ブリテン セレナード ピアーズ&ブリテン
冬の海の夕暮れ。
相模湾に遠くの伊豆半島。
ブリテン セレナード
~テノール独唱、ホルン、弦楽のための~
T:ピーター・ピアーズ
Hr:バリー・タックウェル
ベンジャミン・ブリテン指揮 ロンドン交響楽団
(1963.12 @キングスウェイホール、ロンドン)
深い絆で結ばれたブリテンとピアーズ。
歌手ピアーズがいなかったら、ブリテンの数々のオペラの名作や、多彩な声楽曲はこれほどに生まれなかったかもしれない。
そんなピアーズと、伝説級のホルンの名手デニス・ブレインのために書かれた作品が、ホルンとテノールと弦楽のための「セレナード」。
この作品は、美しく、そして怜悧なクールさも秘めた、月の浮かぶ冬の夜空のような名曲だ。
フランク・ブリッジにその才能を磨かれ、シンプル・シンフォニーで作曲家として認められた若きブリテンは、ピアーズとも知り合い、お互いに平和を希求する心を高めあっていった。
その気持ちに沿うようにして、ふたりは戦雲を立ち込めつつあったイギリスとヨーロッパから脱出するように、アメリカに渡り、そこで作曲活動をするようになった。
このアメリカ時代は、1939年から1942年で、ブリテンのこの活動は、イギリスでは、良心的兵役拒否として認められるところとなった。
帰国後の1943年に書かれたのが、「セレナード」で、そのあと「ピーター・グライムズ」「ルクレツィアの凌辱」など、数々の作品の創作の森に踏み込んでいくのでした。
作曲年に、ロンドンにて、ピアーズとブレイン、ワルター・ゲールの指揮により初演。
このゲールという指揮者は、シェーンベルクの弟子で、ユダヤ系であったため、イギリスに渡り、同国とオランダにて活躍した人。
会員制のレコード頒布組織のコンサートホールに加入していたので、その名前はよく見て覚えていたし、協奏曲のレコードなどいくつか持ってました。
8曲からなる連作歌曲集で、その8曲のうち、曲の冒頭と最後の8曲目は、ホルンのソロだけ、という極めてユニークかつ印象的な構成になっている。
全編に際立つ名技性を伴ったホルンの活躍、技術的なことはわかりませんが、自然倍音だけで奏されるソロだけの部分は、夜のしじまに鳴り響くエコーのようで一度聴くと、耳にずっと残って忘れられないものがあります。
またテノールの音域とホルンの音色の絶妙なブレンドの妙と掛け合いの巧みな筆致。
あと、弦楽器の背景色のパレットは、各曲の詩の内容を描きだすようなブリテンならではの、雄弁さと淡さを感じる。
そして主役のテノールは、熱くもあり、情熱を感じる一方で、どこか醒めたような立ち位置から英国の風物を歌うような風情がある。
このあと書かれるあの没頭的な「ピーター・グライムズ」の主役のテノールとはまた違う、クールなテノールの歌曲集に思う。
英国詩を代表する詩人たちの作品をそれぞれ選択。
①プロローグ(ホルンソロ)②パストラール(チャールズ・コットン)③ノクターン(アルフレッド・テニスン)④エレジー(ウィリアム・ブレイク)⑤追悼の歌(作者不詳)⑥讃歌(ベン・ジョンソン)⑦ソネット(ジョン・キーツ)⑧エピローグ(ホルンソロ)
自然、四季、死と祈りなど、英国の市井に即した詩たちです。
繊細かつ知的な抑制も効いたピアーズの歌。
作品と恐ろしいまでに同化している。
それと、タックウェルの艶やかな音色と、難しさを感じさせない技巧の冴え。
初演者のブレインは、1957年に交通事故死してしまったので、この作品のステレオ録音は残せなかった。
それを補ってあまりあるタックウェルの本盤の演奏のすばらしさです。
そのバリー・タックウェルも、先ごろ、2020年1月16日に亡くなってしまいました。
オーストラリア出身で、ロンドン響の首席を長く務めた名手、晩年は指揮者として活動してました。
ブレインとタックウェル、そして、アラン・シヴィルは、ほぼ同じような年代で、ロンドンのオーケストラに咲いたホルンの華でありました。
そうそう、シヴィルは、ビートルズの曲でもステキなホルンを吹いてました。
タックウェルの追悼もかねて、取り上げたセレナード。
ブリテンには、同様のオーケストラ付きの歌曲として、あと「イリュミナシオン」と「夜想曲」がありまして、それらもいろんな音盤で聴いてますので、いずれまた取り上げることにしましょう。
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コメント
この曲、テノール歌手の為の作品ながら、ホルン奏者にとっても遣り甲斐のある、魅力的な作品でしょうね(笑)。ティアーとジュリーニ指揮のDG盤のLP初出の際に、ジャケットーデザインがネクタイ&スーツ姿で鎮座ましましておられるのに、驚いた覚えがございます。LPで聴いたのはDeccaのDーブレインのホルンーオブリガートに、ピアーズの独唱のMono盤‥SP末期でしょうか‥で、ありました。勿論オリジナルLPでなしに、再発のリカッティング盤です。ロマン派の歌曲に馴染んだ耳には戸惑いを最初は覚えても、音盤の反復性を生かして慣れると、面白い作品ですね。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年2月16日 (日) 10時55分
大事な箇所が抜けておりました。『鎮座ましましておられた』のは、指揮者のジュリーニです。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年2月16日 (日) 10時56分
ジュリーニは、なにげにブリテンを得意にしてました。
あのダンディなスーツ姿のジャケットは、発売以来ずっと気になる1枚でした。
シカゴの名手、クレヴェンジャーのホルンが素晴らしいのと、ティアーの没頭感が見事な演奏です。
戦争レクイエムの録音の計画もあったのに、残念でした。
初演メンバーでのデッカの1回目のモノラル録音は未聴ですので、是非聴いてみたいものです。
投稿: yokochan | 2020年2月19日 (水) 08時33分