ビエロフラーヴェクとJ・テイトを偲んで
梅雨入りはしたけれど、なんだか、シトシトとはいかない風情のなくなってしまった、近年の日本の6月。
そんな梅雨入りまえ、現役で活躍していたいぶし銀的な指揮者が、相次いで亡くなった。
チェコの指揮者、イルジー・ビェロフラーヴェク、享年71歳。
5月31日に亡くなりました。
例年、ロンドンのプロムスに出ていたのに、昨年と今年はなしということで、どうしたのかな、と思っていた。
でも、今年秋には、チェコフィルと来日が予定されていたので、さほど気にはしていなかったところへの、訃報。
すぐさま、海外のニュースや、チェコフィルのサイトを見てびっくりした。
別人と思うような、スキンヘッドの姿がそこにあって、闘病後の復活の指揮姿だったのだ。
それにしても若い。
チェコフィルの首席に若くしてなったあと、やむなく短期で、アルブレヒトに交代。
そのあと、20年ぶりにチェコフィルに復帰、ついに、両者一体化した、稀なるコンビが完成したのに・・・。
ビエロフラーヴェクが躍進したのは、1度目のチェコフィルのあと、BBC響との関係を築いてからだと思う。
広大なレパートリーと、豊富なオペラ経験が、マルチなロンドンでの活動に活かされた。
チェコ音楽の専門家と思われる向きもあるかもしれないが、プロムスではお祭り騒ぎのラストナイトを何度も指揮していたし、当然に、英国音楽も多く指揮したし、マーラーやショスタコーヴィチ、さらに、グラインドボーンでは、素晴らしいトリスタンの映像も残してくれた。
日フィルとN響とも関係が深く、何度も来日してます。
日フィルとの「わが祖国」のチケットを手にしながら、仕事で行けなくなってしまったことも、いまや痛恨の出来事です。
ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」
イルジー・ビェロフラーヴェク指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(1989.9 @プラハ)
1度目の新世界。
最近出た新しいものはまだ未聴なので、なんとしても全曲が欲しいところ。
若々しい、そして、注目したいのが、この録音の年月。
同年秋に起こる、ビロード革命直前。
東ヨーロッパの共産主義崩壊の前夜ともいうべき頃合い。
いったい、どのような気持ちで「新世界」交響曲を演奏していたのでありましょうか。
が、しかし、この演奏は、清新でさわやかでさえある。
純粋に音楽に打ち込む、指揮者の姿が目に浮かぶようだ。
若き日のビエロフラーヴェクを思いつつ、ラルゴを聴いてたら、ジーンとしてきた。
ブリテン 「ピーター・グライムズ」 4つの海の前奏曲
イルジー・ビエロフラーヴェク指揮 BBC交響楽団
(2007.7 ロンドン)
BBC響とのプロムス・ライブより。
クールで、シャープだけれども、優しい目線を感じるブリテンの音楽を、違和感なく柔軟に仕上げています。
錯綜する音が、キレイに聴こえるのも、ビエロフラーヴェクの耳の良さで、BBCのオケの巧さも抜群。
このコンビの相性は、ほんとよかったと思う。
それにしても、チェコ楽壇にとっては、とてつもなく大きなビエロフラーヴェクの逝去。
チェコフィルは、どうなる・・・・
イギリスの指揮者、サー・ジェフリー・テイト、享年74歳。
こちらは、6月2日に亡くなってしまいました。
医学専攻から、音楽家へ転身、オペラハウスから叩き上げの、オペラ指揮者であり、モーツァルト指揮者でもあった。
テイトの名前を知ったのは、シェロー&ブーレーズのバイロイト・リングで、副指揮者を務めていたことから。
メイキングビデオにも映っていた。
そのテイトが、イギリス室内管の指揮者となり、交響曲を手始めに、内田光子との協奏曲など、モーツァルト指揮者として80年代以降活躍し始めたときは、ワーグナーやオペラ指揮者との認識があっただけに驚いたものだ。
その後、ロッテルダムフィルの指揮者もつとめ、亡くなるまでは、ハンブルク響。
あと、オペラの指揮者としては、コヴェントガーデンに、ナポリ・サンカルロにポストを持ち、メトやドレスデンなど、大活躍をしたテイト。
生まれながらの二分脊椎症というハンデを追いながら、そんなことはもろともせず、常に集中力と、音の透明さを引き出すことに心がけ、クリーンな音楽を作り出す名指揮者だったと思う。

モーツァルト 交響曲第40番 ト短調
サー・ジェフリー・テイト指揮 イギリス室内管弦楽団
(1984 @ロンドン)
最初に手にしたテイトのモーツァルト。
もう何度も聴きました。
モダン楽器の室内オケで聴くブリテッシュ・モーツァルト。
清潔で、明るく、さらりとしていながら、歌心はたっぷり。
ともかく美しく、無垢で、その嫌味のない音楽は、当時も今も変わらず、飽きのこない、私の理想のモーツァルト演奏のひとつ。

ワーグナー 「パルジファル」 前奏曲
サー・ジェフリー・テイト指揮 バイエルン放送交響楽団
(1987 @ミュンヘン)
ハンブルク響との「黄昏」抜粋は、未聴。
いまのところ唯一の、テイトのワーグナー。
バイエルン放送響という名器を得て、おおらかかつ、悠然としたワーグナーとなった。
しかし、そこはテイト。
これも、オーケストラの明るさを生かしつつ、明晰で、濁りのない、美しいワーグナーなのだ。
おまけに、「コロンブス」と「ファウスト」という、珍しい序曲が、一級の演奏で聴けるという喜び。
この1枚を聴くと、なにゆえに、レコード会社は、テイトによるワーグナー全曲録音を残してくれなかったのか、と怒りたくなる。
その変わり、テイトには、シュトラウスやベルク、フンパーディンクのオペラ録音があります・・・・・。

エルガー 「ソスピリ」
サー・ジェフリー・テイト指揮 ロンドン交響楽団
(1990 @ロンドン)
最後は、この曲で。
エルガーの哀しみのいっぱいつまった音楽で。
ふたりの名指揮者の追悼にかえさせていただきます。
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コメント
先ほどたまたまビエロフラーヴェクさんの「新世界」を聴きはじめて、そのみずみずしい美しさに心打たれたので検索してこちらにたどり着きました。
チェコフィルのドヴォルザークは純音楽的な中に余韻が美しい演奏が多い印象ですが、この演奏は特に力むことなく、ただただ自然に美しい響きがひたすら伸びやかに広がっていき、しんみりと余情が残る、素晴らしい演奏だと思いました。改めて故人をしのびます。
テイトさんは私もモーツァルトに接して初めて感銘を受けたのですが、忘れ難いのは準備にして壮大な表現に圧倒されたエルガーの二つの交響曲の演奏です。日本で演奏を聴く機会が多くなかろうとも、話題をあまり呼ばなくても、素晴らしいものは素晴らしいと改めて思います。
投稿: Sammy | 2017年11月13日 (月) 18時51分
Sammyさん、コメントどうもありがとうございます。
ビエロフラーヴェクの逝去には驚きました。闘病生活していたことも知らず、亡くなる前まで指揮活動をしていたその姿を見て驚きました。そして、ビエロフラーヴェクの率直な指揮は、ドヴォルザークの美しい音楽にぴったりだと思います。
テイトも実演に接することがなかったのですが、録音は多く、あらためて、彼のモーツァルトのすばらしさを噛み締めてます。
投稿: yokochan | 2017年11月18日 (土) 16時20分
些かおかしなコメントでありますが、ジェフリー-テイト氏と申しますと、ショルティがロンドン-フィルを振り、Deccaに『コジ-ファン-トゥッテ』、『ドン-ジョヴァンニ』、『フィガロの結婚』各全曲を録音していた際に、レシタティーヴォ-セッコのチェンバロ通奏低音を受け持ち、マンガチックなほど即興的な装飾を付け、奏でて居られる人と言う記憶がございます。DGに晩年のカラヤンが初録音なさった『ドン-ジョヴァンニ』でも、帝王に敬意を表してか、同じ役割を買っていらっしゃいましたね。Philipsに内田光子との共演をイギリス室内管弦楽団を振り果たされ、強い印象を与えておいででした。せめて80歳に手が届くまで、天命を与えて貰えて居れば‥との念も禁じ得ません。
投稿: 覆面吾郎 | 2019年9月18日 (水) 18時23分
テイトさんは、オペラの下積みから叩き上げた方で、ながらく、コレペティもつとめてましたので、オペラのレシタティーヴォのセッコはお手の物だったと思います。
本文にも書きましたが、シェロー=ブーレーズのリングでも舞台裏では大活躍でした。
同じように、指揮者グシュルバウワーもアバドのロッシーニでチェンバロを付けてますね。
テイトさんは、もう少し録音に恵まれるとよかった、とつくづく思います。
投稿: yokochan | 2019年9月19日 (木) 08時31分