神奈川フィルハーモニー音楽堂シリーズ第2回定期演奏会 鈴木秀美指揮
暑すぎた桜木町駅前。
暑いという言葉しか出てこなかった、土曜日の昼下がり。
ここから、線路の向こう側にわたって、紅葉坂を登るのだ。
ふだんなら、なんのことはない坂道だけど、この日ばかりは、考えただけでも逡巡してしまいました。
バスを乗る年でもないだろうと、思った自分が間違ってました(笑)。
大汗かいて、会場の県立音楽堂に到着しました。
そんな苦難ともなうコンサートの始まりまでの道のりでしたが、帰りの下り坂は、なんのことはない、涼しい風が吹き、上気した頬も、気持ちよく冷ましてくれる、そんな風向きに変わってましたが、気持ちのよさは、風ばかりでありません。
そう、いま聴いたばかり音楽が、実に心地よかったからなんです。
C.P.E.バッハ シンフォニア ニ長調 (1776年)
ハイドン 交響曲第88番 ト長調 「V字」 (1787年)
ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調 (1808年)
ハイドン 交響曲第77番 第2楽章(アンコール)
鈴木 秀美 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(2014.7.26 @神奈川県立音楽堂)
鈴木秀美さんの、神奈川フィル初登場。
鈴木さんは、古楽の王道を歩んでこられたチェリスト・指揮者です。
ごく軽く、そのバイオをご案内しますと、チェロは、かのバロック・チェロ復活の先駆者アンナー・ビルスマに師事され、ブリュッヘンの「18世紀オーケストラ」、レオンハルトとクイケンの「ラ・プテット・バンド」で演奏もされ、さらに兄上の鈴木雅明さんの「バッハ・コレギウム」でも弾いておられました。
指揮者としては、「リベラ・クラシカ」を創設して、ハイドン演奏を中心として、古楽道をチェロ、指揮ともに極められている方であります。
大バッハの一族は、ちょいと調べると、それこそ頭が痛くなるほどにたくさんいらっしゃって、それぞれが、みなさま、同じような、○○・○○○・バッハと呼ばれていて、さっぱりわからない。
そんななかでも、耳に一番残っている方が、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハさんでございます。
大バッハの息子にして、ハイドンより、20年くらい前の先輩。
今年が生誕300年にアニヴァーサリーです。
初聴きの音楽ですが、緩急の明確な、そして、細やかなセンスにあふれた音楽に、そしてまさにそんな演奏であったように思います。
聖響さんのときいらいの、第1と第2ヴァイオリンを左右にした対向配置。
でも、コントラバスは右手。
のちにハイドンから登場のティンパニは、一番左手。
トランペットも左、そんな違いがありました。
優しく柔軟な古楽奏法による再現であると思いました。
ふだん聴かない音楽であるCPEBさんも、どこかやさしげで、にこやか。
随所にあるソロ、ことに、山本さんの緩やかかつ伸びやかなチェロは光ってます。
ハイドンでも、同じく、素敵な、いつもの山本さんらしいソロが聴かれたのは、この日の楽しみのひとつでした。
次いで、お馴染みのハイドン 「V字」。
ハイドンになると、その旋律とリズムのほとんどが、耳にもお馴染みで、親しみやすい、それこそ微笑みすら覚える音楽たちとなりまして、とても安心します。
そんなまさに、親しみと安心感を、現代楽器でありながら、ヴィブラートを抑えた古楽奏法でもって感じることができるのは、鈴木さんという練達の導き手があってのもの。
閉塞感が出かねないノンヴィブラートですが、このハイドンの演奏のキリリ感と、のほほん感との対比。
遊び心のあるユーモア感、そして疾走感、ともどもに、現代奏法ではグラマーになってしまうところが、指揮棒を持たずに、腕やたぶん表情なども豊かに使いながら、鮮やかに表出していたように思います。
ツィーー、ツィーーという弦は、歯切れも一方で良くって、軽快な管がそこにからみ、乾いたティンパニがそれらを支え、アクセントを添えてます。
たっぷりしたハイドンも、ときに恋しいときがありますが、いまやハイドンの演奏は、こんな俊敏さが、耳に心地よいと思うようになりました。
さて、メインデッシュの第5ですよ。
これほどの曲になりますと、みなさんそれぞれに、耳にしみついた、「タタタターーン」がありますよね。
わたくしなどは、古めの、それこそフルトヴェングラーから入って、千円のレコードのハンス・ユイゲン・ワルターで普通演奏に馴染み、カラヤンのスピード感に痺れ、そのあとも、いまもずっといろいろありつつ、K・クライバーの意欲満載、切羽詰まったような「タタタターーーー」が、理想形としていまに至っているのでございます。
シュナイト翁の実演第5は聴き逃しましたが、聖響さんの第5は聴きました。
迷いも感じられたあの頃の聖響さんでしたが、配置は対向ながら、奏法は割とオーケストラの自発性に任せているようなところがあって、同時に演奏された8番とともに、ナチュラルなベートーヴェンが出来上がっていました。
ベートーヴェンあたりになると、校訂版の問題や、奏法の問題もあって、いま現在演奏するのに、それこそ、そうした検証も踏まえたうえでの個性が求められると思います。
ベーレンライター版を用いるか、従来のブライトコップ版とするかで、まずはテンポの点で、その印象は大きく異なるのですが、この日の演奏は、当然にベーレンです。
俊足感が豊かで、休止は極端なまでにない、「タタタターンタタタターン」でありました。
これになれちゃうと、不遜ながら、フルトヴェングラーやバーンスタインはツライです。
でも、クライバーは長いけど、音が立ってるような勢いがあるので、いまでも全然OK。
カラヤンは、しっかり切るけど、伸ばしが短くて、しかもスピーディだから、こちらも今でもOk。
先に亡くなったマゼールも従来演奏だけど、かなりモダーンな感じですよ。
同じく、亡くなったアバドも、ブライトとベーレン、両方録音してるけど、やはりキレのよさで、OK。
そして、この日の鈴木&神奈川フィルの第5は、全曲にわたって、わたくしの好みの演奏でした。
1楽章は、先にふれたとおり、拍子を鮮やかに振り、音もばしばしつながり、でも、ぱっつんぱっつん。
でも、ガーディナーやインマゼールのような同業のようにせわしくなくって、せかせかして感じないところがよかったんです。
古楽奏法のエッセンスを、現代の楽器を持つオーケストラに巧みに注入しつつ、スピード感と豊かな歌、その両方を見事にベートーヴェンの音として、われわれの前に並べて見せた。
そして、鈴木さんのオーボエが、また実によろしかったです。
2楽章の伸びやかさは、神奈フィルの各奏者の皆さんの、いつも聴く若々しさと、聴き合う連帯感のような味わいが殺されずに活かされた、鈴木さんの指揮。
古楽系の方特有の、ニュアンスを引き出すような指揮ぶり。
往々にして、出てくる音は、セカセカ・ぱさぱさとなりかねないのですが、この日のこのコンビのベートーヴェンは、わたくしには、出来たてのゆで卵を食すような、そんなワクワク感と、ホクホク感。
第5の音楽を初めて聴いたときからとっくにわかってるのに、殻をむいて、食べてみて、その美味しさにニンマリする。
そんな感じだったのです。
3楽章から終楽章にかけての慎重でありながらも、巧みに盛り上がるさまは、曲本来の力もさることながら、指揮者の想いに、一生懸命ついて行きつつも、その世界にすっかり心酔してしまった神奈川フィルのフレキシブルな能力にほかありません。
数えたら、第5のステージに乗ったオーケストラは、総勢53人。
クリアーでありつつ、ティンパニの強打に裏打ちされた力強いサウンドも、存分に楽しめました。
第5なんて。。。と思っておりましたら、とんでもない、実に新鮮な想いを与えていただきました!!
楽員さんも立たない、指揮者を讃える舞台と客席の拍手が長く続き、アンコールは、鈴木さんいわく、コッテリ高カロリーの第5のあとは、デザートにハイドンをご用意しております・・でした。
繰り返し効果の可愛い77番の緩徐楽章でした。
鈴木さんの客演、またお願いしたいところです。
宮本さんに続いてのハイドン、来年となりますが、川瀬さんも参戦。
ハイドンシリーズを音楽堂で定番化していただきたいですね。
この日も、指揮者と楽員さんとの間には、微笑みや、うれしそうな充足の笑顔がありました。
ハイドンって、そんな風に、演奏家同士を結びつける何かがあるのでしょうね。
そんな風に思いながら聴けた、今回のコンサートでもありましたし。
この日は、神奈川フィル勤続35年の第2ヴァイオリンの栗山さんのご退職が発表され、コンマス崎谷さんより、花束贈呈がございました。
栗山さん、お疲れ様でした。
もう何度か、こうした景色は客席から拝見してますが、いつもお馴染みの楽員さん達が、去って行かれるのは、とても寂しいです。
そのかわり、オーケストラには、新たな顔がまた育ってきて、その彼らも、わたしたちから見る神奈川フィルの顔になっていくんですね。
お約束の、We Love 神奈川フィルの懇親会は、野毛の街へ進攻!
居酒屋「かもん」へ。
食事は、三浦漁港産のマグロ。
ブルーダル君も、うれしそう。
神奈川産のものだけの、神奈川コース、いただきました。
横浜発の居酒屋さん、「かもん」のチョイスは今回初でしたが、料理もお酒も、実にナイスでした。
今回は、懐かしメンバーに、あらたなゲスト、神奈フィルの某スタープレーヤーたちのマネジメント会社さんの方にもおいでいただき、あっという間の楽しい時間を過ごしました。
みてみて、これ。
豚肉ちゃんは、やまゆりポーク。
揚げものは、マグロ頬肉のカツですよ。
そのほかにも、たくさん。
次も勢いで、行っちまいましたが、この日も、神奈川フィルを多いに楽しみ、横浜の夜を堪能いたしました。
みなさま、神奈川フィルを是非、聴きにいらしてください
そして横浜で、一杯、楽しみましょう
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