神奈川フィルハーモニー第290回定期演奏会 現田茂夫指揮
今日はこんなところから覗いて1枚。
夏至に向かってますます日が長くなります。
そして朝もやってくるのは早かった(?)
ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲
バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番
~サラバンド~
Vn:三浦 文彰
ヴェルディ 「アイーダ」序曲 「シチリア島の晩鐘」序曲
「運命の力」序曲 「ナブッコ」序曲
「ラ・トラヴィアータ」前奏曲
「アイーダ」凱旋行進曲とバレエ音楽
現田 茂夫 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(2013.5.24 @みなとみらいホール)
音楽を聴き楽しむうえで呼吸のよさ、ということがこれほどに大事で、聴く側も、おそらく演奏する側にも、それは解放感と安心感をあたえてくれるものなのだな・・・・、というようなことを思ってみた、そんな夕べの演奏会。
ベルリンフィルに前音楽監督アバドが毎年5月に戻ってくるように、神奈川フィル定期には、この月、現田茂夫さんが帰ってきます。
一昨年はチャイコフスキーの5番、去年はワーグナーのリング、そして今年はヴェルディ、という具合に、わたくし的に大好物ばかりを取り上げてくださる。
カラッとした5月らしい陽気のなかで聴く高潔で力強いヴェルディの音楽は、きっとみんなを元気にしてしまうことだろう。
しかし、その前にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。
この大作は、かつてよりどうも苦手で、CDも1枚しかもってない。
何が苦手か、それもよくわからない。
本来は優しく美しい旋律にあふれた協奏曲であるものが、ヴァイオリン協奏曲の王様みたいなレッテルを貼られ、大家による堂々たる演奏が理想みたいなイメージも自分的に勝手にできあがってしまい、敬遠しがちなのだ。
20歳の青年、三浦クンのチャイコフスキーを神奈フィルで2年前に聴いたときは、曲が曲だけれど、ヴィトオーソ的な側面を打ち出し、顔色ひとつかえずにクールに弾きまくる印象。アンコールのパガニーニも口あんぐりの超絶ぶりだった。
ところが、今回、見た目の落ち着きぶりも増して、率直に音楽を見つめ、内省的な捉え方をも試みているような演奏ぶりだったのです。
この姿勢もまた20歳にしては大成しすぎているかもしれませんが、出てくる音楽は磨き抜かれていて、どこまでも美しく、夾雑物の一切ないピュアなものに感じられました。
ことに2楽章の静やかな美しさは、筆舌に尽くしがたいものでした。
現田さんも、ここでは左手を静かにはじくようにして指揮していて、オーケストラも最高に心のこもったピチカートによる背景を作り出してました。
1楽章も、3楽章も、ベートーヴェンの優美で優しい音色を感じさせるもので、それはまた若いフレッシュな感性も伴っておりました。
アンコールがバッハの無伴奏の静謐な世界であったことも、前回のパガニーニを選択したこととも大違いなところに、三浦君の進化ぶりがうかがえるものでした。
この人、次にまた聴く機会があれば、またさらなる変化があるかも。
小柄な彼の肩を抱くようにして讃えた現田さんの優しい姿も好ましいものでした。
後半は、いよいよ、ヴェルディ。
ほんとに、アイーダは序曲版をやるのだろうか。
前奏曲の間違いではないのか?
疑問を解消するために、楽団に電話して問合せましたところ、シンフォニアをやります、とのご返事。
そうかほんとにやるんだ。
音源すら少ないのに、演奏会でやること事態がたいへん珍しい序曲バージョン。
アイーダのカイロ初演後、ミラノでイタリア初演をする際に大規模は序曲を用意したヴェルディ。しかし、リハーサルで聴いてみて、本編オペラとの不釣り合いを感じて、引っ込めてしまった経緯があるいわくつきの作品。
ライトモティーフを多用したものだから、当時の口さがない評論家からは、ワーグナーの影響と言われ、まったく面白くなかったヴェルディ。
劇中の登場人物や事象のモティーフを絡み合わせるようにして作り上げたこの序曲。
少しばかり、とってつけたような印象も与えかねないけれど、凱旋の場のようなスペクタクル感はなく、相反する感情や想いのぶつかり合いをそのまま序曲にしたような感じ。
聴衆の側が、なんだろ?的な感じで、乗ってこなかった空気はありましたが、現田&神奈川フィルは誠実・着実な演奏ぶりでした。
そうそう、今回はゲストコンマス、崎谷直人さん。
まだ若い方ですが、ミュンヘン国際音楽コンクール四重奏部門入賞ほか、かなりの実績をお持ちのようです。
石田コンマスとは、見た目も音色もがらりと違いますが、しっかり神奈川フィルに溶け込んでます。
まして指揮が現田さんだから、まったく問題なし。
この日は、指揮者とオケの一体感は、目でも耳でもとても気持ちよく感じることができました。存続なった神奈川フィルの、それこそ本来の姿と音、それがそのあともヴェルディの心わきあがる音楽に聴いてとれました。
山本・門脇ダブル豪華首席のチェロ軍団が奏でる麗しい歌、また歌の「シチリアの晩鐘」では、ヴェルディ・クレッシェンドが見事。
威圧的に響くことのない運命の和音、弦の刻みが心震わせ、響きが舞い上がるのを感じた「運命の力」。
「行け想いよ金色も翼に・・・」が、かくも晴れやかに、神々しく歌われるとは。そしてキレのいいダイナミズムも満喫の「ナブッコ」。
前奏曲だけなのだから、実はもっともっと歌わせてもよかったかもしれない、「椿姫(トラヴィアータ)」。
オルガンの鎮座する正面席に左右陣取った6人のアイーダ・トランペットが輝かしく咆哮した「アイーダ」。弾みまくりのバレエ音楽に酔い、最後はこの日オケもバンダも最高位の爆発を見せて華々しくコンサートは幕となりした。
やったぜ、イェーーイ。
ヴェルディッシモ
神奈川フィル最高
ということで、元気と景気のいい序曲ばかりをずらっと演奏しつくしたオーケストラの皆さん、さぞかし大変だったでしょうね。
そして、いつくるかと見守り続けた、現田さんの背中の羽根(汗のにじみ出るさま)。
序曲後半あたりから、これもまたお約束。
それと、神奈川フィル監修の名曲案内本が、ついに完成。
会場で先行販売され、多くの方々の手に渡ったようです。
わたくしも当然購入。
今宵の、アフターコンサートは、コンサートの余韻の感興とともに、この本の企画・取材・執筆をされた勝手に応援団のお一人をまじえて、出版記念で乾杯。
さらに楽団からブルーダル基金のご担当Nさんもまじえて、存続決定で乾杯。
こんな美酒は久しぶりでしたよ。
場所を変えて、もっと乾杯。
気が付いたら、朝でした。
夜明けのひと気のない横浜の街、こんな機会はないと思って、散策し写真もたくさん撮って歩くことなんと2時間。われながら、ばかですねぇ。
朝から酔ってるし、覚めちゃうし。
でも朝までほんとに楽しい神奈川フィルの1日でした。
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コメント
美酒に酔い、朝が来るまでノリまくった様子、ウラヤマシイですぜ、ご兄弟!
最近、年のせいか酒に弱くなり、yokochanさんのようにはいかなくなってきました(かなしい・・・)。貴兄のように弾けるのが最近の“願望”です。
ベートーヴェンの協奏曲は東響新潟定期で3回、大昔の新潟県民会館における小澤氏が元気なときの新日フィル公演、ミュンヒェン交響楽団りゅーとぴあ演奏会と、メンコン以上に聴いてきたこともあり、僕も聴くのが「皇帝」同様億劫な曲です。避けて通りたいんです。美しく演奏しようとすると長くなるし、ベートーヴェンらしく元気よくしようとすれば本来の曲調からは外れる-。うーんです。
でも、“忍従”の前半があったからこそ、後半プロのヴェルディ・セレクションに解放されたんじゃあないんですか?ほんと、ヴェルディを聴くと、人間力を信じたくなります。
[追記]
その本、県外フリーのものでも入手できますか?
投稿: IANIS | 2013年5月26日 (日) 03時07分
今日は。演奏会観劇お疲れ様でした。ヴェルディのアイーダの冒頭の曲に前奏曲と序曲の2つのヴァージョンがあることを私は、つい最近まで知りませんでした(恥)。序曲版がワーグナーの影響が強いと不評で、ヴェルディは前奏曲を作ったのですね。無論私は前奏曲版しか聴いたことがありません。アイーダ全曲というとCDはカラヤン新盤とアバド指揮スカラ座、映像作品はレヴァイン指揮メトぐらいしか鑑賞したことがないです。これらの演奏はどれも前奏曲版で演奏してますよね?
ベートーヴェンのコンチェルトがまた素晴らしい演奏だったようですね。ツキイチ幻想やツキイチ春祭やツキイチ未完成をやれるほど沢山のレコードをお持ちのブログ主様がべトのヴァイオリン・コンチェルトは一枚しか持っておられないというのは意外でした。私が初めて聞いた件のコンチェルトはスターンとバレンボイム指揮ニューヨークフィルだったと思います。実演は尾高先生と東京フィル、ソロは堀米ゆず子さんの演奏を中学生の時長岡で一度聴いたことがあるだけです。私の初のオケ実演体験で中学生の時のことでした。最近はテツラフとギーレンが共演したCDと同じくテツラフがジンマン指揮トーンハーレと共演した盤を好んで聴いております。
件の神奈川フィルの本新潟県でも入手できますよね?
投稿: 越後のオックス | 2013年5月26日 (日) 13時51分
夜が明けるのが早かったですね。翌日大変だったのでは?。でも楽しい一夜でした。
応援するオーケストラで一夜明かせるなんてなんて幸せなんでしょう。ご一緒して下さり感謝をしています。
神奈川フィルは今過渡期ですね。それもいい方に。そう感じさせる何かがあることに嬉しくも頼もしくあります。
それにしても、三浦君も磨きがかかりましたね。ヘンに大人びた背伸びをしないのがいいし、しなやかに、伸びやかに。そして現田指揮の神奈川フィルの安心感、某仲間も言っていましたが、「同じオケとは思えない」らしいです。これがこのオケだったんですけどね。そして今でもそうなんですよね。楽しかったです。
本も出たし、これも嬉しかったし。そして神奈川フィルのNさんに、ちゃんと存続を勝ち取ってくれたことにちゃんと感謝を伝えたかったのもできたし、本当によい一夜でした。次回はまたまた彼ですね。またよろしくお願い致します。
投稿: yurikamome122 | 2013年5月26日 (日) 16時23分
IANISさん、どうもです。
いえいえ、私の方こそ、飲んだらいいけど忘却の度合いがますます強まってます。
弾けのあとは大いなる反省と疲労が残りますが、それも今回は心地よいものでした。
音楽が充実していればこそ、仲間がいるからこそであります。
ベートーヴェン協奏曲、コンサートでは非常に多いですね。わたしも今回が4度目です。
たしかに「忍従」そして、皇帝も同じくする心境ですが、こたびの演奏は、なかなかに爽やかかつ若さと抒情溢れる桂演でした。
ヴェルディの序曲だけを連続聴きするというのは、ある意味、異常なことですが、この演奏会におけるきらびやかなヴェルディは筆舌に耐え難い喜びを与えてくれるものがありました。
神奈川フィルの本。
全国の書店に次週より並ぶはずですよ。
是非お手にとってください。
投稿: yokochan | 2013年5月26日 (日) 22時39分
越後のオックスさん、こんばんは。
現在のアイーダ前奏曲は、カイロ初演でのものです。
序曲は、ミラノのために奮発して書いたもので、ワーグナー云々は、アイーダ全体のことを言われたことで、序曲は公表すらせずに引っ込めたものですから、その評価とは関係がありません。
言葉足らずでした、すいません。
今回素敵な演奏であったことはいうまでもありません。
そして、ベートーヴェンも。
思いきり若い人の演奏の方がよい気がしてきました。
そして、神奈川フィルの本ですよね。
全国の書店に並びます。
メイツ出版です。
是非、ご覧ください!
投稿: yokochan | 2013年5月26日 (日) 22時49分
お久しぶりです。なんとかコンサートには行き続けております。
現田さんバッチリでしたね!安心して見ていられた、というのがよくわかります。
実は、ヴァイオリン三浦文彰で泣きました。曲はよく知っていますがこんなだったか?と信じられない気持ちでした。2階横から、ミニ望遠鏡でずっと、表情や指の動きをひたすら追いかけておりました。それが、なんの迷いもないんですよね。作曲者の気持ちになり切ってそのまま弾いているのではないかと、勝手に考えて感動していました。老獪、妖麗、若々しさ、全て感じられました。天才という言葉だけです。
それを綺麗にサポートする神奈川フィルと現田さん、本当に最高ですね。
投稿: hamu | 2013年5月26日 (日) 22時52分
yurikamomeさん、今回は開始が遅かったし、夜明けも早かったです。
しかし、ほんとに楽しかったです。
そして嬉しさの極みでしたし。
4月と6月に挟まった美しき5月!
そんな感じでしょうか。
願わくは、そうですね、順調に過渡期を経過し、いい姿を見せ続けて欲しいものですね。
現田さんが県民ホールのピットに入ることを夢見てしまう、そんな素敵な演奏会でした!
投稿: yokochan | 2013年5月26日 (日) 23時41分
hamuさん、こんにちは。
今回も同じホールで聴けましたね。
客席は和やかでいい雰囲気でした。
>作曲者の気持になりきって・・<
なるほど、そういうことだったのかもしれません。
いつもわたしが感じる異和感は、大きくこの曲をとらえ過ぎている演奏で、こんかいのように、若い初々しいベートーヴェンの心情こそ正しいものなのかもしれませんね。
拡大してご覧になった三浦君の様子。
よくわかります。今後、どうなるか、まさに天才的な歩みを注目したいですね。
そして、現田さんと神奈川フィル、最高でした!
投稿: yokochan | 2013年5月27日 (月) 00時37分