モーツァルト セレナード第10番「グラン・パルティータ」 デ・ワールト指揮
五月晴れの日の、吾妻山。
まだ、ツツジ咲く頃、白い雪いただく富士と、青い空のコントラストがきれいなものでした。
梅雨の季節になると、陽光まぶしかった5月が、愛おしくも思えますね。
今日は、そんな5月を思いながら、モーツァルトのセレナードを聴きましょう。
モーツァルト セレナード第10番 変ロ長調 K361 「グラン・パルティータ」
エド・デ・ワールト指揮 オランダ管楽合奏団
(1968 @アムステルダム)
モーツァルトは、13曲のセレナードを作曲しましたが、そのスタイルや規模は多様で、まさに天才の名に相応しい曲たちを、このジャンルに残しました。
声楽でいうところのセレナードは、静かな夕べに、恋人の窓辺で、ギターやマンドリン片手に歌う愛の歌のことでして、オペラにも、たくさん、そんなシーンがありますな。
まさに、モーツァルトや、ロッシーニ、そして、ワーグナーのマイスタージンガーにもあります。
それが、ハイドンやモーツァルトの時代には、器楽作品のジャンルにも拡大されて、しかも、お祝い用や、催しものように、貴族やお金持ちから依頼されて書くことも多く、おのずと、喜遊的な明るく屈託ない内容となりました。
しかし、われらがモーツァルトは、それを、さらに発展させて、多楽章となり、短調の楽章もあったりで、本格的な演奏会用の音楽にも転じるような規模の大きなセレナードを書くようになりました。
4番や、5番、ハフナーや、ポストホルンなどに加えて、管楽器のための今宵の10番も、そうした中のひとつですね。
1番から9番までは、だいたい1769年から1779年までの10年間、13~23歳で書かれ、10番から12番の3曲は、いずれも管楽器のために、1781~82年、25、6歳で書かれてます。
残り1曲、すなわち、超有名な「アイネ・クライネ」は、1787年31歳の後期作品となっているところが面白いです。
「グラン・パルティータ」は、13楽器のための、と注釈がついてますが、その楽器は、オーボエ2、クラリネット2、バセット・ホルン2、ホルン4、コントラ・ファゴット1、という、一見風変わりな編成となってます。
コントラ・ファゴットは、コントラバスでの代用も可能。
全体に、落ち着いたムードになっているのは、中域から下の楽器たちによるものだからでしょう。
ここに、フルートが入らなかったところは、さすがはモーツァルトで、お気に入りのバセットホルンがあることで、まろやかさと、暖かさ、そして、少しのほの暗さも、その全体の響きの印象に聴きとることができます。
管楽合奏団の演奏会でも、オーケストラのコンサートでも、どちらでも、よく取り上げられる名曲ですが、13人の音色の均一性と、アンサンブルとしてのまとまりのよさ、そして、そこそこの名人芸とを要するところです。
レコーディングでも、名オーケストラの管楽器部門を指揮した、名指揮者のものが多いですね。
今宵は、オーケストラではなく、管楽器のアンサンブル集団、オランダ管楽アンサンブルをかつて、その首席指揮者だった、デ・ワールトが指揮したもので。
この楽団は、1959年設立で、オランダ国内のオーケストラの首席たちによる名人集団で、コンセルトヘボウ、ロッテルダム、ハーグ、放送フィルなどが、その母体であります。
デ・ワールトは、ロッテルダム・フィルとともに、このアンサンブルで、緻密な指揮ぶりを手に入れ、以降、メジャーではないオーケストラを渡り歩き、各オケの力量アップを成し遂げてきました。
バイロイトも、1年で降りちゃったし、どうもメジャーに対する反骨があるのか、はたまた、彼に付いてるマネージメントが厳しいのか、どうもわかりませんが、本来なら、生粋のオランダ人として、ハイティンク以来のコンセルトヘボウの座に着いて欲しいものと、前から願っておりますが、難しそうです。
そんなワールトの、モーツァルトがこの作品を書いた頃のような若さ、27歳のときの録音。
大物指揮者の録音しか、当時はなかったこの曲に、しかも、オランダのやたらと上手くて、キレのあるアンサンブルでもって、まさに、切り込みをかけるようにして登場した当盤は、やたらと評判になりました。
いまでも、新鮮で、鮮烈な響きと、そして、豊かな響きを伴った録音もプラスに作用して、暖かくも気品のある演奏として、とても気持ちよく聴くことができます。
ともかく、その表情が若々しく、生気があふれています。
おそらくコンセルトヘボウでの録音でしょうか、まさに、あのフィリップスサウンドがしてます。
ワールトには、ドレスデンを指揮した、4,5,9のセレナード録音があるはずなので、是非、復刻して欲しいです。
あと、全然違うけど、放送フィルとのマーラー全集もね!
この曲は、全7楽章。
快活な1楽章、最初のメヌエット楽章である2楽章、深淵な雰囲気の3楽章、第2のメヌエットである4楽章は明るいなかにも陰りもあったりして、管楽のモーツァルトの代表的な雰囲気。ロマンツェの5楽章は、夜曲という名が相応しいナイト・ミュージック。
クラリネットの旋律からはじまり、それが変奏されてゆく長大な6楽章は、これだけ取り出しても、各楽器の名技性も味わいつつギャラントなムードにも浸れます。
最終7楽章の快活さは、モーツァルトのオペラの終曲そのもの。
(以前の記事からコピペしました)
過去記事
「ベーム&ベルリンフィル」
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コメント
これはまたよろしい演奏ですね。今まさにかの国ではセレナードの季節、通りから彼女の自宅の窓に向かって雇ったギター伴奏を伴って今でも告白をしているというニュースを今朝のNHKの朝のニュースでやっていました。
デ・ワールトはなかなかの実力派、副指揮者だったこともあってハイティンク後のコンセルトヘボウ管弦楽団に有望視したくなりましたよね。コンセルトヘボウ管弦楽団との録音は不勉強で恐縮ですが、ワーグナーの管弦楽曲数曲と、チャイコフスキーのなんか、あと伴奏もの位しか思いつきませんが、一時ハイティンクとの不仲説も聞いたことがありましたが、そのせいでコンセルトヘボウ管弦楽団のポストが遠のいたとかそうでないとか。
難しい性格のようなのでしょうか、南半球のオーケストラはシーズンが逆なのでスケジュールが組みづらいと言う話も聞いたことがありました。
ドレスデンのシュターツカペレとの録音も名盤でしたね。
懐かしいです。
投稿: yurikamome122 | 2015年6月19日 (金) 00時29分
こんにちは
グラン・パルティータってほんとうに楽しい曲ですね
繰り返して聴いても飽くことがありません
私は変奏曲の第6楽章が特に好きです\(^O^)/
この曲、LPはベーム盤で、CDではワールト盤が最初に買った音盤です。
ご指摘のようにワールト盤は録音が良くて、この場合ワウフラッターとは無縁で管楽器が気持ち良く聴けたという意味もありますが、その若々しい演奏とともにお気に入りの一枚になりました。
前の方も仰っていますがドレスデンとのハフナーセレナードも同じ意味で愛聴盤となっています
投稿: パスピエ | 2015年6月19日 (金) 16時13分
1970年前後のアルバムの紹介!懐かしいです。この頃の、当時のアムステルダム・コンセルトヘボウの若きオーボエ奏者ワールトが指揮者としてデヴューした1枚ですね。私は「グラン・パルティータ」、ベームのレコードで毎日耳にしておりました。ワールトの「グラン・パルティータ」は買うことがありませんでしたが、他のモーツァルトのセレナーデのアルバムを何枚か買いよく聴いておりました。懐かしいフィリップスレーベルのレコードでしたね。ソロ・ヴァイオリンがイタリアのウト・ウギ、端正なヴァイオリンの音色でした。ピリオドがまだ始まる前の演奏です。他にマリナーやマッケラス、ベームなど、また「ポストホルン」のセルの演奏も忘れることができません。数年前からその時の感動を今一度と、ワールトのセレナードのCDを探しておりますが全くありません。復刻してほしい音盤です。
投稿: ornellaia | 2015年6月20日 (土) 13時32分
yurikamomeさん、こんにちは。
ワールトは、長く香港でも指揮してましたね。
最近は、N響にも来るようになって、すっかりおなじみになりました。
数年前、読響がピットに入ったオランダ人、N響で、アルプス交響曲や、リング抜粋を聴いて、それぞれ感銘を受けました。
日本のオケの指揮者にも、きっと適合するでしょうね。
コンセルトヘボウは、叶わぬ思いでしょうけど、あのオケが、次もイタリア人指揮者を選択し、ますます遠い存在になってゆくようで不安ですね。
ワールト指揮による、フランクもあったはずですので、そちらは、いつかは聴いてみたい1枚となってます。
あのホールで、当時のあのオケでのフランクは、きっと素晴らしいでしょうね!
投稿: yokochan | 2015年6月21日 (日) 11時27分
パスピエさん、こんにちは。
わたくしも、ベームを長く聴いてます。
ジャケットも、ポストホルン、ハフナーとともに、美しかったですね。
そして、CDで手にした、このワールト盤、おっしゃるとおりに、録音もよくて、ほんとうに気持ちよく聴くことができますね。
あとは、ウィーンフィルの管楽合奏団のものも好きだったのですが、いまは聴けなくなってしまい残念です。
そして、ワールトとドレスデンの演奏、タワレコあたりで復活しそうな予感があります。
投稿: yokochan | 2015年6月21日 (日) 11時35分
ornellaiaさん、こんにちは。
同じような思いでを共有されてらっしゃる皆さまからのコメントに、とてもうれしく、そして懐かしさを覚えます。
やっぱり、あの時代はよかったです。
ことに、モーツァルトの演奏は、いまの疾走するようなものより、まろやかで馥郁としてました。
そんな代表格が、ワールトによる一連のセレナードでしょうね。
わたしも、ドレスデンとの録音の復活を望んでます。
中古店でも、まず手に入らず、困ったものですね。
そして、そうですね、ウト・ウギのヴァイオリンだったのでしたね!
投稿: yokochan | 2015年6月21日 (日) 11時42分