R・シュトラウス 「英雄の生涯」 マゼール指揮
72年から82年にかけて、セルの後を受けたクリーヴランド管弦楽団の音楽監督。
CBSでしか聴けなかったクリーヴランド管の解像度高い音を、デッカ・ロンドンサウンドで聴いたときの驚きといったらなかったです。
迫真のリアル感と、一点も曇りない明確な音は、なまなましすぎて怖くなるほどでした。
高校生から大学時代のこと。
ラヴェルやプロコフィエフで勝負に出たこのコンビは、古巣のCBSにも返り咲き、かなりの録音を残してます。
硬く感じたCBS録音を、このコンビと、メータ&ニューヨークは、デッカ的なヨーロピアンサウンドでもって変えてしまった気もします。
マゼールとクリーヴランドは、2度ほど来日してますが、この78年公演は、行きたかったけれど、直前になって不可となってしまいました。
ユニークな演目は、マゼールならでは。
このように、来日プログラムにひとひねりあるのも、この巨匠の面白いところでした。
そのマゼールが、若き日々から、ずっと、つねに指揮し続けたのが、R・シュトラウスでした。
オペラの練達でもあったマゼールが、シュトラウスのオペラ録音を残さなかったのが不思議でなりませんが、管弦楽作品は、何度も録音を重ね、ロンドン、クリーヴランド、ウィーン、ミュンヘン、ニューヨークで、いくつもの音源を残してくれました。
それにしても、オペラがない。
「サロメ」や「エレクトラ」、「アリアドネ」なんかは、いかにもマゼール向きに思うのですが。
クリーヴランド盤
バイエルン放送響盤
R・シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」
ロリン・マゼール指揮 クリーヴランド管弦楽団
(1977.9 @クリーヴランド)
バイエルン放送交響楽団
(1996.11@ミュンヘン)
マゼールのシュトラウスといえば、「ティル」と「英雄の生涯」だと思います。
レコードアカデミー賞を受賞したクリーヴランドとの名盤は、わたくしも忘れがたい1枚です。
メタリックなジャケットもかっこよかったし、録音もズシリとかつ明晰でよかった。
ただでさえ、かっこいい旋律が満載の「英雄の生涯」が、よりいっそう引き立ち、大見栄はるヶ所も、次々に決まりまくる。
それを高性能のクリーヴランドオーケストラが、こともなげに体現し、マゼールの棒についてゆく。
スピード感と、立ち上がりのよさ、切れ味の鋭さは、70年代のマゼールならではであります。
結局、この時期のマゼールが、一番面白かったし、好きでしたね。
80年代になって、ウィーン国立歌劇場の総監督になり、いよいよ頂点を極めるかと思われたマゼールですが、ウィーンという伏魔殿に屈し、ウィーンで挫折。
「タンホイザー」で、主役のゴールドベルクがこけて、ブーイングをくらい、マゼールも頭にきて、聴衆に向かって、親指を下にしてしまった・・・という記事を読んだ記憶があります。
さらに、その後のベルリンフィルの音楽監督も逃し、ベルリンとも決裂。
マゼールは、アメリカにまた帰り、ピッツバーグに専念。
ですから、80年代のマゼールは、どこか気の毒な感じだったのです。
しかし、そこはマゼールさん、90年代には、バイエルン放送響という名器を手にいれ、同団をさらに高性能のオーケストラに仕立てあがることになるのでした。
そんな彼らの代表盤は、RCAレーベルに残したR・シュトラウス・シリーズです。
鋭さは、いくぶん後退し、そのぶん、音楽の運びに大人の余裕と、構えの大きさがあります。
わかっちゃいるけど、だまされちゃう、そんな濃口の演奏。
細部に至るまで、目が行き届き、溺れるほどに濃厚な愛の情景を描きだしたかと思うと、そのあとの戦闘シーンの激烈な描き方は、クリーヴランド盤よりもレヴェルアップしてます。
最終章では、しみじみ感がハンパなく、苦心惨憺のマゼールの達した域を味わうことができる「英雄の生涯」なのです。
バイエルンの機能性の高さと、音色の明るさ、輝かしい金管群の素晴らしさ。
いいオーケストラと実感できます。
(バイエルン放送響のHP)
マゼールの、2000年代のニューヨークや、ミュンヘンでの「英雄の生涯」も聴いてみたかったものです。
私が聴いた最後のマゼールは、ニューヨーク・フィルとの来日公演で、それも思えば5番(ショスタコ)でした。
「2006年 マゼール&ニューヨーク・フィル」
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