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2015年10月24日 (土)

バックス チェロ協奏曲 ウォールフィッシュ

Cosmos_radian

秋まっさかり。

コスモスはエリアによっては、もうおしまいなんてところもありますが、紅葉の前を飾る淡い色どりは、去った夏を懐かしんだりで、ちょっと切ないですね。

このところ、なにかと忙しいのと、精神的にもまいっているので、音楽も聴いてなかった。

朝やたらと早く目覚めたので、大好きな英国音楽のひとつを聴きつつPCに向かいました。

Bax

   バックス   チェロ協奏曲

       チェロ:ラファエル・ウォールフィッシュ

    ブライデン・トムソン指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団

                      (1986 @ロンドン、オールセインツ教会)


アーノルド・バックス(1883~1953)の音楽は、シャンドスレーベルのおかげで、かなりの録音がなされ、レコード時代にはその名前すらあまり聴かれることがなかったのに、いまでは体系的にその作品のほとんどを聴くことができるようになりました。

7つの交響曲や、数々の交響詩や管弦楽作品に、協奏的な作品。
室内楽、器楽、声楽曲などなど、オペラを除いてすべてのジャンルにその作品を残しました。
生粋のロンドンっ子でありながら、ケルト文化を愛し、イングランド北部・スコットランド・アイルランドの地をこよなく愛した作曲家。

そして、ロマンティストで、ちょっとナイーブなイケメンで、女性にももてた。
ハリエット・コーエンというピアニストとは、バックスは妻子がありながら、ロンドンでも、公然の仲になっていたし、彼女を伴って、アイルランドの地を旅したりもしたが、彼女はバックスの晩年まで付き添い、献身的にその作曲活動を支えた。

バックスの音楽の魅力は、イギリス音楽ならではの、気品と抒情を持ちつつも、シャープでダイナミックな自然描写にすぐれているところで、そこにはさらに豊富なファンタジーとミステリアスな様相も込められているところ。
 その独特なメロディラインには、どの曲にもバックスならではのパターン的な特徴があって、それにハマると、もう抜け出せなくなってしまいます。

そのバックスのチェロ協奏曲は、長く埋もれていましたが、今日聴いたウォールフィッシュによって甦演された桂品です。

1931年秋、ハリエット・コーエンは、スペインのチェリスト・作曲家のガスパール・カサドとコンサート・ツアーを行い、そして彼をバックスに紹介しました。
そのカサドの勧めもあり、翌32年に、生まれたのがこの協奏曲。
当然にカサドに捧げられ、演奏もされたものの、その後数十年、忘れられた作品となり、ベアトリス・ハリソンによって再演。
その後もまた埋もれ、そしてウォールフィッシュによる演奏が86年。
録音としては、そのあとは、2014年に新録音が行われている様子で、ぼちぼち世に出てくるのかしら・・・・。

この曲が生まれる経緯となったスペインの大チェリスト、カサドの名を冠したコンクールで、ウォールフィッシュは優勝しているのも因縁かもしれませんが、なにより、カサドの妻が、日本人ピアニストの原智恵子であることにも驚きを感じます。
原智恵子は、2001年に亡くなってますが、日本よりは、ヨーロッパでは名ピアニストとして知られた存在だったようで、その音源も聴くことができます。
 こうして、曲ひとつから、いろんな関係や結びつきを紐解いて、あれこれ想像することも楽しいものですし、ネット社会だから情報がすぐさま手に入る恩恵ですね。

さて、この作品、全体で3楽章、33分という大作ですが、オーケストラは小編成で、金管はトランペットが両端楽章にあらわれるのみで、弦楽に木管、ハープとティンパニという構成であります。

シャープな第1主題、そしていつものバックスのパターンのとおりに、懐かしく抒情にあふれた第2主題を持つ第1楽章。
チェロはさほどの名技性を発揮してませんが、ふたつの異なるムードの主題を変転しつつも弾き分けると言う点で、なかなか難易度が高いのかもしれません。

ノクターンと題された第2楽章が、極めて素敵なところが、この曲の白眉です。
チェロのロマンティックな独白に、オーケストラの各楽器が、しっとりと、優しく応じ、絡み合います。
その夢幻的な世界に、いつまでも浸っていたくなります・・・・。
ケルトの神秘的な森に、帳が降りて、木々が、露でしっとりと覆われるような、そんなイメージを目を閉じながら聴くといだくことでしょう。

早いパッセージが上下するモルト・ヴィヴァーチェ、第3楽章。
一番短い楽章となってますが、軽い疾走感が短調ということもあり、少し切迫した印象を与えます。
しかし、徐々に大らかな様相となり、チェロは懐古的な語り口となり、ヴィオラソロとの競演もどこかとても懐かしく感じます。
そのまま、曲は明るい色調を維持しつつ、エンディングのイメージを築き上げていって終結となります。

 ウォールフィッシュの明るく艶のあるチェロは、このレーベルに多くあるほかの英国作品同様に、すてきなものです。
そして、響きを多く取り入れた録音は、ブライデンとLPOというバックスに最適のコンビの音色を、とても雰囲気豊かにおさえております。

早朝は、曇り空だったけれど、この時間、空はすっかり秋晴れとなって高く広がりました。

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