「森園康香ヴァイオリン・リサイタル」
梅、桃、桜と続いて、今度はツツジが街々に咲き誇ってます。
新緑も濃くなって、春から初夏へと季節は移っていくのですな。
ツツジの次は、紫陽花。
季節はめぐり、わたくしたちも歳を重ねるという寸法です。
ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第1番 ニ長調
プロコフィエフ ヴァイオリンソナタ第1番 ヘ短調
シマノフスキ 「ノクターンとタランテラ」
カトアール 「エレジー」
ワックスマン 「カルメン幻想曲」
森園康香 「森の小路」「冬の足あと」「雨あがりの歌」(アンコール)
ヴァイオリン:森園 康香
ピアノ :米山 多佳子
(2014.4.23 @かなっくホール)
1992年生まれ、若い森園さんは、新日本フィルのコントラバス奏者を父に、神奈川フィルのヴァイオリン奏者を母に、現在は、ドイツ・ヴュルツブルク音楽大学に在籍中の新鋭です。
渡独後も、コンクール受賞や高名な先生や室内楽団について勉学中で、まだまだ伸びしろたっぷり。
これまで神奈川フィルや、横響との共演がありましたが、それらは聴き逃しましたので、今回が初でした。
前半に、1番の番号のソナタを持ってきて、ほぼ1時間。
後半は、近代系の技巧派作品でもって、45分。
なかなかに充実したプログラムでありまして、初リサイタルだからといって、媚びることのない堂々たるラインナップと、そしてなによりも、その立派な演奏だったのです。
めったに聴かないベートーヴェンの1番。
28歳の作品ですが、古典の流れを汲んで、ヴァイオリンつきのピアノソナタ風な趣きも持つ曲で、出だしはまだ、あたたまってなかった森園さんより、ピアノの方が目立った1楽章は、そうした曲の作りにもあるかも。
でも、うららかな春のような第2楽章は、ベートーヴェンのいかにもベートーヴェンの緩徐楽章らしくて、気持ちよかった。実に、瑞々しいヴァイオリンです。
発表の順番で、実は2番なプロコフィエフの1番は、プロコらしくて好きな作品。
暗澹たる雰囲気におわれながらも、幻想的な要素もあって、魅力的なんです。
プロコフィエフの曲って、モダンでありながら、硬質なメランコリーがあって、とくにその作品の緩徐楽章や、バレエ音楽などに、そうした雰囲気を感じます。
そうした場面の捉え方が、彼女の演奏の素敵なところでした。
1楽章は暗いばかりでなかったし、第3楽章は、ふだん聴いてる大物演奏家では聴くことができない初々しさもありました。
終楽章が静かに終わってゆく場面などは、今後、もっと経験を増して、大きな表現を勝ち得ることができるでしょう。
2楽章の技巧の確かさは、音楽へ没頭しきった夢中の演奏姿とともに、後半へと引き継がれました。
急・緩・急、3つの性格を持つ作品が大きなソナタのようにして並びました。
シマノフスキの世紀末臭が、わたくしは好きなのですが、ここでは、民族臭強めの作品。
ピアノの米山さんふくめ、おふたりの手の内に入った作品とのことで、息もばっちり、体も動かしたくなるような舞踏サウンドにございましたね。
そして、この日の驚き発見曲は、カトアール(1861~1926)のエレジー。
初聞きの名前の作曲家の魅力的な作品でした。
カトアールは、フランス系ロシア人で、ここで聴かせてもらったエレジーは、フォーレを思わせる、ちょっと熱を帯びたエレガントで抒情的な曲でした。
こんな素敵な作品を感性豊かに弾いた彼女は、バリバリの技巧派ばかりでなく、しなやかな音色も聴かせてくれました。
それにしても、いい曲。
この人のほかの作品も探して聴いてみよう。
最後は、最近話題のコルンゴルト的な系譜のワックスマン。
お馴染みのメロディが、次から次へと、名技性も湛えながら飛び出してくる魅惑の10分間。
サラサーテともまた違った情熱とキレキレのカルメン。
はじける若さが、眩しゅうございましたぞ。
アンコールは、自作の小品。
いずれも、優しく、ほのぼの、心温まる桂品でした。
一部、彼女のお母様による初演も聴いてます。
神奈川フィルの新常任、川瀬さんも同じく。
こうして、若い演奏家が育っていくのを見守ってゆくことも、聴き手のつとめであり、喜びなのです。
元気と若さ、いただきました。
ピアノの米山さんも、素敵な伴奏でした。
康香さんと、わたくしの娘は、同い年なんです。
クラシックなんて、まったく無縁の娘にも聴かせてみたかった。
そして、君も、外へ飛び出して、しっかりせい、といいたかったのは親の勝手な思いでしょうか(笑)
彼女の書いたプログラムに、「カトワールのエレジー」がネットで聴けるとありましたので、探し出しましので、ここに貼っておきますね。
オイストラフの演奏。
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コメント
カトアール!
カトアール!!
カトアール!!!
カトアールのエレジー!!
と、19世紀フランスの詩人ばりに(笑)
カトアールのエレジーが聴けたなら
重要だろうと会議なんてスッポカシても行きたかったかも!
あ、いやそれは流石にまずいか・・・。
貴重ですよ、日本でこの曲をステージで聴けるの。
演目に挙がった、なんて今までほとんど聞いた事ないもの。
後半からならギリギリ、間に合ったかもしれない・・・。
わぁ~、残念!!
今度はぜひ、土日に・・・と我侭を言ってみる。
投稿: スリーパー | 2014年4月25日 (金) 12時06分
スリーパーさん、こんにちは。
カトアール連呼、頂戴しました(笑)
たしかに、素敵な音楽でした。
若い彼女に、こんないい曲を、さわやか演奏で教えてもらえるなんて思いもよらぬことでした。
またの帰国の楽しみですね。
投稿: yokochan | 2014年4月27日 (日) 12時47分
カトワールはだいぶ前にゴリデンヴェイゼルの検索で知ったのですが、いま検索してみたら以前聞いた2つのソナタ(オイストラフ1952録音)のほかに、トリオ(コーガン、ロストロポーヴィチ1949録音)もupされていました。
これらもなかなかの佳作だと思います。ただうまれるのがちょっと遅かった人なのかも。それにしても、ロマン派は知らない曲が多いですね。もしもYouTubeがなかったら。
投稿: もちだ | 2014年5月 1日 (木) 13時00分
もちださん、こんばんは、ありがとうございます。
そうなんです、今回、わたしも、youtube様のおかげで、ピアノトリオも確認しました。
交響曲をなんとか聴きたいと思ってます。
そして、さらにそうなんですよね。
遅い系のひとで、国をまたぐと、こうなってしまうのでしょうか。
コルンゴルトのように。
投稿: yokochan | 2014年5月 3日 (土) 00時09分