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2013年5月 1日 (水)

グレインジャー 歌とダンシング・バラード ガーディナー指揮

Yokohama_park_2

5月はチューリップ。

皇太子ご夫妻も、いまオランダに。

オランダ国との由緒ある麗しい関係。

戦中、利害が衝突したけれど、どちらの国もいまは成熟した大人。

そしてそれぞれ関与した国々も、充実した青年となり、今後の世界を担う立場になってゆく。

日本の行く先は、また次元の異なる違う世界を切り開かなくてはならないのでしょう。

いつまでも、ぶーすか言われる隣国を思うと、これらの花々の一本一本自立した美しさが際立って感じますがいかに。

Grainger_gardeiner

 グレインジャー 「SONGS & DANCING BALLADS」

    ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 

      
                    モンテヴェルディ合唱団・管弦楽団

                    コンサート・ソリスツ

                 (1994,95 @ロンドン)


パーシー・グレインジャー(1882~1961)は、オーストラリア、メルボルン近郊のブライトン生まれのコスモポリタン。
幼少より音楽を学び、13歳にして母親ととにに渡欧。
 ドイツ・フランクフルトにて作曲を習得。
このときの仲間には、セシル・スコット、クゥイルター、ガーディナーの伯父バルフォア、のちにブゾーニなどもいた。
 さらにグレインジャー母子は、ロンドンに渡り、ここではピアニストとしても名声を博したほか、英国、さらには北欧の民謡採集と、それを活かした曲の出版拡充につとめた。
このとき、きっと、ホルストやヴォーン・ウィリアムズとも一緒だったかもしれない。
 しかし、ロンドンには13年ほど留まったのち、今度、母子はニューヨークに渡米し、亡くなるまで終生アメリカにとどまる。

アングロサクソン系内ではありますが、このような系譜はまさにコスモポリタンとも呼べるもの。
こうしてみるとあと一人、脳裏に浮かぶ作曲家、ディーリアスがいます。
英国の血が流れていないが、英国生まれ、アメリカ、ドイツ、フランスに暮らし北欧を愛したディーリアスとグレインジャーの共通項は、コスモポリタン的存在です。

しかし、グレインジャーは、母を自殺で亡くしたあと、ショックを受けつつも、北欧生まれの画家と結婚し、さらに熟考し、オーストラリア人としての自身の存在を受け入れ、同国に民族音楽の研究機関を発足させたり、オーストラリア、イギリス双方の音楽資料のアーカイブ化に努めました。

この人がいなかったら日の目を見なかった音楽作品も多々あります。

なんだかありがたい人なのですが、その音楽作品はあまり知られてません。
今回のCDが発売された10年前くらいには、ゆかりあるガーディナーの啓蒙と、シャンドスレーベルの数々のレコーディングでもってかなり注目されたのですが、いまはまた日陰にまわってしまったかのような存在になってしまいました。
かくいうわたくしも、このCDをふと取り出した本日の視聴は、それこそ発売以来のことなのですから。

しかし、グレインジャーを侮ってはいけません。

本CDの解説によりませすれば、「複合和声と変則リズムをいちはやく開拓した」とあります。それは「ストラヴィンスキー、シェーンベルク、ヒンデミットにも影響を与えた」とされておりました。

残念ながら、本CDでは、そんなすごいグレインジャーの片鱗は、ナイスなメロディーたちに隠れて強く感じることができませんが、何枚かあるシャンドスの音盤には、そんな当時の先端音楽が収録されているのでしょうか。

ここに演奏されている曲は全部で14曲。
グレインジャーのオリジナル作品はそのうち3つ。

「ソロモンの詩より~愛の詩」は、旧約の雅歌から歌詞をとり、たおやかかつ、ロマンティック、ときには濃密な雰囲気さえも浮かびあがらせる合唱作品です。
これはいい。
英国音楽と、後期濃密ロマン派、ともに手を携えたかのような美しい空間を感じさせる、わたくしには堪らないほど魅力的な音楽。
これ1曲で、グラス3杯のお酒が飲めます。

大規模なオーケストラと合唱のための作品「花嫁の悲劇」は、リアルな内容を歌い込んだ具象的な作品で、意にそぐわない花婿と結婚間近の花嫁が、本当は愛する男子によって強奪され逃げる物語。まるで、「サウンド・オブ・サイレンス」なわけですが、こちらはかなりに劇的かつドラマティックな暗さに満ちています。
逃げた二人は、約束した花婿に追いかけられ、馬にまたがって逃げますが、やがて河に狭まれ、その激流に飲まれてしまうのです・・・・・。
悲しくも辛辣な内容を、グレインジャーの作風は、淡々と進みつつも、半音階的な憧れと哀しさを醸し出す音楽に終始するのです。

あとひとつのオリジナル。「ダニー・ディーヴァー」。
兵営の歌、仲間のダニーが今夜吊るし首になる。
そんなリアルな鬼気迫った状況を、やたらと呑気に(とわたしには聴こえる)、俗っぽくコミカルに歌う。ある意味恐怖すら感じる音楽だけど、何食わぬところがグレインジャーなのだろう。
マーラーの歌曲みたいな、多面性を秘めたやたらと陽気に歌う作品でした。

その他は、耳にお馴染みの作品ばかり。

「日曜になればわたしは17歳」、ディーリアスでお馴染みの「ブリッグの定期市」、「わが黒髪の乙女」、「ロンドン・デリーの歌」、「三羽のからず」、「フォスター・草競馬」などなど・・・

民謡をいとおしむように、味わい深く再現した曲や、明るく弾むようなカントリータッチの曲やら、その姿は千変万化。
味わいもありつつ、皮肉あり、哀しみあり、喜びもあり。
そんな喜怒哀楽、すてきなグレインジャーのこだわりのない素敵な音楽が久しぶりに聴いて、わたくしの中に蘇ってきました。
5月の空と、爽やかな風にぴったりです。

アカペラで歌われる「ロンドン・デリー」の歌には、ほとほと感動しました。
泣いちゃいました

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コメント

ご無沙汰してます。以前、NHKFMで聴いていいなと思ったのですが、CDでじっくり聴いてみたいと思います。

投稿: udon | 2013年5月 9日 (木) 09時27分

udonさん、こんにちは。
こちらこそご無沙汰でした。
グレインジャーはシャンドスが15枚の大全集を作ってますね。
もっと聴かれるべき、素敵な作曲家だと思います。

投稿: yokochan | 2013年5月10日 (金) 23時04分

 今晩の NHK交響楽団定期演奏会生中継で、楽園への道が
演奏されていました。尾高忠明さんの指揮でしたが、素晴らしい演奏だったと思います。
 このコンビでCDを入れてくれませんかね。日本人はいい演奏できそうな気がします。

投稿: | 2013年5月11日 (土) 19時00分

5月はいつも尾高さんがN響に登場しますが、今回も英国ものだったのですね。
行きたかったのですが、失念しました。
尾高さんの「楽園への道」はこれまで、2度ほど聴いてますが、いずれも心のこもった桂演でした。
ディーリアスは日本人向きの音楽だと思います。
N響もいいですが、札響でもいいですね。

投稿: yokochan | 2013年5月12日 (日) 22時39分

オール英国プログラムで、エルガーの序曲フロアサール、
ヴォーン・ウィリアムズのテューバ協奏曲、ウォルトンの交響曲第一番 そして、楽園への道と、なかなか、渋い曲目でした。日本初演もいくつかあったそうです。

投稿: udon | 2013年5月14日 (火) 09時07分

udonさん、こんばんは。
去年から、行きたかった演奏会なのですが、最近手帳に書くこともしなくなってしまい、まるきり忘れてしまいました。どの曲も、涎がでるくらいに好きな曲なものでした。
日本初演は、フロアッサールだと思います。
テレビのオンデマンド放送を待ちたいと思います。
情報ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2013年5月14日 (火) 22時30分

 ご無沙汰しています。グレインジャーを確か、以前に取り上げておられたと思って…探しました。私もいろいろコメントしていたんですね。グレインジャーはディーリアスとの関わりもありますね。コスモポリタンですから、イギリス音楽とは言いがたいのですが、グレインジャーの編曲のブリッグの定期市はいいですね。
 何と言っても、ロンドンデリーの歌の編曲が素晴らしいです。いろんなアレンジがありますが、グレインジャーの編曲がいちばん心に響きます。
 また、リンカーシャーの花束でしたか…取り上げてくだされば嬉しいです。

投稿: | 2015年10月 9日 (金) 20時54分

こちらにもありがとうございます。
グレインジャーの作品は、まださほど聴いてませんが、シャンドスに大量の録音がありますね。
たしか、本場、メルボルン響のものもあったかと思います。
リンカーシャーの花束、機会があれば聴いてみたいと存じます。
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2015年10月14日 (水) 13時00分

情報ありがとうございます。グレインジャーは最近、youtubeですが、仕事のBGMになっています。(他にヴォーン・ウィリアムス)ブラスバンドの曲が多いようなので、クラシックファンにはあまり認知されていないのでしょうか…わかりやすい曲が多いので、軽く見られているのかもしれませんね。
 Colonial Songという愛国的な曲がありますが、美しいメロディーと盛り上がりが素晴らしいと思います。
 ライトクラシックに分類されてしまいますが、ケテルビーとかルロイ・アンダーソンとか、何気に素晴らしいと思います。
それでは、また。

投稿: udon | 2015年10月15日 (木) 08時48分

udonさん、こんにちは。
Colonial Song、さっそく聴いてみましたが、荘重かつ懐かしさも感じる、いい曲ですね♪
ご案内ありがとうございました。
イギリスのライトクラシック、エリック・コーツもステキですね。

投稿: yokochan | 2015年10月24日 (土) 09時08分

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