神奈川フィルハーモニー第287回定期演奏会 金 聖響指揮
冷たい雨のみなとみらい6時36分。
イルミネーションの反映がとても美しいのでした。
これから聴くマーラーにときめく自分。
マーラー 交響曲第10番 嬰ヘ長調 (デリック・クック補筆完成版)
金 聖響 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(2013.2.15 @みなとみらいホール)
聖響&神奈川フィルのマーラー・チクルスは、来シーズンの「6番」再演はあるものの、今宵の「10番」でひとまず完結。
あの震災翌日の6番も含めて、その全部を聴くことができて、大満足であります。
コストのかかる8番は、今後のお楽しみとして、いずれも好演ばかりの高度なマーラを聴かせてくれた指揮者とオケ、そして楽団に感謝したいと思います。
そして「10番」全曲。
ステージには、マークが林立、上からも何本も。普段見慣れない光景です。
ライブレコーディングされ、CDとなるとのこと。
日本のオーケストラで10番全曲を録音するのは初の快挙にもございます。
緊張の開始、ヴィオラの精妙な出だし。ここからして、この日の10番の成功はすでに聴き取れました。ヴィオラ大活躍の10番は、この魅力的な中音の楽器の真価がもっとも発揮される音楽だと思う。
そして、第2ヴァイオリンがこれまたこんなに活躍する曲だとは思ってもみなかった。
対抗配置が、これこそ活きる音楽だった。
この1楽章アダージョは、「大地の歌」の時に演奏されたものよりは、はるかに上質で、息も継ぐこともできないほどの緊張感あふれる名演でありました。
一弾きで山本さんとわかる素晴らしい音色のチェロ。
絶叫のクライマックスのあと音が引いてゆくなか一本残るトランペットは三澤さん絶好調。
高音をどんどん更新してゆく、第1ヴァイオリンをじっと見るのはとても緊張をしいられることですが、この浄化されゆくエンディングはともかく美しかった。
変拍子吹き荒れる第2楽章。おやっ?と思う個所もあり、できるだけ指揮者は見ないように楽員さんに注力。
この楽章のトリオであるレントラーが好きで、ふだん知らぬ間に口ずさんだりしていている自分。モザイクのような不可思議なスケルツォに組み込まれた、この大らかな場面は、神奈川フィルの優しい音色がばっちり決まったようだ。
最終部の派手な鳴りっぷりもうれしい聴きものでした。
プルガトリオ3楽章は、もう少しテンポを落として、えぐりを深く、この楽章の特異性を際立たせてもよかったかも。とくにサロメを強調して欲しかったかも。
影の踊りのような、マーラーの揺れる心情。木管群、この日好調。
悲劇色の強い4楽章。死の舞踏のようなワルツは、石田コンマスのエッジの効いた華奢なヴァイオリンが素敵すぎだ。
しかしこんな皮相が音楽が胸に沁みる。
聴いていて、だんだんとあの5楽章が近づいてきてるかと思ったら、緊張が高まり、そして切なくなってきた・・・・。
バスドラムをここで叩くならこの方しかいない。そう、あの伝説の6番のハンマーの平尾さん。
前楽章の最後のシンバルの態勢から、一打一打と完璧なる打音が、ホールに響き渡り、異様なほどの緊張が高まる。
不気味なテューバのあと・・・・・、諸行無常。天を見上げるような哀しみと空虚感、そして優しさまでも同居する素敵すぎるフルートのソロが来る。江川さんのソロは本当に素晴らしかった。もう涙が出てきてしまった。ホールの天井を見上げてしまった。
弦にこの旋律が移り、連綿と歌われてゆくが、もう涙が止まらない。
でもそこにドラムとテューバも帰ってきて、わたしに鞭をくれる。
次いで活気ある場面に突入するがオーケストラも次々と大変なものだと妙に感心。
その後訪れる1楽章のカタストロフの再現、そして冒頭主題のホルンによる咆哮には正直参りました。最高でした。
そのあとの平安は、まるでブルックナーの緩除楽章のクライマックスの後のうように感じた。
その平安が、池の波動のように、ゆっくりゆっくりとオーケストラに広がってゆくのを、眼前が涙でぼやけながら見守るようにして聴いていました。
なんて美しく哀しい光景なのでしょうか。
目と耳で感じて心でも泣いてましたよ。
総奏の場面では、感動あまり慟哭しそうになってしまった。
聖響さんも、オケのみんなも、感動を一杯にあらわしながら指揮し、演奏している。
ホール全体も、完全に感動にうちふるえているのがヒシヒシとわかりました。
最後の音が静かに消えても、ステージの上も、ホールも微動だにせず、拍手も起こらない。完全無音の世界は何秒も続きました。
「君のために生き!君のために死ぬ!アルムシ!」
マーラーが最終場面のスケッチに妻アルマへの思いの丈。
素晴らしい演奏会でした。
このコンビのマーラーに別れを告げるのも寂しいものでした。
感動の後は、喉が渇き、お腹が空くもの。
嗜好を変えてお店のサンプル写真を加工してみました。
いつもお馴染みアフターコンサートは、お疲れのところ、楽員さんやエキストラの方や現役の音大生さん、いつもお世話になってる楽団の方もご参加いただき、さらに遠来の音楽仲間IANISさんも含め、大変充実した楽しい会でした。
みなさま、お世話になりました。
日付が変わった桜木町駅前。
今回もまた終電コース。
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コメント
今晩は。演奏会観劇、お疲れ様でした。10番の5楽章版が日本のオケによってレコーディングされるのは初めてなのですね。初演は今ネットで調べたら渡邊先生と東京都交響楽団のようですが。日本クラシック音楽史上語り継がれるべき演奏会をお聴きになったのですね。私も行きたかったです。ブログ主様は音楽を聴いてよく落涙されますが、それ、全然恥ずかしいことじゃないですよね。源氏物語の時代には成人男性でも嬉しかったり悲しかったりするとよく落涙していますし。私なんか架空の大学と下宿を舞台にした学園漫画「藍より青し」で思い切り泣いてますから(笑)。
投稿: 越後のオックス | 2013年2月16日 (土) 18時13分
越後のオックスさん、こんばんは。
初の栄冠を、われらが神奈川フィルということが、まずもってうれしいことです。
そして多少の祖語はありましたが、ほぼ完ぺきな演奏はきっと10番のCDの中でも独自の存在を誇りえるものとなると思います。
ちなみに、本邦初演者の渡辺先生のお孫さんが、ときおり神奈川フィルのヴィオラにいらっしゃいまして、今回も副主席の座で弾いておられました。
すごいことです。
落涙は、わたくしは茶飯事のことでして、ほぼ始終です。
年とともに・・・という面もありますが、ほんとうに好きな音楽に接するとどうもいけません。
涙は感情が豊かな証と思い、この年になるとはばかること自体が恥ずかしく思ったりしてます。
泣かない人はいけません。
そこまで思ったりしてます・・・・。
投稿: yokochan | 2013年2月16日 (土) 23時58分
yokochanさんはじめ神奈川フィル応援団の皆様、お世話になりました。ありがとうございます。
あのような演奏を聴いてしまったら、多くを語ることなど不可能です。そしてマーラーの音楽から、個人的なことではありますが、慈愛と慰藉を受けることができました。10番の音楽は正にそのような音楽なのだということを、改めて確認でき、今更ながら、この交響曲が「全曲」の形で演奏されるべき意味を理解することができました。アフターでの話題にのぼっていたさまざまな瑕疵も、第10番の音楽的真意を衝いていたことを考えれば、大した問題ではありません。
レコーディングもさることながら、小型のハードディスク・カメラが10個ほど配置されていました。映像の形で出版されるのでしょうか?
ともかく、一刻も早い発売を楽しみにしたいと思います。
投稿: IANIS | 2013年2月17日 (日) 02時54分
どうもその節はお世話になりました。
国内初ですかあの曲の録音は。
なかなかいいところに目を付けましたね。
レコーディングは高水準で続けられたようですからそちらもぜひ期待したいです。
この曲を神奈川フィルで聴くのはもう数年来の夢でした。やっとそれが叶いました。
多種の傷なんてどこのオケでもある話です。そんなことは鑑賞する上で、そう大した事ではありませんね。
聴くべきところはもっと他にありますよね。
次回は半月後、またまた楽しみです。
そして、ブルーダル基金、いい結果が出るといいですね。
いろいろありがとうございました。
投稿: yurikamome122 | 2013年2月17日 (日) 05時52分
IANISさん、遠征どうもお疲れさまでした。
厳しいシチュエーションのなか、お越しになられ、そして神奈川フィルのマーラーをご堪能されたこと、とてもうれしく思います。
わたしは、まだ10番初心者の方ですが、アダージョだけでは我慢できなくなってしまいました。
全曲の音楽としての精度の高さがよく理解できましたし、その難しさもよくわかりました。
あのカメラは、わたしも気になりました。
ビデオ盤もできるといいのですが、HPなどのプロモーション用かもしれません。
またのお目見え、ないしは新潟行きを実現させて、再度一献お願いいたします。
投稿: yokochan | 2013年2月17日 (日) 13時00分
yurikamomeさん、先般もどうもお世話になりました。
素晴らしい音楽と演奏に酔いしれました。
日本人作曲家以外での国内オケ初は、ファンとしてはとてもうれしいことですよね。
音盤の完成が楽しみです。
いろいろとお試しで聴かせていただいたおかげをもちまして、この曲のよさを充分理解したうえで挑んだ本番コンサート。
ちょっと泣き過ぎてしまい恥ずかしいのですが、神奈フィルの美しい音もその涙の要因のひとつでした。
次回も泣きのラフマニノフですが、ちょっと間が短かすぎますね。でも楽しみです。
投稿: yokochan | 2013年2月17日 (日) 13時07分
凄い企画なのに会場は満席ではないのが残念。しかし演奏は素晴らしかった。マーラーの脳内で作り上げられた虚構の世界像、それをクックが探検しマップを作り、金聖響が聴覚的に再現する。
宇宙船が氷の惑星に近づいてゆく、着地寸前のこの惑星(あるいは衛星)には生命が花咲いていることに気がつく。空気は冷え冷えと澄み何とも美しい情景であるが、突然大地の咆哮が聞こえ、この星は悲劇の星であると気づく。ここはわが地球なのかもしれない。
第1スケルッツオからは魑魅魍魎が跋扈する不思議な世界だ。第2スケルッツオ終結近くから勇敢なる死を遂げた消防士の葬列が起こり聴き手の胸は破裂しそうに高まる。そして強烈な一打!
終楽章はただただ感動の渦に巻き込まれる。すべての音が終わっても世界は終わらない。マーラーの代理人マエストロ金聖響が現実世界に戻った時、少しずつ拍手が起こり会場全体に広がる。現実に戻ったのに体はまだ酔っている。こんなに素晴らしい体験は久々だった。
投稿: マーロウ | 2013年2月19日 (火) 11時43分
マーロウさん、こんばんは。
金曜の晩は、なかなか難しいですね。
しかし、当日は外は寒風吹く天候だったのに、時間とともに、熱するすごいステージでした。
素晴らしいコメントありがとうございます。
拝読していて、当日の感激がまた蘇ってくるようです。
あのドラムの打撃は衝撃的であり、叫びのようでしたね。
その後の5楽章の無情ともいえるくらいの美しさは、ホールに居合わせたすべての人をのみこんでしまう美しさでした。
あの静寂は、神奈川フィルの聴衆も演奏の一員として誇っていい素晴らしい沈黙の時代でした。
演奏終了後、応援メンバーで集うのですが、今回はドラムを叩いたその方、ファゴットの方、エキストラの方々などともお話ができました。
貴重なお話をたくさん頂戴しました。
このような交流ができるのも、神奈川フィルの魅力でございます。
コメントどうもありがとうございます。
投稿: yokochan | 2013年2月19日 (火) 22時58分