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2013年10月22日 (火)

フィンジ クラリネット協奏曲 マリナー

Azumayama

わたしの育った町にある、吾妻山からの眺望。

コスモスに相模湾、遠くは伊豆の山々。

四季おりおり、何度もこの景色は出してます。

この山の麓の小学校に通っていた頃は、山の頂上は整備されてなくて、神社が少し下ったとこにあるだけで、何もない山でした。
それはそれで、自然そのもので、いろんな思い出があります。
クラスで世話をしていたウサギが、逃げてしまい、放課後、子供たちだけでこの山に登ってしまい、まだ新任ほやほやだった担任の先生は、教頭や親たちに大目玉をくらってしまい、子供心に申し訳なくおもったりもしたものです。

社会人になってから、この町を出て、都内に住むようになり、それでも週イチには帰ってきていたけど、結婚してからはすっかり足が遠のき、盆暮正月状態。

そして、親父が倒れてしまった。

会社に電話が入り、駆け付けたときには、もう意識のない、そこにあるだけの存在だった。

このときほど、自分が育った町を離れたことを後悔したことはない・・・・。

父親はもういないけれど、折りふにれ帰るようになったこの小さな町が、いまは愛おしくてならない。

Marriner_finzi

   フィンジ  クラリネット協奏曲 ハ短調

      Cl:アンドリュー・マリナー

   サー・ネヴィル・マリナー指揮 

      
         アカデミー・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ

                        (1996.6 @ロンドン)


わたくしの最愛の作曲家のひとり、ジェラルド・フィンジ(1901~1956)の、これまた最愛の作品のひとつ、クラリネット協奏曲。

もう何度も取り上げてますし、マリナー卿親子の共演もかつて記事にしてます。

多感な時期に、父、3人の兄、やがてその姿を被せて敬愛していた師ファーラーも戦争で亡くなる。
哀しみに堪えるような楚々たる音楽は、フィンジの音楽の本質です。
ナイーブという言葉も相応しいけれど、英国の田園情緒の美しさもそこには重ね合わせることもできます。
いつもいつも、涙なしには聴けないフィンジの作品の数々。
自身で破棄したものも多くあり、作品数でいえば30と少し。

悲しいほど美しい。

第2楽章のアダージョ。
甘く切ない死を待受けるかのような音楽。
フィンジはいつも死を予感しつつ作曲していたという。
このマリナー盤は、父が亡くなって、ほどなく聴いたCDで、初フィンジだった。
ぽっかり空いた、自分の中での空白感にこそ、まさに自分が見えてくるような気がした。
この内省的な音楽は、どんなときでも、心にすぅ~っと入り込んできて、優しく包みこんでくれる。

一転して、弦のピチカート乗ってクラリネットが歌う、飛翔するような明るさに満ちた3楽章。
秋の高い空に等しい。

シリアスな1楽章も切実な響きでもって迫ってきます。

声高に素晴らしい曲とお薦めしたくはない。

静かに、ひとり、心して聴いてください。

 過去記事

  「フィンジの作品」

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コメント

 泣けますなぁ。

 故郷の想い出、亡き父親への思いと床しくも美しい音楽にリンクしているのですね。

 心して拝聴いたしましょう。

投稿: 林 侘助。 | 2013年10月23日 (水) 16時42分

林 侘助 さま、ご無沙汰しております。
そして、コメントありがとうございます。

あまりに私的なとを書いてしまいました。
思い立って、フィンジを聴いたら、このようになってしまいました。
言葉にしてしまいましたが、ある意味、自分の中では、言葉が無意味な音楽であります。
おそれいります。

投稿: yokochan | 2013年10月24日 (木) 06時49分

今晩は、よこちゃん様。 貴殿の記事にてフィンジを知り、すっかりその泣き出しそうになる美しい音楽に魅せられ、あちこち探し回って手に入れたCDのうちの一枚がチェロ協奏曲とクラリネット協奏曲のカップリングの輸入盤。チェロはヨーヨー・マ(まだ高校生くらいに見えるジャケットの写真が可愛い)
クラリネットはジョン・デンマン(すんません、この方をよう知らんです)
聴いて やはりウルウルでしたね。
イギリスの未来の国王ジョージ王子が洗礼を受けたニュースと、松井君の交渉権を楽天イーグルスが得た(残念ベイに入団して欲しかったな)ニュースを見ながら 秋の夜長を過ごしております。
三浦・松井のダブルエース見たかったなぁ…

投稿: ONE ON ONE | 2013年10月24日 (木) 23時06分

ONE ON ONEさん、こんにちは。
ヨーヨーマのものは希少な1枚ですよ。
わたしも持ってません。
理想的なカップリングです。
ついつい泣きたくなる曲NO1であります。

松井君を獲得できなかったのは残念至極。
でもパリーグだし、仙台だからよしです。
いい先輩がいますしね。
わが方も、なかなかいいドラフトだったと思います。
あとはトレードやFAですね。

投稿: yokochan | 2013年10月25日 (金) 07時29分

ご無沙汰してます。
フィンジ…恥ずかしながら全くその存在すら知りませんでした。

yokochan様の、愛情こもった文章に触れさせて頂き、いつかは自分もフィンジの作品に慰められる時が来るのかもしれない、そんな気分です。

他のジャンルではどうにも埋められない感情の隙間に、そっと入り込んで慰めてくれる力が、確かにクラシックにはございますよね。
優しい記事、有り難うございます。

投稿: Booty☆KETSU oh! ダンス | 2013年10月25日 (金) 15時01分

Booty☆KETSU oh! ダンスさん、こんにちは。

フィンジのファンは日本ではとても多いと思います。

静かに、そっと、そこにある音楽っていう感じの存在です。
ほんと、おっしゃるとおり、クラシック音楽には、永劫的にそのような効果がありますね。
そしてまだこの先も、そんな音楽が生まれてくる可能性もありなのですから素晴らしい世界です。

投稿: yokochan | 2013年10月26日 (土) 07時32分

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