますが、あの暴力とシニカルな笑いと、そして救いようのない哀しみと悲劇は、思えばショスタコの音楽のすべてに共通のものではなかろうか。
それが以外にも、さほど深刻ではなく、作者は冷静に音楽の呼び覚ます共感や興奮を計算しつくしているところが、毎度のパターンの踏襲から読んでとれる。

それにしても、こうして眼前でライブ演奏にふれると、まんまとショスタコの罠にハマって、一喜一憂してしまう自分があるのだ。
でもともかく鮮やかかつ真剣さに満ち溢れた凄まじいほどの集中力ある演奏だったと思います。
クドリャコフくんは、見た目で余裕かましているように思えましたが、顔と体を駆使して音楽にのめり込んでいた高橋氏、いつもにまして目を閉じたり、奏者どうしのコンタクトに励みつつ、顔を上気させていった山本さん。
みなさんの熱演が、素晴らしいトーンの県民小ホールにこだまし跳ね返ってくるようでありました。
ちょっとこれからはまりそうな音楽であります。いい!

アンコールは、悲しみの哀歌である深遠なる3楽章と、再び登場しての、タコさん特有の疾走するはちゃむちゃ2楽章。
演奏する3人もお疲れだし、聴くわたしたちも、へとへとになるくらいの濃さがありました。
あの3楽章は、今日も何度も聴いて嘆息しておりまする。

いやぁ、実に意義深いコンサートでした。ありがとうございます。

終演後は、ご一緒したyurikamomeさんと中華街へ。

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コメント

昨夜はありがとうございました。ここの所バッハからショスタコまで何かと気持ちを保つのが大変で、ちょいとばかり精神的に疲労しておりますが、ちょっと休んで再び立ち上がりたいと思います。また宜しくお願い致します。

投稿: ちぇろやす | 2013年2月23日 (土) 00時32分

ちぇろやすさん、昨晩はこちらこそ、素敵なコンサートをありがとうございました。
バッハの無伴奏もやられていたのですね。
加えて、昨日はベートーヴェンにショスタコですから、同情いたします。とかいいながら、聴き手の私たちは、とてつもなく楽しませていただいておりますものですから気楽なところが、申し訳ありません。
しっかり休養してください。

鞭を打つようで恐縮ですが、ブリテンの無伴奏なんぞを是非に、とか思っておりますところです。聴き手は、勝手なものですね、これまたすいません(笑)

投稿: yokochan | 2013年2月23日 (土) 01時24分

おはようございます、良いひとときでしたね。
演奏があまりに入魂だったので、疲れ方もひとしおでしたが、アフターコンサートのおかげで心地よい後味でした。
それにしても、あのショスタコーヴィチは、今でも耳に残っています。凄かったですね。
そして清々しいモーツァルトも味わい深いベートーヴェンも。
まだまだ聴かないともったいない演奏家も曲もありますね。

投稿: yurikamome122 | 2013年2月23日 (土) 06時32分

yurikamomeさん、先日はどうもお世話になりました。
濃密な時間でしたね。
三者三様、演奏家も作曲家も、それぞれに味わいがありました。
お馴染みの山本さんも素晴らしかったし、あのヴァイオリンには驚きでした。
そうですね、音楽の幅はほんとうに広いです。
またよろしくお願いいたします。

投稿: yokochan | 2013年2月23日 (土) 15時03分

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セルゲイ・クドリャコフ&高橋和貴&山本裕康 室内楽の夕べ 公演日:2013年2月21日(木) 開演:19:00 会場:神奈川県民ホール・小ホール ピアノ:S・クドリャコフ ヴァイオリン:高橋和貴 チェロ:山本裕康 モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K378 ベートーベン/チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 Op102-2 ~~休憩~~ ショスタコービチ/ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 Op67  もちろん我らが首席チェリスト、裕康さんお目... [続きを読む]

受信: 2013年2月23日 (土) 06時33分

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