神奈川フィルハーモニー第289回定期演奏会 金 聖響指揮
日もだいぶ延びまして、ご覧のとおり、6:23、みなとみらいは薄暮です。
ぎりぎり飛び込みのいつもより、30分早い到着の神奈川フィル定期公演。
何故って、シーズン開幕の本日、ロビーコンサートが復活したのですから。
ボッケリーニ 弦楽五重奏曲ハ長調G349より
Vn:青木るね、鈴木浩司 Vla:高野多子 Vc:山元裕康、長南牧人
コンサート開始前の耳ほぐし。
ボッケリーニのギャラントな音楽に、今宵、耳に厳しい近現代曲を聴く前の準備が整いました。
ブーレーズ 「ノタシオン」 Ⅰ、Ⅳ、Ⅲ、Ⅱ
ストラヴィンスキー バレエ組曲「火の鳥」
バレエ音楽「春の祭典」
金 聖響 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(2013.4.26 @みなとみらいホール)
ストラヴィンスキーの音楽をずっと演奏し続けてきたブーレーズ。
それがキーワードになるような、巧みな演目。
88歳の作曲家兼指揮者のピエール・ブーレーズは、いまだに現役。
指揮棒なし、ポーカーフェイス、手のひらで切れ味鋭く、精緻で、ダイナミックな音楽を巧まずして導きだす大巨匠。
格が違うといえば、あまりにも違いすぎるのですが、聖響さん、意欲的なプログラムに果敢に取り組んだはいいが、これらの音楽に必須の鋭利な鋭さと見通しのよさがどうにも欠けていたように思えました。
同じように、指揮棒なし、ニュアンス豊かに、拍子もきめ細やかに取ろうということでしょうか、棒なし聖響さんは久しぶりでした。
だけどかえって、それが打点の不明瞭さを生んでしまったように思います。(ただでさえ・・・)
ブーレーズの指揮者としてのすごさは、その類まれなる集中力と音符の分析力です。
ノタシオンのオーケストラ化構想は、1976年バイロイトでのリング指揮の年になされたとプログラムにありました。
その年のリングのFM放送は、いまでも覚えてますが、ものすごいブーイングで、準備不足のブーレーズに対するオーケストラの抗議も激しく、練習中、違う曲を弾いたりしてもスコアに首を突っ込んだまま気がつかない指揮者を揶揄したりする記事を読んだものです。
しかし、翌年、ブーレーズは、14時間に及ぶリングを完璧に把握し、自分のものとして再度登場し、聴衆も、オケも完全制圧してしまったのでした。
この日は、そんなブーレーズのことを思い出しながら聴いたコンサートなのでしたが、一番おもしろかったのは、ノタシオン。
縦の長い指揮台からはみ出すスコア、すなわち、超大編成、ステージ、ピッチピチのオーケストラが綾なす色彩的な音色の配列を体いっぱいに感じ取ることができました。
聖響さん、これは正解。
神奈川フィルのいつもの美音としなやかさも、冒頭から炸裂状態。
盛り上がるⅡのハルサイにも通じるリズミカルな展開は、ほんと面白くて、楽員さんも体で拍子をとってまして、こちらも見ていてノリノリ。
終れば、驚きの間髪いれずの大ブラボー。
ナイスでしたよ、「ノタシオン」。
前半のこの曲が大編成だったので、パーカッションが左右に二分したままで開始された「火の鳥」。
そこがステレオ的にちょっと違和感があったけれど、この日のパーカッションは主役でした。
このオーケストラを卒業されるベテラン重田先生の完璧極まりないマリンバ。
おなじみの味わい深い平田さん。
そして驚きは、ゲストティンパニストの神戸光徳さん。
若いこの方、イスラエル・フィルのティンパニ奏者なのです!!
ブーレーズの曲でも活躍してましたが、最後の「春の祭典」では、まるでティンパニ協奏曲かと思うような鮮やかかつ目覚ましい突出ぶり。いや、技量もさることながら、オケに巧みに溶け込みつつの神奈フィルの音色に親和したかのような艶やかさも併せ持った音色。
ともかくびっくり、すごかった。
「火の鳥」に話を戻すと、冒頭の低弦の着実さと明晰さは、いきなり、ロシアのストラヴィンスキーのまがまがしさに引き込まれる集中力高いもの。
緊張感も聴いててビンビンきました。
火の鳥の踊り、カッチェイ王の魔の踊りでは、ちょっと失速ぎみで、これはメリハリ不足の指揮台の方にもっと奮起して欲しかった。
しかし、静かな場面、ロンドと子守唄での美演はちょっと言葉にできないものがありました。
各主席の、とりわけ山本さんのチェロが引き締める歌と艶にあふれた音色は今宵も素晴らしいものでした。
それと終曲の感動的な盛り上がり、ホルンの森さんから始まる大団円。
ここでもキレの悪さ、妙なテヌート感はありましたが、オーケストラの自発的な輝きがおのずとこの素晴らしいストラヴィンスキーの音楽に息を吹き込むようで、じわじわ盛り上がる感動は並大抵のものではなかったです。
神奈川フィルの存続、ほぼ決定という事実も思い描きながら、楽員さんたちを見渡しながら聴くこの最終場面には、ほとほと感激しました。
後半は、わたくし得意の「春の祭典」。
もうお付き合いして40年になります。
血肉と化したこの曲、どこもかしこも好きなのですが、やはり若い感性でバリバリ、ガンガンごんごんとやっていただいて、人間の心に潜むバーバリステックな感性を解き放って欲しいと思いますが、アバドやトーマス、サロネンのようなかっこいい系の演奏が好み。
そういう点で、神奈川フィルというオーケストラは独自の煌めく細身の音色を持っていますので、この駿馬を巧みに乗りこなせば、スリムでスポーティーな「ハルサイ」が生まれるはずなのです。
このオーケストラで、この曲を聴くという思いも叶い、予測した結果はほぼ達成されました。
絶叫することのないフォルテ、シャイなほどのミステリアス感。
ホールに残響を残す鮮やかすぎるブラスセクション。
さきのティンパニ氏を中心とするパーカッションセクションの胸のすく超怪演。
レンジの広い楽器が上から下まで勢ぞろいの木管群のいつもの皆さんの伸びのよい、明るい音色。ことにファゴット氏、決めてましたよ、冒頭部分。
そして鉄壁の弦楽器。ハルサイでヴァイオリンソロの部分があって、あんなによく聴こえるなんで驚き。
透明感があるということは、オーケストラの団結力のよさだと思いますし、各主席を元にまとまっていて、また主席の皆さんも他セクションの方々と巧みにコンタクトしながら演奏しているのがわれわれ聴衆から見てとれるんです。
こんな光景を耳で聴きながらも眼で確かめられるのが神奈川フィルの音楽会。
指揮者のうしろ姿ばかりを見てなくて、オーケストラの全部をあっちこっち拝見しながら聴くのが神奈川フィルの音楽会の流儀。
それもこれも何故だかいまの指揮者のおかげ。
というわけで、わたくしの若いかっこいい、小俣の切れ上がったようなハルサイではなかったけれど、一面、神奈川フィルのハルサイでもありました。
思い切って、先だって聴いた川瀬クンのような若気の至り的な兄さんの指揮で聴いてみたかった神奈フィルのハルサイでした。
演奏終了後、重田さんの卒業セレモニーがありまして、会場が暖かい雰囲気と、そして笑顔につつまれました。
賞状を読み上げる石田コンマス。どこまでが賞状のとおりだか(笑)。
みんなに愛された重田先生。お疲れさまでした。
そのほのぼのムードのまま、ホワイエでは、新シーズン開幕と存続決定の発表の乾杯式がございました。
横浜発祥のキリンビールさんの提供によります麦酒にて、すこぶる気分よろしいコンサートの終了でございました。
ですが、まだ終わりじゃありません、ワタクシたちも。
こんなの食べて。
麦酒と紹興酒を飲んで。
また、お疲れのところ、楽員さんにもおいでいだき、こんなのもおいしくいただきました。
いつも思うけど、このエビマヨ、おいしい!
いつも思うけど、このあとの写真がない。
そう、飲むのと、神奈川フィルが大好きな仲間と話すのが忙しするもんで。
オーケストラのみなさん、楽団のみなさん、そして聴衆のわれわれ、お疲れ様でした。
今シーズンもよろしくお願いいたします。
追)神奈川フィル監修の本が、近日発売されます。
この記事はまた次に起こしたいと思います。
これもまたナイスでしょ!
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コメント
先日は楽しいひとときでした。
ノタシオン、面白かったですね。そしてストラヴィンスキーでもそうでしたけど、オーケストラに皆さんの機動性、さすがでした。
猛烈な個性のティンパニと、美しすぎるファゴットと、そんなことも印象に残りましたし、本当に存在感のあった重田先生を送る皆さんもあたたかかったし。
ホールを出た帰りが幸せなコンサートでした。
神奈川フィル監修の音楽案内書も楽しみですしね。
コンサートはもともと楽しみに行くものですけど、その楽しみが何倍にもなるのは終演後にいろいろと語り合い、分かち合える仲間がいることですね。
そして、新たな神奈川フィルの幕開けも予感させるコンサートで、とても楽しかった。
ロビーコンサートが聴けなかったのは残念でしたが、次回は遅刻をせずに行きたいと思います。
それにしても、聖響さん、踊るので精一杯で、最後なんだかわからなくなっちゃってましたね。
投稿: yurikamome122 | 2013年4月29日 (月) 06時43分
4/29のNHK朝、存続決定に対し、無料コンサートが開催されたというニュースがありました。
改めて、神奈川フィル存続おめでとうございます。
神奈川フィルを愛する皆様の熱意と地道な活動の賜物と感じ入りました。「ノタション」、「火の鳥」、「春の祭典」という、“超”意欲的な演奏会は、昨今の安直なプログラムが見受けられる他のオーケストラの定期にあって、注目すべきものでしたね。羨ましいです。
これからも神奈川フィルに注目していきたいと思います。
追記;某R芸誌の情報では、7月頃には2月のマラ10のCDが発売される由。楽しみです。
投稿: IANIS | 2013年4月29日 (月) 07時42分
こんにちは。
先日はいろいろおりがとうございました。
懇親会は楽しお話をさせていただきありがとうございます。
いつも結局終電~タクシーというパターンになってしまいました。
バレエのないストラヴィンスキーの生演奏、最高の音楽体験でした。
ブログを読ませていただき、さすがに音楽の大切なポイントはしっかり聴いておられますね。私はまじめに聴いていたつもりだつたのですが、ボーと聴いているところが多く、読ませていただき、勉強になりました。私の聴き方は感覚的に聴いて楽しんでいるだけで、楽器の演奏の大事なところを聞き逃していることを知り、お恥ずかしいです。
そんな拙い鑑賞記録ですが、私なりに書いてみましたので、眼を通していただけれると嬉しいです。
ご意見、ご指導など賜れば、感謝いたします。
投稿: dezire (Kazuo_Hasumi) | 2013年4月29日 (月) 08時20分
yurikamomeさん、こんにちは。
週が明けても、あの晩の鮮烈な体験は忘れがたいものがあります。
ブーレーズの音楽があんなに面白いとは。
やはり、ライブで聴くということ、それと神奈川フィルで聴けるということが大きなことなのですね。
シーズンスタートということもあり、いろんな催しや出来事が重なった盛りだくさんの一夜を締めくくる、いつもの一杯も、ほんとに楽しいものでした。
それにしても、あのダンスは、見慣れてしまったとはいえ・・・。
投稿: yokochan | 2013年4月30日 (火) 10時14分
IANISさん、こんにちは。
神奈フィル存続の報は、ショボイ毎日にあって、ほんとうに嬉しいニュースでした。
地道な活動が身を結びつつあるようです。
今回のプログラムも、在京オケでもお目にかかることのできない意欲的な内容ですし、次回は、ベートーヴェンとヴェルディですよ。
しかも、「アイーダ」序曲ですから。
日本初演とはなりませんでしたが、前奏曲でなく序曲を生で聴けるのは嬉しいです。
先般の10番の音盤も楽しみですね。
投稿: yokochan | 2013年4月30日 (火) 10時22分
dezireさん、こんにちは。
先般はどうもお世話になりました。
遅くまでかえってお引き留めしてしまったみたいで、すいません。無事にお帰りになられてなによりです。
わたしの場合、なさけないことに、バレエの舞台を一切観たことがありません。白鳥の湖でさえも。
舞台=オペラという偏重ぶりは、あらためなくてはならないとつくづく思いました。
かつて、日本の舞台でも、来日したメータ&イスラエルフィルやバレンボイム&シカゴが、贅沢にもピットに入り「春の祭典」が上演されたことがありました。
ストラヴィンスキーの場合、バレエ指揮者でなくともイケるということを思った上演です。
今回の演奏も、踊れる演奏だったでしょうか?
そう思いながら聴くこともまた楽しいですね。
投稿: yokochan | 2013年4月30日 (火) 10時34分