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2013年2月12日 (火)

ブリテン 「ポール・バニヤン」 ヒコックス指揮

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桜は一気に劇的にやってくるけれど、梅はじわじわと、静かに咲き始め、緩やかに甘い香りを漂わせます。

年取ると、梅の風情の方が好きだったりします。

梅見酒という概念はないでしょうかね?

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今日は、ブリテンのオペラ16作中の第1作、「ポール・バニヤン」を取り上げてみます。

二つの幕とプロローグからなるオペレッタと副題されております。

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  ブリテン 「ポール・バニヤン」 Op.17

  3匹の野生のガチョウ:パメラ・ヘレン・ステフェン、レー・マーリン・ジョンソン
                リリアン・ワトソン
 ナレーター:ピーター・コールマン・ライト 
 ポール・バニヤンの声:ケネス・クラハム(語り)
 簿記係ジョニー・リンクスリンガー:クルト・ストレイト   
 ポール・バニヤンの娘ティニー:スーザン・グリットン
 腕のいい料理人ホット・ビスケット・スリム:ティモシー・ロビンソン
 ふたりの腕の悪い料理人サム・シャーキー:フランシス・エガートン
       〃         ベン・ベニー   :グレーム・ブロードベント
 職長ヘル・ヘルソン:ジェレミー・ホワイト  
 4つのカブ~アンディ・アンダーソン:ニール・ギレスピー 
  〃 ペート・ペターソン:ニール・グリフィス 
  〃 ジェン・ジェンソン:クリストファー・ラックナー
  〃 クロス・クロスファルソン:ジョナサン・コード
 農夫ジョン・シェアーズ:ロドリック・イール
 西部組合の男:ヘンリー・モス  犬フィド:リリアン・ワトソン
 二匹の猫モペット、パペット:パメラ・ヘレン・ステフェン、レー・マーリン・ジョンソン
 3人の木こり:ジョナサン・フィッシャー、クリストファー・ケイト、ジョン・ウィンフィルド
 その他、ブルース・カルテット、ヘルソンのとりまき・・・・・

  リチャード・ヒコックス指揮 ロイヤル・オペラ管弦楽団/合唱団
    
              

             (1999.4 @ロンドン、サドラーズ・ウェルズ劇場)



                     
ベンジャミン・ブリテン(1913~1976)のオペラ第1作。
16作あるオペラ作品のスタートは、1941年、アメリカ滞在時代。
世はまさに、世界大戦中のこの頃、ブリテンは戦争を心から憎み、反戦忌避でもって、アメリカに滞在し、英国に戻ることをしなかった。
その行為は、のちに良心的兵役拒否として帰国後認められるなど、その生涯を通じた反戦平和の姿勢を浮き彫りにするものでした。

当時、アメリカにやはり滞在駐留していた詩人・作家のウィスタン・ヒュー・オーデンと知り合い、彼の台本によりアメリカ時代に作り上げたのが「ポール・バニヤン」。
オーデンも実は、ブリテンと同じく、あっちの恋愛嗜好だったことは、ここではあまり書く必要はないでしょうし、生涯のおトモだち、ピアーズはすでにお友達状態だったけれど、ここでは登場してなかったことが意味シンですが、これはまた触れるまでもないですね。

「ポール・バニヤン」とは、アメリカの大地のクリエーターとして伝承される存在で、身長8mの巨人の木こりのこと。青い牛ベイブをいつも連れていて、アメリカの山や湖、川も彼が創成したというおとぎ話があるそうな。

ブリテンとオーデンは、アメリカに在住し、その感謝もこめて、そのアメリカが世界に希望を与えるような内容としたオペレッタを作り上げたのであります。
アメリカに人々の心の中にある、自由やフロンティア精神、融和などの感情の象徴のように扱う主人公「ポール・バニヤン」は、実物が出てこずに、語りだけで登場するのです。
そして伝説中の人物としての創造者としてプロローグで生い立ちが語られ、本筋のオペラでは彼と共存する人間たちが自立してゆく様を20世紀を舞台にして描かれております。

時、まさに第二次大戦中、このような陽気なアメリカが生み出されたことは、やはり驚きで、悲壮感漂う日本の当時を考えるとやはり物心両面で上回っていたのだと思わざるをえない。
もちろん日本のように神代の歴史を持たないアメリカの大地創成物語は、かなりおおざっぱで、神話の域には達していないのですが、ともかく明るくてダイナミックな存在であります。

この作品の前、すでに「イリュミナシオン」や「シンフォニア・ダ・レクイエム」をはじめ主な管弦楽・協奏曲作品を完成させていたブリテンは、多彩な音色や響きの管弦楽手法や、詞と歌との巧みな融合など、後年さらに磨きのかかる独特の作風をこの初オペラ作でも十分に見出すことができます。

ここので特徴は、アメリカンテイスト。
冒頭からコープランドを思わせる、そうアメリカの大地の目覚めのような原初的な響きが聴かれます。その後も、こうした雰囲気は、夜は更ける場面、朝が目覚める場面などに感じ取ることができます。
 それと、このオペラの進行役、ナレーターが各処で歌う小粋なバラッドは、ギターとヴァイオリンを背景に、それはもうサウス・アメリカンの雰囲気満点。
さらにブルースもあり、ゴスペルもありです。

もちろん、クールなブリテン・サウンドも満載でして、ハープやピアノの絶妙な使い方、後に虜となる東洋風の音の運びも確認できました。

このように、その音楽はアメリカンでユニークであるとともに、しっかりブリテンの刻印が押されておりまして、3年後の「ピーター・グライムズ」のその合唱=群衆の集中的心理の圧倒的な効果の萌芽を見る思いです。

さらに、ブリテンならではの男声重視。
狂言回しは軽妙なテノール(ナレーター)だけど、陰りを持ち、最後は舞台を引き締めるやくわり簿記係リンクスリンガーは、おそらくピアーズが似合いそうなスッキリ系かつ少しダルなの英国系テノール。
素晴らしいアリアも準備されてます。
あとは、複数の性格テノールにバリトン。
女声は、ポール・バニヤンの娘のソプラノに美しいモノローグが用意されてますが、若い男女のカップルの扱いで、女声のほかの諸役は動物役で、舞台に奥行きを与えるようなロールで、決して主役級でないのです。

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プロローグ

森林。古木が生まれてこのかた、ずっとここにとどまっていると歌い、若い木たちは、もうたくさんだ、新しい世界を、と歌う。
そこへ、3匹のガチョウが、もうじき青い月の日に、ポール・バニヤンが生まれるよ、と歌う。
彼は、森に夢と行動する力、大地に新しい生命をもたらすのよ、と。

ナレーターが、ポール・バニヤンの生まれたくだりと、日に6インチ背が伸び、8歳ににしてエンパイアステートと同じ高さになった云々と陽気に歌います。
そしてポール・バニヤンは、青い牛とともに、南に向かって進みます。

第1幕

第1場 森のなか


ポール・バニヤンは、新しいアメリカを作り出すため、かれとともにする開拓者を募集します。
まずヨーロッパ各地に木こりを求め、さっそく木こりたちがやってきて元気に歌う。
そしてボランティアとして農夫も求め、最適の連中が集まります。
そこへ組合の男が電報を持ってきて、それはスゥエーデン王からのもので、自国に最適の伐採主がいると案内がきて、さっそくその人物ヘル・ヘルソンがやってきて加わります。
さらに、料理人ふたりもジョイン。
旅人のインクスリンガーが到着しますが、無報酬と聞くと空腹で一文無しなのに、参加を断って去りますが、ポール・バニヤンは、きっと帰ってくると予見します。
料理人たちは、彼ら人間たちとの友好のため、一匹の犬と二匹の猫を一緒に仲間にすることを提案します。
またあらわれたインスクリンガーは、やはり空腹。簿記係のポストを得ます。

ナレーターが、ポール・バニヤンが自分に見合う妻を探し、結婚し、そして娘ティニーが生まれますが、間もなくティニーの母は亡くなってしまった・・・と歌います。

第2場 キャンプにて

ポール・バニヤンがキャンプを留守にしているあいだに、働き手から料理人たちへの不満が爆発します。毎日、スープと豆ばかり。インクスリンガーは、君たちの料理は素晴らしいがせめて月イチでも違うものをやってくれないかと頼むが、料理人たちは怒って出ていってしまう。
そこへ現れたのがカウボーイの、ホット・ビスケット・スリム。
インクスリンガーは、彼に料理ができるか聞くと、いろんなものが作れるの一言に、即、仲間入り。
 ポール・バニヤンが、傷心の娘とともに帰還。
インクスリンガーは、ひとり、自分の人生は無駄ではないのか・・などと複雑な胸の内を歌います。(この歌はなかなか素晴らしい)
 さらに、ティニーは、母への思いを悲しく歌います(この歌もまた素晴らしいもの)。
そこへ、スリムが出てきて、料理の手伝いをティニーに乞い、彼女も気安く請け出てゆきます。

ポール・バニヤンは、インクスリンガーに、留守中のことを尋ねると、ヘルソンが思いこみすぎることと、あまり良くない仲間といること、何人かの木こりが、仕事に飽きてきて、農業でもやってみたいと思っていると話します。
インクスリンガー、君はどうだの問いに、わたしは全然問題ないですと答えますが、ポール・バニヤンは、わかっているよ、君の気持は、きっと思いがかなうからしばらく待つことだ、と語りは、二人は信頼を交わすようになります。

第2幕

第1場 森からの撤退


ポール・バニヤンは、木こりたちに、自分と一緒に肥沃な土地に向かい、農業に舵をきることを語ります。開発はあらたな状況に入ったと、それは、心から要望する大地なのだと。
森からの撤退にあたり、片づけ部隊としてヘルソンとその4人の仲間を命じます。
その4人は、ヘルソンに、ポール・バニヤンとインクスクリンガーへの反乱を起こすように持ちかけるが、ヘルソンはそれを嫌い彼らを追い出します。
その夜、ヘルソンは、青鷺の声、月、夜のしじま、カブトムシやリスなどの声に悩まされます。それらは、ヘルソンが失敗の道を歩んだとと口々に歌うのです・・・・。
犬のフィドは彼を慰めようとしますが、ヘルソンはフィドを追い払ってしまうし、猫たちは、それを見て、自分たちが犬のように感傷的になれないことを歌います。
 ポール・バニヤンが、ヘルソンに友よ、と声掛けをしますが、錯乱ぎみのヘルソンには聞こえず、飛び出していってしまいます。
 一方、若いティニーとスリムはすっかりいい仲になって愛らしいラブソングを歌ってます。
そして人々のなかに、氷のように冷たくなったヘルソンが運ばれてきます。
人々は、てっきりヘルソンが殺されてしまったと思い、思いきり哀しい葬送の合唱が歌われる。。。。ものの、ヘルソンが、ここはどこ?的に起き上がり、一同は驚愕とともに、大いなる歓喜に包まれます。
ポール・バニヤンとヘルソンの仲直りと一同が一心一体となり、あらたな発見と門出を歌います。なかなかに感動的な音楽です。
そのあとは、またまたナレーターが登場し、軽妙な歌を聴かせます。
 アメリカがどんどん豊かに進化してゆくさまを大はしょりで。
そして季節は冬、ポール・バニヤンともお別れ。クリスマス。

第2場 クリスマス・パーティ

人々は、楽しく大騒ぎ、ご馳走も一杯だ。
インクスクリンガーが場を取り仕切り、いろいろと目出度い報告を。
マンハッタンでのティニーとスリムの結婚、アメリカ連邦の公共工事のプランニングにヘルソンが参加しワシントンで活躍するであろうことなど。みんな大喜び。
そこへ、また組合の男が自転車で電報を運んでくるので、聴衆もここではクスクス笑い。
ハリウッドからインクスクリンガーへの電報、それは映画会社の技術アドバイザーとして招聘だった。舞い上がるインクスクリンガーへ皆が讃え喜びます。
そしてインクスクリンガーは、最後に、私たちのもとを去るポール・バニヤンに、その悲しみを涙をこらえつつ、言葉を求めます。
一同は祈りの歌を口々に歌い、インクスクリンガーの「あなたはいったい誰だったの?」の問いに、ポール・バニヤンは答えます。
「夜が昼になるとき、夢が現実になるとき、わたしは常に共にいる。わたしは道であり、行動である」と。

                     幕

海外WIKIとCDリブレットとを格闘しながら、概略を書いてみました。
多少の齟齬はあしからず。

アメリカのフロンティア精神と友愛、勇気、チャンレンジ魂などを明るく、大きなスタンスでユーモアも交えて捉えた内容といっていいかもしれません。

最後の、ポール・バニヤンのちょっとしたスピーチを掲載しておきます。

  Ever day America's destroyed and recreated,

    America is what you do,

 

    America is I and You

    America is what you choose to make it


戦時滞在で、世話になったアメリカへのブリテンとオーデンのアメリカ讃歌でしょうか。

このあと、ブリテンは英国へ帰国し、復帰するのでありますが、次のオペラは3年後の「ピーター・グライムズ」。
オペレッタから、シリアスな社会派オペラに。
風刺の効いた楽しいオペラは、また少し間をおいて、「アルバート・へニング」として登場します。
その後も、時代寓話やシェイクスピア、キリスト教劇などなど、多面的なオペラを生みだしてゆくブリテンなのでした。

Hicox

今日のCDは、1999年にレア上演されたときのライブ音源。
ヒコックスの情熱が生んだたまもので、舞台の楽しさと聴衆の存在を間近に感じる、まさにライブ感満点の素晴らしい演奏でした。
歌手も、グリットンやコールマン・ライト、K・ストレイトなどなど、実力者揃いで、ほんと楽しかった。
2年ほど聴きこんで、ようやく記事にできました。

ブリテンのオペラシリーズは、あと5つです。

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コメント

今晩は。毎度、スリーパーです。

我が家の梅も3連休の間に3、4の蕾がほころび始め、
いよいよ梅の時期かと春待ち遠しい限りです。

さて、「花見」とは元来、奈良時代に始まったもので、
もともとは梅を観賞していたものだったかと。
ですから、本来の意味に立ち返ると、
花見=梅鑑賞
となりますから、転じて
花見酒=梅見酒
となるかと・・・。

yokochanさんの文章を見て、
高校時代に古典の文章の内容、時季とかを紐解いて
花=梅、花見=梅見
とたどり着き、後追いで確認したのを思い出しました。

投稿: スリーパー | 2013年2月13日 (水) 02時01分

スリーパーさん、こんにちは。
われわれ、神奈川中西部の人間は、桜もいいですが、梅に心惹かれますね。

いやはやそうですか、奈良時代にさかのぼり、それも梅見でしたか。
梅見酒は、ありの世界ですね。
盆栽でもよし、切り花で、床の間に置いてもよしの梅見酒となりそうです。
梅の里に近かった高校時代、そんな古典があったか否か、もう霞のかなたの思い出です・・・・・(笑)

投稿: yokochan | 2013年2月13日 (水) 09時39分

これほどの博識がおありで、語学力をも持ち合わせておいでなのに、クラシック音楽執筆界からお誘いがかからないのが、不可思議ですね。

投稿: 覆面吾郎 | 2019年10月19日 (土) 06時10分

おほめ頂き恐縮ですが、単に長く聴き続けているだけでして、中身はなにもありません。
音楽好きが仕事にしてしまうと、自分で楽しみを減じるように思いますね・・・

投稿: yokochan | 2019年10月21日 (月) 08時23分

アメリカは第二次大戦中、本国に被爆を受けなかった唯一の大国では、無かったでしょうか。後にCBS・コロンビアがメットと契約し、自社開発のLPシステムで全曲録音に踏み切れたのも、そのお蔭ではなかったでしょうか。ブリテンのこのオペラ、以前Verginレーベルにも録音が在ったような覚えがあるのですが、残念ながらまだ一音も耳にしておりません‥。

投稿: 覆面吾郎 | 2020年12月21日 (月) 12時32分

アメリカの強さは、謀略の数々もありますが、経済力の強さと、すぐれた民主主義にありました。
日本が耐え忍んで国民生活を送っていた戦時、アメリカはゴージャスな銀幕の作品を数々も作ってましたね。

「ポール・バニヤン」の初録音は、ご指摘のヴァージン・クラシックから出てたものです。
アメリカのミネアポリスでの録音で、あまり名の知らない指揮者や歌手たちによるものだったかと記憶します。
ヒコックス盤があれば、歌手もそろっているし十分かと・・・(笑)

投稿: yokochan | 2020年12月22日 (火) 08時46分

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