マタイ受難曲と某交響曲
東京タワーと桜を写しだす手水舎。
静謐で時間が止まったように感じます。
日本人でよかったな、と思うこの感性。きっと同感いただけると思います。
金曜の早朝、寝付かれず、なにげに見たメールは20年来の仕事仲間の訃報でした。
冷や水を浴びせられたかのような衝撃でした。
会社を辞めると、その会社内だけの付き合いだった人、取引先でも、会社の名前あっての付き合いだった人。
こんなにはっきりすることはありません。
でも、彼はまったく違いました。
変わらぬお付き合いを継続した仲間でした。
一緒に各地に出張して酒も飲みまくりましたね。
仙台では飲み過ぎて、酔いすぎて上着をまるきり裏返しで着てしまい、それで街に出ていこうとするものだから、大慌てでとどめました。内ポケットが丸出しで財布取りほうだいですから。
新潟の六日町には、豪雪のなかを何度か行きました。車で向かったとき、超大盛りのへぎそばを食べ、カーステレオでかけられた音楽は「マタイ受難曲」の最後の合唱。
彼はまじめで超かたい人なのでしたが、まさかクラシック音楽を聴くとはこのときまで知りませんでした。そして、さらにディープ・パープルやツェッペリンも。
多くの方から信頼を寄せられる生真面目かつ完璧な仕事ぶり。
姉歯事件以来、構造計算もできる彼はコストも安いためひっぱりだこで、超多忙。
そして仕事に没頭するようになり、いつしか体に変調をきたしていたのでしょう。
徹夜仕事のなか、仮眠をしながら眠るように亡くなりました。
付けっぱなしのPCは、仕事の途中でした。
亡くなった彼が選んだマタイは、なんとショルティ盤。
「われら涙流しつつひざまずき」は、そのショルテイ盤はいまや遠くに聴こえる印象にすぎませんが、かっちりとマスの響きがする強い演奏だったように記憶します。
いま聴く演奏は、わたくしにとって、そして多くの方々にとって絶対的な存在であったリヒターの58年の録音。
痛切で、厳しく突き放されるような演奏でありながら、人を包み込むような大きさを持ったリヒターのこの演奏の最後の合唱は、癒しとともに、やはり人間を問い詰めるような問題意識をはらんだものに聴こえます。
永遠に素晴らしい「リヒターのマタイ」。
昨日、灰になってしまった彼にも届くといいです。
この曲を紹介できず、聴かすことができなかったのが残念です。
交響曲第1番「HIROSHIMA」。
いまこうして、弔いとして、この闘いと平安にあふれる劇的な交響曲を聴くことも充分ありだと思います。
すっかりなじんだこの交響曲。
聴くシテュエーションごとに、ありがたい効能があるように思えるようになってきました。
今日は、ことさらに、第2楽章のトロンボーンによる無常なるコラールが心に沁みました。
そして、いつものように、終楽章の光明に、心に光が射し、広がります。
この曲の存在は、このようにして、われわれの中にしっかりと根付き、なくてはならない音楽になった感があります。
ほんとうに、ありがたい、感謝すべき交響曲です。
あわせまして、仲間のご冥福をここにお祈りいたします。
※本記事は、執筆当時のままにつき、事実と異なる内容が多く含まれております。
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コメント
yokochanさん
そうですか、長年のお知り合いが。人生がだんだん進んで来ると、今までは噂にしか聞いていなかった事態が、次々と起こって来ますからね。友人の親御さんから始まって、だんだんと友人本人へと、訃報が続くようになって来ます。私も先々月末、大学の同級生の訃報が飛び込んで来てびっくりしたものです。無条件にご冥福をお祈りします。
マタイは、以前ひょっとしてもうお伝えしたかもしれませんが、20年近く前ミュンヘンに住んでいた頃、ガスタイクのホールでミュンヘンバッハ管がマタイをやり、当時小学生の子供と行きました。ただ、子供が退屈してしまい、二人で伸びたり縮んだりしていたら、周りのドイツ人の小父さんたちに「静かにしろ!」と怒られ、縮んでしまいました。以来マタイ他は皆苦手なんですが。佐村河内守の作品は、先日テレビで観ました。yokochanさんのお名前もはっきりと確認できて、感動しましたよ!!
投稿: 安倍禮爾 | 2013年4月 7日 (日) 20時16分
安倍禮爾さん、こんばんは。
親類や親との別れはもう一巡しつつあり、そうですね、友との別れもこうしてやってくるのですね。
自分もそういう段階にさしかかりつつあることも自認しなくてはなりません。
マタイの思いで、いえいえ、お子様のくだりは初にお聞かせいただきました。
すごい経験でらっしゃいます。
幸いに、マタイやバッハの宗教作品においてはよき思いでばかりですので、心打つ偉大な作品として、わたしのなかには位置しております。
あんな感じに放映されるとは知らず、ちょっと驚き、そしてうれしかったりしますが、あまりコマーシャリズムに乗ってしまうと、ちょっと待てよ、という感じになります。
投稿: yokochan | 2013年4月 7日 (日) 22時12分
yokochanさん、おはようございます。
私もご冥福をお祈りいたします。
私は、交響曲第1番"HiROSHiMA"を一度お蔵入りにしていました。再び聴くきっかけを頂いたのは、貴ブログの2011.8.6付の記事でした。
もともとハヴァガール・ブライアン交響曲第1番「ゴシック」とヴィーン世紀末関連で読んでおりましたが、改めて深く感謝致します。
>あまりコマーシャリズムに乗ってしまうと、ちょっと待てよ、という感じになります。
こちらもTV写りこそないですが、FBでイイねが10付けられたりするのはいいとして、名無しかつ言葉の汚いコメントには辟易しましたね。私は、2ch以外できればステハンも認めない主義なので、ネチケットを守らないコメントには、注意書きで規制をかけました。もともとそうしているのですが、別掲することになるとはという思いで今もいます。みんなyokochanさんのような方であれば大歓迎なのですが。
今、ようやく氏が賞賛される理由が本当にわかったような気がします。詳細は、名前をクリックするととべる記事に書いた通りです。
私自身、最近ももいろクローバーZの楽曲を手掛けていた前山田健一さんのアレンジが面白いと思ったりしながらも、佐村河内守さんは、間違いなく最高峰の作曲家だと思います。
私も、第2楽章のトロンボーンによる無常なるコラールが、この1週間頭の中でどこかしらで流れていました。氏が同じく悩める友と同じ目線で苦悩を分かち合い祈る姿が思い浮かんできます。ブログは、違う言葉で綴りました。
投稿: Kasshini | 2013年4月 8日 (月) 07時24分
Kasshiniさん、こんばんは。
いろいろと忙しくて、ご返信が遅くなってしまいました。
そしてご丁寧にありがとうございました。
佐村河内さんが広く知られ注目されるのは大いに喜ばしいことなのですが、名前やいろんなレッテルが独り歩きしてしまう、そんなコマーシャリズムが不安です。
氏の音楽に虚心に耳を傾けることで、開かれるその音楽の素晴らしさなのですから。
ネット上では顔が見えませんので、正直いやな思いをすることが多々ありますよね。
よくわかります。
幸い、弊ブログはKasshiniさんを始め、とても紳士的な方々にご訪問いただいておりますので、本当に感謝いたしたいと存じます。
それと、わたくしの場合、実際に会ってらっしゃる方々も多くいますので、仲間意識が余計に高くなってます。
「最高峰の作曲家」というお言葉、まったく同感です。
石巻で初演されたレクイエムも短期で創作した作品ですから、厳しい状況の中で、あれほど豊かな音楽を紡ぎだす才能には脱帽以外のものはありません。
苦悩を分かち合うお姿は、氏の優しさと強さにほかなりませんね。
どうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2013年4月11日 (木) 00時39分
yokochanさん、こんにちは。
>コマーシャリズムが不安です。
そうですね。その上で言えば、一時期隠棲状態だったことを考えると、氏は、あえてそれを受け入れる覚悟をつけているのかなと思っていたりもいます。
私は、鬼武者のサントラが昨日届き、仕事明けに先ほど取り込みました。自伝を読めばわかりますが、頭鳴症が悪化する中での、驚異的スピードで作曲。基本は、無調突入前のシェーンベルク、ショスタコーヴィチ風。武満徹とは対照的に、自然と溶け込む邦楽器。総譜は、78段、ハヴァ―ガル・ブライアン 交響曲「ゴシック」クラスを器楽のみで。交響組曲「ライジング・サン」は、全3楽章を通すと、ソナタ形式になるように作られています。邦楽器による微分音、無調や佐村河内守さんらしい激しいビート。それが燦然と鉄壁の構想で作られていて。全てのパートが歌心を持って歌われます。氏が、世界最高の知性と言うにふさわしい人だと思いながら、ヘビーローテーションしていました。
佐村河内守さんと同じ時を生きていることに改めて感謝です。
投稿: Kasshini | 2013年4月11日 (木) 11時06分
yokochanさん、こんにちは。
永年のお仕事仲間さん、御愁傷様でした。
私も今まで何回か、現役で頑張っている方の突然のご不幸に、
直面したことがありました。
共通しているのは、責任ある立場の責任感が強いまじめな方、でした。
なんとも言いようがありません。
本日、NHKスペシャルの再放送があり、番組終了後、
日フィル「HIROSHIMA」の全曲オンエアの番宣がありました。
NHK:Eテレ、4月27日(土)午後3;00とのこと。
カメラ台数もありましたから、こちらも貴重な記録として期待大です。
(お仲間さんとの思い出とともに聴くにも良い機会かもしれませんね。)
投稿: ハマの水平 | 2013年4月13日 (土) 19時27分
ハマの水兵さん、こんばんは。
暖かいお言葉、いたみいります。
真面目な人ほど・・・という話はかねてよりずっとありますが、日本人が同じくする特質かもしれません。
ゆったりまいりたいものですが、なかなか許してくれない身の回りと世間ですね。
そして、再放送を見逃してしまいましたが、全曲演奏放送の日取りが決まったのですね。
放送日は見ることができないかもしれませんが、なんとか録画したいと思ってます。
あの日をもう一度という気持ちです。
情報ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2013年4月14日 (日) 22時17分