マーラー 交響曲第3番 アバド指揮
8月も終わってしまいました。
本来なら、朝晩に秋の気配を感じつつも、まだまだ夏の日差しを受けて、眩しく、暑い日が続くはず。
今日も、ここ首都圏は、暑い雲に覆われて、雨がしっかり降って、肌寒さすら感じる陽気です。
夏の終わりは、寂しいもの。
夏よ行かないで、まだまだ聴き足りない夏の音楽。
しばらく夏の音楽、いきますよ。
バイロイトやPromsのレビューもしてないし。
マーラー 交響曲第3番 二短調
Ms:アンナ・ラーション
クラウディオ・アバド指揮 ルツェルン祝祭管弦楽団
アルノルト・シェーンベルク合唱団
テルツ少年合唱団
(2007.9.19 @ルツェルン)
やばい、泣きまくり。
3番は、最後に向かうほど、うるうるしてきて、最終楽章では、涙腺ほぼ決壊。
なんたって、「愛が私に語るもの」なんだもの・・・・・。
そして、全体を覆う夏の躍動するムードから、かつては「夏の交響曲」とも呼ばれていた3番です。
この曲を初めて聴いたのは、たぶん、ホーレンシュタインのレコードのFM放送だったかと記憶します。
交響曲なのに、6つもの楽章があるし、1時間40分だなんて、へんてこだ、そんな思いでした。
中学生だった自分。
その後に、メータのレコードの、これまたさわりをFMで。
なんか、かっこいい、そんな思いが出てまいりました。
全貌を知るのは、ベルティーニとウィーン響のFMライブをエアチェックしてから。
滔々と流れる雄大かつ、壮麗なる美の世界にうちのめされました。
ほぼ同じころに、ノイマンの演奏もやはりFM録音しましたが、こちらは快速で、1時間30分。
終楽章が早すぎて、泣かせてくれなかった。
そして出たのが、アバド&ウィーンフィルの名盤。
すぐさま飛び付き、飽くことなくレコード4面を何度も聴きました。
テンポ感が実にほどよく、全編に流れるウィーン情緒と、オーケストラのマイルドなまろやかさ。そして、アバドならではの鋭い切り口に、敏感なリズム感。
いまもって、3番の理想の演奏のひとつであります。
前にも書きましたが、自分の結婚式で、最後に会場の下手で、両家が挨拶をする場面で、この曲の終楽章を静かに流しました。
亡き父が、訥々と感謝の言葉述べるなか、流れた「愛が私に語るもの」。
わたくしは、感極まって、思わず、はらはらと涙を流してしまいました・・・・・
いまとなっては、若気の至り、そんなこともあったな的な物語ですが、父の声と、このマーラーの音楽だけは忘れえることない思い出です。
さて、その後、99年にベルリンと、そして、2007年にルツェルンで、それぞれライブ演奏を残したアバド。
それぞれがまったく素晴らしいのは言うまでもありません。
しかし、すべての点で、申し分なく完璧なのは、ルツェルン盤で、これはもう人知を超えた、超無垢な人間が成し得る蒸留水のような澄み切った演奏なのです。
ウィーン盤は、わたくし自身の若い日々の思いでもたくさん詰まっていて、別格なのですが、このルツェルン盤は、また違う次元で、わたくしの最良の3番となっております。
この演奏の前年に、日本を訪れて6番の超越的な名演をやってのけたアバドですが、そのときの面持ちそのままに、気力と活力にあふれた指揮ぶりを、こうして最高の画質で味わえる喜びは、なにものにも替えられません。
豪華なオーケストラのメンバーたちが、喜々として見つめ、尊敬の念でもって、指揮者を見あげつつ夢中になって演奏する姿も、10年に及んだアバド&ルツェルンのコンビの毎度の様子で、それこうして何度も味わえるのも、さらに喜びです。
ときに笑顔を浮かべつつも、異常なまでの集中力と緊張感が全編にわたって満ちあふれている。
アバドのすごさです。
この曲の独唱のスペシャリスト、ラーションのクリアでありながら、深々とした歌唱は、オーケストラメンバーと同じく、アバドの指揮のもとに、一体化しております。
彼女は、舞台袖や奥でなく、指揮者の前で歌います。
しかも、1楽章からずっと、そこにあって、マーラーの3番に耳を傾け、演奏に参加しております。
ラーションは、最後の楽章も、ずっと聴いていて、演奏終了後、感極まって涙ぐんでます。
長い静寂ののちに、ブラボーは静かなうねりのように広がり、会場は大きな拍手へと飲まれてまいります。
そして、この演奏を視聴していた自分も、泣いておりました。
今年、アバドとの別れが突然にやってきました。
この3番も、自分として追悼の念をもって何度か聴きましたが、ウィーン盤のみ。
いま、こうして、ルツェルンのライブ演奏を死後初めて聴き直しました。
しかも、季節は夏から秋へと向かうさなかに。
この映像を見て、同じアングルで、涙にくれた演奏を思いだしました。
4月に、同じ会場で行われた、「アバドを讃えて」という追悼演奏会。
この終楽章が演奏され、オーケストラのメンバーは、涙にくれ、会場の聴衆も、泣き、そして祈るような面持ちとなりました。
愛する人を思い、そして愛情とともに、思い起こすことのできる、そんな音楽が、この交響曲の終楽章です。
わたくしが逝ったあとに、「愛が私に語るもの」を流してもらいたい。
過去記事
「アバド&ウィーンフィル」
「アバド追悼演奏会~アバドを讃えて」
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コメント
マーラーの交響曲の中で一番気に入っているのは3番と6番です。嫌いなのは2番です。中学生時代、FMでバーンスタインNYPで初めて耳にしました。最後のティンパニの連打、凄かったです。手にした3番の最初のLPはホーレンシュタインLSOでした。その後手元には25種のCDがあります。実演を耳にしたいと願うものの、やっとかなったのは最近。佐渡裕/PAC&マーラーチェンバーズと大植英次/大フィルの演奏でした。我が家の再生装置はかなりいい音がしますが、ホール中に溢れる生の音の迫力には負けてしまいました。終楽章はやっぱりいいですね。
投稿: ornellaia | 2014年9月 2日 (火) 10時53分
8月30日、サントリーで「暦年」を観、数日前、Eテレのヤマカズ=スイス・ロマンドのアンコールの素晴らしさ(シュレーカーの舞踊劇「ロココ」~マドリガルでありました!)に、CDを購入して悦に入っている俗物生活です。
「愛する人を思い、そして愛情とともに、思い起こすことのできる、そんな音楽が、この交響曲の終楽章です。
わたくしが逝ったあとに、「愛が私に語るもの」を流してもらいたい。」
そうなんだなぁ・・・。残念ながらアバドのライヴで聴くことがなかった第3番でしたが、ヤンソンス=RCOの演奏は、一生の宝物ですね。
1時間20分近く、ひたすら美しい音楽に身を任せ、その果てにたどり着くフィナーレのアダージョこそ、マーラーの音楽の中で最も幸福な音楽ではないかと思います。
でも、yokochanさん、まだ「先」のことは言わないでくださいね。
来月、神奈川県民ホールでお会いできる日を楽しみにしておりますよ。
投稿: IANIS | 2014年9月 2日 (火) 22時27分
ornellaiaさん、こんにちは。
3番と6番、さすがですね。
1,2,5,6,9あたりが、いまのファンの好きな番号でしょうか。
わたしは、優柔不断なもので、聴いたその番号が、そのときの好きな番号になったりで、浮気症なんです。
それにしても25種の3番。
素晴らしいですし、CD棚に並ぶさまはきっと壮観ですね。
わたしは、アバドばっかりの昨今の3番ですが、新しい演奏を知らず、井の中の蛙状態だと思ったりもしてますので、また、いろんな演奏をご教示いただけると幸いです。
そして、ライブをお聴きになられた由。
マーラーほど、実演の素晴らしいさを味わえる作曲家はおりませんね。
そして、長い作品を締めくくる終楽章の素晴らしさには、言葉がありません。
投稿: yokochan | 2014年9月 3日 (水) 22時46分
IANISさん、まいどです。
相変わらず、旺盛な活動ぶりに、頭が下がります。
神奈川フィルのみの日々で、それはそれ、大満足であります。
この映像を何度も繰り返し見て、ほんとうは、6番の方にこそ、アバドは愛を注いでいるのかも、と逆説的に感じたりもしましたが、それでも、この長大な作品を弛緩せず、わがものとして指揮する姿は感動的でありました。
ころころ、今際の音楽は変わりますが、この終楽章はいまのところ確定です(笑)
わたしも、アバドの3番の実演は聴き逃しましたが、それを補ってあまりあるあの6番をご一緒できましたね。
来月の8番。
よろしくお願いいたします。
投稿: yokochan | 2014年9月 3日 (水) 23時00分
yokochan様
今年も貴ブログ記事を拝読しております、一読者のmichelangeloと申します。
この度、遅ればせながらグスタフ・マーラー様の作品を昨年から聴き始めました。公演鑑賞は、西本智実氏のマーラー第5番が初めてで、以降まだ機会は御座いません。ちなみに、場所は初めての大宮ソニックシティでした。
余りに情けない質問で申し訳ございません。もしyokochan様が1作品だけマーラーを鑑賞される際、何方の作品を優先しますでしょうか。悩んでいるのは、マーラー第3番とマーラー第8番です。第8番は『この大作を取り上げるには体力と気力』と指揮者の年齢が気になります。更に『「ファウスト」の第2部は、そのすべてが大好き』『オペラを1曲も書かなかったマーラーの、これぞオペラ』とお書きになられ、第3番では『父の声と、このマーラーの音楽だけは忘れえることない思い出』『この曲で好きなのは、牧歌的で長大な1楽章と、終楽章の「愛が私に語ること」』と御座います。
ファンの投票の結果、今年はファビオ・ルイージ氏がN響とマーラー第8番を行うようです。第8番は、特別な記念に選ばれる作品なのでしょうか。マーラー交響曲の中で最も重要な作品、愛好家の皆様は何番目を挙げられるのか関心があります。
私は2作品を鑑賞する余裕がなく、何方か1つを選ばざるを得ない状況です。困り果て、悩んでいましたところyokochan様を思い出し参りました。『マーラーの音楽をとことん愛したクラウディオ・アバド』氏に、是非お伺いしたい初心者の質問です。テンションの下がる内容となり、申し訳ございません。
投稿: michelangelo | 2023年1月20日 (金) 20時42分
michelangeloさん、こんにちは、コメントありがとうございます。
マーラーを聴き始めとのこと。
わたくしのようなロートルだと、マーラーはまず、1番と4番、そして2番といった順番でした。
70年代初めは、みんなそんな感じだったかと思います。
なんどかのマーラーブームの波があって、側聞するに、いまは、6,7,9番が多く聴かれているように感じます。
でも、マーラーのよさは流行に左右されず、10曲の交響曲が等しく、どんな方にも、どんな世代にも受け入れられ、まんべんなく聴かれることになったことに尽きます。
3番と8番は、編成も大きく、演奏会で取り上げるにはコスト面でも考えどころがありますね。
とくに8番は、祝典的な要素とからみあって、イヴェントと結びついて、演奏のきっかけを要求される作品です。
N響のファン投票も、めったに聴けないという要素もあったかと思います。
3番と8番であれば、ヨーロッパの街並みや自然を知悉されたmichelangeloさんでしたら、アルプスの山脈を感じさせるような自然にあふれた3番がいいかと存じます。
もちろん、テノールが活躍するオペラの領域に近づいた8番も感動的です。
ティーレマンがマーラーと距離をとってますが、ミュンヘン時代に10番のアダージョを演奏しており、ネット録音しております。
真摯な演奏でした。
散漫なご返信で申し訳ありません。
ねがわくは、10曲のマーラーをご堪能ありますことを!
投稿: yokochan | 2023年1月22日 (日) 21時40分
yokochan様
こんばんは。私の拙い質問に対し、親身になって悩みを聞いて下さり誠にありがとうございます。
マーラーの作品が、どのように親しまれてきたか知ることが出来とても嬉しいです。年内にマーラーの交響曲全集を買い、じっくり家で聴いてみようと思います。
実は来年、ティーレマン氏の首席指揮者「お疲れ様でした(お別れ会)」として8番が企画されているのです。新シーズンの公式発表前に、ご本人がドイツの新聞に早々と答えました。3番は今春に予定されており、私は既にスケジュール変更可能の航空券を購入済みですが(8番にすべきか)迷ってしまったのです。
でも子供の頃から自然が大好きで、聴けば聴くほど3番(特に終楽章)に魅了されます。オペラを得意とする指揮者とテノールが組む8番にも惹かれますが、yokochan様より大切な御言葉を頂きましたのでノートに書き写し、ドイツ遠征の御守りにします。会社を辞める覚悟で、この長期滞在を計画しました。
ミュンヘン・フィルとは、10番のアダージョの他に8番も行ったようです。それ以来、8番と縁はなかったそうです。3番はシュターツカペレ・ドレスデンと2回目の試みですが、何故かドレスデンと彼の間にマーラー商品は1点も存在しません。今度こそ、首席指揮者の顔として商品化して頂きたいです。
ただ・・・クラウディオ・アバド氏の素晴らしいマーラーを聴いてしまうと、たぶんマエストロは記録されたくない(他のマーラーを得意とする指揮者達と比較されたくない)のかも?しれません。アバド氏のマーラーは、格が違い痺れます。もしティーレマン氏のマーラーが、得意とする作曲家より劣るとしても聴いておきたいです。
yokochan様、どうもありがとうございます。漸く悩みから解放されました。今夜は頭の中が青空です。
投稿: michelangelo | 2023年1月23日 (月) 20時51分
michelangeloさん、こんにちは。
ご返信ありがとうございます。
さすがです、ティーレマンのマーラーへの取組、しっかり把握されてらっしゃいます。
そうでしたか、3番と8番は演奏歴があるのですね。
ティーレマンの音楽造りからすると、やはり8番が一番合っているような気がします。
あとは2番復活なんかもいいと勝手に思ってます。
ブルックナーのチクルスが終わったら、マーラーに取り組んでいただきたいとも思いますが、賛否両論生むかもしれませんね。
そういう意味ではご指摘のとおり、マーラーには慎重な姿勢を崩さないのがティーレマンかもしれません。
果敢な渡独、羨ましくも称賛の気持ちです。
アバドのマーラーをおほめいただき、わがことのように嬉しいです。
徐々にマーラーにお慣れになりましたら、ハイティンクや、真反対のバーンスタインなどもお聴きに慣れれることもぶしつけながらお勧めしいたします。
投稿: yokochan | 2023年1月27日 (金) 21時19分