シュレーカー 「烙印を押された人々」 あらすじ
ところは、ルネサンス期、イタリアのジェノヴァ。
第1幕 貴族アルヴィアーノ・サルヴァーノの館
「しかめっ面、せむしの私に、どうしてこれほどの感情、欲望があるんだろう・・・」と一人悩むアルヴィアーノ。
そのまわりでは、仲間の貴族たちが、面白おかしく、おれたちは街の娘や夫人たちをつまらない恋人や、技巧に不慣れな夫たちから解放してやってると言っている。
アルヴィアーノは、かつて金で娼婦を買ったとき、その時の自分への嫌悪感を思っていて、いまでも嫌な思い出と次元の違うことを話す・・・。
そこへ、公証人到着の知らせに、貴族連中は、何事かと色めき立つので、アルヴィアーノは、「楽園島」~それは人工噴水、庭園、芸術のステージ、自然の配合からなるパラダイス~をジェノヴァ市へ寄贈することにしたと語る。
貴族たちは、「え? おいおい、わかってるんだろうな、それは裏切りだぜーー」「事が露見したらどうすんだ!」、とせっかくの私財をなげうった施設を惜しむとともに、必死に食い止めようとして、なんとか手を打たなくてはならないと語り合う。
そこへ、貴族タマーレが遅れてやってきて、美しい女性を見て惚れてしまったとひとり大騒ぎする。
市長と娘、元老院議員がやってくる。
市長はアルヴィアーノに、娘があなたにお願いがある、まったく奔放で困ったヤツだ、そりゃそうと今回の寄贈は素晴らしいと長口舌。
その話の中で、最近女性がさらわれ行方不明となっている事態も語られる。
島の譲渡を受けるには、アドルノ公爵の了解も必要、こちらは自分が責任もって対処しますと市長は請け負う。
タマーレが見染めたのは、実はその市長の娘、カルロッタ。
彼は、そこで、これ幸いと言い寄るが、彼女は、「私の好きなのは酬いを求めて苦しみ、犠牲となる男性、あんたが死んだらそうなるかもね」、と厳しくも不可解な態度。
ますます彼女に夢中になるエロいイタリア男、タマーレであった。
貴族の雇った刺客ピエトロとアルヴィアーノの家政婦マルトゥッチはいい仲で、スパイとなることが予見される。
彼は冒頭に出てきた悪い貴族メナルドと間違えられ、ある女性に追いかけられていると語る・・・・
アルヴィアーノとカルロッタが二人になり、彼女は、「いろいろ絵を描いているけれど、一番描きたいのは「魂」と歌う。」この場面の彼女の危ういほどの情熱の歌は素晴らしい。
だから、あなたを描きたい、と語るが、アルヴィアーノは自分が醜いというコンプレックスがあるものだから、ばかにされていると思いこみ、「なら道化に描いて欲しい」と嘲笑する。
カルロッタは、「ある朝、あなたが私のアトリエの前を通り過ぎそこに朝日が昇るのを見た。その時の巨大な姿を私は絵にしたけれど、顔がないの、太陽に向かって進むアルヴィアーノを描きたい」と熱烈に語り、ついにアルヴィアーノも絵のモデルになることを同意する。。。
第2幕 アドルノ公爵家の広間
アドルノ侯爵の館から市長と元老議員が怒りながら出てくる。
島の譲渡に関して貴族仲間への配慮もあり、慎重な姿勢を崩さなかったことへの憤りである。
そのアドルノに貴族タマーレがやってきて、またもやある女性への熱愛を語り、友人ゆえに公爵は協力を約束。
でも相手が市民の市長の娘とわかると貴族の立場ゆえの自戒を伝える。
それでも、「あの女をものにしたい」と語るので、アドルノは引いてしまう。
「どうせわかりゃしないし、昨晩も一人、こっちに知らないうちに娘がかどわかされたのだ」と。
「え??、おまえ、まさか一連の事件に」、とアドルノ。
「そうとなりゃ、仕方あるめぇ、じつはあの島の地下洞窟に愛の宴の巣窟があるんですよ。アルヴィアーノが、解放してしまったらすべてがバレちまうのですわ。だから、市への譲渡を阻止していただきてぃんですよ~。」
「アルヴィアーノ7は関与してるのか」との問いに、「ヤツは加わってません。今や後悔してるかもしれませんぜ。」アドルノは怒り、「おまえは愛を覚えたから悪い奴らとは違うと思うし、一度は助けるといってしまったのだ、でも暴力はイカンぞ」、と不愉快ながらクギを刺す。
カルロッタのアトリエ。
アルヴィアーノがモデルとなっている。
彼女は、「かつて心臓を病んだ友人がいて、彼女は風景や人物も描くが、人の手を描き、あるとき干からびた枯れ枝のような死んだ手を描いた。その手は死に怯え飢えていたようだったし、赤い筋のようなものも見えたのだ」、と語る。
アルヴィアーノに、「視線をのがれてはいけない、こっちを見て、自信をもって」と言い、情熱的な音楽(前奏曲に同じ)になる。
「そうそう、その調子」。
でも、すっかり思いが高ぶり、彼女に詰め寄ろうとするアルヴィアーノ。
それを制し、絵の仕上げにふらふらになりながらのカルロッタ。
彼女は危ない雰囲気で倒れそう。
やがて出来上がり、倒れこむカルロッタが傍らの画架に手をすがると、その布のあいだから、やせ細った手が見える。
すべてを察知したアルヴィアーノ。
ぎこちない抱擁。かわいそうな優しい人を大事に守る決意を歌う・・・・。
第3幕 楽園島にて
市民たちが解放された楽園島にやってくる。
そこでは、怪しいしいニンフやパンたちのマイムが行われていて、市民たちも、これじゃなんだかななぁ、の意見。
行方不明となった女性に関し、ご主人に危害が及ぶかもしれないと警告しようと家政婦が出てくるが、悪漢ピエトロに捕えられてしまう。
奴はいまや、完全にアドルノの手下なのだ。
むしょうに、いなくなってしまったカルロッタを心配するアルヴィアーノが市長とともに出てくる。
市長は、今宵アドルノのある告発があるのを知っていて警告するが、アルヴィアーノは「娘さんは最高の女性、自分の罪は自覚している」と語り、市長は混乱する。
そのあとそこには、アドルノとカルロッタ。
「絵が出来上がってから、自分の中で何かがしぼんでしまった、アルヴィアーノはもう私にすべて最高のものを与え、これ以上は期待できない」とぶちまける。
「同情というヴェールが包んでいたのに、それを破り捨ててしまうと、かつてアルヴィアーノが自嘲して語った「花々の中にある醜い毒虫・・・」という言葉を思い出すのよ。」。と語る。
それを聴き、アドルノは、「アルヴィアーノはもう情欲の僕となっている劣等肝」と語るが、彼女はがぜん、それを否定し、アルヴィアーノの高貴さと気品を称え怒りすべてを否定する。
揺れ動く女心は難しいのだ。
でも夏の蒸し暑さに火照り、灼熱に浮かれたようになってしまう・・・。
狂おしく花嫁のカルロッタを探しまくるアルヴィアーノ。
祭りの催しに熱狂する市民、そこで夢遊するカルロッタを見つけだした、マスクをかぶったタマーレ。
彼は狂おしく迫り、あらがうカルロッタだが、しかし負けてしまい抱かれてしまう。
民衆は、この島譲渡の善行に、アルヴィアーノ万歳、あんたは祝祭の王だ、とはやし立てる。
でもかれは、自分はそんな立派なものではないと言いつつ、それどころでなく、カルロッタが不明となり、「彼女を探し出せば私財をすべてやる」と混乱の極み。市長やその女中連中も必死に探している。
そこへ8人の屈強の覆面男が、司法警察の隊長とともに登場。
アドルノの起訴をもとにやってきたのだ。
アドルノは民衆に向かい、「おまえらはたぶらかされている。この男はお前らの嫁や娘をさらい、たらしこんだヤツだ」と告発する。
しかし、民衆は逆に、いまある快楽をねたんで奪う盗人と逆ぎれし証拠を示せとさわぐ。
そこで出ました、刺客が悪漢貴族のために誘拐した女性が、アルヴィアーノ邸にいたの証言で、スパイの仕業が見事に。
これで、はめられたとわかったアルヴィアーノ。
民衆をともない地下室へと降りてゆくアルヴィアーノ。
そこには乱痴気騒ぎが中断され茫然自失の女たちと、すでに捕えられた貴族たち。
その中には、タマーレもいるし、倒れたカルロッタもいる。
アルヴィアーノは、彼に、「彼女がおまえを愛したということであれば、最初から自分は何も所有しなかったということで、元のみじめな日々に戻るだけ」、と語る。
タマーレは不敵にも、「これは宿命、おまえは自分が一時強者だと思ったろ、でも違うんだ、喜びにしり込みしたのさ、なぜ、彼女を奪わなかったのだ?」と強く攻める。
アルヴィアーノは、「自分は人生の深淵を見てきた人間だからだ。」
対するタマーレ、「そんなことぁ知らねぇ。強烈な抱擁のうちに至福の死を彼女は求めてきたんだ。彼女は自由になり、死を与えられたのだ。」
アルヴィアーノは、「きさま、彼女の心臓の病、そのことを知ってやがったのか、このくそやろう!!」
タマーノは、まるでばかにしたかのように、道化のヴァイオリン弾きの女を奪うために、そのヴァイオリンでたたき殺したと歌う。
ついにアルヴィアーノは、タマーノを刺殺し、その断末魔の叫びに正気に戻ったカルロッタ。
彼女に、「大丈夫、自分ならここに」、というものの、「近寄らないで、妖怪、失せて、あの赤い糸が・・・」、「いとしい人よ」とタマーラに・・・・。
ここで茫然とするアルヴィアーノ。
「私はヴァイオリンが欲しい、それと赤く鮮やかな、隅に鈴の付いた帽子も。
どこへ行った? あれ、ここに死体が・・・」
「皆さん死体がありますよ・・・・」
怖れ、道を開ける人々の間をぬって舞台奥へ消えゆく、正気を失ったアルヴィアーノ・・・・・
静寂から、やがて虚無的なまでのフォルテに盛り上がって後ろ髪引かれるようにして音楽は終わる。
幕
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