« R・シュトラウス 「英雄の生涯」 マゼール指揮 | トップページ | フランク 交響曲 ニ短調 »

2014年7月20日 (日)

プッチーニ 「ラ・ロンディーヌ」~つばめ~ マゼール指揮

Maazel_met

オールマイティのマゼールは、オーケストラ・ピットの中でも活躍しました。

ベルリン・ドイツ・オペラとの2度の来日で、トリスタンの日本初演を指揮、さらに70年には、ローエングリンやファルスタッフを指揮してます。
その後の来日は、スカラ座とのものが複数とフェニーチャ座ですね。
ウィーン国立歌劇場は短い在任期間でした。

そして、わたくしの注目するのは、バイロイト音楽祭への少ない登場。
60年に、30歳で「ローエングリン」を指揮して最年少デビュー。
その後は、ベームとスウィトナーのあとの、ヴィーラント演出の「リング」。
68年と69年の2年間。
結局、この3回しかバイロイトには登場してません。

この「マゼールのリング」が聴きたくてしょうがないのです。
「ベームのリング」が、フィリップスの名録音で、あれだけ鮮明な音で残されているのに、マゼールのリングも、バイエルン放送局に眠っていると思われてしょうがないです。
 新潮社のオペラシリーズで、発売されたことがありますが、音がかなりイマイチとのことでしたが、それでもいいから聴きたい。
 ついでに言うと、スウィトナーとシュタインのリングも、音源発掘して欲しい。

Maazel_bayreuth

バイロイトのサイトでも、マゼールの欄に生没年が載るようになりました。

そして、マゼールのオペラを語るうえで、ワーグナーとともに、忘れてならないのは、プッチーニです。
ヴェルディにも、多くの録音を残してますが、マーラーやシュトラウスに適正の高いマゼールの気質からしたら、やはりプッチーニ。

デッカへの60年代「トスカ」に始まり、CBSへの全作品録音計画を推し進めましたが、残念ながら、「エドガー」と「ボエーム」を残して中断してしまいました。
いまもって、プッチーニのオペラ全作を録音で残した指揮者はひとりもいません。
パッパーノが、いまそれに一番近いところにいるでしょうか。

プッチーニの音楽の魅力は、甘味で、耳に心地よい一方、大胆な和声と、さまざなな楽器を駆使した大編成オーケストラサウンドとにあります。
もちろん、そこに乗る、聴き手の心を揺らす、感情豊かな歌があってこそなのですが、何といっても、指揮者の力量が大切。
プッチーニは、マーラーやシュトラウス、新ウィーン楽派たちと同時代人なのですから。

ですから、カラヤン・マゼール・メータが、わたくしの思う三大プッチーニ指揮者なのです。
パッパーノは、かれら3人に比べたら、まだまだ大人しめ。
というか、3人の多少のアクの濃さや、オーケストラを上手く鳴らすことにかけての名人芸には、まだ敵わないと言ったほうがよいのか。

Puccini_la_rodine_maazel

  プッチーニ 「つばめ」~ラ・ロンディーヌ

 マグダ:キリ・テ・カマワ      ルッジェーロ:プラシド・ドミンゴ
 リゼット:マリアナ・ニクレスク  プルニエ:デイヴィット・レンドール
 ランバルド:レオ・ヌッチ      イヴェット:リリアン・ワトソン
 ビアンカ:ジリアン・ナイト     スージー:リンダ・フィニー
 ソプラノ:エリザベス・ゲイル   執事:オリヴァー・ブルーム

     ロリン・マゼール指揮 ロンドン交響楽団
                   アンブロジアン・オペラ・シンガース
                          
           (1981.11.21~6 ヘンリーウッドホール、ロンドン)


1917年、59歳の円熟期のプッチーニの「つばめ」は、前作「西部の娘」、次の「三部作」と最後の「トゥーランドット」の間にあって、とても地味な存在で、上演も稀だし、音源も決して多くはありません。

でも、わたくしは、この愛らしい作品が大好きなのです。

いつもドラマティックな筋立てのプッチーニのオペラの中にあって、人は死んだり、病になったりすることがなく、男女の出会いと切ない別れだけがその物語の中心なので、起伏が少なめで、劇場的な効果もあげにくい・・・・、とされてます。

しかし、その音楽は、聴けば聴くほどに素晴らしく思えてきて、プッチーニらしい、親しみ溢れる、センス満点の旋律の宝庫で、ウィーンのワルツや、それのみ有名な「ドデッタの夢」の甘味なアリア、随所に口づさまれる素敵なメロディ・・・・。
2時間に満たない、3つの幕のなかに、大きなフォルテはないけれど、それらの素晴らしい音楽がたっぷり詰まってます。

このオペラを記事にするのも、これで4回目。

  「アンナ・モッフォ&モリナーリ・プラデッリ」

  「ゲオルギュー&アラーニャ@メト」

  「ガスティア&ジェルメッティ」

 
それらの中で、このマゼール盤が、指揮者とオーケストラの秀逸さでは、群を抜いてます。
イタリアのオケと、メットのオケの、オペラティックな歌心を読んだ背景は、シンフォニーオケは歯がたちませんが、先にあげた、オケの近代的な魅力では、ロンドンの優秀なオーケストラは抜群でありますし、マゼールの緩急自在、ドラマの登場人物の感情の襞に沿うような巧みな指揮ぶりは完璧なものがあります。
 トスカやトゥーランドットでは、その大がかりな表情付けで、何度も聴くことがはばかれますが、この可愛いオペラでは、そんなことがありません。
 キリ・テ・カナワのクリーミーな、柔らかく雰囲気豊かな歌とともに、もう何回も聴いて、飽くことのない演奏です。

ただ、ドミンゴの分別ありすぎの優等生的なルッジェーロ君は、世間知らずのボンボンというよりも、中年の訳知りオジサンのように聴こえてしまうという妙な贅沢もあります。
 むしろ、わたしの好きなレンドールが、狂言回し的な役割を担ってますが、彼の甘い歌声の方が、ルッジェーロにお似合いで、ドミンゴと逆にした方がよかったと思います。

以前の記事から~

>「椿姫」と「ばらの騎士」を混ぜ合わせたようなドラマ。

~銀行家の愛人の女性が、田舎から出てきた青年と真剣な恋に落ちて、リゾート地で暮らすようになった。青年は晴れて母親の許しを得て、結婚に燃えるが、女性は、自分の身の上を恥じ、涙ながらに自ら身を引く~

もといたところに、再び戻ってくるのが「つばめ」。<

別れを決めたマグダが、自分の過去の身の上を切なく話し、ルッジェーロは、涙にくれて別れを拒絶する・・・・、夕暮れのなかの、そんなセンチメンタルな幕切れに、プッチーニの音楽は冷静さを保ちつつも、極めて美しく、聴いていて涙を禁じ得ません。

マゼール追悼シリーズの最後の音楽として、ここで筆を置きたいと存じます。

Maazel_mpo

          (マゼール最後のポスト、ミュンヘンフィルのHP)
 

|

« R・シュトラウス 「英雄の生涯」 マゼール指揮 | トップページ | フランク 交響曲 ニ短調 »

コメント

今晩は。私はマエストロ・マゼールの訃報をhmvのホムペで知りました。アバド、マゼールとクラシック音楽界の屋台骨を支えてきたと言っていい超大物が相次いで亡くなられて寂しくなりました。でも、私が中・高生(中二病のガキ)だったころには、若手だったシャイー、ヤンソンス、メストといった人たちが大巨匠になり、絶頂期のマゼールやルツェルン時代のアバド並みに活躍しているのに私は希望を見出すことができます。マゼールが3大プッチーニ指揮者の一人だったというのはブログ主様らしい卓見だと思います。つばめの音源こそ持っていませんが、妖精ヴィルリも西部の娘も三部作も本当に素晴らしいですよね。でもオペラ指揮者マゼールの最高傑作は70年代にクリーブランドを指揮した、ガーシュウィンのポーギーとべスの完全全曲盤だと思っております。多分史上初のポーギーの完全全曲盤のはずです。マゼールはポーギーがクラシックとジャズを折衷させただけの安直な通俗作品みたいな不当な評価を受けているのに憤っていたらしく、私が中二病時代に買った全曲盤CDの解説では、「ポーギーは人間心理の理解の深さではモーツァルト的であり、大衆の気持ちを理解しているという点ではムソルグスキーに匹敵し、個々の人物への情けの深さではヴェルディを思わせ、旋律の美しさではベルリーニに匹敵するものがある」とポーギーの偉大さを熱く語っています。マゼールがガーシュウィンの楽曲を世に広めるために傾けていた熱意と誠意は、アバドがムソルグスキーの作品に傾けていたそれに匹敵するものがあるかもしれません。そしてマゼールの全曲盤がなければジョン・モーセリやラトルの全曲盤もなかったかもしれません。私は、手持ちのプッチーニの音源とウィーンフィルを振ったブルックナー5番とこのポーギーでマゼール氏を偲んでおります。ブログ主様が、マゼールがアバドにした意地悪や嫌がらせに憤りを覚えるお気持ちはよく分るのですが、2人とも本当に偉大な音楽家でした。ポーギーのマゼール&クリーブランドのCD、今は輸入盤で驚くほど安くなっております。未聴であるならブログ主様も是非!私は他の常連様のように短い文章で簡潔に自己主張することが非常に不得手なもので、こんな乱文長文にいつもなってしまいます。どうかお許しください。

投稿: 越後のオックス | 2014年7月22日 (火) 02時26分

越後のオックスさん、こんにちは。
さほどのマゼール好きではありませんでしたが、音楽効き始めのその日から、常にトップランナーだったので、身近な存在でした。
不謹慎だし、その日は来てほしくないですが、同世代の音楽家たちもまだ健在ですが、不安はぬぐえません。

そうですね、「ポーギーとベス」。マゼールのオペラということで、そちらも頭をよぎりました。
74年に発売されたレコード3枚組は、ガーシュインのアニヴァーサリーの直前ということもありましたが、メジャーレーベル、メジャーオケ、そしてメジャー指揮者が、このような作品を録音することの驚きがありました。
そしてDGすらも、ガーシュインの違うオペラを録音したりも。
 当時は、レコード購入せず、眺めただけ。
そして、いまに至ってます。
 確かに、この作品を世に広めたのは、このマゼール盤の功績が大きいですね。いまや、アーノンクールまでも!
聴かず嫌いなところもあるかもしれません。
越後のオックスさんには、こちらこそ、いろいろと教えていただきます。
ありがとうございます。今度、是非手にしてみましょう。
 マゼールが復刻的な役割を果たした作品は、あとツェムリンスキーでしょうね。

投稿: yokochan | 2014年7月23日 (水) 08時59分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: プッチーニ 「ラ・ロンディーヌ」~つばめ~ マゼール指揮:

« R・シュトラウス 「英雄の生涯」 マゼール指揮 | トップページ | フランク 交響曲 ニ短調 »