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2017年10月15日 (日)

モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」 クルレンツィス指揮

Zojyoji_tower

ある朝の芝増上寺と東京タワーと月。

この日の頃は、10月とは思えないくらいの陽気で、暑いくらいだった。

でも、その後、沖縄をのぞいて、日本は秋から初冬の気温に。
しかも、秋雨前線も発生しちゃった。

すっきりした、高い空の秋晴れが恋しい。

で、爽快・痛快なる話題の指揮者によるモーツァルトをば!

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   モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」

      ドン・ジョヴァンニ  :ディミトリス・ティリアコス 
      ドンナ・アンナ    :ミルト・パパタナシュ
      ドン・オッターヴィオ :ケネス・ ターヴァー   
      ドンナ・エルヴィラ  :カリーナ・コーヴァン
      レポレロ                :ヴィート・プリアンテ         
      ツェルリーナ         :クリスティーナ・ガンシュ
      マゼット                 :グィード・ロコンソロ          
      騎士長             :ミカ・カレス


  テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ

            (2015.11.23~12.7 ペルミ国立歌劇場)


ギリシアのアテネ生まれの45歳、サンクトペテルブルク学んだことから、ロシアを拠点に活動。
シベリアのノヴォシビルスクの劇場のポストからスタートし、そこで、手兵ムジカエテルナを創設、その手兵とともに、ペルミの歌劇場へ移動し、いまは、そのオケが劇場のレジデントオーケストラとなっている。

ここ10年ぐらいで、ロシアの地方都市でそのキャリアを急速に積み上げ、気鋭のオペラ指揮者として、脚光を浴びているのが、クレンツィス。
今夏は、ザルツブルクにも登場して、ティトを指揮している。

Currentzis

豊富な動画を通じて、この指揮者のやんちゃぶりは、かねてより見聞きしていたが、ダ・ポンテ三部作のうち、最新の「ドン・ジョヴァンニ」を半年ほど前に入手し、その豪華な装丁を眺めるだけで、どうにも聴く気がおきなった。
特段に理由はありません。

10月に入ってようやく聴きはじめたら、そう、もう面白くてしょうがない。
まとめて聴く時間がなかなかないので、毎日、少しづつ聴いて、さらに通しで2度。

古楽から現代まで、なんでもこなす指揮者にオーケストラ。
そのオールマイティなフレキシビリティと、その音楽の雄弁さを裏付けるのが、彼らの「自由さ」であろう。
数々の動画でも感じるが、ともかく彼らは、自由に音楽する楽しさを謳歌しているんだ。

この3時間あまりのドン・ジョヴァンニでも、最初から最後まで、音楽は生き生きと息づいて、弾んで、爆発して、泣いて、怒って、悲しんで、と人間の機微を余すことなく表出しまくる。
初めて目にする名前の歌手たちも、全般に軽量級ながら、きわめて雄弁で、それぞれが表情に富んだ歌唱と、情の機微を歌いだす。

ふんだんに配置された有名なアリアたちも、目からウロコが落ちるくらいの新鮮さに満ちていて、オケも歌手に一体化して、まるで歌手のようにふるまっているのが面白い。

レシタティーボも、うかうかしていられない。
チェンバロでなく、フォルテピアノの丸っこい響きだが、快活そのもので、これまた雄弁なものだから、歌手も普通に流さずに、真剣に歌う場面となってるし、その時の歌手の心情に寄り添うような感情表現もみせたりする。
さらに、ビオラ・ダガンバなどの古楽器も添えて嘆息するような雰囲気もふんだん味わえるのが新鮮。
それらが饒舌に感じさせないのは、音楽に生命が宿っているからに他ならない。

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                  (ペルミ劇場での録音風景)

プロモーションビデオを見たが、クレンツィスは、モーツァルトがいまの時代に降臨したら、どのように感じ、表現するだろうか・・・などと話している。
なるほど、当時の楽器を使い、その頃の響きを再現するのでなく、同じ楽器や奏法、歌唱でも、いまにあるわれわれ現代人のモーツァルトなわけだ!
 そして、「ドン・ジョヴァンニ」は、デンジャラスでダークかつミステリアスなドラマだとも。

従来の考えや因習にとらわれない、こうした発想に基づく音楽創造は、欧州や米国、日本の音楽都市からは生まれにくいし、育ちにくい。
シベリアの地や、ウラルの地で、自由に活動するクレンツィスを地元の人々は熱烈に歓迎しているようだ。
思えば、かつてのゲルギエフもマリンスキーと、ラトルがバーミンガムと、ヤンソンスがオスロと、ロトが手兵のレ・シエクルと、成し遂げたような、ローカルな非メジャーが、音楽を面白くしてくれるのだ。
思えば、ペトレンコもシベリア方面の出自だ。

Photo

工業と芸術の街、ペルミの位置図。

こうしてみると、モスクワやサンクトペテルブルクは、より欧州寄り。
ペルミのある広域でのウラル地域は、中東や西アジアにも近い。
それにしても、ロシアは広大で、右側にさらにさらに広がって、日本のお隣まで。

ペルミの劇場のHPや、そちらの映像を見ていたら、楽員や合唱団の顔ぶれが多彩であることに気が付く。

ペルミの劇場のHP ⇒ http://permopera.ru/en/

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グーグルマップ先生から使わせていただく劇場の冬景色。
大河が流れ、水運の交通の要衝でもある工業都市ペルミを、マップで俯瞰して見るのも楽しく、とても美しい街と実感できましたよ。

今頃、クルレンツィスの指揮で、トラヴィアータと、21日には、コンサートで、プロコフィエフの古典交響曲と、ショスタコーヴィチの9番。
遠く離れた日本で、ロシアの地で起きている音楽発信を見守るのもいいものだ。

そして、ドン・ジョヴァンニの後半をもう一度聴き、地獄落ちの場面のスリリングな演奏と歌唱に息をのむ。
その後の一同集合の大団円が、付け足しのように思えるのも、この演奏の凄さなのかもしれない。
こんな鮮烈なドン・ジョヴァンニのあと、伝統的なベームのプラハ盤をちょこっと聴いてみたけれど、これはこれでキリリとしていて、モーツァルトの音楽のすばらしさを楽しめるものと感じた。
昔からすると、これほどまでに、音楽表現の多様性を、こうしてふんだんに受け入れることができる現代が、隔世感とともに、ほんとに恵まれていると痛感する。
  

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コメント

今晩は、よこちゃん様。 お久しぶりにございます。 半年振り?くらいですかね。モーツァルトの話でなくて申し訳ありません。 で‥す‥が。。 ベイスターズ CS第二ステージ制覇おめでとうございます♪ 19年振りの日本シリーズですか…感無量。。。 ラミレス監督の采配 みごとなり! シリーズ前にラミレス監督の講演会を見に行った甲斐がありました。 地元出身の飯塚投手もCSは出番なしでしたが、シーズン中は頑張ってくれましたし。今月上旬の3連休。上野の運慶展が一番の目的でしたが、横浜にも足を延ばして来ました。やっぱり良い街ですね。ハマスタのショップでグッズも購入。日本シリーズもこの勢いで☆☆☆☆

投稿: ONE ON ONE | 2017年10月24日 (火) 22時30分

ONE ON ONEさん、こんにちは、そしてお久しゅうございます。
やりましたね!!!!!
昨晩は、興奮しすぎました。
リーグ戦、ぶっちぎりだった広島さまには、申し訳ないが、我らが横浜には、CS争いからずっと続いた緊張感と勢いがありましたね。
数々の死闘は、もう名場面ばかり。
こんな面白いチームはないと思いますよね。
飯塚クンも、きっと来期はモノになりそうだし、ドラフトでもいい選手が来てくれそうです。
あと1週間、ハマは熱いぜ!
福岡の超アウェーでも、乗り切ってほしいですね。

投稿: yokochan | 2017年10月25日 (水) 05時57分

ご無沙汰しています
少し前にブロ友さんからクルレンティスの「フィガロの結婚」を貸していただくまで、その名前さえ知りませんでした
そのフィガロの結婚を聴いてビックリしました
こんな生命力に溢れた、斬新でありながらちっとも奇抜とは思えない新しい時代のモーツァルトに興奮いたしました。
ご親切にもブロ友さんは気に入ったならと今度は「ドン・ジョバンニ」を貸してくれました。
これも期待に違わぬ息もつかせぬ素晴らしいものでしたが「フィガロの結婚」ほどの驚きはありませんでした。
これは「フィガロの結婚」を聴いてしまった耳にはある程度想像できてしまったかもしれません。それに記事でも書かれていましたが歌手陣がイマイチのように思えたこともあったかもしれません
なお私は口直しならぬ耳直しにクリップス盤の一部を聴きました
まぁちょっと否定的なことを書いてしまいましたがクルレンティスという指揮者の才能には驚く他ありません
これから先どんな録音が出てくるのか楽しみにしているところです

投稿: パスピエ | 2017年10月25日 (水) 11時41分

パスピエさん、こんにちは、こちらこそご無沙汰をしております。
クルレンティス、わたくしもこれが初ディスクでした。
ハルサイが気にはなっていた指揮者ですし、ネット上でもいろいろ見てはいましたが、やはり正規の音で聴くと、驚きが違います。
最新盤の「悲愴」を予約してしまいましたが、はたしてどうでしょう?
雑誌などでも賛否両論の指揮者ですね。
ドイツの放送オケの指揮者にも就任するようですが、手兵以外に自らの手法が通用するか、それもまた楽しみであります。
コメントありがとうございました。

投稿: yokochan | 2017年10月29日 (日) 13時16分

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