ブリテン 戦争レクイエム ガーディナー指揮
8月15日の吾妻山。
いつも早いコスモスの開花。
終戦記念日の青い空。
ブリテン 「戦争レクイエム」
S:ルーバ・オルゴナソーヴァ T:アントニー・ロルフ・ジョンソン
Br:ボー・スコウフス
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 北ドイツ放送交響楽団
北ドイツ放送合唱団
モンテヴェルディ合唱団
テルツ少年合唱団
ゲルハルト・シュミット=ガーデン指揮
(1992.8 @聖母マリア教会、リューベック)
ブリテン(1913~1976)の「戦争レクイエム」は、伝統的な「死者のためのミサ曲」の典礼文に基づく部分と、ウィルフレット・オーエンの詩による独唱による部分。
このふたつを巧みにつなぎ合わせて、ひとつの、いわば「反戦」と「平和希求」をモティーフとする、独自の「レクイエム」を作り上げた。
8月のこの時期には、決まって聴く音楽。
イギリスの伝統としての制度、「良心的兵役忌避者」の申告をして、その条件として、音楽ヴォランティアに従事することを宣誓し、予芸以上の指揮とピアノで、戦時下の人々を慰め鼓舞する仕事に従事する一方、その傍らでも、熱心な創作活動を継続したブリテン。
その行動の根に常にあった「平和主義」でありました。
1961年、戦火で焼失したコヴェントリーの聖ミカエル大聖堂の再築落成に合わせて作曲された「戦争レクイエム」。
翌62年の同地での初演は、戦いあった敵国同士の出身歌手をソロに迎えて計画されたものの、ご存知のように、英国:ピアーズ、独:F=ディースカウ、ソ連:ヴィジネフスカヤの3人が予定されながら、当局が政治的な作品とみなしたことで、ヴィジネフスカヤは参加不能となり、英国組H・ハーパーによって行われた。
翌63年のロンドン再演では、ヴィジネフスカヤの参加を得て、かの歴史的な録音も生まれたわけであります。
戦争は終わったものの、国の信条の違いによる冷戦は、まだしばらく続行した、そんな歴史を私たちは知っております。
この曲が生まれてから50年。
世界各処、いや、いまの日本のまわりでも、思いの違いや立場の違いから諍いは堪えません。
年に1度、この時期に、この曲の持つ、戦没者への追悼という意味合いととともに、ブリテンが熱く希求し続けた反戦平和の思いをあらためて強く受け止め、考えてみるのもいいことです。
しかし、この曲は、ほんとうによく出来ている。
その編成は、3人の独唱、合唱、少年合唱、ピアノ・オルガン、多彩な打楽器各種を含む3管編成大オーケストラに、楽器持替えによる12人の室内オーケストラ。
レクイエム・ミサ典礼の場面は、ソプラノとフルオーケストラ、合唱・少年合唱。
オーエン詩による創作か所は、テノール・バリトンのソロと室内オーケストラ。
この組み合わせを基調として、①レクイエム、②ディエス・イレ、③オッフェルトリウム、④サンクトゥス、⑤アニュス・デイ、⑥リベラ・メ、という通例のレクイエムとしての枠組み。
この枠組みの中に、巧みに組み込まれたオーエンの詩による緊張感に満ちたソロ。
それぞれに、この英語によるソロと、ラテン語典礼文による合唱やソプラノソロの場面が、考え抜かれたように、網の目のように絡み合い、張り巡らされている。
以下は、昨年の記事からの引用です。
「重々しく不安な感情を誘う1曲目「レクイエム」。戦争のきな臭い惨禍を表現するテノール。
曲の締めは、第2曲、そして音楽の最後にあらわれる祈りのフレーズ。
第2曲は長大な「ディエス・イレ」。戦いのラッパが鳴り響き、激しい咆哮に包まれるが、後半の「ラクリモーサ」は、悲壮感あふれる素晴らしいヶ所で、曲の最後は、ここでも祈り。
第3曲目「オッフェルトリウム」、男声ソロ二人と、合唱、二重フ―ガのような典礼文とアブラハムの旧約の物語をかけ合わせた見事な技法。
第4曲「サンクトゥス」、ピアノや打楽器の連打は天上の響きを連想させ、神秘的なソプラノ独唱は東欧風、そして呪文のような○△※ムニャムニャ的な出だしを経て輝かしいサンクトゥスが始まる。
第5曲は「アニュス・デイ」。テノール独唱と合唱典礼文とが交互に歌う、虚しさ募る場面。
第6曲目「リベラ・メ」。打楽器と低弦による不気味な出だしと、その次ぎ訪れる戦場の緊迫感。
やがて、敵同士まみえるふたりの男声ソロによる邂逅と許し合い、「ともに、眠ろう・・・・」。
ここに至って、戦争の痛ましさは平和の願いにとって替わられ、「彼らを平和の中に憩わせたまえ、アーメン」と調和の中にこの大作は結ばれる。」
最後に至って、通常レクイエムとオーエン詩の、それぞれの創作ヶ所が、一体化・融合して、浄化されゆく場面では、聴く者誰しもを感動させずにはいない。
敵同士の許し合いと、安息への導き、天国はあらゆる人に開けて、清らかなソプラノと少年合唱が誘う。
このずっと続くかとも思われる繰り返しによる永遠の安息。
最後は、宗教的な結び、「Requiescant in pace.Amen」~彼らに平和のなかに憩わせ給え、アーメンで終結。
この楽園への誘いによる平安に満ちた場面は、ドラマティックでミステリアスなこの壮絶かつ壮大な作品の、本当に感動的なか所で、いつ聴いても、大いなる感銘を受けることとなります。
オペラでも器楽作品、声楽作品でも、ブリテンの音楽のその終結場面は、感動のマジックが施されていて、驚きと涙を聴き手に約束してくれます。
今年は、1992年のリューベックの聖堂ライブの映像を鑑賞しました。
1942年の空襲で、破損した聖鐘が保存されている、こちらの聖堂での演奏は、戦火から50年という意味合いもあります。
ドイツで、ドイツのオーケストラ・合唱、イギリス・スロヴァキア・デンマークの指揮者と独唱。
各国演奏家が手を携えてのこちらの演奏は、いまは当たり前となった世界水準のメンバーによるスマートな演奏スタイルでありました。
もっと切れ込みの鋭さが欲しい感もありますが、教会内の様子や、編成や各楽器の演奏の様子などを確認しながら聴けるこの映像は、また格別なものがありましいた。
歌手では、ロルフ・ジョンソンの気迫と美声が素晴らしいもの。
ちょうど、この頃は、ヴァントが、同じオーケストラを指揮してブルックナーの名演を繰り広げていた時期。
同じ大聖堂でのライブ録音もありました。
平和で、戦争も災害もない世界でありますように。
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