コルンゴルト 「二つの世界の狭間で~審判の日」 マウチェリー指揮
1914年開業の東京駅。
その丸の内口の南北ドームの天井にあるレリーフ。
1945年の東京大空襲でによる火災で、かなりの被害を受け、戦後修復。
そして完全修復をともなう建て替えが、2012年になされ、このような美しいレリーフが復活。
8匹の羽ばたく鷲も印象的。
東京駅へ降り立つと、必ず見上げます。
コルンゴルト 「二つの世界の狭間で」~審判の日
Between Two Worlds:Judgement Day
P:アレクサンダー・フレイ
ジョン・マウチェリー指揮 ベルリン放送交響楽団
(1995.04 @ベルリン)
コルンゴルトの甘味でかつ、切れ味も感じる素敵な音楽を。
ヨーロッパの地から、アメリカへ渡ることとなった要因である、ナチス政権も末期となり、第二次大戦の終結を翌年に控える1944年の作品。
1938年、ナチスがオーストリアとドイツを併合するか否かの国民投票を無視するかのように、傀儡政権を立て、ウィーンに進出。
ユダヤ人たちは、次々とウィーンを脱出し、コルンゴルトも家族や親族をそのようにまず脱出させ、そして自らもアメリカに渡ることとなる。
コルンゴルトの音楽は、ほかのユダヤの出自の作曲家や、先端を走った作曲家などとともに、退廃音楽のレッテルをはられ演奏禁止処分をうけてします。
何度も、書き思うことだが、あの戦争がなければ、音楽界はまた別な側面が残されていたであろうと。
ただし、戦争を肯定するつもりはさらさらないが、あの大戦で、世界はひとつの秩序を一時的には生み出したことも事実。
いま、その一時的な秩序も東側体制の崩壊で見せかけのものであったことが露見し、残った勢力の横暴で、あらたな混迷が生まれていることは、言わずもがなのことであります。
ヨーロッパとアメリカ、ふたつの間、そして、クラシカル作曲家と映画音楽の作曲家、ふたつの側面。
さらには、舞台と新興著しい映画産業とのふたつの側面。
これらに「挟まれた」のがコルンゴルトでもあります。
CDジャケットのコルンゴルト一家の旅装写真も、まさにそんな側面をよくあわらしていると思います。
「二つの世界の狭間で」は、1944年上映の同名の映画のために書かれた音楽です。
音楽自体は、1時間以上の大編となりますが、そこから、指揮者のマウチェリーが、14曲からなるシーンを選び出して編んだ演奏会用組曲が、この作品であります。
マウチェリーが生まれたのも、1945年ということで、ハリウッドで活躍中だったコルンゴルトの音楽や、その周辺の時代の音楽に強いシンパシーを抱いていることも理解できます。
同じコルンゴルトのオペラ「ヘリアーネ奇蹟」の名盤をはじめ、デッカの「退廃音楽シリーズ」の中心的指揮者だった。
あと、ハリウッド・ボウル管弦楽団との演奏もいくつか録音があります。
さて、この映画における「二つの世界」とは?
それは、戦時の世界とそうでない世界、そして、天国と地獄。
1940~41年、ロンドンはドイツ軍による大空襲を受けた。それは「THe Blitz」と呼ばれる。
戦火を逃れるため、アメリカ行きの船に乗船しようとした、オーストラリア人のピアニストと、その彼を支える献身的な妻のふたり。
ところが、彼らは乗船拒否にあってしまい、このまま死と隣り合わせのロンドンにはもういたくないと、自決をしてしまう。
そして、気が付くと、船に乗っていて、まわりには、爆撃で殺された人々。
そう、死後の世界へ。
そこへ、天の「審判者」がやってきて、亡くなった女優と、ジャーナリストの彼氏が審判へ、取引を持ち掛けたりして失敗したりもする。
そして、キリスト者にとって御法度の自殺をしてしまったピアニスト氏には、永遠に航海から逃れられないという罰を受ける。
しかし、夫とずっと一緒に居たいという妻の熱い懇願に、審判者も折れ、ふたりは、元のロンドンのアパートに戻ることとなり、めでたしメデタシ。
実際の映画に、このコルンゴルトの素敵な音楽がついたら、さぞかし、と思われますが、こんな要約だけを見ると荒唐無稽に過ぎて思うかもしれません。
14の各曲に、この要約のようなタイトルが、それぞれにつけられていて、それを頼りに聴くと、コルンゴルトのナイスな筆致もよくわかります。
ライトモティーフ的に、登場人物や愛情をあらわすテーマが使われ、それらの旋律を追うことでも、ドラマ理解の一助にもなります。
オペラ作曲家であり、銀幕の作曲家でもあったコルンゴルトの面目躍如たる所以です。
また、「死の都」や「ヘリアーネ」「カトリーン」といったオペラの雰囲気もあり、わたくしにはそれらを思い起こすことでも、楽しい聴きものであります。
もう15年以上前に買ったCDですが、久しぶりに真剣に聴きました。
ジャケットの右側にある帯タイトルに、「Entartete Music」=退廃音楽、とあります。
このシリーズ、廃盤となり、いまではまったく入手困難のものも多数。
その半分も聴いておりません、復刻を望みたいところです。
| 固定リンク
コメント